【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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迷子は一つと繋がる

 立希達がスタジオに向けて歩き出したのを見送る。

 練習風景も見てみたいのは山々だが、そこを見るのは何か違和感がある。

 

「ゆいと来ないの?」

 

「俺か?俺は別にいい」

 

 退屈そうな顔を隠そうともしない。

 ゆっくりと目を細めてこっちを見ている。そんな顔されても行かねえからな。

 

「悪いな、流石に練習風景を見るのは気が引けるんだよ」

 

「練習まで見ていたら、本番感動出来ないなんて言い出すつもりはねえけどさ。練習まで見学させて貰うのは違うからな」

 

 それっぽいことは言っているが何故?を具体化できていない。

 どうやって返せば、楽奈は納得してくれるだろうか?なんてことを考えてしまう。こういうのは大体心情と一緒にセットになっていることが多いからな。

 

「えっ!?ゆいくん、来ないの!?」

 

 はっきりとさせようとしていると愛音が俺の腕を手でがっしりと引っ張って来る。

 

「待て、なんで俺が行くみたいな流れになってるんだ?」

 

 引き離そうとしても全く掴んだ手を放そうともしない。

 

「なんで楽奈も似たようなことしてんだ」

 

「おもしれーから」

 

 楽奈まで俺の手を面白そうに引っ張り始めた。

 絵面的にこんなところを他の人に見られたら、普通に珍妙な顔をされること間違いなしなのにお構いなくやってくる。

 

「待てよ、こういうのは練習まで見たら本番の感動それ込みになっちまうだろ」

 

「えー?別にそんなの気にしなくていいじゃん!ゆいくんはこだわりが強いなぁ」

 

「どうでもいいけど、お前普通に倍速再生とかしてそうだな」

 

「し、してないよ!?ち、ちゃんと見てるし!!」

 

 反骨精神を燃やした俺が唐突に鎌をかけると、案の定動揺している。

 ミーハーだし、クラスの奴と話を合わせるために普通にやってそうだなのを確信していたから俺は突発的に言うと、背筋を一瞬ビクッと動かしていた。楽奈の方も何か鎌を掛けるか考えたが、楽奈はいいか。あんまり思いつかねえし……。

 

「流石はミーハーのANON TOKYO様だな」

 

「それ絶対褒めてないってば!!もうゆいくん、スタジオ行くの絶対決定だからね!!三回目のときだって、文句言いながらも裁縫手伝ってくれたじゃん。ほら、行こうってば!」

 

「お、おい!!強く引っ張んな!馬鹿!」

 

 抵抗こそはしていたが、俺は次第に諦めて静かに目を一旦閉じた。

 こうなるのも正直目に見えていた。いや、俺はいいよなんて断ろうとすれば絶対に愛音が無理矢理でも俺をスタジオにでも連れて行こうとするのは……。

 

「そういえば、楽奈ちゃんはどうしてお祖母ちゃん連れて来ようとしたの?」

 

 シュールの光景が継続しながらも、愛音が楽奈に聞いている。

 

「バンド見て貰いたかった」

 

「見て貰いたかった?あっ、そりゃあそっか!」

 

「おい、俺を置いて以心伝心すんな」

 

 ツッコミを入れていたのに何故か無視をされる。なんで無視すんだよ。

 とはいえ、言いたいことは大体伝わってる。恐らく、自分のやっているバンドをこの目に焼き付けて欲しい。もう一つは、自分もMyGO!!!!!の一員としてやれることをやろうとしていたのかもしれん。

 

 元プロからの助言を得ることで自分達の中で今何が足りないのを楽奈なりに考えていた。楽奈の奴がそこまで考えていたのかは流石に何も言えない。楽奈の奴はああ見えて、結構鋭い奴ではあるが普通にあり得そうだが、さっきのお祖母さんとの話的に……。

 

 

 

 

 

『お祖母ちゃんに見て欲しかった』

 

 楽奈がお祖母さんに自分で言っていたこと。

 真っ直ぐな瞳だった。あれは純粋な感情と、聞き届けて欲しかった感情があったはずだ。確証がないなんてことはねえのかもしれねえな。

 

