【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
『初華、二人がお見せしますのは二人が作り上げた舞台』
『その世界を存分に見せればいいんですわ!』
祥子ちゃんからの連絡が私の瞳には焼き付けられてる。
こうやって、応援してもらうのは島の日以来だろうか。自分の中で込み上げて来るものを実感しながらも、この場所で自分自身で時というものを実感させる。
「どうしたの?初華?」
「アイフラメ、祥子ちゃんから連絡が来たんだ」
スマホを見せつつも私は言う。
何度目の訂正だろうか。楽屋でもこのノリだから本当、参ってしまう。前の取材のときも、誰か聞き耳を立ててないか心配もあったけれど、この人は何も変わってない。いつも通り、それがこの人らしさでもあるんだけどさ。
「祥子ちゃんも見に来てくれるんだよね?」
「っそ、結人とかも来るはず」
もし結人が来なかったりしたら、蹴り飛ばすぐらいのことはする。
責任を自分で取ると言ってみせたんだ。そのぐらいはして貰わないと……。
「楽しみだね、ライブ」
楽しみ、か……。
ライブを楽しむという感覚は何も悪いことじゃない。寧ろ、私だって楽しみなのはそうだ。未来へと踏み出す為の一歩がこのライブでこうやく示されて、私達の未来を照らすライブとしても機能するのがこれなんだから。
「暁は消えて、彼方へと行こうとしてる」
ある曲の意味を引用すると、初音は目を瞑ってすぐ開く……。
「私は……未来を生きたい。それが今回のライブでもあるから」
返ってきた答えがそれだった。
そっか、初音はそう思ってくれているんだ。
「過去があるからこそ、私は初華と立ててる。だから、過去を否定するつもりなんかないよ?」
聞くまでもなかった。
島で見せてくれた久々の姉妹同士の日常があったからこそ、今となっては過去を切り捨てるなんてことを言うつもりはなかった。それでも、何故わざわざ遠回しのことをしたかと言われたら、そりゃあ勿論……。
「ほら行くよ……」
楽屋のソファーから立ち上がって、初音の肩を軽く叩く……。
「
覚悟を試したかったから、そういうものでしかない。
意地悪とか思われそうだけどさ……。
『最後じゃなくて……またやろ?』
『考えておいてあげる』
初華の言っていた一言はいつでも覚えてる。
逃げて来た私が唯一許されるとしたら、それは初華と同じ道を一度だけでもいいから歩いてみることだった。
『絶対、お姉ちゃんと一緒にライブやる』
『絶対にやろ、お姉ちゃん?』
改札口、二人で誓い合ったことは私を突き動かすための動力源だったんだ。
ライブはもう始まろうとしていた。11月なんてあっという間だった。
さっき肩を叩いたり、引用したりしていたのは私のことを試しているのは分かっていた。
だから、過去があるからこそと返したら、初華は満足そうに笑みを浮かべてくれていた。肩を叩く力も強くなくて、優しく穏やかなものだった。
初華にとって、このライブは初華が作ってくれた楽曲通りなのかも……。
『彼方』が何を指すかも、知っていた。暁のことが一緒に歌った『新しい暁』のことだってことも。初華は言わなかったが、その前の春のことも含んでいて、恐らくこれから見たいのは未来だと言いたいんだということも……。別に過去を否定してるわけじゃないんだ。だから、私は初華が楽屋を出ようとしたとき、迷わず一緒に出た。
共に生きたいから、共に行きたいから。
今はそれだけで充分だった、だからね初華……。
此処を一緒に立てること、それ自体が私にとって嬉しいことなんだよ。
初華はどうかな……?
ステージの上を立って、初華の表情を見る。パーカーの中で隠されていたけど、こう言っているのが聞こえていた。あの日みたいに……。
『足引っ張らないでよ?』
◆◆◆
照明が消えながらも、私は考えていた。
偶に思うときがある。
もし、過去の自分が今の私を見たとして、納得してくれるだろうか?いや、絶対無理だ。復讐だけを考えて生きてきた私が、こうして初音と仲良くしているなんて知れば激昂するのは想像しなくても分かるオチ。
そもそも、何処をどう間違えれば初音と仲良くなるなんてあり得るだろうか?
