【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
『燈に……愛してるとか言ってたくせに……睦……といい感じなくせに……』
『馬鹿……じゃないの』
木々に囲まれた中で言い放ったことが耳から離れない、自分の発言が……。
あのときの風の音なんてちゃんと覚えていないのに、今になって思い出しそうになる。冷たくも、温かさを感じさせてくれるものだったって……。
『馬鹿だよ、俺は……』
結人が言っていたことも……。
不誠実過ぎるのに、逆に誠実だと思ってしまっている。矛盾しているのに、あいつらしいとか言えなかった。
いつだってそう……。
そよの手を握ったり、私のことを何度も諦めないで助けようとした。睦のことも……。バンドのことだってそう。あいつはMyGO!!!!!のことを好きだと言ってくれた。誇らしげに、アホみたいに……。最近は、睦というかムジカに目移りしているのは割と気になってはいる。相手が睦だから何も言わないでいるつもりだけど、三角さんの反応を見るになんかした気がする。三角さんには流石に聞けないけど……。
「ただいま……」
結人と別れて、家の中に入るまでの間息をすることなんてできなかった。
部屋に戻る。つけっぱなしのパソコンで作曲しようにも、頭の中があいつの真っ直ぐなもので何度も刺激されてしまう。
「最悪……」
頭を手で押さえながらも、床を見つめる……。
作曲に取り掛かろうにも、頭の中で真っ直ぐなもので何度も刺激されてしまう。
椅子から立ち上がると、椅子が強めに後ろへと下がった。
無理矢理に作った曲なんて、意味はない、今の気持ちを曲にするのも絶対に違う。燈に今のブレブレな感情で作った曲や中途半端な曲を渡して、歌わせるなんてプライドが許せなかった。
「全部……結人のせい……」
と取り繕うことが出来ればよかったのに、全くできない。
その場のノリで軽はずみの感情を出したという訳じゃない。私の方も……。正直になって、あいつに「いい加減にしろ」という気持ちをぶつけたし、ちゃんと了承もしたのに折り合いがつかずにいたから私は今外に出ようとしていた。
靴を履いて、外に出て家の扉に触れようとしたときだった。
家の扉が開いた。家族?と思って、後ろに下がる。出来れば、お姉ちゃんに顔は合わせたくなくて、すぐに引き返そうとしたときだった……。
「立希ちゃん、今……大丈夫?」
「と、燈!!?」
家を出て気分転換でもしようとした矢先に、まさか燈が私の家にやってくるなんて考えてもいなかった。「な、なんで?」という疑問の感情が抑えられず、なんとか燈に不審に思われないように昂りを抑えようと、必死になる。
「出掛けるなら……明日でも……」
「ま、待って燈……だ、大丈夫だから……!!」
燈が一人で家に来る……。
初めてだった。いつもは五月蠅い愛音とかMyGO!!!!!のみんながいたから、燈だけが家に来るのは初めてだった。
「と、とりあえず……部屋行く?」
「う、うん……」
動揺しているのに、気づいてしまったのか燈は頷くまでに若干間が空いてしまっている。
「用事、大丈夫……?」
「だ、大丈夫だから。また、今度でもいい奴だから」
燈が来た以上、外に出ている場合じゃない。
自分のことよりも、燈のことを優先したかった私は燈を部屋に案内する。
「ごめん燈、お待たせ……お茶持ってきたから」
一旦、リビングに行ってグラスにお茶を入れてから部屋に戻る。
部屋に戻る前に深呼吸をしてから入ると、グラスが揺れる音がした。
「ありがとう……美味しい」
テーブルに置いたグラスに注がれたお茶を燈は美味しそうに飲んでいる。
丁度よく冷えているものがあってよかったと安心していた。
「燈、どうしたの?私の家に一人で来るなんて……嬉しいけど」
最後に本音が漏れてしまうが、訂正することはできなかった。
直前で咳き込もうとしたけど、間に合わなかった。
「え?あ、えっとね……ゆいくんのことで相談があるの?」
「結人のこと!?」
「え!?」
「あいつ、また燈に何かしたの!?」
「え?い、いや違うよ……?その……えっと……」
困り果てている。
正座した状態で膝に手を置いて自分の服を握り締めている。
「え、えっとね……その本当はあのちゃんに相談したかったんだけどね」
「あ、愛音に?」
最初に愛音の名前が出て来て若干ショックを受けてしまう。
「わ、私じゃなかった……」と落ち込みそうになる。い、いや今はそれよりも……と首を自分の中で振って理性を引き戻す。
「え?あっ、えっとそのでも……あのちゃん今ゆいくんの話したら固まっちゃうこと多くて……」
あいつ、まだ結人のことで悩んでんの……?
