【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
「昨日、立希ちゃんの誕生日だったね」
「渡せなかったから、今渡すね」
カフェの店内に出て来ると、いきなりそよが渡して来る。
何も言わずに渡されそうになって、私は「は?」と言いそうになっていた。
「はい、これ」
そよから包装されたものを渡される……。
こうやって贈り物を貰うと、結人との一件から一日経ったということを実感する。そよの奴に、誕生日を教えた覚えはない。何処かで知ったのか、それとも私が覚えてないだけで教えていたのかも……。そういえば、祥や睦は知っていたような、知らなかったような……その辺はあんまり覚えていない。
「一応受け取っておくから……」
「そこは素直にありがとうでいいんじゃない?」
素っ気ない表情をしてるそよ。態度の方は私もだけど……。
第一、そよは素直になりきることなんてできないなんて知っているくせにこうやって聞いている時点で分かっている。
「え!?りっきーって昨日誕生日だったの!!?」
「は?なんでそんなに驚いてるわけ……?」
絶対に知って欲しくなかった奴が、わざとらしく大きな声を立てて椅子から勢いよく立ち上がっている。
「いやいや、誕生日って重要な行事じゃん?だって自分が生まれた年だよ?私達がおばあちゃんになっても、バンドを続けるなんてちゃんと祝って行かなきゃいけないじゃん!!」
「愛音ちゃんは盛り上がりたいだけじゃないの?」
そよに突っ込まれて愛音は「うっ……」という声を出している。
やっぱりそうだった。こいつの話なんて耳に入れるほどのものじゃない。なのに、こいつの声が特徴的過ぎるのと耳障り過ぎるから嫌でも覚えてしまうことがある。前に先輩の誕生日に何か送ったとか話していたような気がするし……。
そういえば、羽丘だからこいつ青葉先輩、上原先輩とかにあげるのかな……。
確か、青葉先輩って誕生日は9月3日。いや、流石に交流なさそうだし上げたりはしないと思うけど……。こいつのことだから上げそうな気もしてならない、なんかこいつ知らなくてもあげそうだし……。あげたことすらないのに、私は……。
「りっきー」
Afterglowへの思いが積もっていると、カウンター席に楽奈が座ってる。
まるで、それは昨日の誕生日プレゼントを「どうだった?」と言わんばかりな顔をしている。
「気持ちだけは受け取ったから」
「うん、猫のストラップ大事にして」
愛音が「えー!りっきーそればっかじゃん!」という声がしている。
あいつがほぼ真夜中に来て、手渡して帰って来たときは真面目に「は?」としかならなかった。後になって、これが誕生日プレゼントだと気づいたけど、何も言わないから本当によく分からなかった。
「というか楽奈ちゃんもあげたの!?ともりんは!?ゆいくんは!?」
「お前には関係ないでしょ」
「ええ、いいじゃん!!睦ちゃんは!?後、八幡さんだっけ?」
「だから、関係ないでしょ……」
そういえば、海鈴の奴……。
愛音達が来る前に店に来て、プレゼントと軽く挨拶だけして帰って行ったっけ……。中身は確か、サウナの無料券とそれなりの菓子とかが入ってたはず。後者はともかく、前者は意味不明過ぎて……。
『なにこれ?』
『私とサウナ行きませんか?』
『…………は?』
予想していなかった反応だったのか、海鈴の奴が何故かショックでカウンター席で倒れそうになっていたのは覚えてる。海鈴も海鈴で偶にズレているところがあるから、自分の誕生日の次の日にもツッコミどころ満載のものが増えるなんて……。睦の方はまだだった気がする。睦は、自分のことで忙しいだろうし祝ってる暇はないでしょと思っていると……。
『立希、後で会える?』
睦からの連絡……。
『バイト終わったら会えるとお思う』
睦からの連絡を返すと、既読だけがついていた……。
それ以上連絡が返って来ることはなかった。
「やばい、こうしちゃいられない!りっきーの誕生日プレゼント探して来ないと!」
「そういうのって口に出さないものじゃないの?」
そのまま、店を出て行く愛音を見てから、そよがくれた包みを開けるとそこにはパンダの絵柄をし入浴剤が詰め込まれていた。
……なんで、そよにまでパンダが好きだってことがバレてるんだろ。
不思議に思いながらも……。私は一旦、このプレゼントをロッカーに戻しに行くことにした。
「連絡……?」
ロッカーに戻したのタイミングと一緒にスマホに通知が来て、確認をする。
『立希、後でRING行く……』
相手は睦だった。
このタイミングでの連絡っていうことは、多分睦も何か渡そうとしてくれている。睦の奴、いったい何を送って来るんだろうか。あんまりこういうので何か貰ったことがないから、実感が湧かない……。
