【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
喉が痛い。
目の前が真っ白になりそう。
精一杯のライブをしたつもりだった。
この曲ならきっと私の心の叫びを届けることが出来るって信じ貫いた。昔みたいに「必死過ぎ」なんて笑われてもいい。
これが私なんだって。
ライブに来てくれた、睦ちゃんの為にも。この曲の歌詞には、私は私で頑張っているよって言う意志を示すためのものを……。
もう一人、来てくれていた。気づいたのは途中からだった。
来ているのに気づかなかった。祥ちゃんの友達が此処に来てるなんて、私は一瞬だけ動揺した。それでも、歌い切ろうとした。
この詩を届けて、私は自分の力を示したかったから。
──ライブを終えた後のことだった。
楽屋に戻って来て楽奈ちゃんもそよちゃんも疲れた顔をしている。
愛音ちゃんも笑顔でスマホを確認して、私は水を飲んでいると立希ちゃんが勢いよく楽屋の扉を開ける。立希ちゃんの顔を見るのが怖くて、見ることが出来なかった。不安と怒りが顔に見えているようだった……から。
「全然ダメ」
残酷までに楽屋の中では立希ちゃんの声だけが響いてしまう。
思わず、私は「え?」と声に出てしまう。
「愛音、お前さっきの演奏で本気でいいって思ってる?」
「えー?結果的に盛り上がってたんだからいいじゃんー?ほら、SNSも愛音ちゃんのファンサ良かったって」
「は?それは自分中心のエゴサしかしてないからでしょ?」
愛音ちゃんが手に持っていたスマホをテーブルの上に置いてしまう。
膝に手を置いて、何も言えなくなってしまう。いつもの愛音ちゃんの姿はそこにはなかった。
「野良猫、お前は自分の演奏に集中し過ぎ」
楽奈ちゃんは何も言わない。
黙って聞いている様子はなかった。
「これじゃあバンドとして成立しない」
駄目だ、流れが……よくない。
このまま行くと、立希ちゃん自身も傷つけちゃうことになる。立希ちゃんだって、ライブが終わってすぐにこんなことを言いたくない……はず。駄目だと気づいてしまったから、なんとか修正したいと願ってる。
なによりも、ライブ当日になるまでこれに気づけなかった自分自身を憎んでいるんだって。
「仕方ないんじゃない?練習したとはいえ、ライブをやったのなんて数回程度なんだし」
「そよはそよで完璧すぎ、ちゃんとMyGO!!!!!としてやる気があるのはいいけど、それが目立ってるんだけど」
「じゃあ、本気でやるなってこと?それって見てくれた人に失礼じゃないかな?」
そよちゃんはソファーに座り直して、めんどくさそうにしている。
立希ちゃんとそよちゃんの間で火花が散っているようだった。
「た、立希ちゃん……」
この場に割り込むほどの勇気なんてなんかなかった。
今の私は此処で縮こまっていることしかできない。だとしても、立希ちゃんの怒りを今だけでいいから収めたかった。
「そ、その今日は……もうやめよ?み、みんな疲れてる……から」
ようやく立希ちゃんの顔を見れたとき、何か……言い掛けようとしていた顔をしていた。
私はまるで自分のことを今から言われるような気がして、身構えていると……。
「……ごめん、燈」
立希ちゃんの様子が明らかにおかしかった。
すぐに声を掛けようとしたときには、何もかもが遅くて楽屋の扉が閉められてしまう。
「ま、待って……立希ちゃん!言って欲しい!!」
「……え?」
楽屋の扉が分厚く見えていたのに、止められた。
私は立希ちゃんを止めることが出来た。
「言って欲しい、何が足りていないのか……」
身体を立ち上がってしまう。
今の私に足りないものを直接立希ちゃんの口から言って欲しかった。立希ちゃんの言うことは今言うべきことじゃないのかもしれない。結果的に傷ついてしまうことになってしまう。それでも、私は語って欲しかった。
「燈は……」
体を震わせているの気づいて、立希ちゃんに寄り添おうと近づこうとしたときには……。
「叫びすぎてる……」
もう立希ちゃんの口が開いていた。
久々だった。直接的なことを言ってくれたのはちょっとだけ嬉しかった。本音に触れたことが……。
「ごめん、燈……!」
「待って……立希ちゃん!」
立希ちゃんはすぐに立ち去ってしまう。
残っているのは息苦しさなのに……。
何処か前に進んだような気がしていた。
