【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
「はぁ……いつまで経っても敵わねえな、あいつらには」
尻に敷かれているなんて言い方は語弊があるかもしれねえが……。
愛音との事故現場から離れてから、スマホを手に取って立希に電話をし終えて一安心していた。
「じゃあね、ゆいくん!」
「……ああ、じゃあな愛音」
ずっと手を振ってそうな愛音が見えなくなるまで手を振り返していた。
周りから見たら、どう見てもこれ……。
「バカップルだよな」
苦笑いをしながらも、俺は電車の中へと入って行った……。
『俺の心を開いてくれてありがとうな』
ゆいくんが言ってくれたことがいつまでも耳の中に余韻が残ってる。
あまりにも刺激が強すぎる内容だったから、出来る限り早く忘れたい。いや、ここまではよかったよ。この後の事故現場だけなかったことにして、お互いに言い合ったことだけを残しておきたいというか……。
「まあ、無理だよねぇ……」
スマホの壁紙を見る。
もう懐かしいスカイツリーで撮ったゆいくんとの写真。ゆいくんが言う、お前に助けて貰ったってのはアウトドアショップのときのことだけじゃない。スカイツリーのあの場面から全てが始まったというのもあるんだと思う。何気ないというか、ゆいくんの質問に答えていただけだったに過ぎなかった……かな。
『俺は言葉の持つ強さっていうものを信じている』
思い出してみたら、ゆいくんあの頃からお礼言ってばっかじゃん。
一緒にスカイツリーを来たときからというか、もうアウトドアショップの頃からずっと「ありがとう」ばっかでいつもお礼ばかりしてくれてる。くれたものというか、ほぼ事故みたいな現場ばっかりもので、悪くはなかったからこそ、私は訂正なんか絶対にさせてあげない。
「明日も頑張ろうっと……!!」
あれだけ褒められたんだったら、これからもバンドを続けて行こう。
そもそも、逃げ出すのは違うし飽きちゃうことも……あるかも?いやいや、そんなことしたらりっきーの怒りを喰らいそうかも。頭の中であれこれ考えながらも、駅のホームに辿り着いて立ち止まる。
「……ん?」
すごーく見覚えのある子が目に入る。
あのワンピース……間違いなく睦ちゃんだよね?あっでも睦ちゃんなのかな?モーちゃんだったら、間違えるの失礼だしなぁ……。
うーん、私も楽奈ちゃんみたいに見極める何かがあればいいのに……。
というか、楽奈ちゃんはどうしてモーちゃん達を見分けることが出来るんだろ?コツとか今度教えて貰おうかな……。あの二人共も仲良くなりたいし。
「あー睦ちゃんであって……え!?」
「え!?ちょっ、ちょっと待ってよ!!」
私と反対の方向を歩き出して、そのまま降りて行く睦ちゃん。
「えー?ど、どういうこと……?」
もしかして、モーちゃんだった?
名前間違えちゃったの嫌だったのかな?うーん?なんか違うような気もする?いやいや、こんなこと考えてる場合じゃないって追いかけないと……!
楽屋での海鈴ちゃんの声が頭の中で反復してる。
『モーティスさん、明日の仕事なんですが……』
明日も仕事がある。
こんなところで夜更かしをして、支障が出たら睦ちゃんや初音ちゃん達に迷惑をかけることになる。勿論、 駅のホームでこうしてながーく考えていたのは理由がある。
『燈ちゃん……ライブ、頑張ってね』
ライブを見に行くことはできなかったよ、燈ちゃん。
海鈴ちゃんがムジカのお仕事入れちゃってるから燈ちゃん達のライブを見に行くことなんて叶わなかった。お仕事をしている最中も頭の中で、燈ちゃんのことが心配でしょうがなかった。
分かってる、分かってるよ。
燈ちゃんだって強くなってる。あのとき、私に言ってくれたことが全てだった。燈ちゃんは私なんかとは違う。あの子はちゃんと強い。まだレゾちゃんのことが心の何処かであり続けていた私とは違う。
「やっぱり、会いに行こ……!」
もう一度会いたい、燈ちゃんに……。
会って話をしたい。この前のことじゃない、今の睦ちゃんの話をたくさんしてあげたい。睦ちゃんもこんなに強くなったんだ、凄いよね!って教えてあげたい。
駅のホームから走り出して、階段を一気に駆け抜けていく……。
電話をすれば、すぐ燈ちゃんと話が出来るなんてのは頭の中じゃ全然なかった。今の私にとってあるのは燈ちゃんと一刻も早く会いたいという感情だけもん。
「燈ちゃん!!」
息を荒くしながらも、家まで行って私はインターフォンを鳴らす。
わざわざ大きな声を出す。燈ちゃんの家の人は共働きだって言うし、夜も帰って来るのが遅いとか言っていたような、言ってなかったような。多分、迷惑じゃないはず!
