【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
この詩は……。
私達のある意味、集大成の曲だと……思う。
一つの道だと信じ続けて私達の道は一本道じゃなかった。
何重にも曲がっていて何処に進めばいいのか、苦しんでしまうときもあった。これは立希ちゃん達だけじゃない、結人君だけじゃない。
『もう一度立とうと……思ったから……』
『それでも私は謝りたかったんですの……』
祥ちゃんや睦ちゃんも……。
皆がそれぞれの道を選んだ。二人は同じバンドを選んだ。もう私達の道の先にも隣には立っていない。それでも……。
「睦……ちゃん……?」
モール……。
人々が行き交うなかで私が自分の感情を呑み込もうとしているときだった。睦ちゃんらしき、人影を前から見つけて名前を呼んでみたものの、違和感があった。口にした名前があっているのか不安……だった。
「もしかして……」
一旦出し切ったものを呑み込む。
「モーティスちゃん?」
なんとなく……。
睦ちゃんじゃないと実感した私は睦ちゃんの中にいるもう一人の人格の名前を出すと、目の前にいる睦ちゃんの口元が緩んでいって……。
「正解……!!」
隣に座って来るモーティスちゃん。
座ってからすぐ、飲み物?を飲んでいるようだった。
「ぷはぁ……!睦ちゃんから聞いたよ!またライブやるんだよね?」
「う、うん……」
ちょっとだけ反応に遅れて返してしまう。
「それ燈ちゃんの大切なノートだよね?そこにライブで歌う曲があるの?」
「う、うん……。今度、歌う曲は私達にとってもある意味一つの形として完成形だと……思う」
戸惑いつつも、話をする。
戸惑ってしまうのは、モーティスちゃんとこうやって話すということを中々したことがなかったから。これが最初……だった。
「完成形……」
空気の中で声が漏れ出している。
「ねぇ、燈ちゃん。要はこれまでのことに一旦の終止符を打つってこと?」
「私達の道は……」
口を止めてしまう。
目の前にいるのはモーティスちゃんでもあり、睦ちゃんだから。こんなことを言ってしまっていいのだろうか?傷つけてしまうかもしれない、不安に怯えながらも私は目を力強く閉じる。
「私達の道は……もう交わることはない」
「……なんで?」
「それは私達の道がもう別々の道に向けられているから。レールも違う、方向性も違うから。もう二度と一つになることもない、CRYCHICという青春が戻ることもない。私達はMyGO!!!!!。モーティスちゃん達は……」
「Ave Mujica」
もう二度と訂正、修正することもできない。
私は言い切ってしまった。祥ちゃんも似たようなことをいつもの場所で語っていた。自分からこうやって口にするのは初めてで怖くてしょうがなかったけど、私は口にするということを選んだ。
これが正解だと信じたいから……。
勝手、みんな勝手だよ。
自分が傷ついて辛そうでしょうがない。他人のことなんて放置しておけばいい。無視しておけばいい。少なくとも、私が見て来た大人たちはみんなそうだった。睦ちゃんのストレスの捌け口として生まれた私はいつしか、自分という存在を得ることが出来た。
結人君のおかげもあるし、睦ちゃんのおかげもある。
おかげで今はこうやって生を謳歌できている。楽しくてしょうがない。
『私は二人と共鳴できた。ただ、それだけが……嬉しかったよ』
レゾちゃんがそうだった。
ようやく心に触れ合えることが出来た。これから先も三人で頑張って行こう、笑い合おうとか言いたかったけど彼女は消えてしまった。レゾちゃんとしての力は睦ちゃんの中へと入っちゃった。
馬鹿、みんな馬鹿だよ。
生き続けたいなら何もかも見なければいい。生きたいことだけをやればいいのに、自分の傷と向き合おうとする。目の前にいる燈ちゃんだってそうだよ。
震えていて、口を開くのすら躊躇ってたくせに自分の気持ちを呼吸してる。
「燈ちゃんは……それでいいの?」
私も口にする。
正しいと信じることが出来ないから。あの子とのことがあったからこそ、私は燈ちゃんが言うことを簡単に許容なんてできなかった。あり得たかもしれない、望んでも掴むことができない未来だと分かっていても私は信じてみたくなる。
CRYCHICのことなんて大嫌いだけど。
「不安で仕方ないんだよね?やろうとしていることが、歌詞にしようとしていることが呑み込むことが出来ない。違う?」
燈ちゃんの中にあるものを傷つけるものでしかない。
そんなのは分かっているからこそ、黙っていることができなかった。絶対に全部を納得なんて出来ないと確信していたから。燈ちゃんの表情や手の震えを見れば、一目瞭然だったから。
「不安……だよ」
「この完成形を詩にしてしまえば、誰かを傷つけることになる。私自身も傷つくことになる」
「だったら……そんなの詩にしなくていいじゃん!無理して歌う必要なんてないよ!!」
違う、燈ちゃんに言いたいのはこんなことじゃない。
私だって、傷跡が増えてでも生きることを選んだ。決して、平坦な道じゃないよ。自分を貫き通して生きることなんて……。睦ちゃんとこれから先を生き続けて、笑い合う未来を一緒に見て行きたい。
空も地面も景色も私達の感情を司るもの……。
これから先見て行きたいものだから。でも、その幸せだけが続いて行くわけじゃない。そんなの知ってるし、私でも気づいてる。燈ちゃんの言うことに同意できないのは燈ちゃんにそんな道を選んで欲しくないだけ。
