【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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最終章 わかれ道の残響に
今度はちゃんと


「さらばだ、俺の金よ……」

 

「ゆいくん、ありがとうね!!」

 

 俺の隣に座っている愛音が俺の肩を強めに叩いて来る。

 いてえ、叩いて来るなよ……。

 

「……ああ」

 

 集られたまではよかった。

 いや、よくはねえが……。問題はそこからだった。集られて俺がやってきたのはしゃぶしゃぶの店。こういう店にはあんまり来たことがないというか、男同士であんまりしゃぶしゃぶやるとかしたことねえから全く来たことがなかった。

 

 一通り、食べ放題コースを見た後で多分真ん中ぐらいのコース3300円ぐらいのだろうと身構えていたら……。

 

『すみません、プレミアムコース六人分お願いできますか?』

 

 そよが店員に頼んでいたのは4000円越えのコース。

 六人前のことを考えたら、その総額は大体二万五千ぐらいは消し飛ぶ。勿論、後からちょっと待ってくれなんて言えるわけがない。そんなことを言い出したら、そよが……。

 

『へぇ、ゆいくん?女の子五人が疲れてるのにそれぐらい労うこと"も"出来ないんだ?』

 

 とかクソ意地悪な笑みを浮かべて言うのがお決まりだ。

 反対なんて出来るわけもなく、俺はただ支払うことを強いられる。

 

 

 

 

「ありがとうね、結人君」

 

 店員が去った後で、なにも知らなそうな愛音の後でそよの口元が明らか緩んでいる。

 

「お前、割と歪んでるんだよな」

 

「単品で何を頼もう「待て待て、悪かったから!!」」

 

 必死にそよの腕を掴む。

 性格が歪んでいるとかそういう話をしている訳じゃねえのに、あいつは自分が歪んでいると捉えたのか他のものを頼んで更なる支払いを与えようとしてくる。鬼か、こいつは……。

 

「あんまり騒がないで欲しいんだけど」

 

「立希ちゃんの言う通りだよね、結人君はすぐ騒ぎ出すんだから」

 

「おい、誰のせいだと思ってんだ」

 

 正論を言われた後、追い打ちを掛けてくるそよ。

 元はと言えば、お前が騒がせたんだろうが……。

 

「ゆいと、抹茶」

「あーやっぱり、一品必要かもよ?ゆいくん?」

 

 楽奈の要望と、便乗してくる愛音。

 楽奈はともかく、愛音はこいつ絶対頼みたいものがあるから乗っかって来たな、こいつ……。はぁ、飯食べ始める前に疲れそうだ。というか、こいつらライブの後で疲れてるだろうのに、めっちゃ喋るな……。

 

「あーもう好きに頼んでくれ……」

 

「本当に大丈夫?ゆいくん?」

 

「大丈夫だ、燈……」

 

 「多分」と付け足したくなったが、燈の前でそんなことは言えねえ。

 かっこつけたい訳じゃないが、やっぱり燈に払ってもらうのは嫌だしなによりも女子に払ってう貰うというのがなんか違うだろ。どう考えても、今回の場合は僅かでも払って貰った方が早いんだけどな……。

 

 

 

 

「燈、器貸して入れるから」

 

「え、えっと……自分でいられるよ?立希ちゃん」

 

 いざしゃぶしゃぶを食べ始めようとなると、動き出したのは立希。

 燈の器を取って、野菜から茹でようとするのは健康に気を遣ってのことなんだろうが、断られてショックを受けたような顔をする。なんでだよ、そこでそんな顔すんなよ。

 

「俺が全員分やってやるから、それでいいだろ」

 

「じゃあ、ゆいくんお願いね!!」

 

 俺がやると言い出した途端、遠慮を全くしない愛音。

 いや、遠慮をしないのは愛音だけじゃないのはもう言う必要のないことだ。燈と立希以外、こいつら全員遠慮なんか知らないしな……。俺はそれぞれへ注いだ後で自分の分もやりながらも聞くことにする。

 

「そういや、なんでしゃぶしゃぶなんだよ?立希」

 

 意外だったのが、提案してきたのは立希だった。

 打ち上げをやりたいというのは愛音からせがまれていたようだったが、最終的に決まったのはこのしゃぶしゃぶの店。打ち上げなら、RINGでも出来るかもしれねえがバ先ということもあって立希からしたら二度もやり辛いのかもしれねえな。

 

「別になんでもいいでしょ」

 

「お前が答えたくねえなら、いいけどな」

 