自分への自虐をしながらも、私はこの日を迎えてきた。納得できない、頷くことができない。
『お姉ちゃん……』
豊川邸で私がお姉ちゃんと呼んだときからもう運命は変わっていたんだ。
敷かれていた血飛沫のレールが別の方向へと進路変更されたことを知ったのが、後からなんてのは笑える話でしかないが、私は未来を掴むことができた。
だから、証明したい。
この楽曲で、全てを新しい人生の幕開けを……。
『
春も暁も違う、静寂もない。
私達の中で存在するのは、未来と言う名の今までの世界の外側でしかない。これからの世界のことなんて確定していない、だからと言って不確定とも言えない。誰も知らない未知なる領域でしかない。それでも、私達はこの境界を越えてみせる。見てみたい外側があるから、知ってみたい外側があるから。
箱庭が壊れて、私の中を形成していたものが消えたからこそ私はこの曲を作ろう。
『足引っ張らないでよね』
『……そっちこそ』
新幹線でのライブからもそうだった。
そして、もしかしたら私は心の何処かでいつかは……。
『大人になったら私とお姉ちゃんでアイドルになろうよ!!』
『うん!姉妹でアイドルなんていいよね、こうロマンがあって!!』
心の何処かでいつかこんな日が来るのかもしれないなんて淡い期待を抱いていたのは……。
初音と出会ってから、会ったのも事実……だったからこそ私はこの曲の曲名を物語の外側へと出る曲に仕立て上げたんだ……。
だから、後悔はない。
私がしてきたことの……。
寧ろ……。
此処まで来てよかった……。
楽屋を出るとき、初華に何も言わなかったのはこの一曲のことを知ってたから。
『Jenseits』の曲名と歌詞を聞いたとき、テンポは遅めでもなく、速くもない。盛り上がりはないかもしれないけど私達にはピッタリな曲だと思っていた。決意めいた意志じゃなくて、あの日を越えてみたいという好奇心の曲。
この曲のことを初華は多くは語ってくれなかった。
ただこうは言ってくれていた。この曲は私達の知らない私達がいる場所へと到達する曲だって……。なら、私はこう望みたい。罪を背負った上での人生の外側を歩き瞬間、そのものを……。
もしかしたら、睦ちゃんや結人のようにこの先も私自身がして来たことで苦しんでしまうことも多くなることもある。それは私が死ぬまで変わることがない、自分自身の罪と罰だから。それでも、私は飛び立ちたい。
新幹線のときだって、そうだった。
二人で小言を言い合いながらも、息ぴったりのライブを実現してみせた。今だって、そう。事情を知らない周りから見れば、どうして息ぴったりなのかもすら分からない。なんでこの二人なのかも知らないと思う。自己満足だとか、自己肯定感を上げる為だとか、謎コラボとか言われても私は此処で立ちたかった。
初華として、初音として、ドロリスとして存在を賭けてこうして立ち続けている。
だからこそ、後悔なんか何一つない。これでいい、これでいいんだよね初華。
見たかった景色はこうして広がってる。
ステージの上で広がってるんだ、二人で子供の頃思い描いていたあの景色は……!!
「ありがとうございました!!」
最後の一曲を終えて、大きく声を張り上げつつも、隣の初華が軽くお辞儀をする。
パーカー越しの視覚の中で観客席の方を追っていて、私も結人達のことを探そうと観客席の方へと目を向けようとしたときだった。
「え?」
暗転していきつつある空間の中でのことだった。
空気が張り詰めそうになる。一番最初、一番最初で目で止まっていたのは……。
「どうしたの?初音」
立ち止まっている私を見て、初華が小声で話しかけて来る。
「いる……」
「誰が?」
「豊川定治……」
「は?あいつが?」
どうして?
どうして此処にいるの?もう……会わないんじゃなかったの?どうしてこのライブを……。
見に来てくれていたの……?