「モーティス……ちゃん?」
いきなり私が押しかけて来て、燈ちゃんは驚いているようだった。
そりゃあ、当たり前でしかないよ。
「ごめん!今、大丈夫!?」
「大丈夫……だよ?」
軽く「お邪魔します」と言ってから、燈ちゃんの家に入る。
玄関を見ると、燈ちゃん以外の靴は置かれてある様子はなかったからちょっとだけホッとする。家族の人がいて、今更になっちゃうけど家族の人がいるのに押しかけて来たことになっちゃうもん。
「ど、どうぞ……」
「あーありがとう!牛乳飲みたかったんだよね!!」
部屋に入ったのと同時に、燈ちゃんから牛乳が入ったグラスを貰う。
結人君から教わったことを活かして、手を腰に当てて飲んでみる。うん、やっぱり最高な飲み方……!
「燈ちゃんもやろうよ!牛乳ってこう飲むらしいんだよ!」
不思議そうに見ていた、燈ちゃんに飲み方を改めて教えてあげる。
「え?う、うん……」
「ほら、一気一気!」
燈ちゃんも腰に手を当てて牛乳を飲んでいる。
いい飲みっぷりだなあって思いながら見てると……。
「げほ……げほっ!!」
「ああ、ごめんね燈ちゃん!大丈夫?」
「だ、大丈夫……」
背中を摩ってあげると、軽く何度も頷いてくれている燈ちゃん。
「難しい……ね」
「こういうのは気合だよ!燈ちゃん!!結人君が教えてくれたんだ!!」
「ゆいくんが……?」
結人君の話をしたら、私の方に目を合わせて興味を示してくれる。
燈ちゃんは私の話をちゃんと聞いてくれるから、本当にありがたいよ……!
「うん、結人君と箱根行ったんだ!睦ちゃんにはお参り邪魔されちゃったり大変だったんだよ!写真も撮ったんだよ!!」
「そう……なんだ」
スマホで撮った写真を見せると、燈ちゃんが徐々に顔を下げて行く……。
……ん?燈ちゃん?ショック受けてる?
もしかして……。
結人君って燈ちゃんと一緒に何処か一緒にお出掛けしてないの!?えっ、なんかこう俺一番燈のことが大切だよみたいなオーラ出してるのに、実は燈ちゃんのことを一番放置してるの……?え!?嘘でしょ!?
「あーえっと、ごめんね燈ちゃ「モーティスちゃんは……ゆいくんからどういうものを貰ったり……した?」
「貰ったもの……」
私はバッグの中を漁って、ノートを開いた。
見せるならこれが一番早い。燈ちゃんも気に入ってくれる。
「これは……?」
「睦ちゃんとの思い出が綴ってあるノート……!ここには結人君がくれたものだったり、燈ちゃんがくれたものも乗ってるんだよ?」
「私も……?」
ノートを一枚一枚開いて行く……。
睦ちゃんと私の合作ノート、燈ちゃんは一枚一枚丁寧でページを捲ってくれてる。偶に読む進む速度が遅くなったりしてじっくりと見てくれてる。真面目だな、燈ちゃんは……。
「ねえねえ、燈ちゃん気になるページある?」
「え?えっと……」
燈ちゃんは反応に困る。あーやっぱり、こうなっちゃうよねなんて私は笑みを浮かべてると、ある一枚のページで立ち止まってる。それはページ数的に私もよく知ってるページ……。
「共鳴……?」
純粋な言葉と疑問が私の中で刺さる。
そう、そこで書き記してあるのはレゾちゃんのことだ……。そして、燈ちゃんへ伝えなくちゃいけないことがある。このノートを見せたのは何も単純に燈ちゃんに見せたかったわけじゃないから。
「さっき燈ちゃん言ってくれたよね?ゆいくんから貰ったものある?って……。私はね」
「結人君は私に命をくれた人、生きていい。お前はずっと生きていいって言ってくれた」
「まだ生まれたての私に自分を教えてくれた存在だよ、燈ちゃん」
重いなんてもんじゃないよね、結人君。
ムジカの東京ライブのとき、ずっと思ってたんだよ。結人君が居てくれたから、私は生きていいんだってなれた。レゾちゃんが死んだことは悲しかった、みんなが死んじゃったときは辛かったんだ。いつか、自分もこうなっちゃうのかもしれない。
今の睦ちゃんは私のことを大事にしてくれていて、二人で進んで行こうと笑ってくれた。
それでも、いつか睦ちゃんが大人になったとき私の役割は終えて睦ちゃんの中へと消えてしまうような気がして怖いという感情は確かにあるんだよ、睦ちゃん。
でもね、私が言ったもんね。
