【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
向き合う力、響き合う力
危ない、危ない……。
あのままゆいくんのところに居たら、きっと絶対にやばいことを言われていた。抜け出して良かった。そよりんのことを追いかけたのも正解だったけど、途中で見失っちゃうし……。何処に行ったのか全然分からなくなっちゃうし、今日はもう本当に災難過ぎるって……!
とりあえず、マンションまで来たはいいけど……。
「そよりん、応答してくれないんだけど!!」
スマホに連絡しても、いつも異次元の速さで既読がつくのに今はつかない。
あーもうどうすればいいの……!?
「と、とりあえずゆいくんに電話しよ……」
今頃、向こうは落ち着いている頃かもしれないし……。ともりん、明らかにゆいくんに何か言いたそうにしていたからあの場には居るのも全然無理だったし。あれから、数十分は経ってるし。
「流石に終わってるでしょ」
期待をしながらも、電話をしようとしたときに指先が止まる……。
『ゆいくんが言ったんだからね?逃げるつもりはない、私達の関係からって……』
言ったんだからちゃんと守ってよね、ゆいくん……。
これからのことも、これまでのことも……。今度こそ、ちゃんと指先で私は電話をする。繋がってから私は心の中で思い、願い続けることにする。
これからの彼の言葉と行動のことを……。
「と、とりあえず戻ろ……?ゆいくん」
「そう……だな」
燈との余韻に浸っているなかで、俺達の中でようやく風の冷たさが体を通過していく……。
いつの間にか燦燦と輝く太陽の姿があって、今の俺達のことを表しているみたいな気がしてならなかった。
「燈、さっきのことなんだが……」
燈を先に歩かせて、RINGの中に戻ろうとしたときに燈のことを呼び止める。
「俺は燈との未来も絶対に大事にする。いや……大事にするだけじゃ抽象的過ぎて伝わらねえよ。これまで通り、水族館を一緒に行ったりだとか燈の石拾いとか手伝ったり燈の好きなものだったり色々を知っていきたい」
「ゆいくんの……ゆいくんのも知りたい」
「それは……動物が好きな理由とか豆知識とかってことか?」
何も言わずに、頷いてくれている。
「じゃあ、今一つだけな。俺が好きなのはヒゲペンギン。別名は南極ペンギン」
「ヒゲペンギン……小石で巣を作ったりするペンギンだよね?」
食い気味で俺の話に反応してくれる燈。
やっぱり、今此処で話して正解だった。後回しでもいいけど、こうやって何かを一つするってのが大事だ。
「そうそう、他のペンギンと違って顔がちょっと独特なのが好きなんだよ。頭から顎にかけての線がヒゲに見えてるって言うかそういうのがちょっと面白くてさ。後は攻撃的な性格なところとかも」
「東京の水族館でも見れる場所……あったよね」
「あー多分あったはずだな……流石に何処までかは覚えてねえけどさ」
不意に表情が緩んでしまう。
俺は燈とこうやって話している時間がやっぱり好きだ。
自分のものを互いに話し合うという時間が……。
「立希……」
カフェの中に戻ると、立希が何も言わずに仕事に戻っている。
今は注文を聞いていて、仕事に集中している。一瞬だけ、俺達の方を向いていた。
表情はまるで燈が決めたなら、何も言わない。って言いたそうな顔をしている。
さっきのこともあって流石に怒ってるだろうなってなっていたが燈と俺の中でちゃんとした答えが出せたって言うのがデカいのかもしれねえ……。
「立希、ありがとうな……」
注文を聞き終えて、手が空いた立希に声を掛けると……。
「燈が認めたならいい。後は結人次第だから、燈のことちゃんと優先して」
「た、立希ちゃんも大事だと思うよ?」
「わ、私は……その……燈が優先でいいから。燈、野良猫の隣に座っていいよ」
髪を掻き分けてから、立希は言う。
燈は「ありがとう」と言って、楽奈の隣に座る。
「俺はお前も大事だからな」
