【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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超新星はこれからも続いて行く……。

 初華に俺の全部をぶつけられた。

 届けた想いを了承してくれるなんておめでたい期待はしていなかった。殴られる覚悟しかしていなかった。あいつが受け入れてくれるまでの間に葛藤は絶対にあったはずだ。なのに、あいつは俺が掲げる夢物語そのものを否定することはなかった。

 

 寧ろ、未来永劫に「夢を夢で終わらせるな」と刃物を手元に置かれた。

 裏切ったら刺してやるか……。前にそよに言われたことを思い出すな。いつか、俺は刺されそうだってのを……。ある意味、それは何れ訪れるかもしれない未来の世界線。心配はしていない、不安もない。

 

 

 

 

 

 

 もうこの手に握り締められている。

 『決意』を掴むと決めたのだから……。

 

 

「なにしてるの?」

 

 実際に手を伸ばして広げた状態から握っていると、そよに引き気味で見られる。

 思わず、「やべっ!?」と声に出してしまう。そうだった、俺は今RINGでバイト中だったことを忘れてた。すっかり、自分の世界に夢中になるあまり芝居をぶち込んでしまう。

 

「結人君って痛いね」

「うるせえ」

 

 目の前にいる悪魔がほくそ笑んでいる。

 面白い見世物があるかのように……。

 

「おい」

 

「なに?」

 

「誰かに報告しようとすんのやめろ」

 

 テーブルの上に置かれてあったスマホを手に取ったのを視界に入る。

 すぐに誰かに今のことを言おうとしているのが分かって、俺は止めようとすると面白くなさそうにしている。

 

「スマホ弄ろうしただけだけど?」

 

「ぜってえ違うだろ」

 

 まるで珍獣を見るかのような目つきをしていたくせに……。

 よく言うよな、こいつ……。

 

「被害妄想?いつどこで何時何分にそういうことをしたのかを教えてくれる?」

 

「9月12日金曜日、太陽系の地球の日本・東京の池袋、RINGのカフェブースにて長崎そよが9時10分34秒11で立希に俺が変なこと考えてるって送ろうとした。以上」

 

「凄い早口で喋るね」

「お前なぁ……!」

「しかも、立希ちゃんに送ろうとしたのまで分かるんだ?」

「あーもう分かった!降参でいい!はい、俺の負け!!」

 

 ニヤついた表情と視線を向けてくるせいで、ダルくなってしまう。

 言い返しても次の反撃が炸裂するから、相手してると全く勝てない。案外面白いから続けてもいいが……。明日は明日で忙しいしな、出来る限りリラックスしている状態で行きたい。

 

「睦ちゃん、何処か行ってくるの?」

「なんだお前、心眼でもあんのか?」

「結人君って、分かりやすいから」

「へぇ、そいつはすげえな。俺の取説でも持ってるのか?俺はお前の玩具ってわけか」

 

 わざとらしく言うと、そよはそよで俺の相手をするのをめんどくさそうにしている。

 指を指で弄っている。動作を見て、俺は心の中で勝ったとガッツポーズをしたくなってしまう。

 

「結人君みたいな玩具は要らないから、とっとと捨てるけど」

「ひでえな、それはそれで……」

「さっき言ってた、心眼だっけ?結人君が()()()()添い寝してたときのこと覚えてる?心臓飛び跳ねそうだったのは覚えてるけど?」

 

 何も言わない。

 何も返そうとしない、知っているからだ。無理矢理と言うのは否定しようとしていたが、否定するとずっとそこを突いて来るから言わない。

 

「人を魚みたいな扱いをすんな、ったく……」

「認めるんだ?」

「……認めるけどなんだよ」

 

 強く言うつもりはなかった。ただ、「ふーん?」と言っているのが微妙に気に入らねえ。

 いや、んなもんよりも添い寝に関しては……。そよのことをただ慰めたくて、勝手に俺がしたことでしかねえし……。

 

 

 

 

『結人君っていつからAve Mujicaに乗り換えたの?』

 

 薄暗い部屋は明るくなり、そよの心にも映し出されていた。

 気持ちの整理はついていないが、落ち着いていた。まるで埃だけ払われていて汚れが取れていない机みたいに……。軽口ぐらいは叩けるぐらいには戻れていたから、もしかしたら拭き残りがあったってのが正しい言い方かもしれねえが……。

