【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
「あれ?オーナー!?」
「珍しいじゃないですか!?RINGに来るなんて!?」
観客席の方からおばあちゃんの声とりりこの声が聞こえて来る。
おばあちゃん来た。
「楽奈の奴のバンドを見に来てね」
「え?楽奈ちゃんのですか?」
「ああ、楽奈がどうしてもバンドの練習を見て欲しいって言うから来たのさ」
観客席にいるおばあちゃんは楽しそうだった。
前にも一度ライブを見に来てくれた。バンドとしての三回目のライブのとき。あのときは、嬉しそうにしてくれていたのを知っている。多分、何か込み上げるものがあったから。
「ねぇねぇ、楽奈ちゃん?あの人、楽奈ちゃんのお祖母ちゃんなの?」
あのんに頷いた。
「なんか貫禄ある人だよね!」
「バンドやってた」
「あっえっとミラなんちゃらスカーレッドだけ?」
「ミラキュラスカーレット」
おばあちゃんにバンドの練習の成果を見て欲しいって頼んだ。
見て欲しいっていう気持ちとりっきー達と一生バンドを続けて行くには見て貰う。大事。
それにおばあちゃんはバンドをやってた。
だから、先輩バンド?としての感想を聞いてみたかった。おばあちゃんとしてじゃなくて。
「練習を見せて貰う前にリーダーを確認しておきたい」
「え?は、はい……」
ともりはマイクを手で持ちながらも反応を示す。
「名前は?」
「高松燈……です」
今にも消え入りそうな声でともりは返す。
「そうかい、練習の前に一つだけ言わせてもらう。この練習は本番を想定したものとしてやって貰う」
「え?本番と同じ!?」
あのんが驚いている。
本番と同じ。つまり、ライブをいっぱい堪能できる。
「当たり前さ、練習だからと言って、手を抜くようじゃバンドとして百流もいいところだ」
「観客のいない場所の中でも本番と同等のものを見せて貰わなくちゃ困る。言っておくけど、孫がいるバンドと言えどバンドとしての完成度はちゃんと見せて貰うよ」
「わ、分かりました……MyGO!!!!!です」
「よ、よろしくお願いします……」
ともりの声と共にライブが始まる。
ピックを持つ手から汗が流れ出して、自分の身体に意識が集中する。
ライブをやる……!!
まだ手にはドラムスティックが握っていた感覚が残っている。
手で持っている缶コーヒーの味が頭では反映されていない。カフェインすら取れているのか分からない。
「楽奈ちゃんのお祖母ちゃんだっけ?容赦ないよねぇ、24点だよ?」
「当たり前でしょ」
「いや、そうだけどさ……」
自販機近くにある椅子に座りながらも、愛音に現実を突きつける。
向かいに座ってる愛音の指が震えている。手には絆創膏が貼られてる。
『24点だね』
野良猫の祖母に言われたことが頭に過る。
直接的なものをぶつけられたときに、握っていたドラムスティックはもう先端が下を向いていたのを今でも覚えている。
『個性が強すぎるからですか?』
私が聞き出そうとする真実を知るために……。
『それもある、もう一つは歌詞はいい。生の感情を描いた歌詞ってのは好き嫌いは分かれる」
燈の視線が下を向いていなかった。
真っ直ぐな瞳で楽奈の祖母の話を聞いていた。今の燈は覚悟の上で立っていた。何を言われようとも、自分を大切するために……。
『勿論、ダメってわけじゃない。このバンドの場合それがはっきりと特徴になってる。問題はバンド自体に浮き出て過ぎていることだ。迷いながら進むっていう特色はいいが、バンド自体も迷子じゃ話にならないね』
バンド自体も迷子になっている理由は把握してる。
個が強すぎてバラバラになってるだけじゃない、原因として考えられるのはバンドの今後の方針を全く決めていないことと、そよが前に言っていたように私達はプロじゃなくて、アマチュアの部類に入る。
此処はどうやっても変えることが出来ない弊害でしかない。
悩みが一つ、二つ増える事にベンチに寄りかかりそうになる。
「どう思った?」
愛音に質問をする。
燈は今RINGのカフェの方でそよと一緒に歌詞のことを話している。結人は今野良猫と一緒に凛々子さんや野良猫の祖母と話をしている。
「そりゃあ……一理あるけどさ。バンド自体が迷子って言われても直しようがなくない?」
愛音の言っていることは認めたくないけど、頷けるものだった。
実際バンドが行方不明になっていると言われてもピンと来ない節はある。野良猫の祖母は、あれ以上語ろうとはしなかった。原因は判明していても、じゃあいざ実際に切除をしようとすれば何処からとなるのが関の山でしかない。