楽屋を出るまでの間ずっと感じていた。
焦燥感に駆られていたライブ中のことを思い出してしまう、まだスティックを握っていた感覚が手にある。
ライブを終えた後の楽屋での……。
燈の視線、何処か悲しそうに見つめて自分の駄目なところを聞き出そうとしていてくれていた勇気が私にはのしかかってしまう。
あのまま立ち去らなければよかったのかもしれない。
バンドのことになれば、大切な燈だろうと感情的になってしまう。傷つけてしまったからこそ、楽屋に留まることしかできない。
悔いるしか出来ない。
いつもみたいに私は自分を絶対に許せなくなる。余計なことを言ってしまう。
「おい、立希?何処行くんだ?」
あいつの声が聞こえて来る。
一目散に逃げたいのに、逃げることが出来ない。
「立希、悪いがさっきのは言い過ぎだ」
分かってる。
愛音達に言ったことが、例え事実だとしても結果的にはライブ直後に言うべきことじゃなかった。場の空気よりも優先してしまった反省会を……。
「バンドを一生続けて行くなら……ちゃんと言わないと駄目でしょ」
「立希、俺の意見を言ってもいいか?」
「言って」
結人の方へと体の向きを変える。
さっきまでの冷え切った感情の中に温かさが戻りつつあった。
「生で見ていた時もそうだったが、凛々子さんからライブの映像を改めてさっき映像を見せて貰ったんだが、あれじゃあ……」
「一生は無理だ」
「どういうところが?」
すぐに掘り進める結人の話を……。
結人の意見が聞いてみたかった。こいつは、音楽に関しては忖度なく評価するから。駄目なときはダメだってちゃんと評価するから。意見として聞いてみたかった。
「単純に言っちまえば、個性がバラバラになっちまってる。あんなにも個性強めの五人が集まれば、それも当然かもしれねえが……。お前が話していた通り、愛音はファンサを優先してる。楽奈は個人プレイ。そよは逆に浮いている。燈は……叫び過ぎてる。そして……」
「立希は背負い過ぎなんだよ、色々と……」
身体が動かなくなってしまう。
自分が一番知っているのに、知っていると言うことが出来なかった。
「真希さんだったよな?お前の姉、俺はお前の姉がどんな人なんてのは耳で知った程度だし、お前の家庭事情も知っている訳じゃない。俺が支えてやるって言ってもそう簡単にはい、そうですか。って頷けるような奴じゃねえのも知っている。それでも、一つだけ言わせろ」
「俺は立希を……椎名立希として見ているからな」
心を鷲掴みにされる。
同じ、結人が私に手を差し伸べてくれたときと……。
『余計なことしないでいいから』
あのときみたいに何も知らずに手を掴んでくれた訳じゃない。
「またそうやって……」
「悪いかよ?」
「……別に悪くはない」
息を吐いた。安心しきった声を出す。手を伸ばしてくれたのが結人でよかった。
お姉ちゃんのことなんてこれから先もきっと根本的には解決しない。焦燥感に纏わりつかれて、自分に嫌気が差すときがある。だとしても、今だけは冷静になれた。自分なりの答えは、折り合いをつけられるときが来るのかもしれない。
「ありがとう、結人」
もし、来るなら私はちょっとぐらい自分の足で前に進みたい。
燈達と結人も含めて……。
「別に気にすんなよ」
「ちょっとだけ警戒した」
「何が?」
壁に寄りかかりながらも、結人は話を続けようさせてくる。
過去のことを思い出して、ちょっとだけ顔が赤くなってしまう。
「こういうとき、お前何も言わずに抱きついてきそうだから」
「あのなぁ……俺は別にハグ魔じゃねえからな」
「お前、すぐ抱きつこうとしてくるのは事実でしょ」
「事実は事実なんだがな。かと言って、俺は別にそれだけって訳じゃねえだろ。前だって俺は……」
結人の口が閉じる。
たこ焼きのときの話をしようとしていると気づいて、すぐに口を塞ごうとしたのに向こうが閉じていた。
「なに?誰かいるわけ?」
後ろを振り返ってみると、そこには……。
「慰めてあげようって思ったのに、イチャイチャしてるなら大丈夫そうかな?」
「「なっ!!?」」
「は!?見てたわけ!?」
いつもならこういうときでも知らないふりをする。
そよが後ろから現れたことでいつもみたいにすることが出来なかった。
