【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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選んでよかった

「みんなごめん!遅れた!」

 

 ようやくやって来た愛音を目線すら合わせずに私は燈との曲作りに関して話し合う。

 

「あのちゃん……」

 

「もう一時間経ってるんだけど?燈の連絡無視しててなにやってたわけ?」

 

 燈が愛音の言葉に反応したから、私も反応を示す。

 愛音に何度も連絡を入れた。電話もして一時間が経ってようやくスタジオに来ている。愛音は悪びれる様子もなく、頬を掻いている。後はそよだけど、あいつ何処で愛音を呼びに行ったのに何処で道草食ってる訳……?

 

「ごめんってば!実はちょっと人生と言う道に迷子になっててさ。あっ今のはMyGO!!!!!と掛けてないから!」

 

「何でもいいから、早く準備して」

 

 人生の迷子とMyGO!!!!!を掛けてるとか掛けてないとかどうでもいい話をし始める愛音。

 いつもみたいに愛音は「はい」を二回以上で返してくる。

 

「はいは一回でいいか……」

 

 指摘しようとしたけど何処か吹っ切れたように笑みを浮かべている愛音の顔に疑問を覚える。

 

「なんかあったの?」

 

 愛音がこういう顔をしているのはよくあることだけど、此処まで調子良さそうな顔をされると何かあったのかとか気になってしょうがない。あくまでも、バンドの補佐として気になるってだけだけど……。多分、ろくでもない事だから早いところを話を終わらせたいけど

 

「えー?それ聞いちゃう?どうしよっかな?」

 

「やっぱりいい、どうせろくじゃないことから」

 

 引き伸ばそうとしてくる時点でどうせ大したことじゃない。

 早い所、練習に戻ろうしたけどまだそよが戻って来てない……。楽奈はひたすら個人練してるし……。

 

「あのちゃん、なにかあったの?」

 

「んー?あーえっと……実はさ」

 

 

 

 

「留学失敗してこっち来たんだよね」

 

 

 手に持とうとしていたドラムスティックの力が緩くなる。

 愛音から出たのはあいつの口からとは思えない言葉だったから……。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 言っちゃった。

 留学失敗したことをみんなの前で……。そよりんはいないけど、バンドの皆の前で言っちゃった。こういうことは本当にゆいくんだけに言うつもりだった。誰から構わず、話すつもりなんてなかった。

 

 口にしちゃえば、後は楽なんて言葉があるけど実際そうだったかもしれない。

 私は今自分がこうやってみんなの前で語れていることだけで楽になれていたから。なによりも……。

 

「やっぱり、どうでもいいことだった。いいから準備して」

 

「えー?どうでもいいはなくない?楽奈ちゃんもギター弾いてないで真面目に聞いてよ!!」

 

 りっきーと楽奈ちゃんはいつも通り通常運転になってる。

 りっきーの方は私の話を聞いたとき、ちょっとだけ後悔した顔をしていたから多分悪いと感じている。そこを指摘したら、怒ってきそうだから言わないかなー。

 

「あ、あのちゃん……そ、その今は……どう?」

 

「え?今?」

 

「え、えっと……バ、バンド楽しい?」

 

 あーそういうことか。

 ともりんの言いたいことはきっとこう。留学に失敗した過去があって、今はどう?ってことだと思う。ともりん、その答えなら決まってる。

 

 

 

 

「楽しいに決まってるじゃん!」

 

 留学に失敗して日本に戻って来て、人生をまたやり直そうと決意できた。

 ギターに対する思いだとか願いだとかは人一倍少ないだろうけど、こうやってともりんたちにも出会うことが出来た。ゆいくんとも……。だから私は後悔なんかしてなくはないけど、それでも此処がいいと言える。

 

 

 

 

「よかった……あのちゃん」

 

 ともりんの優しさに満ち溢れた声を聞きながらも、私はそう確信していた。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 喫茶店、そよがティーカップを持ちながらも紅茶を飲んでいる。

 頼んでいたのは確かアッサムとかだっただろうか。

 

「練習行かねえのか?」

 

「ちょっと休憩かな?誰かさんがさっきお前なら分かるんじゃないのか?とか適当言って、疲れたから」

 

 要は俺のせいで疲れたから休憩していると言いたいそよ。

 流石に直球過ぎて後ろで考えていることを予測する必要もなさそうだな。

 

 にしても……。

 

『バンド、行ってくる!』

 

 留学に失敗したことは恥じゃないなんてのは結構記憶の上書きでしかねえのかもしれない。

 愛音がすぐああやって行動できたのは自分の中で踏ん切りがついているが、抜け出せない現状があったからに過ぎなかった。これから先、あいつがどんな風に生きるのかはあいつ次第だけど、あいつならきっと乗り越えていけるはずだ。俺を助けてくれたあいつなら……。