「ねぇねぇ、りっきーってさ前から気になってたんだけどどうしてともりんの歌好きなの?」
「は?なに急に?」
「ちょっとだけ気になるじゃん?」
「今関係ないでしょ」
急に聞き出そうとしてくる愛音。
真剣にこれからのバンドのことについて悩んでいた自分が馬鹿らしくなってしまう。何も言わなかったけど、心の中で舌打ちをする。
「燈の歌は心の叫びだって話は何度もしたでしょ」
「あーしたっけ?」
頭の中で思い出そうとしても……。
燈の歌は心の叫びだと直接的に言ったことは愛音の前だとあんまり無かったかもしれない。自分が愛音に対して、本音を出してしまったのが若干心の中で違和感を覚えながらも、話を進める。
「心の叫びはともりんもよく言ってるから分かるけどさ、りっきーがどう思ってるのか?って大事じゃん?」
「いつも自分のファンサ優先している奴とは思えない発言なんだけど?」
見直したという考えはあった。
愛音もちゃんとバンドのことを考えているところはある。但し、ファンサばかり優先している奴に言われるのが全然納得ができなかった。
「うっ……ほら、バンドなんだし信条とか心構えみたいなのを知っていた方が合わせやすいし、ボーカルはどうしても私より目立っちゃう訳だし?」
かなりいいことを言っていたのに、途中から愛音そのものが出て来る。
またいつものが始まって無視をして話を再開する。
「燈の詩は……その自分を言語化してくれてるから。自分のことのように思えて、歌詞が頭の中に叩きこまれるほど自分の中で燈と共有出来る。こんな自分でも生き……」
詰まる。
言いたいのは山々だった。
『どうして、大事なことって言えないんだろうね』
外で話していたときのことをふと思い出す。
そよにも一度言ったことがあるはずだったのに、どうしても愛音に対して言い出すことが出来ない。
なんで言えないのかなんて分かってる。
愛音は……私に持っていないものを何でも持ってる。
燈をまたバンドに連れ戻したのだって、愛音だ。結人をまた引き連れて来てくれたのも愛音だ。私は何も出来ずに指を咥えていることしか出来なかった。愛音は違う。
愛音はいざというときちゃんと行動できる。
私と違って、謝ることも出来る。お礼を言うことが出来る。自分が惨めに思えてしまう。
私は結人のことを否定できない。
あいつのことを非難していたはずなのに、私自身も愛音に劣等感を抱えていた。愛音だけじゃない。
『どうしたのりっきー?なんか物思いに更けちゃってさ』
今でも覚えている風の感覚を……。
燈の後ろ姿を目に焼き付けているとき、私は燈は歩き出せているのに自分は何も変わっていないという感覚があった。今ならようやく言える。あのときの感覚は私の中にあった寂しさそのものだ。
歩き出した燈を見て、自分はお姉ちゃんに雁字搦めにされているという事実を目の前で打ちのめされていた。楽屋のときだってそうだった。
こんなとき、結人だったら助けてくれただろうか。
胸を張って生き続けろって言ってくれたのかもしれない。
「違う……」
私はあいつの隣を歩くと決めた。
あの馬鹿が間違えたら、今度こそ私がちゃんと引っ張り出すと決めた。結人に助けを求めたら意味がない。
燈の詩が私にとって心の支えになっていたのは紛れもない事実。
なら、此処で怖気づいて逃げるよりも……。
「燈の詩は私に生きていていいって教えてくれたから」
自分でもとてつもなく重圧のかかるものだと認識している。
これを口にしてしまえば、その場の空気感が一気に凍えるのも知っていた。だとしても、事実は何も変わらないからこそ口にした。
愛音は何も答えない。
寧ろ、口元が緩んでいるような気がする。
「は?なにその顔?重たいって言いたいなら、言えばいいでしょ?」
「いやいや、重たいよ!重たいけどさ、りっきーがともりんに救われたっていう感動的な話でしょ?」
「薄いみたいな言い方されて腹立つんだけど?」
腕を組み直してから、愛音のことを睨む。
「薄くないって!ともりんの歌を聴いて、勇気を貰って生きていこうとなれたって凄いことじゃん!」
「はぁ……やっぱりお前に相談したのが間違いだった」
「えー!?私は生きていいんだみたいに悩んだことは流石にないから分かんないけど、生きていいまでなれるなんて普通ありえない事じゃん!?」
言いたいことはなんとなく分かる。
多分、燈の詩を聴いて得たものが私にとっては自分を慰めてくれる、肯定してくれるものであったという事実自体が普通ありえないことだから燈の詩は力があるし、私に影響を与えるほどのものだったって言いたいのかもしれない。
