【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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千早愛音は本当の意味で優しかった。

 またやってしまった。

 俺はまたやってしまった。燈のことをこれ以上傷つけないつもりでいたのに俺はまた燈のことを傷つけてしまった。自己嫌悪に駆られながらも俺は燈の額に触れるとかなりの熱を感じる。

 

 俺は燈をおんぶしてカラオケ店を出る。

 代金の方は愛音が払ってくれたようで愛音もその後を追いかけてくれていた。此処から近い家は燈の家だ。一旦燈の家に行って病状の様子を見てから病院に行かせるべきだと判断していたが、どう見ても最初のうちに病院に連れて行って診察してもらうべきだったが頭の中でそんなことを考えてる暇がなかった。

 

 家に着いた俺は燈を担いだ状態で燈の部屋の中へと入る。

 

「燈ちゃん、昨日咳き込んでた。きっと無理してカラオケに来たんだ思う」

 

「昨日雨だったからな……。体が急な気温の変化に耐えられなかったんだろうな」

 

 結人君は丁寧に燈ちゃんのことをベッドの上に寝かせている。

 

「愛音、燈の服着替えさせてやってくれないか?流石に洋服のまま寝かせてやるってのはアレだし……。俺が着替えさせるのはまずいだろ?」

 

 寝巻きに着替えさせようともしたが、流石に俺の手でそれをやるのはまずいだろうからそこは愛音に任せて一旦部屋を出ようとしたときだった。燈が俺の手を掴んで離そうとしていなかった。

 

「燈……」

 

 燈、前にもこんなことがあったよな……。

 あのときは逆の立場で俺が風邪を引いて燈が学校から帰ってきたとき俺のことを看病してくれたよな。今でも俺はちゃんと覚えている。お前がお前なりにお粥を頑張って作ってくれて俺に食べさせようとしてくれていたこともちゃんと覚えている。

 

 なによりも俺の記憶に一番残っているのは燈が俺の手をしっかりと握ってくれていたこと。体が寒いと言っていた俺のことを必死にお前は温めてくれていたよな。今でもちゃんと覚えているよ。

 

「大丈夫、大丈夫だからな」

 

 この言葉もそうだ。

 燈が俺に対して言い聞かせるようにして言ってくれていた言葉。燈は俺のことを大切だと思っていてくれたし、俺もまた燈のことを大切だと思っていた。その事実は変わらないからこそ俺はお前のことをもう傷つけたくなかった。

 

 俺はもう一度「大丈夫だからな」と言って部屋を出てリビングで見つけた救急箱の中から冷えピタ、冷凍庫から氷枕を取り出して俺は愛音の合図で部屋の中に戻ると燈は寝巻になっていた。それを見てから俺は燈の頭を少し宙に浮かせて氷枕を置いた。額には冷えピタをそっと貼ると、一瞬燈が笑っているようにも見えていた。一息ついた俺たちは燈の様子を見ていた。

 

 

 

 燈が落ち着いた寝始めてからどれぐらい経っただろうか?

 燈は軽く寝息を立てながらも寝ているのを聞いていた。

 

「燈着替えさせてくれてありがとうな」

 

 愛音にお礼を言うと彼女は「いいっていいって」と言いながらも少し沈黙を続けた後話を始める。

 

「結人君、さっきのことだけど……やっぱり燈ちゃんの傍には結人君がいいと思う」

 

「俺にはその資格がない、あいつを妬んで傷つけて苦しめたんだぞ」

 

「燈ちゃんはそう言ってた?」

 

 俺は黙り込んでしまう。燈から出た言葉が俺を助けたい、力になりたいと言う言葉だったからだ。

 

「それでも俺よりは愛音の方が助けになれるはずだ」

 

「結人君はさ……友達に劣等感とか妬んじゃダメとか思っちゃう?」

 

 また無言になってしまう。

 

「私、結構見栄っ張りだからさ……。中学のときだって生徒会長だったり生徒会バンドとかやって注目を浴びようとしたりしていたんだ。それこそ周りからおだてられて良い気分だった。燈ちゃんのことをバンドに誘ったのだってクラスのマスコットを誘えば注目されるかも!?って思ってたからさ。でも、楽奈ちゃんとかは私より圧倒的にギター上手でこのままだとやばい!ってなったし、りっきーは厳しいし私の痛いところばっか突いてくるし、そよさんは私より人望も厚そうだし人の話を聞くのも上手だった。なによりも燈ちゃんは……」

 

「臆病で今にも割れそうな風船みたいな子だけどさ、歌うときは本当に凄いんだよね。ライブ、私自分のことに集中していたからちゃんと聞けた訳じゃないけど、燈ちゃんの歌って聴いていて嫌な感じあんまりしないんだよね。燈ちゃん自身の叫びだって言うのにそこにはエゴがなくて聴いていて思わず涙が出そうな気がする。結人君なら分かるでしょ?」

 

 これで三度目だ。

 俺はまた黙り込んでしまっていたが、今回は心の中が激しく動かされていた。愛音の言う通りだ、俺は燈のライブをこの目で見て耳で聴いたとき、俺は素直に凄いと実感したんだ。

 

「色々ごちゃごちゃ言っちゃったけどさ、誰にだって妬むとか劣等感とか抱えているんじゃないかな?」

 

「そう……だな」

 

 俺はようやく言葉を出ていたが、途中で一旦途切れそうになっていた。ああ、愛音の言う通りだ。立希もまた俺と同じように劣等感を抱えている。しっかりとしていて芯が強そうなあいつでもそういうところがあるんだとあのときは驚いていたんだ。

