【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
『千早愛音さんが喫茶店で待ってるけど』
アウトドアショップのバイトが今日は早めに終えていた。
ロッカーでスマホを眺めていると、珍しく初華の方から連絡が来ていた。いつも初華の方からじゃなくて、俺から連絡することが多い。かと思えば、あいつからちょっかいかけてくることも多いが……。
「愛音がか……」
あいつのことだ。
普段通りのあいつならきっと自分から俺に連絡を入れてくるはず。それが、今は初華を通してってことは何か理由がある。喫茶店だけしか教えてくれなかったこともあって、何処に行けばいいんだよ?と疑問になっていたが、あいつはちゃんと場所も教えてくれた。
最終的には……。
『早く行かないと居なくなりますよ』
今日最後の連絡はこれだった。
顔文字も何も付けておらず、ただただ事後報告だけをされる。
「行くか……」
行かないわけがない、バッグを手に持って更衣室を出る。
今から愛音に連絡を入れようとすれば、避けられる可能性の方が高い。だったら、何も連絡しないで、喫茶店へと向かう前に俺は立希たちに連絡を入れようとしたときだった。
『結人君、もしかして愛音ちゃんのところ行こうとしてる?』
先読みをしたのか、そよが連絡をしてくる……。
「読んでたのか?俺が愛音と会いに行くの?」
池袋駅前で待ち合わせることにした俺とそよは合流していた。
「それもあるけど、愛音ちゃん。バンドの練習に来なかったのもあるかな?」
そういえば、今日はバンドの練習があったはず。
一週間後のライブに向けて、調整を重ねようとしていた矢先に躓いてしまう。こういうことになるのは、最早このバンドらしさと言えばらしいのかもしれないが俺は愛音を支えてやりたい。
「そよが積極的なの珍しいな」
「どういう意味?」
「こういうのは面倒臭がって来ないだろ?」
こんなことを詮索してる場合じゃない。
だとしても、俺は聞いてみたかった。そよがどうして愛音の前に現れようとしているのか。勿論、理由なんかよりも今は愛音を優先したい気持ちはあるが、知りたかったんだ。
「そうだね、いつもの私なら面倒だし燈ちゃんとかに任せただろうね」
「じゃあ、お前はなんで来たんだ?」
「愛音ちゃんが今どういう顔をしてるのかも気になるし、何処かの誰かさんが教えてくれたことを実行しようとしてるだけ。私のやるべきこと、話してなかったよね?」
「……ああ」
楽屋前の廊下で互いに語り合った。
そよの答えを聞くことは出来ていなかった。俺は立ち止まって、答えを待つことにした。興味があったからだ。
「MyGO!!!!!の一人として自分のやるべきことをやる。それだけ、だから此処に来た。まあ、さっきも言ったけど愛音ちゃんがどんな顔をしてるのか知りたいのもあるけどね」
「そうかよ」
バンドとのためにと言ってくれているが、本音ではないと言いたいのかあくまでも愛音の反応を楽しみたいだけだと言い張るそよ。ともあれ、来てくれるならこれ以上心強いことはねえ。俺一人だと、どうしても激情に身を任せて怒ってしまう可能性もあるし、逃げられる可能性だってあるからな……。
「頼りにしてるからな」
何も返して来ない。
呼吸すらせず、俺の方をただジッと見つめながらも二の腕に手を当てているそよ。呆れなのか、それとも了承の意味なのか。俺には両方の意味が含まれているように見えていた。
そよの内面を知っているからこそ……。
俺はそよの返事が返って来ないことのをそのままにして、俺とそよは喫茶店の中へと入って行くことにした……。
「はぁ……どうしよう」
今日はバンドの練習があったはず。
ともりんの連絡を無視して、かれこれ30分ぐらいは経ったかもしれない。スマホの電源を付けるのが怖くて、時間すら確認できてない。スマホを確認したら、りっきーから鬼電と連絡が山のように積み重なっているのが目に見えていたから。
黙々とコーヒーを飲みながらも、去って行った初華ちゃんのことを思い出す。
ゆいくんに相談できれば、何もかも解決するのかもしれない。私もいつかはゆいくんにイギリスの留学に失敗したことを話せる日が来る。笑って、お前は今はこうして羽丘でバンドで頑張ってるだろなんて肯定してくれるかも……。
淡い期待かもしれないけど、私にとってゆいくんの存在が大きくなったのもそう。
MyGO!!!!!を始めたことで、私は私のままでいてもいいとなれたこともそうだった。自分という存在を上手く溶け込むことが出来るなんて信じていたはずなのに、今はコーヒーが入っているグラスを震わせることしか出来ない。
このまま、バンドの練習が終わるぐらいの時間までサボろうなんて考えながらも……。
また一口コーヒーを飲んでも、自分の中で何かが満たされることがないのを実感していると誰かがお店に入ったきたみたいで、入店のベルが鳴っている。それと同時に、店員さんが挨拶をしていると足音がどんどん近づいて来て……。
「お前、バンドは?」
立っていた。
ゆいくんとそよりんが私のテーブルの前に立っている。そよりんは一言も発することはなく、ただゆいくんの出方を見ている。ゆいくんはテーブルの上に手を置いて、私のことを問い詰めようとしてくる。