 

 そうやって、愛音のことを思い出してから一口コーヒーを口に含んでいるとそよが声を掛けて来る。バンドの練習には今はいいと言いながらも、どうやら俺とは話したくてしょうがないようだ。

 

「結人君は最近親と上手くやれてる?」

 

「別に……普通なんじゃねえのか?」

 

 俺と父さんのを一般基準で呼べるわけもなく、勿論普通な訳がない。

 あの人は初華と初音の件で俺の背中を押した後、また何処かへと旅に出た。あの人らしいと言えば、あの人らしいが親子の溝というものを目の前で目撃した俺にとって父さんとも話したいことが山ほどあった。電話をすればいいが、できれば帰って来たときに話をしたいしな……。

 

「普通、ねぇ……」

 

「言われなくても分かってんだよ」

 

 頭の中で考えていることを当てに来たのか、それとも自分と重ね合わせたのかそよはテーブルの上を指でなぞりながらも言う。多分、後者寄りだろうがそよの場合は自分の自虐も含めての話なんだろうな。

 

「そういうそよはどうなんだよ?」

 

「別に私は今まで通りかな?お母さんがいたから、今の自分があるわけだしどうして離婚したのとか引き留めてくれなかったのとかは思うけど、今更こんなことは変えられないでしょ?」

 

 最後のを聞いて、俺はもう一口飲む。

 返すものもないというよりは、気づいているからこそ何も返せなかった。

 

「なんてことを言ってるけど、本当は自分を取り繕うためのものでしかない」

「それでもいいだろ」

 

「結人君、自分にもそれ本当に言える?」

「……言えねえな」

 

 間がほんの僅かだけ空いていたが、俺はほぼ即答する。

 考えるまでもない、母さんが死んでいなかったら自分はどうなっていたのか?とか期待することなんて幾らでもある。本来なら可能性ですらないものに縋るというのは現実逃避なのかもしれねえが、俺は過去の図面としてあったのを否定したくない。ただ、だとしても……。

 

「不謹慎な言い方になるが、俺は自分を選んでよかったと思ってる」

 

「どういうこと?」

 

「自分があるからこそ、立ち続けることが出来ている。自分の中に潜む闇に触れて拾うことが出来た。下手をすれば、気づかないことだってあったはずなんだ」

 

 そよは指を弄ろうとしたように見せかけてから、テーブルの上で指を叩いて明らかに不機嫌そうにする。待っていたのが自分を傷つけるような回答。そよらしく言えば、地雷ばかり踏んでくると言いたかったんだと思う。だから、俺の話している内容に嫌な顔を露骨にしているんだ。あいつはそういう奴だ。

 

「はぁ……相変わらず失礼なことばかり言ってくるね結人君って」

 

「でも、嫌じゃねえんだろ?」

 

「どうかな?前に言ったこと、覚えてる?結人君のおかげで救われた人もいるって話。あれは半分そうだと思ってるけど、もう半分は自分で爆弾に触れて解体処理をしている変な人の意味を込めていたから」

 

「悪かったな……」

 

 口元を手で押さえて俺は言う。

 事実でしかねえし、心当たりしかねえから俺は普通に謝るとそよは意外そうな顔をしながらも、ティーカップの持ち手に手をかける。

 

「悪いけど、俺はそういうことしかできねえ。考えているように見えて考えずに突っ走って助けたいとか思っちまう。その結果、迷惑を掛けることになるのも知ってる。だけど、今はそよ達がいるから安心できる」

 

「他力本願ってこと?」

 

「ああ……」

 

 

 

 

 

「そよのことを信頼しきっているからこそな」

 

 今度は露骨に嫌な顔をしない。

 飲み切ったティーカップには紅茶の一滴も残されておらず、そよは立ち上がる。それからして、俺の瞳の方へと視線を向けてから……。

 

 

 

 

 

「行くんでしょ?スタジオ」

 

 と語り掛けるだけだった。

 そよが見せる視線にはただ穏やかで喧騒の一言も欠片もなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「遅い」

 

 スタジオでとりあえず個人個人の練習で任せていると、ようやくそよが入って来る。

 一緒に入って来たのは結人で、私は腕を組みながらもそよに言うと「ちょっとお茶していただけ」とすぐにスタジオに置いて行ったベースを手に取るそよ。

 

 結人は椅子に座ってバンドの練習に付き合おうとしてくれている中で、私はある一言を発しようとする。

 

「ちゃんと決めてなかったから、今決めておきたいんだけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

「バンドのリーダーを燈にしたいと思う」

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