【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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訂正させてあげない

「ライブやるのか?」

 

『ようやくって感じだけどね』

 

 MyGO!!!!!の打ち上げを終えた後、初華に電話をしていた。

 夜風の冷たさが俺の肌に触れつつも、やってくるであろう11月の季節感を感じさせてくれていた。

 

『お姉ちゃんとライブをやるのは私の望みでもあった』

 

『全力でやるから、結人もちゃんと来てよね』

 

 これまでの対立の果てでようやく掴み取ることが出来た二人……。

 乗り越えたあいつらなら、きっとライブを成功させることができるはずだ。

 

『それじゃあ、電話切るから。あっ、愛音さん大丈夫だった?』

 

「ああ、あいつなら大丈夫だよ……ありがとうな」

 

 後ろへと頭を傾けながらも、言う。

 初華は何も言わないでそのまま電話を切った。俺はスマホをポケットの中に戻していると、隣にあいつが立ってくる。

 

「ねえねえ、ライブやるんだよね?あの二人」

 

 しゃぶしゃぶを食べ終えて、後で俺に話があると言ってついて来ていた愛音。

 しかし、本筋らしいものは語ることなく当たり障りのない雑談ばかりをしているうちに俺が初華に電話したいから待って欲しいと頼んだ。

 

「もう知ってたのか?」

 

「そりゃあ当たり前じゃん、こういうのはちゃんとチェックしておかないと流行に遅れちゃうし」

 

「愛音らしいっちゃらしいな」

 

 愛音風に言うなら、三角姉妹という一世一代のイベントを知っていることで話のタネにもなるということだろうな。こいつ、もうほとんどAve MujicaにもSumimiにもあんまり興味無さそうなのは突っ込まないでやるか。余計なお世話だしな……。

 

「流行といや、MyGO!!!!!のライブ。お前のファンサ良かったって結構言われてたよな?」

 

 事実を言うと、愛音が空を見上げる。

 

「あーうん、そうだったかも?」

 

「……ギターの腕もよかったぞ、楽奈と比べたら差はあるかもしれねえけどな」

 

 すぐに俺が訂正を入れると、愛音が空を見上げるのをやめて俺に笑みを浮かべる。

 その笑みには何処か複雑な感情も俺に見えているようにしか見えなかった。

 

「カラオケでも行くか?」

 

「え?」

 

「腹はさっきので膨れているだろうし、かと言ってあんまり人がいるところで話したくもねえんだろ?」

 

 なんとなくだが……。

 愛音が今どういう心境でいるのか読み取った俺が二人になれる場所を選ぶ。

 

「……えっと」

 

 何かを悩んでいる様子の愛音が地面を見つめた後で……。

 

 

 

 

「ありがとう、ゆいくん」

 

 俺の方を再び笑顔で見つめて来る愛音。

 そうだな、やっぱり愛音は笑っていてくれる方が俺も居心地がいい。

 

「気にすんなよ」

 

 愛音の隣を歩きながらも、俺達二人はカラオケ店の方へと歩き出していた。

 帰り道も違うのに、俺と一緒に帰りたいと言い出した時点で何か話したいことがあるのは察していたが、あいつは語ることができなかった。自分にとって形骸したいものなのか、話すべきなのか悩んでいるからなのかまでは分からないが、それでも今こうやって悩んでいる愛音を放置することなんて俺にはできなかった。

 

 

 

 

 

 個室に入る。

 夜という静けさを歩き続けた俺達にとって、ミラーボールの明かりは邪魔でしょうがなく切ると逆に部屋全体がモニター以外の音が完全に無くなっていた。これはこれで落ち着かないかもな……。

 

「んで?どうしたんだ?」

 

 テーブルの上に愛音の飲み物と俺の飲み物を置いてから言う。

 愛音はソファーの背もたれで寄りかかって座っている。しゃぶしゃぶの店にいたときとは大違いだ。

 

「あーそのさ……なんかこう自分と向き合うのって大変だなーって思ってさ」

 

「ギターのことか?それとも、自分自身のことか?」

 

 ポケットに手を突っ込んで、すぐに手を放す。

 ちゃんと出来てりゃいいんだが……。

 

「両方かな?楽奈ちゃんってギター上手いじゃん?」

 

「まあ、そりゃあそうだろ。バンドマンの孫だってのもあるだろうし、あいつ自身努力しているだろうからな」

 

