【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
もうかなり昔のこと……。
私がいつもみたいに公園で虫を探しているところだった。お母さんに注意をされて友達を誘うのは幼稚園の頃でやめていた。少し心が寂しいという気持ちはあった。そう感じたのは、自分の好きなものを共有できないからなのかもしれない……。人とズレていると感じていたからなのかもしれない……。でも、その歪みを……歪さをそのままでいいと見せてくれていたのが結人君だった。
『じゃあな高松……!!』
あの日、公園で初めて結人君出会ってお別れしたときのことはよく覚えている。結人君は大きく手を振りながらも帰って行く姿を彼の背中が小さくなるまで見送っていたから。近しい人なのかもしれないと感じ取っていた。同じように星を眺めるのが好きで、同じように星に対して情熱を持っていると思えたのかもしれないから私は結人君に名前を聞いていたし、次の日あの場所に行って結人君に話しかけたのを私自身……。
そんな私は結人君のことを頼りにしていた。
山の中で一緒に虫取りをしに行ったときは結人君が手を繋いでくれて私が迷わないように一緒に歩いてくれていた。獲ったカブトムシだったり、クワガタだったり蝶だったりをお互いに見せ合いっこして昆虫の話をするのが凄く楽しかった。森の中で二人で寝そべって二人だけの話をするのが本当に楽しくて仕方なかった。
「結人君……その……どうして……いつも……私を助けてくれるの?」
小学六年生のとき、結人君は私が隠れてダンゴムシを集めているところを見られてしまって男の子に「気持ち悪い」と言われたとき、結人君はその男の子に対して何も言わなかった。私に「気にしなくていいからな」とだけ言っていたけど、私の手を握っていない方の拳は強く握られているのが見えていた。
「理由は特にないんだ、俺は助けたいから燈を助ける。多分それで燈を不快にさせてるときもあるかもしれない」
「私は……結人君に助けてもらって不快に感じたこと……ないよ」
「……ありがとうな。でも、偶に思うんだ、燈に自主性を持たせるのはいいかもしれないけどやり過ぎだとか過保護なんじゃないのかってさ……。それに燈は凄いじゃないか。自分の意志でバンドを始めて今こうして羽ばたこうとしている。それって一歩ずつ踏み出して歩けている証拠だろ?俺は本当に凄いことだと思う」
結人君は私がバンドを始めたことを凄く褒めてくれた。
祥ちゃんにバンドをやろうと言われて、そのままフワフワとした形でバンドを始めてしまっていた。それでいいんだろうかと最初は思っていた。何にも目的がない私がバンドを始めていいのだろうか?と……。その答えはバンドをやっているうちに分かった。CRYCHICがCRYCHICであって、一つの形となってみんなとやるということが本当に好きだった。
その頃からだった。
結人君とはあまり会わないようになったのは……。連絡自体はよく送っていたりしていたけど、それでも私は結人君と一緒に帰るとき以外彼と会う機会がかなり減り始めていた。きっとこの頃から結人君は私に対して劣等感を募らせていたんだ。
だから、あのときあんなにも感情がぐちゃぐちゃな表情をしながらも私に劣等感を抱えていたと打ち明けていたんだ。自分に対する怒り、憎しみ。そういった負の感情が結人君には雨のように降り注いでいたんだ……。
『もう少しな気がするから……』
愛音ちゃんの前で言ったあの言葉……。
結人君にとって私との繋がりという線は切れないものだということはあの買い物袋の中身を見てよく分かった気がしていた。私は勝手に結人君が言っていたあの言葉、『大切な友人でした』という言葉を過去形で捉えながらも涙を流しながらも自分が結人君にとって大切な人であれたことが嬉しかったけど、今は違うような気がしていた。
きっと結人君にとって私のことを過去という意味だけじゃなくて今でもこれからでも大切だということには変わらないからこそ結人君は私の体調を気を遣ってくれていた。本当にもう過去の人としか見ていないのなら私のことを看病してくれたり、心配してくれたりしてくれない。結人君の中でもきっと苦悩している心があるんだ。
だったら、私はその心を……悩みを繋ぎ止めたい。
永遠なんてないなんて思っていた時期もあった。傷つくのを恐れて彼に連絡することも会うこともしなかった時期もあったけど、もう傷つくことは恐れたりしない。怖くてしょうがない、勇気を出すことは震えるほど辛い。それでも私は自分が後悔したくない。結人君が私を導いてくれていように……。
今度は私が結人君を助けたい……!!
◆
いつものように学校が終わり、放課後を迎える。
俺はこの学校ではもう一人となっていた。自分が選んだ道だ。後悔はなかった。誰にも頼られることはなく、誰にも助けを求められることはなくなった。包み隠されていた俺という人間が露出したことによって先生も他の奴も俺に絡んでくることは全くと言っていいほどなくなっていたが、俺の心の中ではぽっかりと穴が開いていたような感覚があった。
燈に関してだってそうだ。
燈を看病するなんて必要はなかった。愛音に任せて俺はあの場から去るということも出来ていたはずなのに俺はその選択を取ることが出来なかった。もしかしたら、自分が思ったより俺という怪物は未練というものを抱えて込んでいる怪物なのかもしれない。どうしようもなくて愚かで馬鹿で他人のことを傷つけることしか出来ない無能な時点で俺は怪物という名に相応しいにも程がある。
窓ガラス越しから見えている俺の表情は自分のことを自虐するように笑っていた。
きっとそれで安心感を得ようと必死になっていたんだろう。本当に哀れとしか言いようがない、俺は椅子を少し引いてから立ち上がってカバンを持って、椅子を軽く音を立てながらも机の方へと戻して俺は教室を出て、下駄箱を目指す。
教室から出て廊下を歩いている間、楽しそうに話をしている奴らを見かける。
そいつらはきっと仲の良い関係なんだろうと不要な感情を抱えながらも俺は心をモヤモヤとさせていた。その感情はまるでファイルにプリントを何枚も詰め込んでいるかのようで、俺の感情がぐちゃぐちゃになってしまっているというのが自分でも分かってしまっていたからこそ俺は醜くて弱い自分が嫌になりそうになりながらも溜め息をついていた。
「騒がしいな……なんかあったのか」
下駄箱から靴を取り出して昇降口を出ると、校門の方で騒いでいる声が聞こえる。
誰かが揉めたりしているのだろうか……。まあ、俺には関係のないことだ。知らない人のフリをして帰るとしようとしていたときだった。俺の耳にこんな声が聞こえてくる。
「なんか校門で女の子が誰かを待っているらしいぜ、小動物みたいで結構可愛らしい子なんだけどさ」
言い方はアレだが、ほぼ男子校で飢えた狼の如く女子生徒に飢えている男子生徒が多いこの学校を待ち合わせにするなんて馬鹿な奴もいるもんだなと俺は阿保らしくなりながらも歩いていると、また声が聞こえていた。
彼女の容姿と思われる話をしているようだ。
その女子生徒の容姿は聞いているとき、俺は一瞬足を止めてしまっていたが、「そんなまさかな」となって俺は足を動き始めて校門を出ようとしたときだった。
そこには……。
「とも……」
燈の名前を呼ぼうとしたとき俺はその名前を呼ぶのを止めてしまう。
まるで歩みを止めてしまうかのようなその行動は俺にとっても正しい行動なのかどうかすら分からなった。俺は自分自身に彼女に話しかける資格はないと言い聞かせて俺は校門を出ることにした。
だが……燈はその次の日も俺のことを……。
待っていた……。