【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
いつからだろう、こんなにも私は私が許せないってなったのは……。
きっと、それはお母さんとお父さんが離婚してからだった。親が離婚してからというものの、ずっと一人で居る生活が当たり前になっていた。一番ずっと心に残っているのは、私が片親だと噂されていて「可哀想な子」だと言われていた子だった。
私は悪くない。
可哀想になったつもりなんてない。なのに、周りは勝手に可哀想な子扱いをする。徐々に成長していくにつれて、どうして哀れに思われてたのかは知れるほどの感受性は得られた。地獄ではあったけど……。
他人にねじ曲がった視認されるよりも、私は「いい子」であり続ければいいと願った。
お父さんが家を出たのも、お母さんが毎日忙しそうにしているのも全部私が「悪い子」だからなんだって……。だったら、「いい子」になればいい。もっともっといい子になってお母さんを救える存在になればいい。
自分を出すんじゃなくて、誰かの隣を歩き続ければいい。
そうすれば、生きた心地がすると信じていたのに私はこれっぽちも楽しくなんてなかった。
『ねぇ、長崎さんはどの部活選ぶ?やっぱり、吹奏楽だよね!?』
月ノ森に入って人と仲良しに見えるようになるなんてことは日常茶飯事だった。
苦痛だったのをひたすら隠した。私の視界は灰色だった。何もかもが全部一つの色だった。
『あー確かにそよちゃんに合いそう!!』
『そよちゃん、楽器弾いてる姿似合いそうだもんね!!』
同調圧力……。
それっぽい、似合っていると言われる言い方が気に入らない。イラっと来ていたけど、言うことはしなかった。適当にいつもみたいに相槌がてらに『えぇ?そうかなー?』なんて濁して立ち続ける。
本当は吹奏楽なんて興味ない。
やりたくないって言えばいいくせに言い出すことが出来ない。いい子で居たから?違う、昔みたいに思われたくないから。異端児みたいに扱われることが怖いから。恐れてた、私は自分を出すのを……。
このまま終わるのかな?って恐れていたときに、CRYCHICに出会った。
『長崎そよさん……ですわよね?』
祥ちゃんとの出会いのおかげで絵の具のパレットは複数の色に重なり合った。
燈ちゃんの歌詞ノート。立希ちゃんの強い言葉。睦ちゃんのまるで人形みたいなの喋らなさ。自己主張が強い色ではあったけど、楽しかった。一人の女の子として生きることが出来た。
でも……もうCRYCHICはない。
この手にあるのはMyGO!!!!!というバンドだけ。私は今この新しいバンドを悪くないと思ってしまっていた居心地がいいって安心感を覚えていた。愛音ちゃんはウザい。燈ちゃんは剥き出しそのもの。立希ちゃんは口が悪い。楽奈ちゃんは何考えてるか分からない。
全部が全部最悪なバンドなのに、私はこのバンドを悪くないと思えてしまったから、許せなかった。
「私は……MyGO!!!!!をやりたくなかった」
みんなの反応なんて確認せずに言い切る。
傷つけることになるのは分かってる。燈ちゃんは特に感受性が強い子だから、私の言葉を深読みしてくるかもしれない。私の領域に踏み込んでくるかもしれない。
「これが私の本音」
私はCRYCHICを続けたかった。
もう手に入らない。睦ちゃんも祥ちゃんも自分で違う道を選んだ。その道はもう繋がることはないからこそ、私は欲しくて溜まらない。CRYCHICをなんとか復活させたくて、何度も他人を利用しようとした。
愛音ちゃんを利用して、燈ちゃんと立希ちゃんを集めようとした。
結人君を使って、CRYCHICが好きだと言わせようとした。睦ちゃんを使って、CRYCHICを復活させようとした。全部、失敗に終わった。悲惨なまでに……。もう修復できない状態へと……。
『そよのおかげも……ある』
『物語として書き記して行きたいんですわ』
ムジカが再結成されてある程度期間が経った後、祥ちゃんと睦ちゃんの言葉が頭の中で何度も耳元に響いている。あの時点で私はこの二人といる新しい時間が悪くなかった。
「だけど……」
「嫌だった、自分が許せなかった。MyGO!!!!!を通して自分が今までしてきたことを肯定して前に進んでいいんだなんて馬鹿みたいなことを思いたくなかった。謝れていないから」
睦ちゃんのときも祥ちゃんのときも謝れたはずだった。
歩道橋で燈ちゃんと話していたときだってそう。結人君と一緒に朝食を食べたときも……。謝れる機会は何度だってあったはずなのに、私は謝ることが出来なかった。