 

「結人君って今は睦ちゃんで忙しいんだね」

 

「はぁ……」

 

 大きな溜め息をつきそうになる。罪悪感がない訳じゃない、勿論そよと向き合う事も忘れていない。だが、その溜め息は止められなかった。海よりも深く、水溜まりよりも浅い。水深が一気に変わるほどの心の揺れを感じていたのは何も今だけじゃなかったが……。どういう気持ちで言っているのかは読み取ることはできる。そよは今……。

 

 

 

 楽しそうだって……。

 表情としてだけではなく、目も笑ってる。取り繕うとするだけの笑顔じゃない。

 

「ちゃんと生きてるんだな、そよ」

 

「……どういうこと?」

 

 

 

 

「いや、やっぱ俺はそよの心からの笑顔好きだなって思っ「っそ、結人君は一度馬に蹴られて死んでそのまま二度と人として生まれてこない方がいいかもしれないね」」

 

「は?待て、今のはライン越えてるだろ」

 

「ライン越えて来たのはそっちじゃない?いつもスレスレか、無理矢理突破してるでしょ?」

 

「反論はしねえよ……」

 

 何回か無理矢理突破口を開いこともあったからこそ、俺は言い返すことは出来なかった。

 モーティスのことなんて特にそうだ。俺はあいつに死んで欲しくなくて、生きる為の約束を取り付けたほどだったからな……。

 

「なんだよ?」

 

 視線を感じて、俺がもう一度そよの方に目を向けてやると……。

 丁度いい感じ窓から見える陽の光がそよの身体に掛かっている。

 

「そういうところ……だから」

 

 

 

 

「睦ちゃんのこと、お願いね」

 

「ああ、任せろ」

 

 『だから』の意味はきっと多く含まれていたはずだ。

 敢えて俺は分解しないで、すぐに了承した。睦のことは任せてくれって胸を張って言うためにも……。

 

 

 

 

 睦の友人であるそよに託された人間として……。

 

 

 

 

 

 

『これから先も結人を信じる』

 

『結人君……!大好き!!』

 

 呼応する二人の言葉を夜の公園で確かめる。今日の出来事がもう回想として流れている。

 睦達と一緒に行った熱海の写真を見返す度にあのときの誓いを思い出す。あの二人がすぐに了承するなんて俺は本気で思っていなかった。モーティスの方はともかく、睦は俺のせいで疫病の如く何度も傷つけて感染させてしまったから、俺は後悔していたんだ。

 

「もう懐かしいな」

 

 一枚の写真が目に留まる。

 それは砂浜で撮った写真。モーティスが俺に抱きついているという秩序の乱れカップルそのものの写真。その写真を見ていると、あいつが情熱的にくっつこうとしていたときのことを蘇るから嫌になりそうだが、必死に今日のことを思い出そうとする。

 

 

 

 

『ってぇなモーティス……』

 

 砂浜で俺が自分の感情をぶちまけたときのことだった。

 モーティスに勢いよく告白された後に俺は砂浜に押されたのを今でも覚えている。

 

『これからも結人君とラブラブで居たいの!約束ちゃんと守って貰わなかったら閻魔様に舌抜いて貰うもん!!』

 

 頬ずりされながらも、「えへへ!」って笑っていたモーティス。

 あいつは嬉しかったんだろうな、ああやって俺と旅に出れることが箱根のときもそうだった。あいつは無邪気に楽しげに遊ぼうとする。バカップルだと思われることが多いから、勘弁してくれってなるときもあるが、俺も楽しいんだよあいつといるのは……。好きに馬鹿をやれるから。

 

『約束……してたな。何処へでも連れて行ってやるって……』

 

『むぅ?もしかして、忘れてたの!?』

 

 俺の上に乗っかっていたモーティスが立ち上がると、俺の顔に砂が掛かっていた。

 必死に抗議して、手を全力で振る。駄々っ子そのものだった。

 

『忘れてねえ、忘れてねえよ』

 

『モーティスも……睦との思い出もこれからずっと続けてやる』

 

 

 

 

『それが俺からの……未来永劫のよろしくだ』

 

