【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
「あいつ、全然電話出ないし……」
「だから、言ったじゃん!!」
隣で五月蠅い声を出し続けている愛音。
口の中にはあんパンを頬張っているせいで何を喋っているのか全然よく分からない。こいつの喋っていることなんて基本的にあんまり深く考えない方がいいに決まってる。偶にいい線ついてくるのがムカつくけど……。
「立希、やっぱり全員でこうやって攻めるってのはよくなかったか?」
「確かに割とそうだったかもしれない、そよは特にこういうことをされて出て来るような奴じゃないから」
全員で行って出て来るなんて、あいつはそういう奴じゃない。
寧ろ、余計出てこない可能性の方が高くなる。かと言って、今此処で解散にさせたら馬鹿が一人で突っ走って中に入る可能性が高い。
「ていうか、なんでお前あんぱんなんて食べてる訳?」
そよが出てこなくて若干苛々と悩んでいると、どうしても気になっていたことを愛音に聞いてしまう。
「え?こういう刑事ドラマみたいなの一回憧れだったんだよね!」
「……聞かなきゃよかった」
「えー!?その反応は酷くない!?というかりっきーは力み過ぎだってば!」
どうせ、こいつのことだから。
ハマった刑事ドラマとか映画とかの張り込みシーンであんパンを食べているシーンがあったからとか理由に決まってる。緊張感がない奴……。
「ごっこ遊びにしに来たわけじゃないから」
「こういうのは気を引き締め過ぎてもよくないって!ともりん、あんパン食べる?」
「え?う、うん……」
目を擦っている燈。
連れて来るつもりはなかった。勿論、MyGO!!!!!は五人。燈を連れてこなくちゃ意味はないけど、あんまり夜更かしさせて明日に響かせたくなかった。燈がこうして来てしまった以上、仕方ないけど此処で明日に支障をきたすのも嫌な自分もいる。
愛音が燈にあんぱんを渡している姿を見つつも、次にどうするべきか?を考える。あいつの留守電には私が送ったけど、どうせ聴くわけがない。あいつはああ見えて、感傷に浸りやすい奴だからこういうときは自分の世界に籠りがちになる。誰かがその世界を破壊しないと、出てこない。ただ今回ばかりは前提条件が違い過ぎる。
留守番も聴いていない、インターホンも無視。
電話も連絡も無視。八方塞がりもいいところ過ぎる。
「どうする立希?」
悩んでいると、先に聞いて来たのは結人の方だった。
さっきまでそよに送っていた連絡を確認していた。どれも既読はついていなかった。
「此処まで来るとあいつがまともに部屋に居るかも怪しいんじゃねえのか?」
あいつの言う通り……。
部屋を此処から確認するのは難しい。あいつの部屋は最上階近くにあるし、電気が仮についていたとしてもつけっぱなしってことも考えられる。
「ほとぼりが冷めるってのはあいつには全く期待できないし、かと言ってあいつは拗れやすいから早いところなんとかしないとバンドも続けられない……」
歯を立ててしまう。
どう考えても、出口がない。あいつと真剣に向き合うことがこんなにも難しいのは知っていたつもりだった。MyGO!!!!!を改めて再結成するときにも、あいつを戻すまでにはかなり苦労したし……。
「明日、またRINGで楽奈も揃って考えを改めないか?」
「そうするしかないか……」
さっきまで楽奈は此処にいた。
飽きて帰るとか言い出したから、愛音が止めようとしたのに全力で逃げられて結局追いかけることは出来なかった。あいつは、あいつでよく分からない。真面目に何を考えているのかも、分からないし……。
「一旦、解散。これ以上、此処で待っていても仕方ないから」
燈と結人は納得を示している。愛音は声を出して、めんどくさそうにしてる。
ようやく一つにまとまったバンドを此処で壊したくない。睦に言われたからとか、結人に託されたとかじゃない。私は私自身の為にも、バンドのためにもやらなくちゃいけない。
解散って流れになって、それぞれが帰ろうってなったときに一旦立ち止まる。
あいつの動きが気になったから。
「はぁ……やっぱり」
それしか言うことがなかった。
自分一人で行動して勝手に突っ走ることはしない。但し、全員で行動してダメだったらあいつは絶対に強硬手段に出るって踏んでいた。
「どうしたの立希ちゃん?」
「あの馬鹿、また一人で何かしようとしてる」
「馬鹿?あーあれ?ゆいくんは?」
「あっち」
指を差すと、マンションのロビーへと入ろうとしている結人の姿がある。
あいつはいつもそうだ。考えは改めてはいるけど、最終手段で自分でなんとかすればいいってなってる。今回の場合は、自分の責任ってのがあるから行動をしようとしているんだろうけど、このままじゃあ結人が解決させて、終わりになる。それじゃあ、バンドとしてよくない。
「ま、待って立希ちゃん!」
「燈……?」
一歩前に出て結人のことを追いかけようとしたとき、待ったをかけて来ていた。
「結人君のこと…‥そ、その追いかけてもいい?」
「燈が?」
一抹の不安が過る。
流石のそよも燈のことを無為にはしないなんて言い切れないから。あいつは一度燈のことを無視しようとしていたこともあったらしいから、燈が傷つかないで帰って来ないなんてことを断言できなかった。
傷つけさせたくない。
迷いがあったのに、それでいいんだろうかって気持ちもあった。燈が言っていた、傷つかないで進むのは無理って言葉が燈の信条ならば私が今此処で止めるのは燈の誓いを此処で壊すことに繋がるかもしれない。
「りっきー、いいよね!ゆいくんもいるんだからきっと大丈夫だってば!」
「……分かった」
愛音のを完全に聞く前に、私は自分の言葉を返すことは出来なかった。
どうしようもなく、情けない話かもしれないけどあいつの言う通り今の結人ならきっと大丈夫って言い切れる自分が居たから。私は託すことにした結人に……。今のあいつなら確かに信じることが出来るから。
「ありがとう」って言って、燈は結人のことを追いかける。
私の前を通過して行ったとき、風が身体に触れた瞬間……。
「どうしたのりっきー?なんか物思いに更けちゃってさ」
「……別に」
風に触れたとき何かを感じた気がした。
燈から何かを得た訳じゃ無くて、もっと前からだったような気がしてならなかった。私はそれを気のせいだと言い聞かせようとすることにした。
燈の後ろ姿を目に焼き付けて……。
「ま、待ってゆいくん!!」
立希ちゃんの目の前を通過したとき、何処か寂しそうな顔をしていた気がした。
多分きっと気のせいじゃなかったのに、私は今汲み取ってあげることが出来なかった。今優先して汲み取ってあげたかったのは、そよちゃんだったから。
「燈……?」
「ひ、一人で行くのは……そのえっと……ダメだよ?」
「……悪い」
私は「大丈夫だよ」と返す。
なんて言えばいいのか分からなくなってしまい、とりあえず結人君の行動を咎めてしまう。
元々、結人君のことを追いかけようと思ったのは、立希ちゃんやあのちゃんばかりに負担を掛けているから。と、もう一つは結人君を一人にしたくなかったから。
「結人君、案はあるの?」
「強行突破する」
「強行……突破?」
誰か人が来たタイミングで一緒に入れて貰うとかかな?
