【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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感覚は痛みとして伴う

「初音、えんがわ取ってくれないか?」

 

 目の前のレーンで寿司が流れていたときはいつだっただろうか。

 気づけばそういうものは減った気がする。この回転寿司は珍しくあるが……。

 

「結人、えんがわ好きなの?」

 

 物珍しそうにして皿を取って俺の手元に置いてくれる。

 俺が礼を言いながらも、醤油を取って小皿に入れる。

 

「なんかこう食感がいいだろ?食べて歯ごたえがちょっとあるって言うか」

 

「あー分かるかも、独特の口触りするよね。じゃあ、つぶ貝とかも好きなの?」

 

「コリコリとした食感が好きだから、確かにそうかもな」

 

 寿司は全般的に好きだが……。

 その中でも、食感が一般的な寿司ネタと違うものがかなり好きだったりする。高校生でこういうのが好きっていうのはマイナーなのかもしれねえな……。実際、普通だったらこの時期ってツナマヨコーンとかあの辺を好きになってそうだし。

 

「渋味をいいと思う時期だからな」

「なんか面白いかも」

 

 ボソッとそれらしいことを言うと、初音は口元を押さえて笑う。

 

「は?なにが?」

「言葉通りかな?」

 

 含みのある言い方をされて、俺はテーブルのクッションの方に目を向ける。

 恥ずかしくなってきたなマジで……。

 

「結人、マグロ取って」

「あー王道な」

「そんな言い方しなくてもいいのに」

「はいはい、悪いございやした」

 

 俺は初音にマグロを渡してから寿司屋の方に目をぐるっと向ける。

 普通の回転寿司ではあるんだが、やはりちゃんとした寿司屋という感がある。目の前では板前が寿司を握っているところを見れるってのが一番大きい。こういうのって普通のチェーン店とかだと中々見れることがないもんな。ある意味、毎日来れるような場所じゃねえから毎度新鮮な気持ちになる。

 

「昨日の鬼ごっこのことなんだが強すぎだろ、お前」

 

「えー?結人が遅すぎるだけだよ」

 

「女子に走るの遅いって言われるのは普通に傷つくからな?」

 

 初音に足が速い印象はなかった。

 かと言って、遅い印象もなかったからそこそこ程度だろうと見ていたが、全く違った。実際には、逃げたら一気に初音が木々の中を駆け抜けて俺の手に触れて来たのだ。普通に舐めプしていた俺が悪いが、まさかこんなことになるとは……。

 

「ありがとうね、結人」

 

「なにが?」

 

 えんがわを口の中に入れると、正体不明の謎の食感が口にする。

 俺は今日このためだけに生きて来たんだと実感できる。目を自分でも分かるぐらいにキラキラとさせていると、初音が話を続ける。

 

「ううん、こうやってちゃんと連れて来てくれたこと」

 

「まさか次の日とは思わなかったけど……」

 

 一口お茶を飲んでから言っている。

 一呼吸入れるかのように……。

 

「言われてみれば、次の日にすぐ寿司屋ってのは即決即断過ぎるかもな……。だけどさ、理由があるんだよ」

 

「理由?お寿司食べるのに?」

 

 そんなに単純に考えなくていいよなんて顔をして、顔を傾けている初音。

 言われてみりゃ、馬鹿正直に真面目に考えて寿司屋とかアホかもしれねえ……。

 

「飯食べるだけなのに理由もクソもあるかも知れねえが、俺にとっては初音と結んできたものを大事にしてえって感情があるんだ。色々とあったのはそうだし、お前が神様って言葉をまさか昨日ネタにするとは思ってなかったが」

 

 昨日のことを触れられて、ちょっとだけ不機嫌そうにする初音。

 俺はそれに「悪い悪い」って声を出す。あいつにとって、「神様」という単語は俺を凄いだとかそういう感じで見ているものであったのに今ではネタにできるほどものになった。それは素直にいいことだって俺は思う。初音が先に進み出した証そのものだから……。

 

「結人の意地悪、それで?」

 

「だから、大事にしてえ。この結び目を解くつもりなんかない、隠していた嘘も、本性も俺達は互いに見せた。肝を見せ合えば、成立するなんて考えは甘いだろうが……。宇宙が無限に広がっているんだ、俺もこの手で何重にも絡み合った糸を紡いでいきたい」

 

 箸が入っていた紙で俺を結びつつ、話をしていると初音の口元が横に広がっている。

 

「宇宙が無限に広がっている、結人は途方もないことを言うなぁ……。立希ちゃん達にも同じことを言うの?」

 

「ああ、あいつ等にも言うつもりだ」

 

 ソファに置いてあるスマホを確認すると、そこには全員から既読がついている。

 連絡までしていたのは立希だけだったが……。あいつも俺の覚悟を見定めたいからこそ「わかった」とだけ送って来てくれていたはずだ。なら、俺は示さなくちゃいけない答えを……。