 改めてこのバンドにおける楽奈の存在感が強く感じ取ることが出来た。

 気ままで自由で何を考えているのかイマイチ掴みどころがない。そんな奴だから俺は一番真っ先に楽奈という人間に心を動かされたのかもしれねえ。

 

 愛音もそうだが……。

 つーか、こいつら。

 

 

 

「いつまで引っ張ってんだよ俺のこと!もういいから、自分で歩かせろ!」

 

 抗議の声を上げると、愛音と楽奈は笑い声を上げていた。

 変な現場と変な状況が続く中で、一抹な幸福な空間が出来上がっていて、俺の心は温かくなる。掴んだ手を跳ね除けることはなく……。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「燈ちゃん、立希ちゃんがスタジオ借りて練習するって」

 

 テーブル席で向かい合って二人で座る。

 最後に二人っきりで話したのは私の家の中。交差点のとき以来かもしれないなんて思い出していたけど、もっと後にあった。

 

『そよちゃんの心の叫び……だから』

 

 燈ちゃんは心の内側に手を伸ばしてくれた。

 結果的に手を払うことなく、らしくもなく私は自分を曝け出した。

 

 閉め切っていたはずのカーテンが音を立てて無理矢理全開にされたようなもの。

 不思議と悪いものじゃなかった。楽じゃない、自分の傷口を広げることになるものだからいいものでもなかったけど心が軽くなった。まるで、リュックの中に詰めていた荷物が圧縮されたみたいだった。

 

「歌詞納得できないところあった?」

 

 燈ちゃんは無言で軽く頷いている。

 燈ちゃんが作り上げている言葉の数々に目を通している。

 

 燈ちゃんの心の叫びをフィルター無しで目に入れることが本当は怖い。

 読めば読むほど、脳で何のことを言っているのか認識出来てしまうから。

 

 怖くなったからこそ、一旦ティータイムに入るために紅茶を一口飲んでから燈ちゃんに確認を一つする。

 

「前回のライブの奴、祥ちゃんや睦ちゃんのことも含めてのものだったよね?」

 

 進んでいたペンが止まる。

 ノートの上に置いてこそはいなかった。描き続けたいなんて気持ちはあったのかもしれない。

 

「この詩は……一つの形にしたかった」

 

「集大成ってこと?」

 

 また燈ちゃんは無言で頷いてくれる。

 睦ちゃんや祥ちゃん達のことを含めて、一つの形にする。

 

 

 ある意味ではこれまでの集大成としてのまとめになるのかもしれない。

 私としても区切りとしては悪くなかったはずなのに、どうしても言いたかったことがあった。

 

「燈ちゃんはいいの?」

 

「え?」

 

「睦ちゃんや祥ちゃんのことを叫びにするのはいいと思う。一つのまとめとしても、ね。お客さんは二人への感情を聞いてどう思うかな?ってこと」

 

 かなり余計なお世話なことを言っている。

 お客さんを盾にして特定個人に対して歌うなんてことはおかしいと燈ちゃんに一般的なことを客観視しているつもりになってるけど、本当は怖いだけでしかない。これまでのことに一旦の終止符を打つということになることが怖くてしょうがない。

 

 また、私は嘘をついている。

 自分の心の内側で傷がまた一つ出来上がってしまう。

 

「そよちゃん、交差点って不思議……」

 

 ノートに綺麗な交差点が線として描かれている。

 自分の瘡蓋を一気に抉られた感覚がある。

 

「色んな方向から進むことが出来る、来た道を振り返ることも出来る。新しい出会いもある」

 

「背中は押されているのに立ち上がれなくて、歩き出すまでに不安だから、偶に呼吸することすら大変になる。道を変われば、何かが変わることは期待……かもしれない。生きることは……呼吸すること同じなの……かもしれない。何も分からない、私達は迷子だから」

 

 

 

「だとしても……」

 

 

 

 

「私は迷子なりに出せる答えがあるって信じたい。此処に記されている水槽と言う名の詩がいつでも教えてくれる……から」

 