あんまりいいことをしてない。大丈夫なのかな?って心配になっていると、思わず結人君に「え?」って声が出てしまう。
「ゆ、ゆいくん……?」
そよちゃんの部屋番号を入れた後、凄い速度で片手でスタンプ爆撃をしている。スタンプはよく分からない?多分、ヒゲペンギンのスタンプかな?そして、応じなければ応じないほどそよちゃんに対して圧をかけるという選択に出ている。滅茶苦茶なやり方なのに、強行突破だって言っていた結人君の言っていたことが理解できてしまう。
ほ、本当にそれで出るのかな?って不安になっていると……スピーカー側からの応答がしたような音がしてくる。つ、繋がった?
「うるさいんだけど」
結人君の強引なやり方が通じた……?
「ようやくお出ましになったか」
「何処かの誰かさんが構って欲しそうにしてたから」
「そうかよ、じゃあ構ってくれよ」
「…………入れば」
通話が切れたのと同時に扉が開いた。
私と結人君はオートロックの先に入りながらも、さっきまでのそよちゃんの声が何処か疲れているのを覚えていた。声は小さくて反応も薄くて、いつものそよちゃんとは思えないぐらいだった。やっぱり、結人君が言っていたことが辛かったの……かな?って私は……。
結人君と共にそよちゃんの部屋を目指して行った……。
「来たんだ?」
「ああ、来いって言われたからな」
そよが座っているソファーの前に立っていた俺達。
部屋に入ると、まず気づいたのが部屋の何処にも照明がついていなかったこと。
カーテンも閉めていなかったことだった。なによりも、リビングには疲れ切ってソファーに座り込んでいるそよの姿。疲れてるって言っても、かなり心労的に疲れてるって感じだ。俺のせいでもあるだろうが、何か違うものもある。流石にそれが何か分からないが……。
「燈ちゃん、部屋で話すから。ちょっと部屋で待っててくれないかな?」
「え?う、うん……」
頷いて、言われた通りに燈はそよの部屋に入る。
先に待ってて欲しいことなんだろうが、俺にはどうにも嫌な予感がしていてならなかった。
「大丈夫なのか?立ち上がって」
「大丈夫」
ソファーから立ち上がるそよを見て、俺は一歩ソファーの方から離れようとする。
どんどんそよの歩く速度が早くなっている。俺はもう一歩下がる。
「なにか企んでるのか?」
「別に企んでないから。企むとは違うけど、結人君言ってたよね。全員を幸せにしたいって」
「言ったが?」
俺は身構える。
このタイミングで二人にされて燈を部屋に追い出された意味を考えていた。
「脆いよね、それって」
「だとしても、俺はやる。俺は誰かを切り捨てることはしたくねえ」
「っそ、結人君らしいね。じゃあ……」
誰かを切り捨てた先にあるものは希望なんかじゃない。
俺は自分の覚悟を改めてそよにぶつけようとするが、そよは目を瞑り、表情を見せようとしない。それが逆に怖くて、俺はもう一歩後ろへと下がろうとしたときだった……。
「ねぇ、結人君……?」
ダメだ、会話に夢中になり過ぎた。遅すぎた。
予測していた時点で此処から離れるべきだったのに、俺は離れきることができなかった。勘違いかもしれねえってなっていたからだ。流石のそよも燈が居るこの状況でやって来ないと……。
「結人君が言っていることが……」
「どれだけ
「私の部屋、燈ちゃんいるよ?」
「今聞かれたらどうなるだろうね?」
なるほどな、そういうことかよ。
なら、やることなんて決まってる。
「ああ、そうかよ……」
「その手は乗らねえからな?」
「!!!?」
そよにソファーに押したされるまでは想定していた。
だから、次にどうすればいいかなんて分かっていた。力なんて俺の方がどう考えても、強いんだからな。さっき言っていたことがどうも気になるが、今はそれよりも……。
「ほら、やり返してやったぞ」
にやりと笑っている自分が思い浮かべる。
自分が今していたのは……。
「形成逆転だなそよ」
逆に押し倒すという行為……。
「俺を動揺させて撤退させようとしたんだろうが……」
「逃がさねえからな、そよ」