【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
「はぁ……はぁ……!!」
来ていたのだとしたら、聞いてみたかった。
どうして来てくれたの?もう会わないと決めたんじゃなかったの?最後会ったとき、私のことをそれでも愛していると言ってくれていた。もし、それが本当のことだったとしたら私はどうすればいいんだろうか。この感情を何処へ向けてしまえば、いいんだろうか。どうすることもできない、会えたとしても私は何を言えばいいのか分からないから。
「初音……」
後ろから、初華が追いかけてきている。
ステージを出てすぐ楽屋まで走っているから、周りの人達からは疑問を向けられている。そんなことは知っていても、私は知りたくてしょうがなかった。
「あれって……」
スーツを着ている人物が目に入って、私はすぐ豊川家の人間だと気づいた。バッジのようなものを付けていたから。
「三角初音でございますね?定治様より、お手紙をお預かりしました」
「手紙……?」
奇怪なものを見ているかのような声を出している初華。
私は豊川定治からの手紙を受け取る。白の無地で至って普通の手紙だった。
「それでは失礼します」
「待ってください、あの……お父さ……定治さんはなんて?」
豊川家の人間を立ち止まらせて、聞きたいことを確認する。
「お父様は此度のライブ……」
「とてもよかったと語っておられました」
去って行く……。
言い残して、去って行く……。私の手元には手紙だけが残されて、自分でも自分の気持ちがどういう状況なのか感じることができないままいると、初華が話しかけて来る。
「読むの?それ」
「……読むよ」
初華が言いたいのは多分こういうこと。
読む気がないなら、読む勇気がないなら読まない方が賢明でしかない。私にとっても、初華にとってもこれを読むということはもしかしたら、自分が知りたくもない情報が出て来るかもしれない。豊川の闇なんてものを触れるかも、そういう心配をしてくれているんだ。
覚悟なら決まってる。
豊川定治のことを追いかけようとした時点で……。
「場所、変えよ?初華」
「そうだね、お姉ちゃん」
此処で読むのもおかしい。
私達は一旦楽屋の中へと戻ってから、あれやこれや色々と撤収の準備をして数時間ぐらいが経った後のことだった……。
「開けるね」
ライブ会場から少し離れて、見えたベンチを二人で座って私は手紙を開け始める。
手が震えてる、覚悟ならあったはず。それでも怖かったんだ。この手紙を読んでしまえば、何かが変わることが……。
寒さで震えている訳でもない、手で手紙を読み上げていく……。
『初音、初華……。私は今回のライブを受けてどうしてもお前達二人で改めて話しておかなければならないことがある。今更、こんなことを言っても戯言しか聞こえないだろう、だがどうしても話しておきたかった』
『お前達姉妹のライブは見事と言わざるを得ない。照明や演出で誤魔化しているだけではない、お前達二人が心を、魂を込めて一節一節ごと歌っているのが届いていた。私からすれば、耳が痛い話かもしれないがそれでもこのライブを見届けて正解だったと確信が出来ていた。何故なら……』
『運命を乗り越えることができたからだ、豊川という血筋を乗り越えた結果お前達は巣立つことが出来た。もう闇の中の住人ではない、お前達姉妹は自分の未来を突き進めばいい。最後になるが、二人にしてきた数々の行いを改めて詫びさせて欲しい』
『申し訳なかった』
手紙は此処で終わっていた……。
読み終えて覚えた感情を処理することなんてことはできない。自分がどういう状況なのかは分かってる。口にしたり、言語化したりするのが難しくて仕方なかった。なによりも、自分がこうやって葬られたはず側の人間だからこそ、どういう気持ちでいればいいのか……納得すら霧の中だった。
「はぁ……」
ベンチから立ち上がった初華が、パーカーのポケットの中に手を突っ込む。
溜め息をついているのは呆れているみたいだった。
「勝手だね、あの人」
「……そうだね初華」
「運命を乗り越えた?あいつらが枷を掛けたんじゃん。よくもまあ抜け抜けと平然と綺麗に並べて言えるよね」
初華は舌打ちをする。
棘こそあれど、初華の言っていることは正しかった。初華は豊川家の一番の被害者でもあり、私は壊してしまった妹。顔にははっきりどうでもいいし、興味ない。今にも、手紙を破り捨てそうな勢いだった。
「よかったね」
「え?何が……」
何がよかったんだろうか……?
状況が呑み込めず、続けて聞こうしたときだった。初華は私の手を握ってくれる。冷え切っている手で何処か努力を感じさせてる硬さの指先が私の中で触れつつも、初華は続けて言う……。
「愛されてて」
「……え?」
不意の初華の発言が私の心を強く掴む、愛されてた、私が……?