 交差点の中で色んな思惑や信念が描かれているように見えてしまう。

 錯覚でしかない。燈ちゃんに言っていたことをゆっくりと味わうことに時間が掛かっているだけでしかない。吐き出しそうになっているのも含めて……。

 

「立ち上がることしかできない、まるで私みたいだね燈ちゃん」

 

 自虐のつもりだった。

 燈ちゃんはすぐに自分の言った事を否定しようとするのを私は首を横に振って反応を返す。

 

「燈ちゃんの叫び、やっぱり苦手……。苦手だけど……自分と向き合う為の強さにも繋がると思うの。前にも言ったよね?危険だってこと?飛躍し過ぎだけど、命の危険すらあるほどに……。でも、私はそれでもいいと思う」

 

「逃げ続けた、見ないふりをしてきた。祥ちゃんや睦ちゃんのこと、燈ちゃんのことも含めてもそう。醜くて汚い自分を受け入れることが出来なかったから、ずっと震えてて怯えていた。幸せになるためには周りを傷つけてもいいなんてすら考えてた」

 

「変わることはない、過去の傷跡。きっと許すことは出来ても、口にすることは出来ない。口にしてしまえば、自分が壊れてしまいそうになる。いい子であろうとなんてしないって決めたの」

 

 

 

 

「逃げて、見ないふりするのはもう辞めようって思うの」

 

 睦ちゃんや祥ちゃんとの新しい日常。

 MyGO!!!!!としての日常、結人君との日常の答えの果てに得たものがこれだった。悪くないと感じ取れたからこそ、今の私がある。こんなことを口を開いて言い出す日が来るなんて想像もしていなったはずなのに、今は普通に言えてしまっている。手も弄っていない。

 

「だから、この叫びは絶対に完成させて欲しい」

 

「未完成の叫びが完成品として出来上がるのを私達は曲として体現して見せるから」

 

 立希ちゃんに完璧なんて言われたけど、言い換えれば個性がないのと一緒。

 私は私なりの音楽を見つけることが出来る日がいつかは来るかもしれない、希望なんてものに縋るのはおかしいはずなのに私は今はそれでよかった。

 

「そよちゃんの為にも完成……させたい」

 

「私も考えてみるね」

 

「……うん」

 

 誰かを支えて生きて行く……。

 いつも正解だけを求めて、人にいい子として見られたかった私にとって自分を見せる行為はこれから酷く疲れるものになることもあるけど、今はこのバンドを楽しみたい。自分の本音を出せる唯一の場所だから。

 

 そっとノートに手を置きながらも、燈ちゃんの書き出すノートを見つめる。

 立希ちゃんの連絡。

 

 

 

『スタジオ、練習やるから来て」

 

 気づいたのはかなり後になってからだった……。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 立希ちゃんに呼ばれてすぐにスタジオに来ていた。

 すぐに準備に取り掛かろうとしたときだった、立希ちゃんがみんなに声を掛ける。

 

「バンドのことだけど、これまで通りでいい」

 

「言われたこともう忘れたの?」

 

 すぐに反応を示したのはそよちゃん。

 歌詞に目を通そうとしていた視線が立希ちゃんに向けられている。

 

「今まで通りが通じないからダメ出しされたんじゃなかったの?」

 

「立希ちゃんも言ってたよね?全然ダメだって」

 

 楽奈ちゃんのお祖母ちゃんが言っていたことは現実的なことだった。

 自分の詩が悪くないと言われたときはこのまま進んでいいとなれた。

 

 逆に迷いながらも進むが複雑すぎて何を言いたいのか伝わって来ないと言われたとき、はっきりと自分達は示すものが返すことが出来ずに終わってしまった。何も返せなかった。

 

「具体性がないから、何も返すことが出来なかった。だから、私達は私達のままでいいって示す」

 

「一週間後、ライブ入れたから。そこで野良猫のお祖母さんにもう一度見て貰う」

 

 私達が驚いていると、立希ちゃんが話を続ける。

 

「野良猫は野良猫らしく弾き続ければいい、愛音は少し自重してくれれば目立とうとしてくれていい」

 