『心があるじゃん!!』
ムジカの舞台劇で言ったこと。私はもう誰かの代わりでもない。
ちゃんと器の中に満たされるものがある。それだけで充分だったんだよ。
「ねえ、燈ちゃん」
過去から現在へと戻る。
握っていたグラスをお盆に戻してから……。
「ありがとう……睦ちゃんの力に貸してくれて」
燈ちゃんは無言のままで座ってる。
ノートをしっかりと手で握り締めてくれてる……。困ってるのかな?でも、本当のことだもんね睦ちゃん。背中を押してくれたことは……。
『私達は支えられて生きているから……!』
頭の中で分け与えられた勇気を思い出す。
MyGO!!!!!のライブを見に行って正解だった。行った理由は全然違う理由。祥のため、CRYCHICを完全に壊すため、行ったライブの中で私はあの場にいる誰よりも感銘を受けていた。楽奈や愛音のギターもそう……。
『それが私達だから……!!』
燈の叫びがあったからこそ、私はああして立ち上がることができた。
「ありがとう……燈」
「燈のおかげで……」
「私達は共鳴できた……から」
モーティスちゃんや睦ちゃんの声がしていた。
最後の方は睦ちゃんの声がしていた。睦ちゃん達がどうして私にお礼を言っているのかは……このノートに答えが載っていた。
『一緒にいたかったね、レゾちゃん』
『レゾナンティアはもう私達の中にはいない。いたという証だけがこの手には残ってる……』
涙で文字が滲んでいて、自分自身の喪失で悲しみに明け暮れていて、言葉に詰まってる。
『今日は結人君達と函館に行ったよ!おばあちゃん失礼な人だよね!!後、睦ちゃんは邪魔しないでよ!』
『願い叶って欲しい……』
『熱海行った、自分のファンに会うの新鮮な気分だった……』
『睦ちゃんのファンだなんて物好きだよねー』
多分、睦ちゃんやモーティスちゃんが結人君と一緒に出掛けたときの話……。
楽しそうな話で私も結人君と何処か出かけた気分になれていた。でも、そういうものばかりじゃなかった。睦ちゃんのことも書いてあって、全部が目に入って手が止まってしまいそうだった。途中のページにはこう書かれてあった。
『燈ちゃんは強いね、睦ちゃん。ライブ行けないのは超残念だけど、今の燈ちゃんならきっと滅茶苦茶凄いライブにしてくれるよ!あーああ、私も
『燈は強い、立希もそよも愛音も楽奈も……。私もライブ見に行きたかった、あの曲の完成形をこの目で見たかった気持ちはある。それでも、私は後悔はしてない。燈達のバンドの歌声や楽器の音は私達の中でも響いている……から』
二人の心の叫び、気持ちだった……。
一緒に乗り越えて来ているものがある。文字だけで何かに触れてしまうのはお節介なのかも……しれない。二人の話が乗っているノートを見てなんとなく触れることができた私が返したのは……。
「どう……いたしまして」
たった一つの回答……だった。
なによりも、私は見せたくなっていた……自分のノートを……。
二人なら笑ったりしないから。
燈ちゃん……。
答えの中で間が空いている。どう返せばいいのかなんて分からないよね。そう、あくまでも私達が勝手に言いたくて、話をしたかっただけに過ぎない。自己満足だし、話せてよかったとホッとしてもう一度座り直しちゃう。
「うん!燈ちゃんのおかげでもあるんだよ!!ほら、もっと結人君とか燈ちゃんの話を聞かせて!!」
「う、うん……!あ、あのねモーティスちゃん……!わ、私のも見る?」
「え?と、燈ちゃんの……?」
燈ちゃんが自分の机にあるノートを見せて来ようとする。
私は微妙に気まずい顔になってしまう。いや、興味なくはないよ。ただ燈ちゃんの叫びを見たら、私頭おかしくなりそうな自信しかないから見るのはちょっと怖いなーって言うかさ、どうしようかな!!?睦ちゃん、どうすればいい。
『私は……読みたい』
『えー!?読みたいの!!?』
『燈のノート興味……ある』
『織姫だとか彦星だとかの話したとき、読んだじゃん!?」
『今のは知らない、あの曲の完成形も知りたい』
『う、うーん……!!』
どうしよう、睦ちゃんが興味持ち始めちゃったよ。
此処は軌道修正を図って、燈ちゃんと結人君との楽しい思い出大作戦を実行しよ……あーもう電話五月蠅いな!!
