【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
「はぁ……まさかマジでファーストフードに行くことになるなんてな……」
別に俺一人だったら特に問題はなかった。
適当に食べて適当に帰ればいいだけの話でしかないから……。一つだけ問題があるとすれば、俺の目の前に座っているピンク髪の女……。彼女は期間限定のハンバーガー、シーフードディライトバーガーを食べている。このバーガーは海王星をモチーフとしたハンバーガーであるようで、海王星の特徴的な深い青色と冷たいイメージを表現しているようだ。
それでいて、軽やかでヘルシーな印象で、上質な味わいと華やかなビジュアルを重視しているようで女性が食べるのも納得のものだ。中身も白身魚のフライであり、その上にレモンバターソースがかかっているようだ。余談だが、海王星に生き物はいないとされている。なんか前に巨大ウナギが見つかったとか言われてた気はするが……。
「そっちのハンバーガー、凄い辛そうだけど大丈夫?」
「ん?ああ、確かに辛いけど大丈夫だぞ」
俺が食べているハンバーガーが辛そうに見えたようで心配しているようだ。
俺が食べているのは、レッドスパイシーバーガーという火星をイメージしたハンバーガーだ。確かに火星を感じさせるようなものはある。まず包み紙が「俺は火星です」と言わんばかりに火星探知機が火星の内に降り立ったような感じを出しているからその時点で火星を頂いているんだなというのは分かる。火星を頂いているんだなってなんだよ……。
口に入れた感じは確かに火星のような灼熱感は感じさせてくれている。あいつに言ったらなんか言われそうだから言わなかったが、実際かなり辛い。火星らしいスパイシーさを感じさせるようなものがある。恐らくそれを強く感じさせるのはこのハンバーガーの目玉のソース。キャッチコピーは『
「ねぇねぇ、そのポテトチップス貰ってもいい?」
無言で頷いていたが、あいつに許可したのには理由があった。
それはこの赤いポテトチップスも普通に辛いということだ。辛いと分かっていて尚、好奇心で貰おうとしているのかは分からないが、反応を楽しみだった為俺は何も言わなかったが、彼女は悶え苦し始めながらも手元に置いてあった飲み物を飲んでいるようで俺は普通にその様子を見て口元を抑えながらも笑っていた。
「ちょっとー?分かっててシェアしたでしょー?」
「なんだ、好奇心とかじゃなくて本当に分かってなかったのか」
「辛いなら事前に言って欲しかったんだけど」
「色見れば大体ヤバそうなの分かるだろ……」
「まあ、そうだけどさ……」
あんなにも辛そうな見た目をしているソースをどっぷりとつけて食べるなんて自殺行為でしかない。本当に変な奴だな、と思いながらも俺はポテトチップスを口の中に入れていたが俺もあまりの辛さに咳き込んで悶えていると、あいつは「ほらーそういうこと言うからさー」と言いたそうにしながらも俺の飲み物を渡してくれて俺は頷きながらもありがとうと意志を示して飲み物を受け取っていた。
「お金返すね」
俺がポテトチップスを飲み込んだ後にあいつはバッグから財布を取り出そうとしていた為、俺はあいつに「待った」の意志表示を示す為に手を前に出す。
「別にいらねえよ」
「えー?でもやっぱり私が奢るって言ったんだからこれぐらい払っておきたいじゃん」
「だからいらねえって……」
元々こいつが此処に誘ったのにはあいつが奢るからと言い出して、「バイト終わった後一緒に夕ご飯食べに行かない!?」と言われたからだ。俺は行く気は全くなかったが、雨宿りさせてくれたお礼をしたいと言われて全く食い下がろうとしなかったから、俺は仕方なく一緒にこうしてファーストフード店でハンバーガーを頬張っているという状況。
そして、奢るという話はこいつが少し目を離している間に俺が全部まとめて支払ったことにより恩を返すことが出来なくなった。だから、こうしてこいつは俺に金を返そうとしているんだろうな。
「女子に奢らせるのは……あんま趣味じゃねえんだよ」
「へぇ、意外とそういうところしっかりしてるんだ」
「……まあな」