 

「それに燈ちゃん、結人君の話をしているときが一番楽しそうだしさ」

 

 愛音、俺は彼女のことを図々しい人間だとか面倒だとか変な奴だと思っていた。でもそれでも彼女は燈のことをまた新しいバンドに繋ぎ止めれてくれた。燈の心を取り戻してくれたのは間違いなく愛音だ。だから俺は愛音に燈のことを任せたかった。

 

 彼女は自己顕示欲が強い方だ。それに呑まれるととんでもないことになったりするが彼女はそれだけじゃない。彼女は人を思いやれる気持ちがちゃんとある。時には地雷を踏み抜いたりすることもあるだろうが、それでも踏み抜いた上で「じゃあ、こうすれば良いんじゃない?」とちゃんと言い切れる人間なんだ。愛音は俺のことをお人好しだとか優しいとか思っているかもしれないが、俺から言わせれば……。

 

 

 

 

 千早愛音という人間こそが本当の意味で優しい人間なのかもしれない。

 

 

 

 

 

「悪い愛音、少し席を外すから燈の様子を見ていてくれないか?汗が出てたりしたら濡れタオルで拭いたりしてあげてくれ。そういうことは同じ女性の愛音の方がやりやすいだろうからな……」

 

「分かった……!」

 

 俺は一旦燈のことを愛音に任せて燈の家から近くにあるコンビニに行って色々なものを買っていた。

 

 

 

 

 

「愛音、そこの買い物袋……。燈が起きたら渡してくれないか?」

 

 コンビニから帰ってきた俺は燈の机の上に買い物袋を置いて愛音に伝える。

 

「え?う、うん……もしかして結人君帰るの?」

 

 バッグを持って燈の部屋のドアノブに触れようとする俺。

 ある程度は看病を終えた為、俺は後のことを愛音に任せて帰ろうとしていた。これ以上、燈のことを傷つけた俺が此処にいるのは良くないことだから。

 

「燈のことは……頼む。それと……ありがとうな」

 

 

 

 

 

「励ましてくれて……」

 

 

 

 

「少し救われた気がした」

 

 俺はそれ以上、彼女に何かを伝えると言ったことはせず燈の部屋を出てそのまま玄関の方へ行き、靴を履いて靴紐を結び直していたがその手は重くなく軽やかなものだった……。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 瞼が重い。息が苦しい。体が暑い。

 どうしてなのかは分からない。自分の中のなにかが様子がおかしいということだけは分かっていたけど何が起きているのかは分からなかった。

 

「光……?」

 

 私は見えてくる光の方を確かめようとする。

 何度も何度も追いつこうとするのに距離が全然近くならない。まるでそれは結人君と私のことを言い表しているようにも見えていた。……

そうだよね、私は結人君のことを知っているようで何も知らない。結人君と一年前、最後に会ったときの言葉すら覚えていない。それでも、私は結人君のことを知りたい。もしかしたらあのとき酷いことを言われたのかもしれない。それでも私は結人君の力になりたい、助けになりたい。それが結人君が今まで私にしてくれた恩返しにも繋がると思うから……。

 

 だから、今は…………目覚めたい……!!

 

 

 

 

 

 

 

「愛音ちゃん……?」

 

 瞼を少しずつ開けていくと、目の前にはピンク色の長い髪の人が見えてそれが愛音ちゃんかどうかは判別つくかは少し分からなかった為、私ははっきりと愛音ちゃんとは言えなかった。

 

「燈ちゃん起きたの!?」

 

「愛音ちゃん、看病してくれていたの……?ありがとう……」

 

「ううん、ほとんど看病していたのは結人君なんだ」

 

「そう……だったんだ」

 

 愛音ちゃんの言葉的に結人君はもう帰ってしまったみたいだった。

 

「燈ちゃん自分が倒れたこと覚えてる?」

 

「覚えてると……思う」

 

 私はカラオケ屋に行ったまでのことはちゃんと覚えている。

 その後のことははっきりとは覚えていない。熱に侵されて私の意識が朦朧としていたからだと思う。でも、結人君が私の話をするのはひたすら避けようとしていたのは覚えていたような気がする。二人の会話を盗み聞きなんてしたくなかったけど、どうしても気になって仕方なかった。

 

「あっ、そうだった。これ結人君が燈ちゃんに渡してくれてって言ってたよ?」

 

 結人君が……?

 買い物袋を受け取った私は中身を確認してあることを確信する。

 

「結人君……」

 

 結人君が私のことをいつも心配してくれていた。それは私を突き放そうとしている今も変わらない。永遠なんてなかったなんて否定的になっていたときも私にはあった。でも、やっぱり違う。愛音ちゃんから渡された結人君が買ってきたものでそれを確信した。

 

 風邪薬やお湯で作るスープの素、ゼリー飲料といったものが幾つか入っていた。体調の悪い私に気を遣って消化にいいものを買ってきてくれていたんだ。本当に嬉しかった。今でも結人君が私のことを思ってくれているということが分かって……。

 

「愛音ちゃん……」

 

「どうしたの燈ちゃん?」

 

「後は……結人君のことは……任せて」

 

 

 

 

 

 

「もう少しな気がするから……」

 

 愛音ちゃんから渡された買い物袋の中身を見ながらも私は少し表情を緩ませて笑みを浮かべていた。

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