 大体、こうやって打ち上げをした理由は想像がつくからな。

 しゃぶしゃぶにしたのは分からないが……。敢えて、聞かないという体制を選んでいると箸がおく音が聞こえる。

 

「野良猫の祖母からは合格は一応貰ったし、その……偶にはこういうのも悪くないかもって思っただけだから」

 

「りっきーも偶にはいいところあるじゃん」

 

「ウッザ、今度からお前だけ誘わないから」

 

「えー!?それは酷くない!?ていうか、今度からって……」

 

 立希は舌打ちをしている。

 小声で言っていたのが聞こえていたが「余計なこと言った」とも言っていた。実際、愛音がこういうことを知ったらその都度、打ち上げを要求してくることにな……ん?その都度で打ち上げ?打ち上げをする?

 

「待てよ、これ……?よくよく考えたら、損するの俺じゃねえか!?」

 

 椅子を強めに引いて、立ち上がると立希が白い目で見て来る。

 「早く座れ」という目つきで見られた俺は各方面に頭を下げながらも、椅子へと座って行く……。

 

「ゆいくん、やっぱり……「いや、大丈夫だからな燈!!」」

 

「お前、燈に払わせたら二度と口利かないから」

 

 五月蠅くしてしまった後で更なる釘を打たれてしまう。

 元々、燈に払ってもらうつもりなんて全くねえが、打ち上げの度俺が支払うことになったらとんでもない負債で赤字で終わる。出来る限り、打ち上げじゃない方?でお疲れ様してくれと願うことしかできなかった。

 

「ゆいと、抹茶追加」

「もう食べたのかよ!?早いな!?頼んでもいいけどな!!?」

 

 隣にすわってる楽奈が俺の服を掴んで来たかと思ったら、追加の注文をしてくる。

 五月蠅かったのか……。立希がまた睨んできて、俺は腰が徐々に下がって行く……。

 

「あっ!!」

 

 愛音が肉を食べた後で何かを思い出しかのようにスマホを眺める。

 スマホを見つめ終わった愛音が、向かいに座っている燈の方に視線を向ける。

 

「ともりんって誕生日11月だっけ?」

 

「え?う、うん……11月22日だよ?」

 

「一ヶ月後じゃん!?」

 

 隣に座っている愛音の声が俺の耳の中で響いている……。

 

「まだ一ヶ月もあるんだしそんなに騒がなくてもいいんじゃないの?」

 

「は?燈の誕生日がどうでもいいって言いたいの?」

 

 立希とそよの声が俺の中ではあんまり聞こえてこない。

 燈の誕生日か、一瞬だけ床の方を向いてしまう。

 

 俺は……祝うことができなかった。

 去年、中学三年生のとき俺は燈の誕生日を祝うことはなくあいつの目の前から去ってしまうことになってしまった。

 

「……」

 

 立希がつけているアパタイトのネックレスが目に入る。

 立希の誕生日を祝うことはできた。ちゃんと祝ってやることはできた。俺の中で心残りがあるとすれば、それはやっぱり燈の誕生日を祝ってあげることだ。

 

「燈、誕生日……その……」

 

 

 

 

「楽しみにしててくれ」

 

 「今度はちゃんと祝うから」なんていうのもありだったのかもしれねえ。

 でも、そんなことよりも今一番大事なのは祝う気持ちがちゃんとあるかどうかだと俺は思ってる。だから、この場で言い切った。燈の誕生日を祝いたい、逃げたりなんかしないという意志を見せたかったからこそ。

 

「うん……」

 

 

 

「た、楽しみにしてるね」

 

 燈がちょっと声を張りながらも、頷いてくれている。

 

「ああ、任せてくれ」

 

 伝えたい事は伝えた。

 燈の隣で座っている立希は腕を組んでいたが、若干ホッとしているような顔をしてくれていた。まだ、何も誕生日であげたいものは決まってねえけど燈に相応しいものをあげてやりたい。この一年間待たせてしまったからこそ……。

 

「ん?」

 

 燈と会話をしていると、俺のスマホに通知が鳴る。

 誰だろうと思って、確認すると……。通知を確認してから、俺は声に出す。

 

 

 

 

 

「そうだったな、俺には見届けなくちゃいけねえ奴らがいるんだ……」

 

 そうか、ようやくか……。

 ようやくそのときが来たんだな、二人共……。

 

 

 

 

 

 

 

 

『お姉ちゃんとライブ、11月にやるから来て』

 

 

 

 

 

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