褒め言葉だったから俺は特に反応することはなかった。
あいつもそれに気づいていたのか、ニヤニヤしているのを見て俺は不味そうにしながらも飲み物を飲みながらも俺は期間限定のメニューを改めて見直していた。メニュー表にデカデカと貼られているのは、太陽系の惑星をモチーフと思われる8個のバーガーがある。中でも俺が食べているこの火星を模したバーガーが一番ヤバい気がする。俺は正直辛い物に対してかなり耐性がある方だがそれでも辛くて仕方なかった。
「ねぇねぇ、バイトしているとき行ってたけど天体観測興味あるって言ってたよね?」
「……ああ、そうだが?」
「天体観測って、具体的には何するの?星座とか見つけたりするの?」
「星座って言うよりは、もっと遠くの星とか惑星とか。あとは写真撮ったり……まあ、そんな感じだな」
「写真とかあるの?」
俺は何も言わずにスマホを取り出して、幾つもある写真の中から俺が撮ったものは、広がる夜空にアンドロメダ座大銀河。それは天体望遠鏡が映し出されたものだった。俺は無言のまま彼女の反応を待つ。
「へぇー!凄い綺麗に撮れているじゃん!」
「これはアンドロメダ座大銀河って言ってな。アンドロメダ座に位置する渦巻銀河なんだよ。アンドロメダ座大銀河はM31とも呼ばれていてな。地球からは約250万光年に位置していて、肉眼で見える最も遠い天体なんだよ」
「約250万光年って……やばくない?」
俺はこいつが割とノリ気で俺の趣味に触れてくれたのをいい気になったのか俺はそのまま言葉を続けていた。触れてないが、M33……さんかく座銀河も同様で肉眼で見える最も遠い天体であり、さらには天の川銀河よりも大きい局所銀河群。
「まあ、それだけ宇宙が広いってことだ。なにせ多次元宇宙……分かりやすく言えばマルチバースなんて仮説もあるほどだからな」
「マルチバースってあれでしょ?別の宇宙に存在する自分みたいなって感じのやつでしょ?」
「……解釈の一つとしてはあり得るんじゃないのか?」
「なんかパッとしない言い方じゃない?」
「色々理由があるんだよ、こういうのって」
俺がパッとしない言い方をしていたのは多元宇宙論、マルチバースは解釈が多すぎると言うこと。泡宇宙モデルと呼ばれているものが最も現実的だと言われているが俺も完璧に分かっているわけじゃないから説明できないし、映画でよく使われている手法としては別の宇宙に別の自分が存在しているかも?みたいな話になってくる。こういう場合は大体並行世界一緒に話をされている場合も……。まあ、こればっかりは説明するのがややこしすぎて大変だから枝分かれした宇宙が幾つも存在すると覚えた方が楽かもしれない。
「別の自分か……」
目の前のあいつや俺が心の中で思っていたように俺は別の宇宙の自分というに興味がない訳ではない。映画のようにもし別の世界の俺がいたとして……その宇宙の俺はどうしているのだろうか。あの日行けなかったものに行くことができたのだろうか、あいつの手を取ることが出来たのだろうか。
「いや……やめよう、こんなことを考えるのは……」
本当にいるかも分からない別の自分のことなんて考えても仕方ない。俺はスマホの電源を一旦切ろうとしたが……。
「あれ?もしかしてその子が友達だった子……?」
俺は誤作動を起こして写真をスワイプして次の写真を見せるような形になってしまっていた。
誤作動して彼女に見せることになってしまっていた写真の中には楽しそうに平原で俺と燈が喋っているのが写し出されていた。この写真は恐らく父さんが俺のスマホでこっそりと撮っていたものだ。
「……ああ、そうだよ」
「結構可愛い子じゃんー!」
彼女が俺のスマホに触れようとしているのが見えて俺は急いで自分のスマホを回収してバッグの中に突っ込んだ。
「もうちょっと見せてくれてもよくない?」
「……駄目だ」
俺はあくまでも気づいていないフリをしていたがこいつが千早愛音だという疑念が完全に晴れた訳じゃない。あのときくだらないはぐらされ方をして俺が知っている……とはいえ二度しか会ってないが千早愛音は正直しっかりしていると印象だったから、こんな変で面倒な奴ではないだろうと見ていたが、こいつは俺に対して致命的なやらかしをしている。