語彙が酷すぎてイラっと来そうだけど。
「思ったんだけどさー?」
「なに?」
「ともりんの歌を強みにしたバンドにすればいいんじゃないのかなって。私のギターも合わせて」
「それは……やろうとしてる。答えが未だに出せてないだけ」
此処に戻って来る。
どれだけやってもこの難問が解けそうにない。口にして見れば、何か掴めるかもしれないと信じてみたはいいけど、何も変わらなかっ……たことはないのかもしれない。愛音に話してみて分かったのは……。
コーヒーの味がさっきよりも明確に言語化できるということだった。
味わい深い苦みに、仄かに香るコーヒーの匂いが……。
これは自分の中での蟠りが解くことが出来たからという意味なのかもしれない。
実感しながらも、私はこっちに来ようとしている結人に視線を向けていた。そして、その後ろには楽奈がいる。
「積み重ね」
「え?」
「ともりが言ってた奴」
積み重ね……。
もしかして……。
「あっ、一瞬一瞬が積み重ねになるって奴!?」
愛音が椅子から立ち上がって、野良猫の話に補足を入れている。
「それがどうしたの?楽奈ちゃん」
「練習いっぱいする、積み重ね。ライブも積み重ね」
「え?ど、どういうこと……?」
野良猫の発言に愛音がピンと来ない様子だった。
私も野良猫の言っていることが何かヒントに繋がるような気がして、考えようとしているときだった。結人が声を出す。
「楽奈が言いたいのは練習をすることでライブが出来る。練習やライブでの積み重ねを大事にしていくうちに答えが出るかもしれない。今は無理でも、一生バンドをやっている間に答え合わせが出来るかもしれない。そういうことを言いたいんじゃねえのか?」
「それって先延ばしでしょ」
「言い方を変えればな、でも今は答えが出せない以上自分達に精一杯を見せるしかない。お前らが見せられる精一杯の感動を見せてくれればいい、俺がMyGO!!!!!のライブで五感を見いだせたようにお前らのバンドのライブで価値を見出せた奴も居るんじゃねえのか?立希が……」
「そうだったように」
私が燈から貰った詩を見たり聞いたりした結果、生きていていいとなれた。
結人はその結果を見て、自分が今何をすべきなのかを開示してくれたようにも思えた。実体験による内容だったのも強いからこそ、私は鵜呑みすることが出来た結人の発言を……。
愛音に打ち明けるという前代未聞のことを成し遂げたから……。
今の自分が単にようやく開くことが出来た扉の前に立っているだけなのも理解している。それでも、マイナスからようやくスタートラインに立てたなら、このバンドをもっとより強固なものにしたい。
バンドが迷子なのは何も変わらない。
野良猫や結人の言う通り、答えはバンドの中で見つけて行くしかない。バンドの中で見つけ出して、今さっき愛音に打ち明けたように全部を曝け出して行くしかない。なら、答えは一つしかない。
「スタジオ借りて来る」
「野良猫、愛音……今日は夜までやるから。結人……燈にはこう言ったから」
「燈はそのままでいい。燈の詩が重要な部分で一番核となる部分だからそこは絶対に消したくない。私達に出来るのは燈という色彩に自分達のどれだけ音を乗せることが出来るか、燈の色を消さずに……」
「
言い切って、私は椅子から立ち上がって缶をゴミ箱に捨てる。
結人の表情は見ることはなかったけど、視線は明らかに優しさに満ち溢れていたのには気づいていた。
「ねぇねぇ、りっきー!」
「なに?」
「私達の出番ってさ、It's MyGO!!!!!と掛けてくれたよね!?」
得意げに自分の発案を褒めてくれたつもりになりきっている愛音。
自慢げに笑みを浮かべている愛音を見て、私は一刀両断する。
「は?違うから?」
「え、絶対そうじゃん!!ねえねえ、やっぱりMyGO!!!!!にしてよかったよね!!考えたの私だよ!?リーダーはやっぱり私でいいよね!?」
「は?お前まだ諦めてなかったの?」
全くブレることもなく、変わることもない愛音を見せつけられて私は苛立ちすらもうなかった。
愛音に呆れる事しか出来なかった。隣を歩いている楽奈は美味しそうに結人から渡されていた抹茶の飴を舐めているし、此処には変わらない奴らしかいなかった。
でも、それが案外……。
居心地が悪くなかったからこそ私はスタジオで……。
「燈の強みを活かしたい。燈の詩を、心の叫びを消さずに私達の個性をそこに加えたい。それが私達のバンドで……」
「MyGO!!!!!だから」