「あーえっと……ちょっと忘れたって言うか」
「立希ちゃん、昨日何度も言ってたけど?」
「え?あ、あーそうだったっけ?」
誤魔化そうとする。
下手に誤魔化そうとすれば、どう考えても失敗に終わるけどどうしても取り繕うことで逃げたい自分が存在してしまう。
「愛音、お前何か隠してるだろ?」
「え?い、いや……隠してないけど?」
「隠してねえって言うなら、なんでそんなにも目線泳いでんだよ?」
ダメだ、やっぱりこの二人には隠し通すことなんて……出来ない。
このまま言ってしまえば、楽になれるのかな。そよりんはともかく、ゆいくんは……。
『燈をまたバンドに誘ってくれたのがお前でよかった愛音』
『俺はお前が居なかったら死体だった』
ダメダメ、やっぱりゆいくんの前で隠し事なんてできない。
逃げないで何度も向き合おうとしてくれていた。好きだって言ってくれたとき、かなり滅茶苦茶なことを言っていたはずなのに納得してしまう自分が居たのはそうだし、何ならゆいくんのことが好きなのは……。
私もそうだから。
「あ、あのさ……二人共聞いてくれる?」
口を開いてしまう。
覚悟なら決まっていた。ゆいくんだけじゃない、そよりんにだって私は自分を見せて来たんだから。
「私さ、実は……」
「留学、失敗したんだよね」
今までだったら、絶対に言わない。
特に羽丘に転校したばかりの私だったら、話をしないで逃げ出していたはず。こうやって、打ち明けられるのはこれまでという過去があるから、挫折しないで乗り越えて来たものがあったから。
「ちやほやされてその気になって、本当愛音ちゃんらしいね」
「はぁ……何で悩んでいるのかと不安になっていたが、まさかそんなこととはな……」
「え?え?ちょっ、ちょっとそんなことなんて言い方はなくない!?そよりんもそよりんでなんか言い方がかなり棘があるしさ!?」
予想だにもしない二人の反応で私は戸惑ってしまう。
いや、ゆいくんの場合は前にそよりんにバンドに要らないってはっきり言われたときに似たようなことを言われたことはあったけどさ。まさか、此処で同じことを返されるなんて思わないじゃん!!?
「留学に失敗したお前は今なにをやってるんだよ?」
「え?羽丘にいて、バンドをやってて……」
「じゃあ、それでいいだろ。お前が留学に失敗したのは変わらねえ」
「だけど、どうせもう駄目なんだって落ち込み続けないで今こうして笑っていられている、ギターを弾き続けることが出来ている」
「それで充分だろ?」
欲しかった答えだった。
ゆいくんなら絶対に言ってくれると信じていたもの。こうやって、言ってくれた以上私はもう悩むつもりなんてなかった。寧ろ、悩んでいたことが馬鹿らしくなってしまうぐらいだった。私の中にあるイギリス留学に失敗したという事実はゆいくんによって、傷を癒してくれた。
何度も何度も彼がぶつかってくれたからこそ、私は今もこうやって彼の隣にいられることが出来ている。立ち上がって、コーヒーを一気に飲んだ後に二人に……。
「バンド、行ってくる!」
と大声を出す。
「全く、愛音ちゃんすぐ元気になれるなら悩んでいたんだろうね?」
喫茶店の中で残された私達……。
悩み相談をしていた相手はもうこの場所にはいない。一人で突っ走ってRINGの方へと向かって行った。
「お前なら分かるんじゃねえのか?」
「どういう意味?体に悪い物でも食べた結人君?」
「あのな……いやもうそうじゃなくて……あいつは見栄っ張りだしすぐ調子づいたり、元気なかったりすることがあるけどさ。あいつの根っこにはあるのは、自分を認めて貰いたいもんだろ?」
「疲れる生き方してるよね、愛音ちゃん」
ああ、やっぱり。
此処から、彼が何を言うとしているのかなんてのは大抵想像がつく。無理矢理でも喋るのを止めさせようとも考えたけど、どう考えても無理でしかない。彼は絶対に全部を言い切ろうとするから。
「お前も昔はいい子である自分を見て欲しくて、自分で自分を誤魔化し生き続けていた。お前はあいつのこと雑に扱うけど、本当は同族嫌悪なんじゃねえのか?自分に似ているから、自分を直視させられている気分になるから、偶に見て見ぬふりをしたくなる。違うか?」
「……勘違いじゃない?」
間をちょっとだけ空けてから言う。
「……そうか、なら悪かったな」
違う、勘違いなんかじゃない。
私は愛音ちゃんのことが嫌いでしょうがなかった。目立ちたがり屋で燈ちゃんのことを自分が注目されるためのマスコットとして扱おうとしているのも、バンドを引っ張ろうとしているのも全部。
全部知っているつもりだった。
ただ一つで気に入らなかったのは……自分とそっくりなはずなのにどうしてそんなに上手く立ち回れることが出来るの?という疑問と自分と似ているからこそ嫌という感情が存在していた。結人君の言っていることは耳が痛いけど、当たっていた。
「ねえ、結人君……」
テーブルの前から離れようとしている結人君に声を掛ける。
「なんだよ?」
「一杯いい?」
深い意味はない。
また、自分の感情を知れたからこそ一旦休憩を挟みたかった。
それだけでしかなかった。