「謝れなかったのはきっと勇気を持てなかった。みんなが勇気を持って進み出そうとしているのに、私だけが前に進むことが出来なかった。ずっと誰かの背中を追いかけ続けている、そんな状況が続いていて 、私も誰かの背中を追い抜かそうとするほど、ずっと耳にあったのは今の自分を許せるの?って耳鳴りだった」
残酷なほどまでの痛みだった。
今の自分が許せない。心の私がずっと問いかけ続けていた言葉。
ごめんなさいをしたいのに、言えない。私はいつだって、自分本位で誰かを利用することしか考えていなかった。きっと、自分が幸せになりたい。自分はいい子でありたいから、やらなくちゃいけないと思い込んでいたから。ずっと自分自身に強く責められていた。
「私の言っていることは被害者面でしかない、加害者のくせに今だって謝ることが出来ない。結局はその程度の人間でしかない。此処まで自分のことを話して改めて分かった。私はクズなんだって。善人でありたかっただけのただの悪人なんだって」
本当に此処まで誰かに自分のことを話したのは初めてだった。
どうせ話したところで蔑まれる、噂される。背中を突き刺すほどの白い目で見られると信じていた。なのに、こうして今話せているのはやっぱりみんなとの出会いがそうさせたに違いなかった。否定できないほどの根拠が此処にある。
吹っ切れた感覚はない。
ただ、自分の感情のままに言葉の羅列をしていたから。どうせ、またいつもみたいになる。そう信じ込んで、目を瞑りそうになる。
「違う……よ、そよちゃんは悪くないよ?」
「燈ちゃん……?」
一番最初に、声を掛けて来ていたのは燈ちゃんだった。
声を震わせながらも、どうするべきかなんて声を掛けていいのか迷いながらもソファーから立ち上がっている。
「私ももっと祥ちゃんのことに気づけていたらこうならなかった未来もあったのかもしれないって悩むときもある。睦ちゃんのことも……」
「やめて、燈ちゃん……」
同情は止めて欲しい、私は首を振って躊躇しようとしているときに声を出そうとしている他のみんなが居た。
「お前がその……CRYCHICのことずっと引きずってるのはなんとなく気付いてた。睦に言われたときはまだ?ってなったけど、お前の行動ってなんかずっと自分の行動を疑っているというか、 私にケーキを届けに行かせようとしたときもきっと複雑な思いがあった。違う?」
何も答えられない。
事実だから、あのときはただ気まぐれで立希ちゃんの行動を面白いから手助けてしてあげようとなっていたのに、今考えてみれば、あれすらも私にとって自分は立希ちゃんに酷いことをしたのにどうして助けようとしてるの?ってずっと強く頭には言われ続けていた。
「あーあのさ……そよりん、多分私のことずっと嫌だったよね?」
「嫌に決まってるでしょ」
愛音ちゃんは特にだった。
ずっと首を突っ込んで来て、我がもののように自分の手柄のような顔をして来てずっと嫌だった。どうせ、燈ちゃんのことだって承認欲求の為に利用しているってことも気づいていた。ミーハーだし、どうせ諦めると思ったのに愛音ちゃんは……。
最後まで喰らいついてきた。
うんざりするほどに……。過去の私が愛音ちゃんや楽奈ちゃんみたいな子とバンドを組むなんて言ったら絶対に首を横に振るか、嫌な顔を露骨にしていたはず。
「だ、だよね……。でもさ、今はこうして私達と居てくれてる訳じゃん?それってさ、要は自分を許せつつあるからじゃないのかなって思うんだけど違う?」
愛音ちゃんの無神経の言葉が針のように肌に突き刺さる。
許せないのに、こうやって居るのは私自身がこうやって自分を許せない段階なんてのはとっくに過ぎている証拠だったはず。それを、私は無視して、見ないふりをしていた。どうしようもない事実が自分の中に降り積もる。
照明の下に座っている自分が哀れなほどまでに……。
「そよ……」
「なに?楽奈ちゃん……」
楽奈ちゃんが話しかけた段階で私の声はもう震えていた。
聞きたくなかった。これ以上、もう声を聞くのが……。
「春日影いい曲……」
「当たり前でしょ……」
前と似たようなことを返す。
「今のそよもいい奴、やさし「優しくなんかない」」
手を差し伸べられたのに、跳ね除けてしまう。
どうして?どうしてなの?私は頭を抱えながらも、立ち上がる。自分の世界がずっと照明がない世界でいるみたいだった。
「どうして誰も私を責めないの!?私は結局、みんなに謝れてない!利用したのに、酷いことをしたのに何度だってしたのに……!!」