「りっきー、私だけ修正入ってるんだけどー?」

 

「当たり前だから、燈も前に言ったようにそのままでいい」

 

 

 

 

「燈のままに叫んでくれればいい」

 

 立希ちゃんは……。

 私のことを見ながらもドラムスティックをしっかりと握り締めて、私に意志を宿してくれている。それはこの前、カフェで話したときと変わらない内容だった。

 

「燈の詩があればMyGO!!!!!はもっといいバンドになれる。私達がするべきことは燈を中心とした自分達らしさを迷子らしさを、迷子でも進みたいと言う意志を見せる必要がある。それでいいと思う」

 

「結局、何も変わって無くない?」

 

「愛音ちゃんに同意したくないけど、私もそう思うかな?」

 

 立希ちゃんの意見に愛音ちゃんとそよちゃんは意見を言う。

 楽奈ちゃんは──。

 

 

 

 

 楽しそうだった。

 楽しそうにギターを弾き始めている。しっかりとした音、耳に残るはっきりとした音が鼓膜を通って、余韻として残り続けている。弾き終えた後に、楽奈ちゃんは私達に向けて……。

 

「やらないの?」

 

 ギターから一旦手を置いていた。

 楽奈ちゃんはいつものようにバンドをやりたいという意志を示してくれている。

 

 

 いつものように──。

 結人君を連れ戻してくれたときみたいに……。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 これが私の答えだった。

 最初からこの答えを提示出来ていればよかったのかもしれない、なんてのは甘い考えでしかない。紆余曲折があってこそ、今があるなんてのも綺麗過ぎることだと思う。

 

「野良猫、やる気満々だから練習始めるけどいい?」

 

 確認をする。

 燈は急いで、前々回にやったライブの楽曲の詩を探そうと必死にノートを探そうとしてくれている。

 

「燈、ゆっくりでいいから」

 

 急いでも、いいことはない。

 寧ろ、本調子の実力を出せなくなるから。

 

「愛音はやれるの?」

「私は全然いいけどさぁ、りっきーのファンまで持っていても知らないからねー?」

「は?どうでもいいから、準備してくれる?」

 

「いやいや、りっきー顔はいいから人気なんだよ?」

「バンドはルックスとかじゃなくて、実力だから早く準備して。そよはやれる?」

 

 SNSの評判なんてほとんど見ていない。

 燈のことを必死過ぎだとか言った奴らの意見も気にしている暇もないし、そんな奴らはどうせブロックするからどうでもいい。燈があって、私達の力があってこそのバンドだから。

 

「いつでもいいけど?また楽奈ちゃんのお祖母ちゃんに駄目だしされても知らないからね」

「されるとは思う。それでも、私たちらしくやる。それが答えになるから。後、結人……」

 

 

 

 

 

「お前がいいって言うまで練習続けるから、変に贔屓したりしたら許さないし、妥協も許さないから。ちゃんとお客さん目線で感想を言って」

 

「分かったよ、ちゃんと聞く」

 

「本当に聞く気ある?」

 

 椅子に座っている結人に声を掛ける。

 結人はスタジオに入って来るとき、複雑そうな顔をしていたのを覚えている。

 

 自分が場違いだから、此処にいるべきじゃないとどうせ感じていた。

 帰ろうとするあいつを引き留めたのは私だった。絶交なんて言わなかった。

 

 逃げたら、最高のライブ聞かせてやらないいいけどいいの?なんて挑発をしたら、あいつは逃げずに此処に残り続けてくれた。あいつが居続けてくれたは嬉しかしかったし、こういうのは言いたくないけど頑張れって言われているようでこっちも頑張ろうってなれた気は……してた。腹立つけど。

 

 

 

 

 

「あるに決まってんだろ」

 

 

 

 

 

 

「お前らと一緒にいられるんだから」

 

 こういういところが本当に腹が立つ。

 シンバルに反射されている自分の顔が見るのが嫌になる。

 

 

 

 

 

 馬鹿みたいに恥ずかしくなりそうになって、指が震えて……。

 顔が……。

 

 

 

 

 

 赤くなりそうだから。

 

 

 

 

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