結人が燈に『愛している』なんて言うのは当たり前のことなんだし、いい加減割り切ったらいいのに……。
「そよちゃんに電話したら繋がらなくて……楽奈ちゃんは何処に居るのか分からなくて……」
深刻そうな顔をしている燈を見て、私も正座で座り直す。
駄目だ、燈の話をちゃんと聞いてあげないといけない……。私にしか出来ない役目……。何故か、胸が高鳴ってしまう。
「ご、ごめん燈……!と、とりあえず話聞かせて」
「う、うん……」
明らかに勘違いだと気づいた私はまず燈の話を聞いてから、考えることにした。
燈の表情を見るに、どう話せばいいのか迷っている。頭の中が真っ白になっている状態に近かった。私が余計なことをしたから。
「この前、結人君と水族館に行った帰りに……言われたんだ」
「何を言われたの?」
「繋がりを断ち切りたくない、死ぬことになるまでって言われたの……。全員を幸せに……したいって」
無言で私は手にスマホを握って結人に直電しようとする。
指を「着信」を押そうとするところで止めてしまう。
「燈は……燈はなんて答えたの?」
冷静になれたのは、燈の反応を知りたかったからだった。
今こうして燈が話してくれたということは、燈はどうするべきか?と迷っている。結人がぶつけられたものが大きすぎて、自分ではどうやっても扱えるものじゃなくてこうして相談しに来てくれた、普通に嬉しい……。
「待ってるって……」
燈らしい答え……。
結人に怒りもしない、泣きもしない。結人のことを待っていると伝えるのは、透き通った綺麗な心を持っている燈だからこそのものだった。
「その……」
純粋ものだったとしても、納得できないで自分がいる。頭に血が上りそうになってしまう。
答えらしい答えを私にはぶつけたようなものなのに、燈には曖昧なままにして解答を先送りにした。また、指で押しそうになっているのに押せないというもどかしい状況が続いてしまう。
「燈は……待つだけでいいの?」
言ってしまったとすぐなれたのに口から戻すことができなかった。
勿論、燈のことを思ってという偽の言い方に置き換えることはできるのに、許すことができなかった。偽りのままにしたいのに、八つ当たりだと気づいてるから。
「本当は……よくない。結人君に言われたとき、頭の中でずっと雨が降っていた。息苦しくて観覧車の中にいるのに、呼吸がしづらかった。ああいう感情になるのは……初めてじゃないのに心臓に石をぶつけられた気分……だった」
「でも……」
「きっと、答えを出してくれるって信じてる」
「だから、待つことにしたの……」
強さを感じさせてくれるもの……だった。
一つ一つのものに、燈の感情が込められている。戸惑いだとか、期待だとか、痛みとかそういうものが上乗せされている。どれだけ辛くても、燈は前を向いている。悩みながらも、自分の中で答えという解答用紙をずっと貼り続けている。
息苦しいに決まってる。
相手の答えを待つなんて……。
「分かった……」
「立希ちゃん……?」
手で持っていたスマホが床へと流れる。
「燈が待つって決めたなら、私は何も言わない」
「う、うん……」
「ただ、あいつが私や燈が納得できない答えを持ってきたら……」
「そのときは……背中叩いて帰れって言うから」
結人にしてやれるなんてこれだけだ。
私を納得させてられるぐらいのものを用意したくせに、燈を納得させられないものを持ってきたらそのときは思いっきり叩いてやる。全員を幸せにするとか言ってるのに、そんなんで出来るのって……。
『今度は互いに支え合う』
お前が望んだのはこういうことでしょ?
片方だけの呪いにならない。私は結人のことを殴ったのを今でも最低なことをしたと認識している。変わることはないと思う。だとしても、今度の約束は呪縛じゃない。
ちゃんと心の中に込めた一ページ……。
「え、えっと……や、優しくお願い……ね?」
「そこは……あいつ次第だけど……」
あいつなら、か……。
結人なら確かに納得させるようなものを見せてくれるかもしれない。例え、とんでもない爆弾としても……。
『ちゃんと決めて』
送らずにはいられなかった。
一文を結人に連絡として添えていると……。
「あ、後……実は立希ちゃんに渡したいものがあるんだ……」
「た、誕生日おめでとう……!」
「……と、燈?」
燈の手に握られているものは……パンダの顔の形をした石そのものだった。
燈らしさ溢れる誕生日プレゼントに私は手に取って……。
「ありがとう、燈」
手に取って、綺麗に磨かれた石を見つめてから、軽く握り締めて実感する。
白くて中央には目のようなものが削られている。まるでパンダそのものな石をこの手に掴みつつも、結人がくれたネックレスも見つめる。
「大事にする……」
初めてだった。
誕生日プレゼントを親やお姉ちゃん以外から二人に貰ったのが……。
「ちゃんと決めてか……」
立希から添えられていたのは一文のみだった。
当たり前でしかねえ、俺が誰かを選ばずに覚悟を示したいって言うなら、覚悟を示さなくちゃいけない。あいつが納得してくれたかもしれねえが、まだ燈への答えがまるで全然出せてねえし他のみんなもいることだ。全員へ送るというのは暴力にも等しいかもしれねえが、俺はやるしかねえ。もう自分の気持ちには正直になりたいから。何度目かになる既読を付けて、俺は目の前の奴に話しかける。
「お前は来ねえのか、楽奈?」
「いい」
立希の家の前で別れた後、俺はいつもの公園に来ていた。
楽奈に聞きたかったことがあるからだ。ムジカのライブに関して……。
「睦は来て欲しいんじゃねえのか?」
「断った」
モール近くの公園に行けば、楽奈がいる気がしていた。大体、いつも此処にいるしなこいつ……。案の定、俺が公園に辿り着くと夜だというのに楽奈が野良猫たちと会話をしていた。
「断った?楽奈にしては珍しいな……」
「決まってる」
「なにが?」
「答え、後は気づくだけ」
答えが……決まってる……?気づくだけ……?