「だから?今お前に謝って欲しいって誰が頼んでるの?」
「え……?」
何もかも見えていない自分に対して一番真っ先に言葉を向けてくれたのは立希ちゃんだった。
「そよちゃんに……謝って欲しいなんて思ってないよ?私達も……足りないところがあった。そよちゃんに言った言葉……覚えてる?」
あーそうか。私がずっと苦しんでいたのは誰かに謝れって言われたかったんだ。
燈ちゃんが言いたいことはこういうことだ。自分達にも足りなかったところはある。だから、私だけが苦しむ必要はない。これ以上、自分を傷つけないで欲しいって言ってる。私は許せるんだろうか、今の自分も過去の自分も……。
「今の自分を許せなくても……進むことが大事じゃん?ねっ楽奈ちゃんも思うよね?」
「バンドやれればなんでもいい」
「そこはちゃんと乗っかってよね!楽奈ちゃんらしいと言えば、楽奈ちゃんらしいけど!!というか、ゆいくんはいつまでベランダで黄昏てるの!?」
愛音ちゃんがソファーから立ち上がってベランダの方へと向かう。いつも通りの愛音ちゃんに戻っている。楽奈ちゃんは立希ちゃんからアイスを貰ってる。立希ちゃんが「はぁ……」と溜め息をついている。燈ちゃんが私の瞳を見つめてくれている。全員がいつものMyGO!!!!!に戻ってる。まるで、私のことが解決したみたいに……。
「謝る……」
どうせ私には出来ないことだ。
これから先もずっと謝れないことで後悔することになるのかもしれない。
それでも……私はこの騒がしくてやかましい空気が好きだ。
これまで通りに居続ける。それは矛盾しているのかもしれない。だとしても、この矛盾を抱えて生きていくことが迷子でも進んでいく……。
その証をくれた元凶の一人の方へと視線を送る。
私はベランダの方を見る。楽しそうに愛音ちゃんと話している結人君を……。
私を結人君の顔を軽く見てから、景色に目を向ける。
綺麗な景色が見える街並み。そよりんが此処で何をどんな目で見て来たのか今なら分かるような気がする。
「ありがとうね、ゆいくん」
そんな広がる景色の中で私はお礼を言う。
「俺は何もしてねえよ」
「またまた、事件を迷宮入りから助け出したくせに」
「お前影響受けすぎだろ」
私が刑事ドラマに影響を受け過ぎていたことに呆れているゆいくん。
「此処は乗っかって欲しかったんだけどなぁ」
「知らねえよ……つーかよかったのか?そよのことを許して、お前は一番被害喰らってるだろ」
「そりゃあ気にしてないなんて言ったら嘘になるに決まってるじゃん」
MyGO!!!!!を始めようとしたとき、振り返ってみればそよりんは最初から私のことを数に入れていなかった。そよりんはあくまでも睦ちゃん達のことばかり頭に入っていて、適当な時に私達を抜けさせる予定すらあったんだと思う。
「今にして見れば、私はいらなかったんだもんね」
言うことはなかった。
ちょっと考えてみれば気づけることだったはずなのに、私は見て見ぬふりをしていた。自分がバンドをやってチヤホヤされたいって意識ばかりに目を向けていたから。
「……そこまでは言ってねえだろ」
明らかに声色が優しかった。
「俺は少なくともお前が居てくれたから。なんでもねえ……」
小さく声にしていたのに、聞こえる声だった。
無意識のうちに出ていたのか、彼はベランダの中で手首を軽くマッサージし始めていた。素直じゃないなぁ、ゆいくんは……。
「え?なになに?何か言おうとした?」
「ざけんな、何も言ってねえよ」
「えー?絶対言ったじゃん」
「じゃあ言うが……」
「俺には千早愛音が絶対必要だった。お前が俺の楔を壊してくれた。だから、要らねえとか言うな。次言ったら、張り倒すからな!俺を助けたのはお前なんだからな!ちゃんと最後まで責任持てよ!!」
口調は明らかに怒っているのに、怒ってない。
それどころか顔は嬉しそうに笑ってくれている。
「あーもうクソが!なんで俺がこんな恥ずかしいこと言わなくちゃいけねんだよ!!」
言い切った後に歯を立てて、今にもベランダから逃げようとしている。
可愛げのあるゆいくんを見てなんだか偶に年相応っぽくないことを言い出すのに、こういうところは年相応っぽくて……。
「ゆいくんこそありがとうね」
「ぁ?何が?」
「私と真剣に向き合ってくれたこと!!」
この先もしかしたら、彼にだったら話せる日が来るかもしれない。
子供っぽくてちゃんと私のことを怒ってくれる。彼だからこそともりん以外には話していない留学に失敗したことを……。
「お前は頑張ったんだろ」
って言ってくれるかも?なんて考えてしまう程に……。