燈ちゃんは睦ちゃんによく似てるよ。
結人君のことが好きなところとかじゃなくて、二人共自分の意志をちゃんと言い出せなかった。自分のせいで誰かが傷ついてしまう。誰かの背中を歩くことしか出来ない。自分を低く見ていた。かつての燈ちゃん達はそうだったけど、今は違う。
二人共、ちゃんと痛みと向き合おうとしてる。
耐えられない、見てられないの。間違いだとしても、燈ちゃんがそれでもと言っても……止めたかった。
「自分の詩を……表現にするしかない」
「私には……」
「私は……叫んで叫び続けて、叫び続けることしかできない……!」
モールという場所の中で燈ちゃんの声が反響してる……。
「それが私だから……!!」
ああ、そうだよね。そうだよね燈ちゃん。
知ってるよ、睦ちゃんが燈ちゃんの影響を受けてたんだもん。レゾちゃんと共鳴を引き起こそうとなれたのも、燈ちゃんのおかげだもん。
そうだよね、燈ちゃんはそういう人だもんね。
止めても自分が決めた一本線には向かって行こうとする。そういう子だもんね、燈ちゃんは……。睦ちゃんが参考にしたまでのことはあるよ。じゃあ、やっぱりこれは不要な会話だったね燈ちゃん……。
「燈ちゃん、どうしてもやる?」
「やり……たい、私にはこれしかないから……」
「強情だなぁ、燈ちゃんは……」
ノートを見てから色々と考えようとしてたんだよね。
燈ちゃんの答えが一番描かれているもの……だけど見なくて正解だったかな。見ちゃったら、私の方が絶対に叫ぶこと間違いなしだったもん。
「もう分かったよ」
「いい……の?」
「燈ちゃんって論破しようとしても、全然論破できなさそうなんだもん!すっごい時間の無駄!!聞いているこっちが息するの辛くなっちゃうんだもん!!」
「えっと……ごめんね?」
「いいよ!!じゃあね、私は帰るからね!!燈ちゃん!!」
何故かムキになって、私は帰ろうとしてしまう。
燈ちゃんの説得なんて最初から無理だなんて知っていたくせにやろうとした自分が馬鹿みたいだった。
「燈ちゃん……」
「ライブ、頑張ってね」
最初からこれだけを言えばよかった。
心の中でレゾちゃんが消えてしまったこと、燈ちゃんが辛そうにしているのを見てしまって私はダメと言いたくなってしまっていた。自分でもよくないと分かっていたのに、やめることなんて出来なかった。
燈ちゃんの表情は見ていなかったけど……。
きっと笑ってくれていると思う。
睦ちゃんも……そう思うよね?
「思う……」
「そっか」
「そうだよね……!!」
また会おうね、燈ちゃん。
違う道だけど、話すことはできるもんね。
『私は……叫んで叫び続けて、叫び続けることしかできない……!』
モーティスちゃんに放った叫び……。
私にとってあれが答えだった。正しさと違和感の間でも悩んだこともあった。必死に生き続けることがダメだと悩んだこともあった。自分はやっぱり人と違うと怯えてしまうこともあったけど、今は違う。
「パーカーって動きやすくていいよねー!」
「前の衣装よりはいいんじゃない?」
「えー?そよりん、前の衣装ポピパに褒められて嬉しそうだったじゃん!」
二人の会話が聞こえてくる。
私はある人のことを目を追う。その相手は結人君じゃない、どうしても感謝の気持ちを伝えたい人がいた。
「立希ちゃん、その……戸山さんは?」
「戸山先輩?あー今日はちょっといなかったかも?大学忙しいって言ってたから」
「そう……なんだ」
感謝を伝えたかった。
変わらないまま続ければいいと背中を押してくれたのは戸山さんのおかげ……。少しだけ残念な気持ちを潜ませながらも、私は声に出す……。
「立希ちゃん、愛音ちゃん、そよちゃん、楽奈ちゃん……」
ステージ裏で私達は立ち続ける。
やって来た、此処までやって来た。一週間という道のりは平坦じゃなかった。寧ろ、果てしなくて遠い毎日だった。立希ちゃんに曲を作って貰って、あのちゃんたちと一緒に衣装を作ったり、そよちゃんとお茶をしたり、楽奈ちゃんと抹茶パフェを食べたりした。
結人君に音楽を聴いてもらうこともした。
ステージに立てば、機材の方に結人君がいるはず、お客さんが待っててくれている。睦ちゃんたちはお仕事が忙しくて来れないと言っていたけど、それでよかった。
「私は必死に歌うことしかできない、それが私だから。笑われることも、指を差されることも、これからあると思う。でも、私は自分の心のまま、感情のままで叫ぶことしかできない」
「真っ直ぐ走ることなんてできなくて、いつもぶつかりそうになる。前を向き続けることができない。それでも、私は私でありたい。高松燈はこの世に……」
「一人しかいないから……!」
ライブ前、最初で最後になるかもしれない。
マイクが無くても私は高らかに言い放った。恥ずかしくもない、後悔するつもりもない。私は私でありたいからこその宣言。
「相変わらずともりんは熱いなぁ……」
「は?これが燈の良さでしょ?」
あのちゃんと立希ちゃんの声がする。
「熱いというより泳ぎ方を知らないだけじゃない?」
「……行かないの?」
そよちゃんと楽奈ちゃんの声がする。
全員がいる、此処にはみんながいてくれている。支えてくれているみんながいる。この先を踏み出せば、私達の出番が待ってる。MyGO!!!!!のライブが此処から始まる。楽奈ちゃんのおばあちゃん……。
結人君、見ていて……。
私達はやるから……。