「さあ、どうかな?立希ちゃんはともかく、結人君は三回ぐらい地獄に落ちた方がいいと思うけど……。俺達で支えるとか言ってたのに?ふーん?そうなんだ?立希ちゃんには抱きついたんだ?」
「しかも、その言い方だと絶対一回だけじゃないよね?」
「立希ちゃんも随分と気を許しているんだね」
そよの突き刺すような攻撃に私と結人は何も言えなくなる。
何もかも事実だし、お互いに他の奴には掘り起こされたくないこと過ぎて私達は空気と一緒になる。結人にどうにかしてと合図を送ろうにも、どうにもすることが出来ないし……。
「はぁ……全く人にはイチャモン付けておいていいご身分だね立希ちゃん。それで……」
「どうするの?楽屋、燈ちゃんしかいないけど?」
当たり前でしかない。
あんなことを言った後に都合よく楽屋に残ってくれる訳がない。
「愛音ちゃんは珍しく下向いて帰ったし、楽奈ちゃんはいつも通り何も言わないで帰った」
「そよはどう思うんだ?」
結人が今回のライブのことを聞き出そうとしている。
私も気になっていたことだった。そよから見たライブの視点を……。
「ライブのこと?全員がバラバラなんてのは当然じゃないかな?」
「吹奏楽で例えるなら、毎年コンクールの金賞を狙っている訳でもないチームが一丸となって本番で個が強すぎるのに合わせられる訳がない」
「……プロじゃないから?」
事実を再確認するために言葉を返す。
「ちゃんと気づいているんだ?私が言いたかったのはそういうこと、これ以上言うことはないかな」
そよが背中を向けて立ち去ろうとする。
「立希ちゃんが分かっているなら、答えは分かるはずじゃないかな?」
「ヒントはあげたから、後は立希ちゃんがどう愛音ちゃん達を説得するかだけ。最初の問題は燈ちゃんだから、立希ちゃんには難問かもしれないけど……」
難問、私はあのとき燈に直接的に言ってしまった。
燈を傷つけてしまうかもしれないと思考は確かにあったけど、教えて欲しいと言われて口籠らせるわけにはいかなかった。
「そよ……」
「なに?」
「…………なんでもない」
「一度行ってくる、燈のところ」
話しておきたかったことはある、今じゃないってなった。
私が片付けるべきことはそよのことよりも……。
燈と対話をしたかった。
立希ちゃんの表情を思い出す。
自分がやりたくて始めた訳でもない、吹奏楽部を例えとして出す事になるなんて思いもしなかったけど……。
あの顔は明らかにお礼を言おうとしていた。言わなくてもこっちには届いていた。言葉には出来ず、顔には出す。立希ちゃんらしい、そのものだけどああやって顔に出せること自体私は羨ましいかな。
「思わせぶりの結人君はどうするの?全員で全員のことを支え合うんでしょ?」
残されたもう一人の結人君に声を掛ける。
いつも通り皮肉たっぷりに……。
「ああ、俺は俺のやり方でやるよ」
「一人で行動しないでよね?」
釘を刺す為に先に伝えておくと、結人君は頬を掻いている。
「うるせえな、分かってるよ……。お前はどうするんだ?」
「そうだね、私は……」
「結人いい?」
「睦ちゃん?」
自分の決意を語ろうとしたときに、睦ちゃんがやって来ていた。
関係者以外のところに睦ちゃんがやって来たことはどうでもいいから、何も言わなかった。多分、全体のライブが終わったからこっちに来ただけだろうから。
「ライブどうだった?睦ちゃん」
「よくはなかった……ごめん……」
「別にいいよ、睦ちゃんに今更忖度なんて期待していないから」
辛辣ではある。
だけど、こうやってちゃんと素直に言ってくれるのは今となっては嬉しいなんて気持ちもあった。互いに話せるようになったから。
「それで睦ちゃんは結人君に何の用?」
「私じゃない、実は初音が……話があるって」
「初音が……?ライブ来てたのか?」
「ん……燈や立希のライブが気になるって」
初音……?
聞いたことがない、名前を聞いて私はまた結人君が知らないところで女の子を助けていたことをこの場で知る。溜め息をつきそうになっていると……私は目の前の光景を疑う。
「急に押しかけてごめん……!」
「え?」
驚いてしまう。
だって、目の前にいるのはSumimiの初華であって……Ave Mujicaのドロリスだから。
「立希ちゃんいるかな……?」
彼女の声を聞こえながらも、私は……。
結人君に珍妙な目を向ける。
また知らないところで関係作ってたんだ?って……。