 

「この後、あいつらと会う予定でな。初音は飯食ったらムジ……仕事行くんだろ?」

 

 ムジカと言い掛けた辺りで、俺は咳払いをしてから仕事と言い換える。

 危ない、バレているかもしれんがこいつがムジカのドロリスだとバレるところだった。

 

「うん、行ってくるよ。にしても酷いな、結人は」

 

 意地悪そうに笑みを浮かべる初音。

 

「は?なにがだよ?」

 

「複数の女の子と一日でいっぱい予定で組んでるんだもん、立希ちゃんはそういうの許してくれるのかな?」

 

「一般的に見たらおかしいってのは認める」

 

 普通に考えれば、ダメなのは知っている。

 但し、俺の心情的に誰かを放棄して誰かだけというのは違う。絶対に違うからと即座に判断すると、初音はテーブルの下に顔を伏せて笑うのを堪えている。

 

「真面目に……捉えなくていいよ結人。やばい、面白「お前なぁ!!」」

 

 覚悟の話を聞かれてると思って、俺は答えたのに初音はどうやら全く違った。

 マジで俺を揶揄う為だけに聞いて来たようだった。

 

「ごめんごめん、でもさ……結人ならきっと立希ちゃん達にも……伝わると思う」

 

 

 

 

「私は……一度結人と対立したからこそ分かるんだ」

 

 初音は……それ以上俺の信条について聞き出そうとはしてこなかった。

 彼女にとって、自分達の過去が物語っているから成功するって言いたかったんだ。こんなことは考えるまでもないが……。堅苦しい顔もせず、恐怖で満ちた顔もない。ただ前に居たのは友人とご飯を食べるのを楽しそうにしている初音の姿だけでしかなかった……。

 

 

 

 

 

 

 過去が物語る……。

 この手を握ったり、解いたりするだけでも全然違う。今までこの手でやってきたことを感覚で覚えてる。燈を突き飛ばしたことが特にそうだが、楽奈と話しながらも猫に触れた手とか色々だ。直接的ではないにしろ、触れたという感覚が実際に覚えている。

 

 

 

 

 これもまた五感って奴だな。

 

 

 

 

「行くか……」

 

 深呼吸をする初音と別れて、俺はRINGに来ていた。

 財布が若干軽くなっているが、これもよい経験だと考えよう。友人と一緒に回転寿司なんて滅多にないしな。受付の方を通過して、カフェの方へと行こうとしたときだった。

 

 

 

 

「あっ!結人君!!!」

 

 戸山先輩に話しかけられて、俺は立ち止まる。

 後ろを振り返ると、戸山先輩の他に山吹先輩もいる。

 

「結人君手伝いに来てくれたの!?」

 

「終わった後なら、大丈夫ですよ先輩」

 

「本当に!?ありがとう結人君!!」

 

 戸山先輩が疲れ気味なのか、汗を拭いながら言う。

 お疲れ様です、としか言いようがない……。暑いから当たり前か。

 

「あれ?結人君シフト入ってたっけ?」

 

「いや、ちょっとカフェで立希達と集合しようと思ってたんです」

 

 山吹先輩にも声を掛けられて、視線を合わせて話をする。

 

「そっか……!頑張ってね!!」

 

「え?なんでわかったんですか?」

 

 背中を押してくれた戸山先輩に俺は間抜けな声が出そうになる。

 どうして?どうして先輩には分かったんだ?

 

「うーん?勘って言うのかな?結人君の目つきがキリッとしてたって言うか!あっ怖くないよ?なんか私、覚悟決めてきました!っていう目をしていたから立希ちゃん達のこと、向き合えそうなんだなって思えたんだ」

 

「先輩……俺」

 

 若干支離滅裂ではあるが、先輩らしい言い方だった。

 そうか、先輩視点でちゃんと俺が覚悟があるって見えているんだったならよかった。これなら、立希も「しっかりしろ」なんて怒って来ないだろうから。

 

 

 

 

「行ってきます!」

 

 「ありがとうございます」の意味を込めていた。

 自分がしようとしていたことを疑っているようじゃおしまいでしかねえ。もし、それを今からやるようなら俺は愚かで意気地なしだということになる。例え、迷うことがあっても此処で迷うのは絶対に違う。

 

 

 此処を曲げちゃいけねえんだ。

 

 

 

 

 

「立希……」

 

 カフェに入ってすぐ視線が合ったのは立希。

 今日は確かシフトの日だったはず。

 

「遅い」

 

 カフェに入ってテーブル席の方を確認すると、既に愛音とそよ。

 カウンター席には楽奈が座っている。

 

「悪い、燈「ご、ごめん!結人君!!?」」

 