とりあえず、店の方へと戻ることにして店の方へと戻る……。
「来た……」
「はやっ!!?」
睦のことを考えていると、店の自動ドアを通って入って来る。
もしかして、RING前で連絡を送って来た……?なんて色々考えてしまう。とにかく、来るのが早過ぎて私は驚いてしまう。
「私、ちょっと席外すね……」
露骨に席を外そうとするそよ。
多分、私に気を遣ってとかそういうことじゃない。どっちかと言うと、睦が此処に来たから席を外したって感じがある。あいつ、まだ睦のことを……。
「ごめん、睦……」
「気にしてない、これ渡しておく……」
「そこおいて…………え?」
素で困惑してしまう。
睦が渡してくれたものに反応に困ってしまっている。
「む、睦……そのこれは?」
「きゅうりのマスコットキャラをイメージしたマカロン」
「え……?」
きゅうりのマスコット……?
色々とツッコミどころが多すぎて追いつかない。いや、睦も睦の奴なりに考えて渡してくれた。無為にすることはできない。
「あ、ありがとう……睦」
私が珍妙そうな顔をしていたこともあってか、さっきまで睦は不安げな表情でこっちをジッと見つめていた。自分があげた誕生日プレゼントがダメだったのかもしれないと心配になっていたのかもしれない……。
「これ、祥から……」
「え?祥子から……?」
祥子からの贈り物と聞いて耳を疑ってしまう。
睦から受け取ってその中身をすぐ確認する。そこにはただ一つメッセージがあった。
『私は頑張ってきますわ』
たった一言……。
それだけだった。自分たちは頑張る。単なる意思表明でしかないのに、まるで私達も頑張れと背中を押された気がする。なんてことは楽観的過ぎるのかもしれない。祥子がちゃんとあのとき向き合ってくれたからこそ、期待してしまう自分がいるのかも……なんて思えてしまう。
「祥にありが……いや、自分で伝えておく……」
「分かった、渡したいものは渡せたから帰る……」
睦は私が贈り物を確認したのを見てから、頷いてその場を去ろうとする。
表情は若干緩ませている。
「え?ああ、それじゃあ睦……ライブ頑張って」
楽奈にも軽く挨拶をしてから去って行った。
最後まで、よく分からないマカロンを渡されて……。祥子からの手紙を渡された。とりあえず、睦のマカロンを一つ食べてみることにした。きゅうりのマカロンの味とか全然想像できないけど……。
「意外と……」
なんて感想が出てきていた。
口に含んだ瞬間、清涼感が広がった。甘さはごく控えめで、むしろ青々し里瑞々しさが先に立つ。これなら、多分甘いのが苦手でも食べられる。ただ、口の中と頭の中ではこれが「マカロン?」という実感は残っていたけど……。
「美味しい……かも」
「うーん、どうしよっかなぁ……」
考えてみれば、りっきーとはバンドが同じだけどどういうのが好みとかあんまり知らないんだよね。バッグにパンダのストラップ付けているのは知っているから、もしかしてパンダが好きなのかもしれないけど……。
「りっきーがパンダかぁ……」
りっきーも意外と可愛いものが好きなんだなぁ……。
あっ、でもパンダってよく見るとそんなに可愛くない気がするかも……。なんかこう白と黒のフォルムでどんくさいところとかは可愛げあるけど、なんかこう熊と同じじゃない?ってなるんだよね。熊本にいる熊のマスコットは割と可愛いと思うのに、なんかよく分からないんだよね。
「うーん、パンダかぁ……」
こういうとき、いつもならこれっていうのが出て来るに頭の中で悩んでしまう。
とりあえず、雑貨屋に来てみたけどあんまり実感が掴めない。とりあえず目に入るのが動物系の……。目に入るのが、猿やレッサーパンダとかでどうしようとなっちゃう。
「レッサーパンダとパンダの違いってなんだろ?」
口元に指を置いて考えてしまう。
あの二匹ってどうして両方ともパンダって名前が付いているんだろうって……。
「それはレッサーパンダが先に発見されたからだ」
「へぇ、そうなんだ?」
「パンダが発見されたことでパンダの方はジャイアントパンダと名付けられてな、その後に区別するためにより小さいって意味でレッサーっていうのが付けられたんだとよ」
「えぇ、なんか可哀想かも…………ってゆいくん!!?」
見知らぬ人が解説してくれていたと思って、反応をしていると全然知っている相手だった。
しかも、相手はまさかのゆいくんという……。
「人の顔見てそんな驚くなよ。買い物しに来ただけだろ」
ゆいくんの手元を見ると、確かに買い物かごがある。
中にはメモ帳とかそういうものが入ってる。何かメモをするためかな……?