 未来永劫のよろしく、なんてすげえ重たいものをぶつけたのにモーティスは逃げることなくまた「大好き」と言う。我慢しなくていいと分かったのか、唇を頬に当てようとしてきていたのを見て、俺は全力で抵抗していた。人が見ているから普通に耐えられなかった。

 

 

 

 

「あの馬鹿は全く……」

 

 一枚の写真で此処まで思い出すなんて感情豊かにも程があるなんて思っていると、もう一枚の写真へと横に指先を動かす。軽やかに……。

 

 それは来宮神社で撮った一枚の写真。

 控えめにピースサインをしてる睦。隣には俺もぎこちなくピースサインをしていた。なんとも形容しがたいものがある写真。これはこれで味があるな、向こうよりは脂っこくないしな。

 

「帽子似合ってんな、やっぱ……」

 

 俺は指先であるものを拡大する、シンプルな黒の帽子を被っている睦の姿を……。

 その帽子は勿論、俺が悪い病原菌をあげたことをずっと後悔していたもの。不安でいっぱいであいつのことを助けてやりたいだけが先行していたときとは違って、今は落ち着いてちゃんと似合ってるなって思えていた。

 

『二礼二拍手一礼』

『ああ、投げて入れるのも注意してな』

 

 睦として神社に一緒に行くということは初めてだった。

 だからこそ、俺には一緒に行ってやりたいという感情があった。箱根のときはモーティスだけだったからな。それこそ、決めたのには理由があった。

 

『おみくじ、なんだった?……悪い』

『大丈夫…………大凶』

 

 大凶を引くというある意味レアな体験をしてしまった睦、若干落ち込んでいるのを俺が宥める。

 

『いや、まあおみくじだしあんま気にすんなよ。自分の未来は自分で考えるもんなんだしな』

『ん……』

 

 睦の返事は俺の後押しに頷いてくれている。

 その返事の仕方はまるで大凶でも怖くないと言っているようにも聞こえていた……。

 

 

 

 

 

『結人……もっと思い出作ろう?』

 

 七湯を巡っているときのことを思い出す。依存ではなく、共に作り上げていきたい。

 かつての睦の姿は今も睦の記憶の中で生き続けている。睦は受け入れて、これからの未来を思い描こうとしている。一つだけの筆ではなく色んな筆を使ってこれからの道という筆先を決めていくことになるんだろう。

 

 

 俺と共に……。

 そして、今隣にいる唯一無二の親友もそうだ。一緒に星空を見上げているだけなのに、恐らく違うものを思い描いている。こいつが自分の箱庭を自分で破壊したのと同じだ。

 

 

 

 

 

 

 

『此処に来たら結人に会える気がしたんだ』

 

 だから、俺も此処で待っていた。

 この公園ならまたお前が来るんじゃねえかと思って……。

 

 

 

 

「なぁ……初音」

 

 隣に無断で座って来た初音に俺は声を掛ける。

 若干、近くて近くねえかとは言えてない。

 

「超新星爆発って知ってるか?」

 

「太陽の8倍以上の質量をもつ重い星とかの一生の最期に起こす、宇宙の爆発現象だったよね?」

 

「ああ、爆発によってバラまかれた物質が新しい星の材料になる。魅力的で超おもしれえこともんだよな」

 

 この目で見えることはないだろう。

 SN 1987Aを観測できることを期待して瞳を輝かせて、俺は星空に目を向ける。勿論、見えるわけがない。

 

「宇宙ってのはロマンで広がっている、火星には実は生命体がいるとか移住できるとか、実は地球そっくりな環境がある星だとか話題が尽きねえ。こういう話題が尽きないものって案外身近にもあるんじゃねえのかって思うんだ」

 

 地球から宇宙に移住するなんてのは今のところ実現可能な領域に達していない。

 宇宙開発というものは案外進んでいるのか進んでないのか微妙なところだからな。

 

「結人がよく言う繋がりにもってこと?」

 

「ああ、俺が言いたいのは更新し続けるからってことだ。目に見えているものだけじゃない、見えないからこそ気づけることもある。例えば、分かりやすく言うならお前と初華なんてのはそうだろ?」

 

 視線を西の方に送る初音。

 表情は何処か心配しているようにも、応援しているかのような表情にも見えていた。

 