「あーもうしつこい!愛音ちゃん!!」
「あのちゃん……?」
燈ちゃんの声が耳に入って、「ちょっと待っててね」と言うと愛音ちゃんの電話が掛かって来る。空気読めないなぁ、愛音ちゃんは……!!さっき無視したのは認めるけどさ……!
「愛音ちゃん!?なに!?」
『あー繋がった、大丈夫!?えっとモーちゃんだよね?』
「だ、大丈夫だけど……?」
『実は今、ともりんの家の前にいるんだけど入っても大丈夫?』
再び立ち上がって、私は愛音ちゃんに抗議の声を上げる。
「え!?燈ちゃんと内密の話してるの!愛音ちゃんの入る余地なし!」
「大丈夫だよ、あのちゃんいても……?」
「うっ……!」
燈ちゃんの許可下りちゃったよ……!いや、愛音ちゃんが此処に来たら、結人君とのろけ話をしてくる可能性が高い。本人は被害に合ってるとか言うだろうし、実際は顔が赤くて満更でもないみたいな顔してくるに違いない。普通にムカつく……!
「燈ちゃん、また今度ね!ノートまた見せて!」
電話を無理矢理切って、スマホをバッグの中に入れる。
「え?う、うん……」
そんな話をされた日にはこっちがおかしくなりそう。
普通に嫉妬しそうだから、そんな話聞きたくないもん!よしっ、帰ろう!燈ちゃんとはまた今度お話しよう……!荷物を持って、帰ろうとしたとき……。
「モーちゃん、ともりん、お邪魔しま──「私、帰る!」」
「ごめんってば!!!モーちゃ「モーちゃん呼び禁止!!」」
「実家に帰らせていただくもん!!」
「えー!?モーちゃんのこと追いかけて来たんだよ!?駅で慌てて走ってたから!」
言い返せない。というか、愛音ちゃんのせいで色々と台無しだよ……!
これだから、空気が全く読めない愛音ちゃんはさぁ……!一旦、お外出て空気吸って来よ……!!
「はぁ……」
呼吸をすると、白い息なんてものはまだ出ない。
そりゃあ、当然だよね。まだ10月。というか、あれから……。
「三ヶ月は経つんだ……」
睦ちゃんが私を受け入れてくれて、私も自分を確立したのが昔のことになるなんてのは嘘でしかない。ノートの書く速度が早過ぎて、なんかこういっぱい思い出が溢れているようにも見えちゃうんだと思う。
『モーティスちゃん、また一緒に遊ぼ!それでね、今度は犬カフェに行ったり二人で一緒にご飯を食べたりしよ!!』
私にとって結人君ぐらい大事な存在、まなちゃん。
おばあちゃん?おばあちゃんはほら、ツンデレだし……。電話したら、絶対グチグチ言われる。
「まなちゃん、出てくれるかな……」
スマホからまなちゃんの電話にかけてみて、コールが続いて行く……。
「あっ、まなちゃんお久しぶり!!」
『モーティスちゃん!?元気してた!?ご飯食べてる?お風呂入れてる?』
『最近、電話なかったから心配したんだよー!』
諦めようと電話を切ろうとしたとき、電話が繋がって私は足をじたばたさせる。
嬉しさが隠しきれなかったよ。だって、本当に久々だったんだもん……。
『あれ?モーティスちゃん大丈夫?』
あーもうダメだな、まなちゃんの声聞いちゃったらなんか涙出てきちゃった。
声返したいのに、返せないや。なんで泣いて……ううん、そうだよね。本当に嬉しくてしょうがなかったんだよね。こうやって電話してることも……。
「うん……大丈夫だよ!!」
元気でいられてることも……。