「んで、お前は今なにしてんだよ?」
「うーん……?」
「秘密」
ゆいくんに教えるのも全然いいけど、こういうものってちゃんと自分で決めて渡したい。
りっきーにはいつも怒られてばっかのはそう。だとしても、やっぱりこういう誕生日とかって何をあげるときって自分で選んで、自分で「おめでとう」と言ってあげたい。
「秘密?なんだそりゃ」
「色々とあるの、ゆいくんはあっち行ってて」
「……わかったよ、じゃあまた後でRINGでな」
「うん……!」
ゆいくんは手だけ振って、何も言わずに去ってくれた。
危ない、危ないこれ以上ゆいくんが傍にいたらどんなことを私に言って来たのか普通に考えられちゃうレベルだし……。こういうときはリラックスして、ゆっくりと見つける……。それがANON TOKYOのやり方だよね!
とにかく、これを買って早いところりっきーに届けて来よ……!!
爆速でレジに向かって、私は支払いを済ませて店を出ることにした。
「はい、りっきー!これ!!」
RINGに戻って来て、早々に渡す。
「別にいらないんだけど……
「いやいや、こういうのははい、ありがとうでいいんだよりっきー」
意外といつもみたいに「は?」って言ってくることはなかった。
お決まりの台詞を待っていたのに、返って来なくて逆に調子が狂いそうだったのを引っ込めて、私はりっきーに手渡しているのは……。
「パンダってローズマリー好きなんでしょ?調べたらそれっぽいの出て来てさ、だからこれアロマ!!」
「なんでお前もパンダ好きなの知ってるの?」
「あれ?りっきーがパンダ好きなんて言ってないんだけどなー」
「うっざ……」
にやついた顔でりっきーに言うと、舌打ちをした後に無言で渡したものを手で掴んでくる。ちょっと確認してから……。
「一応受け取っておく」
「も~!素直じゃないんだから!消耗品だけど、大事にしてよね!」
りっきーは無言のままでいる。
受け取ったアロマを一瞬だけ見てから、ロッカーの方へと向かって行った。喜んでくれてるのかな?こういうのは気持ちが大事って言うし……。
大丈夫でしょ!と自信満々でいる私だった。
「あいつ、なんでパンダ好きって知ってるんだろ……」
いや、いいや……。
そよにしても愛音にしても、どうして知ってる?と考えてるだけ無駄でしかない。愛音のああやって無鉄砲に人の領域に踏み込んでくるところは面倒臭くて仕方ないのに、何処か自分でも羨ましいとなってしまう。
どうして、羨ましいのかなんて知っている。
あいつのああいうところが単純に自分には出来ないから。出来ない自分と出来る自分を比較して、何処か自分を卑屈に見ているからに過ぎない。自分を冷静に見ることが出来るのに、治すことが出来ない。それでも、私には今するべきことがあった。
「ツアー、頑張って」
送った相手は……祥子。さっきの手紙のお返しのつもりだった。
どうせ連絡は返って来ないと思って、すぐにスマホをしまおうとしたときに連絡が返って来る。もう一度、スマホを見るとそこには……。
祥子の意志を確認するには……充分なほどの内容だった。
『ええ、やってみせますわ!』