「い、今そういうこと言わないで……お客さん居るのに馬鹿じゃないの」
明らかに怒っていたのに悪い気はしない。
顔には書いてあった。
「悪い、そうだな」
「分かってるなら、やらないで……馬鹿」
俺の返事を聞いてから、立希は厨房の方へと戻っていた。
自分の頼まれたことを精一杯やろうとしている立希の様子を見て、俺も立希のためにも頑張らなくちゃいけない。
「楽奈、お前は……「前に言った」」
カウンター席に座ってる楽奈に話しかけるとすぐに返答が来る。
「もう向き合ってる」
何の躊躇いもなく笑顔を見せて来る楽奈。
前に俺に言ってくれた言葉。今度は自分への答えを示す為に返してくれている。
「お前から貰ったもんもあるからな、楽奈」
「私もある、ゆいとから貰ったもの」
「いいもんだといいけどな」
「凄くいいもの」
互いに少ない言葉で語り合う。
こういう奴だよな、楽奈は……。何を言っているのか、解釈するまですげえ難しい奴ではあるが、こいつがこうして笑っているってことは俺のやろうとしてくれていることを応援してくれているってことでいいんだろうな……。
なによりも、俺から貰ったものもあるって教えてくれてるってことは……。
「楽奈ちゃん、らしいね」
「こいつは元々そういう奴だよ」
「お前はすぐそうやって野良猫を甘やかさないで……。でそよどうすんの?」
「あーあいつは……」
愛音がそよのことを追いかけてはいるが、多分あいつは逃げ続ける。
そういう奴だって俺は知ってるし、自分一人で抱え込もうとする奴だってことも……。俺が声を掛けることが出来ればよかったが、出来なかった。自責の念に囚われていても、しょうがない。今から動いて……。
「ゆいくん、電話鳴ってるよ……?」
そよの家に出向こうとしたとき……。
俺のスマホに着信音が鳴り響いている。確認すると、愛音からだった……。
「そよの奴、どうだった?」
「それが家に行ったんだけど、全然応じてくれなくてさ。電話とかも連絡とかもしても全然出てくれないし、どうしよう。またそよりん病んじゃったよ」
「あんま俺が言える立場じゃねえが、言い方考えろよな」
「あっ、ごめん!!それで今、実は睦ちゃんとばったり会ってそよりんの家の前にある喫茶店に来てるんだ」
何故か手を合わせて謝っている姿がイメージできる。
病んでるが、どうにも気になって俺が指摘してしまう。俺から何か上から言える立場じゃねえが、どうしても気になってしまった。
「睦と一緒?睦もそよに用事あって来たのか?」
立希が「睦?」と声に出している。
俺の電話が聞こえているみたいで、ちょっとだけ音量を下げる。危ねえ、お客さんいるんだった。
「うん、なんか話したいことがあったけど全然繋いでくれないから家まで来たんだって。睦ちゃんも嫌な予感がしたんだって。私が言うのもなんだけど行動力あるよね。え?睦ちゃん、変わりたいの?いいよ」
スマホ越しから睦が「変わって欲しい」という声が聞こえていた。
愛音はスマホを睦に渡している音がしている。
「結人、立希に変わって」
「あいつバイト中なんだが……」
「今じゃないとダメ」
「……わかったよ」
立希にどうしても電話を変わって欲しいと頼まれて困り果ててしまう。
ちょうどいいタイミングで戸山先輩が「結人君、手伝ってよ~!」と言って来ている。
「燈、付箋一枚貰ってもいいか?」
「え?いいよ」
礼を言った後に……。
貰った付箋で立希に筆談で「今バイト変わるから、睦の電話出てくれ」と頼むことにした。
立希は「睦ならいいけど……」と言って関係者側の入口に入る。
俺も戸山先輩に「はい!待ってください!」って言って仕事を手伝うことにする。楽奈と燈に「行ってくる」と言って……。
「睦?どうしたの?」
結人に電話を変わってくれって言われて思ったのは「は?バイト中なんだけど?」だった。