何故俺が愛音だと気づいていて燈の友人だと気づいていて尚、こうして話をしているのかと言うとこれは単なる暇つぶしでしかない。どうせこいつも俺の剥き出しだらけの俺の姿を見てそのうち嫌気が差して離れて行くはずだ。此処まで離れなかったのは予想外だったけど、絶対にこいつ無理と感じるときがあるはずだ……。それで俺は人とは誰とも関わらなくて済む。これでまたいつもの日常に戻れることが出来る。何もない、ただの空白の日常に……。
「ねぇ、聞いてる?」
「……なんだよ?」
「いやだから、なんか天体観測とかその女の子の話をしているとき凄く表情緩んでたなーと思って」
「……俺が?」
俺は燈の写真を見られたとき、「まずい」となっていた……。
自分の表情が緩んでいるなんて思ってもいなかったし、なんなら燈に関しては俺は出来ればもう触れたくなかったはずだ……。いや……。
きっと違う。
俺が愛音に燈のことを大切な友人だったと言っていたからこそ、俺はきっと燈という人間が自分の魂というものに刻み込まれているんだ。きっと俺は燈にこれ以上関わることがなくても高松燈という人間を忘れることが出来ないんだろう。
「……そうかもな」
「ほら、また笑った!」
「うるせえな……別にいいだろ……。ったく、本当に面倒な奴だな……」
今度は自分でも手に取るように分かるほど笑っていた。
「はぁ……一日愛音に付き合わされるとはな……」
電車の中で俺は窓際に顔を押し付けながらも俺は窓から景色を眺めていた。
景色を眺めていると、明るい街灯に行き交う人々……。都会ということもあってビルとビルの間にビルが見えてくる。そのビルの中には当然ではあるがお店だったり、会社だったりというものがある。この時間だというのにまだ灯りがついているというのは流石都会と言ったところだろうか。こうして都会の景色を見るというのはなんというか初めてだった気がする。こういう視点で都会を見るというのも案外悪いもんじゃないな……。
駅に到着した俺と愛音は電車からホームへと降り立つ。
階段を下りた辺り、愛音がこう言ってくる。
「ねぇねぇ、私達友達だよね?」
「そういうのって口に出して言うもんじゃねえだろ」
「えぇ?さっきの女の子のことは大切な友人とか言ってたのに?」
「別にあいつは……いいだ……なんでもない、じゃあな」
俺は愛音から離れて行く……。
愛音の「ちょっとー!」と言う声が聞こえていたが、俺はこのとき自分の気持ちに正直になりそうになって怖くなって俺は駆け足で愛音の下から離れて行ったのだが、同時に俺は悪くないものだと感じてしまっていたんだ。
昨日はかなり踏み込み過ぎたかもしれない……。
多分結人君の地雷を何個も踏み抜いた気がするけど、大丈夫……かな。でも結人君、最後も笑顔だったから大丈夫だと思うけど、というかそう信じたいけどなー。というか、あんだけ話したんだから結人君も流石にそろそろ私のことを友人って認めてくれてもいい気がするんだけどなー。まだ全然結人君の底が見えてないけど……。
「やっぱり……人を完全に寄せ付けたくないって訳じゃなさそう気がする……」
結人君とかれこれまだ三回目だけど、結構濃密な話は出来た気がする。
特に三回目の夜なんて燈ちゃんとの写真を今でも大事に取ってあるって分かったし、一回目のときは燈ちゃんの話しているときちょっと辛そうだったけどあのときは少し嬉しそうに喋っていたし……。二人共やっぱり離れるべきじゃない気がする。だって、あんなにもお互いにお互いのことを今でも思っているんだから、今すぐにでも元に戻るべきじゃん!?よし、決めた……。今日は学校終わった後、勝負に出る。もう私が愛音だってバレてもいいから結人君に直接言おう。
「いらっしゃいま……ああお前か。今日はどうしたんだ?」
いつも通り、放課後学校が終わって数駅電車で乗り継いで私はこのアウトドアショップにやって来ていた。店内に入ると、結人君がすぐ入口のそこにいて丁度いいと思った私は話を切り出そうとしていた。
「結人君の友達の件でちょっと話があって」
「ああ、そうか……。やっぱり、お前……」
「千早愛音だったんだな」