 燈の話をしようとしたときだった。

 後ろから燈がやってきて俺の背中に激突する。俺はすぐに腰を低くして燈に手を伸ばす。

 

「大丈夫か?燈?」

 

 愛音や立希も「大丈夫?」と声を出している。

 立希なんかはやっていた仕事を放置してこっちに来ている。

 

「え?あっう、うん……一人で立てるから……大丈夫だよ?」

 

 燈は俺の手を取らずに、立ち上がる。

 自分で制服の汚れを払っている。誰の力も借りずに……。

 

『結人君の……答え待ってる』

 

 そりゃそうだ……。

 あいつを苦しめたのがまた俺なんだから。

 

『ごめん、待たせ過ぎて燈が納得できる答え。もうすぐ出せそうなんだ。悪い、いつも待ってくれて……』

 

 当たり前でしかない。

 俺は燈に何回も何十回も待って貰った。自分がしてきたことを肯定なんかするつもりはねえ。あいつが「待てない」と”言えない”のに甘えて、先延ばしにしていた自分の中で答えを見つかるまでなんて言っていたがそれは結果論でしかなかった。

 

「燈……答えようやく見つかったんだ」

 

「かなり遅くなった、燈が認めてくれるような答えを見つけたつもりでいるけどこれが甘えなのは分かってる。きっと傷つけることになるのも」

 

 燈は何も喋らない。

 これから俺から言われることに恐怖をしているずっと下を向いている。飯が喉に通らないほど、辛そうなのは分かっている。今すぐ不安を取り除いてやりたいが、やっちゃダメだ。行動よりも言葉を優先しなくちゃいけない。

 

「結人君また変なことでも思いついたの?」

 

 いつもみたいにた揶揄っていると言うわけじゃなかった。

 そよはああ見えて、人の気持ちを感じ取りやすい。だから、確実に俺がとんでもないことを言い出そうとしていることに気づいている。

 

「ああ、そう捉えて貰っても構わねえ。今から言うことは全部俺のエゴだし、俺が勝手に心に決めたものでしかねえ。俺という人間がもうその道しかねえって考えた極端の道だってのも……」

 

「極端って……」

 

 逆に愛音は嫌な予感自体はしているっぽいが、ほとんど何も言わない。

 逆に楽奈は面白そうなことが起きそうだと感じているみたいだった。

 

「全部話して、お前の覚悟確かめたいから」

 

 立希は腕を組みつつも、真正面に立つ。

 すまねえな、立希。いつも……。

 

「俺が言いたいのは……」

 

 

 

 

「俺はお前ら全員が好きだし、大切だ」

 

 これを口にした時点で胸が締め付けられる。喉が焼き尽くすような違和感を覚える。

 自分で言うと決めていたはずなのに、体が重くなっている。罪悪感じゃない、どっちかと言うとこれを言ってしまえば全部が壊れてしまう気がしてならなかったから、無意識のうちに抑圧しようとしているんだ……。

 

 あいつらの顔が見るのが怖いが、視界に入ったのが愛音だった。

 顔を真っ赤にさせて、俺と視線が合った瞬間目を逸らしやがった。駄目だ、普通にあいつらの顔を見るのすらきつい。でも、やるしかねえ。立希のためにも、聞いて貰ったましろさん達や山吹先輩達のためにも……。あの三人(初音達)が示してくれたように……。俺も逃げねえ。自分の本気の気持ちから。

 

「誰も見捨てることなんて出来ない。自分でもかなり頭のおかしことを言っているのは分かっている。自分がこれまで作り上げて来た関係ってのを壊したくない、放したくない。繋がりがあれば、傷つくことも苦しむことも、悲しむことだってある。人の痛みは簡単には消えない」

 

「燈が言ってただろ、傷つかずに進むのは無理って言葉。俺はやっぱり誰かが傷つくのは見たくねえし、死んでも欲しくねえが人は何れ死ぬし傷つくことにもなる。だから、俺が言いたいのは……抱えているものをこれからも誰かと一緒に共有していきたいし、喜びも悲しみも!共に歩んでいきたい!!」

 

 

「五感を教えてくれたのがお前らだった、曲げずに変えればいいと教えてくれた、変わらない当たり前でいいと言ってくれたのも……。そういう想い出、過去がある。これからも、未来図は続いて行くことになる。地獄になるか、天国になるかなんてものは誰にも分からない。だとしても、俺は……!」

 

 

 

 

 

「この手で支え合いたい。誰かを切り捨てて、誰かを助けるなんて選択肢はねえから!!今この場でふざけんなって思うなら、今すぐこの場で俺のことをぶん殴っ──「結人君が……」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先に言ったんだからね」

 

 

 

 

 

 一瞬、頬に激しい痛みがあった。

 

 

 

 

 

 

 平手打ちしたのはそよだった。

 

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