愛音からの電話だし、そよが勝手に落ち込んでいるならどうでもいい。勝手にすればいいって思ってたけど、睦が取り継いで欲しいって言うなら話は違った。睦が急いで電話を変わって欲しいって頼むときってことはかなりやばいってことだろうから。
「そよのこと……多分そよはずっと後悔してる」
「なにを?」
「言えない」
「は?なんで……いや、ごめん」
私は睦に当たりそうになって謝る。
教えて来たのはそっちなのに、言えないことに疑問を覚えてしまっていた。
「大丈夫、これはきっとMyGO!!!!!に関わること……だから。立希達がどうにかしないといけないと思う
「何かあった?」
こうやって直接私につなげて欲しいと頼んで来た。
なら、睦はどうしても今すぐ話したかった理由があるはず。
「月ノ森でそよと仲直りしたくて、会話したときずっと苦しそうだった。きっと、CRYCHICのことを今でも引き摺っているんだと思う」
「あいつ、まだ……」
まだ引き摺ってるわけ?と呆れる反面、睦とそよがまたこうしてちゃんと仲直り出来た感じなのはホッとしていた。あの二人は同じ学校だし、あんまりずっと仲悪いってのも居心地悪いだろうから……。
「もう一つは……ごめん。此処から先は言えない」
「睦、ありがとう」
多分、睦が言いたかったのはCRYCHICのこともそう……。
MyGO!!!!!のことでもずっと悩んでいるって言いたかった。悲しそうっていうのが具体的には分からない。このまま放置してもどうせそのうちまた戻って来るなんて甘い考えをしていたけど、それは甘すぎる考えだったかもしれない。
「睦、どうして私に取り継いだの?」
「立希がMyGO!!!!!のリーダーだから。もう一つは……結人に教えたら、きっと一人でなんとかしようとする。今の結人はそんなことはないかもしれない。結人と対等に隣を歩くことは私にも出来ても、止めるのは私には出来ない。立希だったら、きっと出来る。だから……」
「お願い」
睦の言葉は淡々としていた。
事実を並べているけど、私だからこそ頼みたい。馬鹿な結人のことを転ばないように歩かせることが出来るのは、私しか居ないって言ってくれた。私は愛音みたいに誰とでも仲良くなれる訳じゃない。祥子みたいにまとめる事もできない。
だとしても、睦が頼んでくれた。
結人自身も頼んでくれた。私はやる。背中を押されないと、出来ないなんて情けない話だけど……。
「分かった、任せて睦」
「ん、ありがとう立希」
「こっちこそありがとう、睦。ライブ、今度やる予定だから……また来て」
「楽しみにしてる」
電話を切る。
誰もいない、関係者側の先の通路で私は息を吐いた。覚悟の為に、勇気の為に……。扉を開ける、店の方に戻る為に……。
「燈、楽奈、バイト終わったらそよの家に行くから」
「結人も来て」
誰も居ないリビングで私は外の景色を見つめる。
ソファーの方はまともに見れなかったけど、テーブルの上に置かれているスマホには通知音が鳴っている……。
『ほらほら座って、あっテレビとか見る?」
『なんでお前が家主ですみたいになってるわけ……?燈、そこのソファーに座って待ってて』
愛音ちゃんの喧騒が聞こえる。
立希ちゃんの呆れた声が聞こえる。燈ちゃんの頷く声がしている。楽奈ちゃんが人に無断でそばをテーブルの上で食べている音が聞こえる。
「やめて……」
嫌になって窓に触れてしまう。幻覚だって分かっているのに……。
冷たさが体を覚えさせてくれる。まるで、それは私がまた孤独になったみたいだった。怖くなってしまう。
怖くなって、ベランダの方へと意識を向けてしまうけど、見てはいけなかった。
あの夜、ベランダで彼に言われた言葉を思い出しそうになってしまう……から。
『そよや立希みたいに物をはっきり言ってくれるようなタイプ俺は嫌いじゃないからさ』
どうして……思い出してしまいそうになるんだろう。
思い出したくない。私はずっとこのまま一人の方が楽でいい。
『だからもっとちゃんと知っていきたいんだ』
「本当にバッカみたい……」
全部、結人君や燈ちゃん達のせいだから……。