私はゆいくんに心を許していた。だって、こんなにお互い顔を張り付けたまま、話さなくてもいいんだしさ……。
だから、ありがとうゆいくん……。
ベランダから出て行く彼を見送りながらも、私は夜の景色へと目を向ける。
自分の感情を整理をするために……。
楽奈ちゃんが立希ちゃんからまた飴を貰っている。
燈ちゃんは眠そうにしているのを見て立希ちゃんが勝手にプランケットを持ってきている。人の部屋で勝手に好き勝手やっている。人の家だってこと分かってるのかな、立希ちゃん。
「なに笑ってんだよそよ?」
「別に笑ってないけど?」
結人君がベランダから戻って来た。
愛音ちゃんと何を話していたのかは知らない。凄い楽しそうに話していたから、きっと想像しているよりも青春みたいな話をしていたに違い。ちょっぴり結人君ってそういうところあるよねって感情が芽生えていて、私はどうしようもなく彼を弄りたくてしょうがないことに自分で笑いそうになる。
「気持ちの整理はついたのか?」
ソファーの後ろに立った結人君が声を掛けて来る。
「誰かさんが余計なお節介してくれたおかげでね」
弄りたくなる衝動を抑えられないそうにない。
今だって本当は愛音ちゃんと何を話していたの?って疑問を投げつけるのを我慢していた。本当に拗らせてるな、私って……。
「悪かったな、余計で」
「結人、お前次勝手に行動するのやめて」
「悪かったな、立希」
背中を伸ばしている結人君。
多分、私の家に一人で来ようとして燈ちゃんもついて来たって感じなんだろうな……。もう大体、想像がつく。
「相変わらず結人君は立希ちゃんに頭が上がらないね。これが誰かと支え合うってこと?」
「うるせえな、皮肉で返すのやめろ」
「だけど、悪くはないんじゃない?頭の固い結人君にしては」
「お前……」
結人君の誰かを支えて、誰かを傷つけてもその傷を縫うなんてのは理想論でしかないと分かってる。綻びが絶対に生まれることも……。それでも、肯定してあげたのは私にとって今日と言う日が……。
証明になった一日だったから。
「だから、馬鹿みたいだけど……共犯者になってあげる、結人君の」
一ノ瀬そよも、長崎そよも肯定し続けてあげられるかはこの先も分からない。
きっと途中で投げ出して、挫折することもある。今みたいに呑まれることもある。未来は続いて行く訳じゃないから。
「ありがとうね、燈ちゃんも……叫びを解放する場所を見つけてくれて」
「そよちゃんの家……だよ?」
何処かの誰かさんに似たのか、燈ちゃんは自分の手柄とは絶対に言わなかった。
「それもそうだね。だからこそ……なのかな?解放できたのは……」
きっと誰かの家だったり、外だったら話す事すらしていなかったのかもしれない。
まだ自分の心が家に囚われているみたいで嫌になるけど、今の私は支えがあるからこそ、生きて行く……。
伝えるだけのことを選ぶことが出来た。
信じることも、自分を……。
いい子にならなくても……。
一ノ瀬そよに「もう大丈夫だよ」と伝えることも……。
次の日……。
指で掴んでいるスマホを眺める。そこに映し出されているのは祥ちゃんからの返信だった。
『ムジカの方は順調ですわ。そよたちの方はどうなんですの?』
『うーん?相変わらずやかましいかな?昨日なんて全員で泊まって行ったし』
私はその連絡にすぐに返事を送る。
既読がついたのを見て、私は自分の心が晴れやかになっていた。あの後、終電ないとか言い出して全員揃ってお泊り会が開かれた。結人君に至っては最早学んでいないレベルだった。本当に彼は全く……なんて呆れていると睦ちゃんの後ろ姿が見えて来る。
どうやらモルフォニカの先輩達と話しているようだった。
私は話す事を躊躇うことなんてせず……。
「おはよう、睦ちゃん」
いつ以来の私からのおはようだろうか。
此処最近はずっと睦ちゃんがずっと粘って先に「おはよう」って言ってくれていた。
睦ちゃんの方は先輩達と話していたが、一瞬固まっていた。思考が停止したみたいに動きが止まって、私のことをジッと見つめていたのに徐々に顔が緩んでいるように見える。
「そよ、おはよう」
挨拶を返される睦ちゃんに……。
今まで溜め込んでいたもの嬉しさだとか喜びだとかそういうものが今にも溢れそうな気がして、私はすぐに顔を逸らしてからこう言う。
「後で、プランターの前で会おうね」
「わかった……待ってて」
「うん、待ってるね」
もう戻って来ることはない。
でも新しい日常は手に入れた。私はこの日常が決して悪い物じゃないって……。
心が知っている……。