【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
「燈をバンドのリーダーにしたいと思っている」
私の声がスタジオの中で響いている。
反響している声がまるで燈の心の内側の中を表しているような気がしていた。
「……」
燈は何も喋ろうとはしなかった。
今、燈が何を思っているのかはある程度想像はできる。自分なんかよりもバンドのリーダーに私の方が向いている。だから、バンドのリーダーは私の方がいいと思っているに違いないのかもしれない。燈はそういうところがあるから。
「えー?ともりんがリーダー?」
「なに?文句あるの?」
「バンドのリーダーならやっぱり、衣装とか考えられる私の方が向いていないかなーって」
「却下、衣装の方も出来てないし」
言いたくないけど、引っ張る能力なら愛音は確かに持ってるけどこいつがリーダーにしたら自分勝手にやりそうだから却下でしかない。楽奈は独断でやらせた方がいいし、そよは周りに合わせるタイプだから違う。だから、私は燈を選ぼうとしたのもあるし……。
なによりも……。
「このMyGO!!!!!というバンドが生まれたのは燈がまたバンドをやりたいという一声。なによりも、此処までMyGO!!!!!が続けられたのも燈のおかげなのも多い、だから私は……」
「燈がバンドのリーダーがいいと思う」
燈にとっては理解できない理由かもしれない。
だとしても、私はこのバンドのリーダーが燈だからこそ意味があると信じている。燈の答えを待ちながらも、私は目線を向ける……。
「燈、燈はどうしたいんだ?」
誰も声を出さない静寂の中で包まれていたスタジオの中で俺が声を出す。
俺が声をかけてようやく燈は意識を自分の中へと取り戻しているようだった。
「立希ちゃんは……どうして?」
燈は聞き出そうとする。
昔の燈だったら、こんな姿あり得なかった。いつも俺に後ろに隠れて、人の顔色を窺ってあいつは生き続けようとしていた。自分が助けてやったなんか言うつもりはないけど、あいつは俺と共にあり続けたからこそ確立することが出来たかもしれねえ。進んだのはあいつ自身だけど。
「MyGO!!!!!は燈の詩、心の叫びがあってこそのバンドだから私は燈に任せたい」
「心の叫びがあってこそ……」
躊躇わらずに理由を教えている。
答えを得た燈は頭を下げているが、自分の中で欲しかったものが手に入って納得を示しているようにも見える。
「私も立希ちゃんの意見に賛成かな?愛音ちゃんがバンドのリーダーなんて絶対ロクなことにならないし、立希ちゃんだと堅苦しそうだし楽奈ちゃんだと大変なことになりそうだし」
「は?バンドだから堅苦しくて当たり前でしょ?それともなに?燈のリーダーだったら、手が抜けるとか思ってるの?」
そよの意見に突っかかり始める立希。
燈が大事な立希にとってそよの話していることが燈がリーダーなら実力を出し惜しみしてもなんとかなるとか解釈したようだった。止めに入ろうとするが……。
「この前のライブ、私の演奏は完璧とか言ってなかったっけ?立希ちゃん?」
「おい、そよやめろって」
「はいはい、立希ちゃんのこと大好きだから割って入って来るんだね結──「は!?別にこんな奴に好かれたいとか思ってないから」」
「…………立希ちゃんには何も言ってないんだけど」
目を細めてそよは完全に飽きれている。
絶妙に場違いなことをした立希の顔だけが騒がしくなっている中で、俺も心がざわつき始めながらも燈の方へと目を向けると燈はマイクを力強く握り締めている。俺にはそれが決意を固めているようにも見えながらも、心の中で……。
後はお前が決めることだと口にしていた。
私がバンドのリーダー……。
『練習を見せて貰う前にリーダーを確認しておきたい』
どうして楽奈ちゃんのおばあちゃんの前で声を上げていたのかは未だに分からない。
バンドのボーカルは立場的存在?だからは違うと思う。自分でもよく分からないまま、声を出して自分がバンドのリーダーかのように見せてしまった。
立希ちゃんにバンドのリーダーに推薦してもらった。
そよちゃんに後押しして貰った。嬉しかったよりも、自分じゃ務まらないかもという気持ちの方が強くて、すぐに頷くことが出来ないから私は聞いてしまった。
立希ちゃんの言っていることは前と似たようなもの……。
バンドにとって私の詩が大事だから、形だから私をバンドのリーダーにしたいと語ってくれた。
「……」
呼吸は辛くない、指先に力が入る。
「やる、バンドのリーダーやりたい……」
電源が入っていたのか、声がスタジオの中で屈折する。
まるで自分の意志を確かめるために外に放出されて、内側に戻って来ていたみたいだった。
「え!?ともりん、本当にいいの!?やりたくないなら、変わるよ?」
顔を覗き込みながらも、あのちゃんが提案してくれる。
震えているかもしれない私を見て心配していてくれていたのかもしれなかった……。
「大丈夫……私はゆいくんやあのちゃん達と一緒にいてわかった」
「追いかける、誰かの背中を追いかける。私にはそれだけしか出来なかった、自分で何かを決めることなんて出来なかった。結人君に出会って、自分で選択する強さを教えて貰った」
「立希ちゃんに出会って私の詩を続けたい、そよちゃんに出会って本音を話したい、愛音ちゃんに出会ってバンドをまたやりたい、楽奈ちゃんに出会ってこんな自分でまた戻せるって信じられた」
立希ちゃんが私の詩を褒めてくれたこと。
そよちゃんの自分らしさを見て、愛音ちゃんがバンドに繋ぎ合わせてくれて楽奈ちゃんが結人君とまた結ばせてくれた。
「祥ちゃんも、睦ちゃんもそう……」
二人から貰ったものを思い出しながらも、私は前を再び向く……。
「不安で怖くて、震えていた日々もあった。生きるのすら怖くなって、毎日怯えていた日もあった。それでも、この声を出し続けて、ノートを書き続けられたのは……」
「みんなが居てくれたからこそ……だから……」
「だから……私はバンドのリーダーとして今度は皆を支えたい、私一人だけじゃどうすることもできない。きっと行き詰ってしまうこともあると思う。それでも、このバンドを始めてよかったねって笑い合える日々をいつかは作りたい」
「例え、おばあちゃんになっても……」
結人君、いつか言ってくれていたよね。
永遠に生きることなんて出来ない。誰かが死ぬことが怖い。限りある命だから、怖いなんて話を結人君にしたのを今でも覚えている。私にとって、答えはこれだよ。傷ついてでも何かを続けることは大事でも、何かを得ることは必要だから。
私はこれを道にすることに決めたよ。
なによりも、睦ちゃんや祥ちゃんのことを改めて思い出して私は自分の中で未完成だった歌詞が一つの点と一つの点が綴り続ける星空へと変わりそうだった。もし、この詩にタイトルを付けるとしたら……。
──