いったい、どういう意味だ?と疑問を思い浮かべていると、楽奈は野良猫の顎の下を指でなぞっている。楽奈の表情を見ても、よくわからない。答えを聞いても、あいつは直接教えてくれないはずだ。
ちょっとだけ考えてみることにする。
こういう場合、楽奈の中で答えが決まっているという言い方はしないはず。ただ、楽奈にしてはかなりヒントをくれているような気がしてならなかった。俺にさっき抹茶クレープを奢って貰ったからなのかもしれねえが……。
「もしかして……」
「睦のことを言ってんのか?」
「当たり」
まるでクイズの回答を待っていたばかりに、俺なら答えられると確信していた楽奈……。
実際、口元はかなり緩んでいるからな……。
「ギター弾けてる、分かってない」
「それは……弾けてるけどあいつが認識できてねえってことか?」
「なら、お前もやっぱ来るべきだろ」
「いい」
「なんでだよ?」
「意味ない」
楽奈はかなり言葉を抜いた状態で話を進めようとしてくるから、こういうときにこう思っているというのにかなり分析が必要になってくる。但し、この場合の「意味ない」は恐らく……。
「行ったら、後押ししちまうからか?」
「音が混ざる」
「行くことでか?」
楽奈は頷いている。
楽奈にしてみりゃ、睦が自分自身のギターを自己認識させるためのライブなるかもしれねえのに……。楽奈が行くことで、不純物が混ざることに繋がる。流石に楽奈の考えすぎじゃねえのか、って思った俺もいたが……。これは、楽奈なりの試練なのかもな……。
私がライブ会場にいなくても、自分の表現をして見せろっていう……。
あくまでも、俺の勝手な妄想でしかねえが……。もし、そうだとすればこいつは意外と師匠として厳しいのかもな楽奈は……。
「分かった。元々、俺がどうこう言うことでもねえしな……」
楽奈が来ないと言った以上、無理に来いという必要もない。
ライブが好きなこいつがどうして誘われたのに、断ったのか気になって仕方なかったから聞いただけだしな……。
「というか楽奈、お前もう9時過ぎてんぞ……流石に帰るぞ」
「分かった……」
時計で確認すると、時間はもう21時を過ぎていた。
俺は全然構わねえが、補導されるのもごめんだし楽奈の場合中学生だからな。尚更、面倒なことになる。
「また明日」
と野良猫たちに声を掛けてから、楽奈は立ち上がって俺より先に歩き出す。
俺は楽奈の小さな背中を見ながらも、さっきの立希の言葉を思い出す。
『ちゃんと決めて』
白い息が見えた気がした。
楽奈の背中を真剣な眼差しに変えてから、改めて見つめる。まるで、星々の輝きにでも惹かれたかのような目つきになった俺は楽奈に送ったものがある。
「お前ともちゃんと向き合うからな」
「もう向き合ってる」
剛速球で返って来る……。
内容を理解しているのか、理解していないのか意図が読めないが、多分きっと俺から貰ったもんもあると言いたいんだろうな……。ったく、こっちの方がお前のおかげでMyGO!!!!!に出会えたって言うのに……。
「お前、そういや今日立希の誕生日だって知ってたか?」
「……知らない」
「え?あ、あいつ誕生日教えて……」
なんで祝ってないんだとなったし、なんで誕生日知らねえんだと気づいた後に思い出したことがある……。
「あーいやあいつ教えるような奴じゃねえよな……」
「今から行く?」
「あいつ起きてそうだけど、今からはなぁ……」
「明日がいい?」
「うーん……」
考えて立ち止まってしまう俺。
今から行ってもいいが、今から行って果たして何か渡せるのだろうか?となってしまう。店自体はやっているが……。あーでも、こういうのは当日の方がいいしな……。
「今から行くか、楽奈!」
「抹茶渡す」
「そ、そうか……」
補完の描写として、愛音とそよによる立希への誕生日のあれこれを考えていたのですが、次回に回します。ただ、立希メインって言うよりは愛音メインになると思います。