 愛音はモニターの方に映っているバンドの方をただ見つめている。

 努力なんて言葉が愛音にとってどれだけ自分を見つめたくなるものなのかは分かってて言っているが、こいつが欲しいのは慰めなんかじゃない。とはいえ、どうやっても慰めになってしまうよな、正直。

 

「そうなんだよねー、楽奈ちゃんって天性のギタリストだし滅茶苦茶裏で努力してそうじゃん?ライブの後、振り返ったときにもしかして全然楽奈ちゃんに追いつけていなかったかもー?なんて考えちゃってさ」

 

「偉いな、愛音は」

 

 俺は表情を緩める、ちょっと意外だった。

 別に愛音のことを舐めているとかそういうわけじゃないが、もし愛音が自分で気づけたとしてもSNSとかで自分のエゴサをしていてとかそういうものだと思っていたし、もし自分が追いついていないと感じてもそこまで心配しなくていいや、振り切っていたはずだ。

 

「え?なんで?」

 

「ちゃんと反省できてるだろ?お前、俺に出会った頃は後先考えないで、俺のバイト先に来ていたくせに」

 

 ようやく、俺もソファーに座る。

 背もたれにほんの僅かだけ気を許しながらもリラックスした状態で……。

 

「あれはともりんの為だったから、それに私だってバンドやってるわけだしさ?何も考えないで、ひたすらギターを弾くのも悪くないけどどうせなら上手くなりたいじゃん?」

 

「だから、どうしても意識しちまうってことか?」

 

 愛音は無言のまま頷いている。

 無理もない話ではあるか、隣で滅茶苦茶ギターを弾く上手くて何よりも楽しそうで弾いている楽奈の姿を見ていたら、自分ももっと上手くならなくちゃいけないなんて焦りたくもなる。

 

「もう一つは立希に言われたことか?」

 

「ううん、ファンサやり過ぎとかじゃなくてもっと違うことなんだ」

 

「違うこと?」

 

 立希から言われたことじゃなかったのか。

 俺はちょっとだけ反省をし始める。

 

「バンドやってて思ったんだ、自分と向き合うことも段々増えて来て思うの。あー傷つくのが怖いとかじゃなくてさ、なんかこう留学の件を自分の中で受け入れることが出来たからさ、なんだかんだ自分で抱えているもとか受け入れちゃうのかなー?って偶に思うんだ」

 

 手に持っていたグラスを置いてポケットに入れてあったスマホを視界に入れるが、俺は弄ろうとはせず言葉を並べようとする。

 

「なら、俺からも言わせて貰ってもいいか?」

 

「え?なに?ゆいくん?」

 

「俺は……」

 

 

 

 

 

「今のお前が好きだ」

 

 堂々とこんなことを言い出した途端、完全に俺の中でモニターから流れている音が消滅する。

 まるで、それは自分の中で渦巻いている感情だけが聞こえてきているようだった。心臓の鼓動という一定のリズムが……。

 

「お前に一度キレたときも言ったし、新幹線の中でも言ったけどな。俺は滅茶苦茶強引なお前だから、引かれた。多分、普通に論じて来るタイプの奴だったら、俺の心は開くことはなかった。お前や立希達が居てくれたから、俺は心を開くことができた」

 

「お前がしてくれた行動があったから、今の俺があるんだ。だから、その正直に言えば、変わって欲しくねえ。千早愛音は……」

 

 

 

 

 

「千早愛音であって欲しいんだよ」

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 心が騒がしい、ゆいくんの隣に立つことは心臓が幾つあっても、足りないと思う。

 何度も経験したことだけどいつも直球でゆいくんはぶつけてくるから頭がおかしくなりそう。今回もそう、自分のエゴをぶつけてきてるとはゆいくん自身も気づいてるけど、恥ずかしげもなく言って……。

 

 いや、顔は赤くしてるから恥ずかしいは恥ずかしいとは思うけど。

 そういうところがなんか憎めないというか正直だからこそ、何も言えないんだけどただ一つだけ気になるところがあって……。

 

「お、おい!!なにしてんだ!!」

 

 ゆいくんがさっきからズボンのポケットで何かしていたのを見ていた。

 多分、あれは……。いや、多分とかじゃなくてりっきーと繋いでいるから今すぐ切らないとなんか複雑……!ちゃんと一人で解決しないようにしたのは前よりしっかりとしてると思うけど……!!