「確かに……そうかも。初華はあんまり口は確かに悪いけど、必要以上に語ろうとはしない性格だもんね」

 

「ああ、お前ら姉妹や睦を見て特に思った。言葉ってすげえ大事だけど、何も口にすることばかりが大事じゃねえって……言葉にしなくても伝わることはある。表情が特にそうだ、喜んだり楽しそうだったりすると、見ている人は人は嬉しくなる。逆に辛そうだったり、悲しそうだと人は辛くなる。心が張り裂けそうになる」

 

「人間ってのは感情だけでも通じ合えることが出来るもんだって俺は思えた。でも、俺はやっぱ言葉と行動でいい」

 

 感情から読み取れるものがあるって言うのは俺もやったことがある。だが、実際にそればかりで通じ合うというのはどうにも俺にはあんまり向いてる気がしない。なら、自分の持ち前のもので向き合いたい。

 

「それはどうして?」

 

「そっちの方が……早いからな」

 

 ベンチに持たれつつも笑いながら言うと、初音も笑う。

 

「結人らしいね」

「らしいってなんだよ」

「そのままの意味だよ」

 

 お腹を抱えそうになりながらも、笑われている。

 初音に笑われて、若干恥ずかしくてなってちゃんと座り直してしまう。

 

「お前な、こっちは大真面目だからな」

「知ってるよ、結人は凄い凄い」

 

 揶揄うような態度になってきた初音が立ち上がって、逃げ始める。

 俺が追いかけて来るのを察知していやがったみたいだ。当然、俺は追いかける。この夜の公園の中で……。暗いし、補導もされそうな時間帯なのに、初音はアイドルでバンドマンなのに見られたら一発大スクープは確定だ。

 

「おい!お前、俺のこと馬鹿にしてんな!?」

「してないって!もー!結人は今も神様なんだね」

 

 ぶっちゃけ、スクープなんてどうでもよかった。

 多分、こいつはかつての頃だったら気にしていたかもしれない。自分を出すということを……。睦もそうだったが、初音も自分という存在を暗闇の中に閉じ込めていた人間だったからこそだ。

 

「やっぱ馬鹿にしてんじゃねえか!おい待て!逃げんなお前!!」

「じゃあ、結人が鬼!」

 

 二人共……。

 もう色が無い世界だと誤認していた頃の闇の中にはいない。色があったと知ったからだ。自分が見ていた世界にも、広がれば視点を変えれば分かるはずだったんだ。この世界に広がる無限の宇宙のように……。

 

「上等だ!宙の果てまで追いかけてやるからな!!」

 

「それはちょっと怖いよ!!」

 

「そっちの方がいいだろ!だって俺達は…………」

 

 

 

 

 

 

 

「「親友だから!!」」

 

 頭の中で「え?」ってなっていたが、口にすることはなかった。

 奇跡的に噛み合った。違う、そうじゃねえ。俺もあいつも通じ合っているからこそ互いに呼吸を合わせることが出来た。互いに、自分達の関係を信じられているからこそ言霊として出ることが出来た。案外、感情や表情だけで通じ合うのも悪くないな。

 

「お前、馬鹿じゃねえのか?デカい声で親友だとか」

 

「ゆ、結人だって言ってたよ」

 

 立ち止まっている初音に肯定をしてから、俺は徐々に近づいていく……。

 勿論、好機を逃さないためにも……。

 

「ああ、事実だからな。お前と俺は親友」

 

 

 

 

「そして、お前が今度は鬼だ」

 

 

 

「ほら、タッチしたぞ」

 

 静寂に包まれた木々の中で最初の決着はついた。初音は驚いていてまた固まっている。

 肩を軽く手で触れて「鬼」という意志表示を示す、お前が鬼だ。追いかけて来いと……。 

 

「追いかけてこいよ!初音!!俺を捕まえられたら、飯ぐらい奢ってやるよ!!」

 

 後ろを振り返って、木々を抜けて公園の遊具の方へと出る。

 余裕ぶっこいてタイヤを一つ飛び越えて振り返ると、大きく笑いながらも初音がこう言ってくる。

 

「じゃあ、お寿司お願いするね!」

 

「は!?おまっふざけんな!ちゃんと逃げねえと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行けねえじゃねえか!!!」

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