初華の言葉が心を強く結ぶ鎖へと変化しようとする。私が愛されていたことなんてあっただろうか。私はいつだって、豊川という影の中で生き続けることしか出来ない。この先もずっと、初華や豊川家のことで怯えて生活しなければならない、それが私の人生だったはずだった。
「お姉ちゃんはさ、心とか魂を込めてるとかそういうものが伝わった。こういうのはありきたりだけど、そう思ってなきゃ絶対書こうとはしない。手書きなら尚更そう。だから、お姉ちゃんは愛されてた、闇の中で生きなくてもいいもそうでしょ?」
「愛人の娘ってのもあるかもしれない、だとしてもお姉ちゃんはちゃんと愛されてたんだよ……。ごめん、愛人は余「……ありがとう、初華」」
愛人の娘がどういう意味を指していたのか……。
初華は茶化したと言うよりも、家族から愛されず育ってしまった自分があるからこそ何処か羨ましいと感じてしまっていたんだ。だから、私は言いたかった。心が温かい妹への一言を言いたかった。
「私の隣を立ってくれて……」
「私の妹として生まれて来てくれて……」
「ありがとう」
色々言いたかった。
色々と感謝を伝えたかった。曲を作ってくれたことやライブのことを真剣で悩んでくれたこと。父の手紙の想いを初華なりに翻訳してくれたことが嬉しかった、心が温かくなった。父の手紙はどう扱えば、どう受け取ればいいのか自分だけじゃできなかった。初華が居てくれたからからこそ、私は……。
『そっか、そうだったんだね』
島でのことを今更、思い出す。
あそこをまだ牢獄だと認識していた頃の私を……。
『仲間……居たんだね』
私も……。
私にも居たんだよ、最高の妹が、最高の仲間達が……。もうあのカラスを羨むだけの人生じゃない。私だって、巣立つことができた。自分の足で……。
自分の意志で……。
立ち続けられてるから……。
もう一つの影を包みつつも、私は実感する。この瞬間を……。
重たいな、重くてしょうがない。
抱きついて来てるし、しかも力が強い……。
生まれて来てくれてありがとう、か……。
そっか、そうだよね。お姉ちゃんもちゃんと覚えてくれていたんだ子供のころ、夢見ていた理想のこと。馬鹿げた理想でしかないと嘲笑っていたときもあったはず、お姉ちゃんを恨んで来たときは少なくともそうだった。復讐のことしかなかったから。
『私のことは一生許さなくてもいい』
『私もこの罪から逃れるつもりはない。前へ進んでいくことをやめたりしない』
この心が語り掛けてくれている、家族の中でも向き合おうと一生懸命だった人のことを……。
『三角初華として生きていた偽りの人生を……!!」
何処か心の中でそのことを忘れてしまいたい、見なかったことにしたい。全部が全部真っ赤で染まっていた時期が長かったからこそ、恥ずかしいからとかそういう理由もあった。でも、嬉しかったこともある。ライブをやれたことじゃない。もっと別のことで……。
「お姉ちゃん、私ね嬉しかったんだ」
「アイフラメをアイドルとして尊敬してくれる、妹として尊敬してくれていることも全部含めて嬉しかった。あの頃みたいで無邪気で笑うことなんて出来ない、それでも私は……」
「お姉ちゃんの妹でよかった」
「こっちこそありがとうお姉ちゃん」
新幹線のときから私はお姉ちゃんのことを認めていた。
だから、私は切り捨てることなんてしなかった。もし、次があったとしてもアイドルとして成熟したときとか言っていたが、私の中でとっくに……。
「妹として生まれてよかったよ」
お姉ちゃんのことなんてもう認めていた。
豊川邸で見たお姉ちゃんの姿があったからこそ……。
次の日、初音に頼んで東京での買い物を付き合って貰っていた。
「なに笑ってんのお姉ちゃん?」
「あっごめんね」
微笑ましく笑っているお姉ちゃんの姿が目に入って、私は目を細める。
絶対、自分と買い物したかったとか思い込んでる。事実だけどさ……。
「そういえば、昨日のライブ祥子ちゃん達来てたんでしょ?」
「うん、来てたよ」
話を変えるため、私は祥子ちゃん達の話をする。
会場から見た感じではムジカの全員は来ていたのを覚えていた。なによりも、祥子ちゃんからはライブの感想連絡とかは来ていた。意外だったのはにゃむさんからも来ていたこと。
『意外とやるじゃん』
『そりゃあ、どうも。女優としての祐天寺にゃむにも期待していますよ』
『一言余計だっての』
嫌味を込めて贈ると、既読だけ付いて何も返して来なかった。
あの人はあの人で女優としても動画投降者としても頑張ってはいるみたい。睦さんとかに比べたら、まだだろうし本人もストイックそうだからこれぐらいの方がやる気満々のオーラが出るはずでしょ。
にゃむさんの背中を後ろから蹴り飛ばしたようなことをしていたのを思い出していると、初音がスマホを見て笑い出す。
「どうしたの?」
初音はそのままスマホを見せて来ると、スマホの中にはまなさんが「ドーナツ奢るから事務所来てね!」という連絡だった。あの人らしいと言えば、あの人らしいが変わらないまなさんらしさを見て私ですら笑いそうだった。
「お姉ちゃんの相方、最高だね」
「うん、まなちゃんは最高の相棒だよ」
「相棒って自分で言っていて恥ずかしくならないの?」
「初華がそれっぽいこと言い出したんじゃん」
拗ねる姉が面倒だと感じてしまうが、愛おしさすらあるのは姉だから。
実際、ああいう人がお姉ちゃんの相方だからこそお姉ちゃんも何処か救われている部分もあったのは確かなことのはず。そこは否定するつもりはないし、なんなら……。
「じゃあ、家族と言う意味合いでは私がお姉ちゃんの相棒だね」
恥じらいはあったが、悪い気分じゃなかった。
家族においてお姉ちゃんの相棒を名乗れるのはこの世で私しかいないんだから。
「相棒か、じゃあよろしく頼むね初華」
「なんか馬鹿にされてるような気分になるけどさ……じゃあさ家族としての相棒として今日は奮発してよ、お姉ちゃん?」
「もー?しょうがないなあ……今日だけだよ」
「じゃあよろしくね……」
「
恥ずかしさの方が上回ったなんてのは絶対内緒。
だって、言ったら余計恥ずかしくなるしお姉ちゃんは結構意地悪な性格だからそういうところを指摘してくる。今だってほら……。
頬を緩ませて語り掛けてる。
楽しいかって?そんなの決まってるでしょ。
楽しいに決まってるよ、お姉ちゃん。