 

「じゃあね、りっきー!!」

『は!?ちょっ!!?』

 

 電話の相手はやっぱりりっきーだった。

 

「……お前、気づいてたのか?」

 

「ゆいくんなんかポケットの中弄ってるなーって思ってたんだ」

 

「はぁ……マジかよ」

 

 ゆいくんのことだし、こういうとき頼りにするのはりっきーだろうと思っていたけどやっぱりそうだった。さてさて、これで私の気持ちも晴れたことだしどうやってゆいくんの気持ちを受け止めてあげようかなー。

 

「ねえねえ、今の私が好きなんだよね!?」

 

「……そうだが?」

 

 二度目の確認をされて、ゆいくんの頬が赤くなっている。

 目線も徐々に天井の方へと向かって行ってる。凄く分かりやすい。

 

「今のお前じゃないと満「それは!!ダメ!!」」

 

「言い方がやばいって!?流石に今回ばっかりは辞書引いた方がいいって!!」

 

 危ない、危ない。

 このまま言ったら、絶対私の心が破裂するところだった。

 

「分かったよ、言い方選べばいいんだろ?」

「いや、なんかそれはそれで嫌な予感がするからダメ!」

 

「は!?なんでだよ!?」

「だって、ゆいくんまともに辞書も引けないじゃん!」

 

「今、それ関係ねえだろ!?」

「関係ある!!」

 

 前科持ちのゆいくんが言葉を選んでも、絶対変な使い方をしてくることは間違いなしだから。

 此処は私がなんとか堰き止めなくちゃいけない。私としても、此処が正念場……!だけど、あんまり持たなそうな気がする。だって、ほとんど身体密着している状態だし……!!

 

「つーか、せめて何か喋らせろよ!?」

「喋らせてるじゃん!?」

 

「ああ、まあそうなんだがややこしいな!!?」

 

 とにかく、この状況をなんとかしなくちゃまずい。

 このままゆいくんと密着状態になってたら、前みたいにすぐ顔くっつけようとしてくる可能性だってあり得るし。というか、近づいたの私だから私が悪いんだけどさぁ!!でも、普通に手とか触れまくってるから怖いんだって!!

 

「愛音……」

 

「な、なに!?」

 

 あーやばいやばい!!

 反射的に何とか言っちゃった。口塞げばよかったのに、返事しちゃったんだけど……!!

 

 

 

 

 

「俺の心を開いてくれてありがとうな」

 

 心の内側の中のものに触れたような気がしてた……。

 ゆいくんは穏やかな表情で私の方を見つめてくれている。選んだ末での言葉がこれなら、私にとって充分でしかなかった。だって、ゆいくんの感謝の言葉はどれも重くて、心臓が張り裂けそうになっちゃうけど……。

 

 

 

 

 

「どういたしまして!!」

 

 悪い気はしないから。

 これからも私は……私でありたいかなって思えたんだ。

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、ゆいくん!あのときと一緒に歌った曲歌おうよ!」

「いや、俺あの曲覚えてねえぞ」

 

「えー?歌詞覚えておいてよねーって言ったじゃん?」

「はぁ……分かったよ。あやふやでも怒るなよ」

 

 そこはゆいくん次第かなぁ……。

 端末でゆいくんと一緒に歌った曲を入れて、マイクを渡そうとしたときだった。

 

 

 

 

「悪い!立希に弁明してからでもやっぱいいか!?」

「えっ!?後でもいいじゃん!?」

 

「俺も後でもいいと思うし、あいつそういうの許してくれると思うけどなんかこう引っ掛かるんだよ!」

「いや、だから後でもいいじゃん!座ってよ、ゆいくん!!ほら、もう前奏終わっちゃうよ!?」

 

 いきなりゆいくんが立ち上がってスマホを取り出して個室を出ようとする。

 私も立ち上がって、ゆいくんを無理矢理座らせようとして二人で手を掴みあっていると、誤ってゆいくんの身体を押したのと同時に……。

 

 ゆいくんが私の身体を掴んで……。

 

 

 

 

 

 

「「…………」」

 

 背中にソファーの弾力さを感じる、モニターからはオケが流れてる。

 二人で黙り込んでしまう、構図が凄いやばいことになってる。

 

「さっきのどういたしまして……訂正してもいい?ゆいくん」

 

「じゃあ、俺もありがとうを訂正してもいいか?」

 

 ゆいくんの息が顔に当たってる。

 早く離れたいのに、早く離れたくてしょうがないのに……。というか、心が新幹線のときぐらいやばい。それでも、私はゆいくんと作ってしまった事故現場が……。

 

「えー?どうしようっかなぁ……うーん?」

 

 

 

 

 

 

 

「訂正させてあげない!!」

 

 

 

 

 全然悪くなかった……。

 

 

 

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