【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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痛みを知りたかった

 大切なものを大事にはこの手が一番掴むことができる。

 勿論、掴めないからこそ輝くものも多いのは事実。但し、俺の場合は……。

 

 

 

 掴むことが出来ていたものを掴むことすら放棄してしまった。

 これで何度目だろうかとか数えるのはしなかった。前日から体調が悪かったとはいえ、俺が体調管理を怠っていたのはそう。

 

「……」

 

 視界には机の上に置かれてある父さんがくれた『呪物』が目に入る。

 いっそのことパワースポットに行っちまったから、変なものを貰ってきちまったなんて言い訳ができればよかったが、生憎そういう類のものをする気も起きなかった。余計、自分を壊したくなって、消せない傷を増やすだけでしかないからだ。

 

「クソが……」

 

 吐き出したものは誰へと向けたものかすら分からねえ。

 自暴自棄となってしまって、正気でいることが不安で狂気を纏いたいという想いでもあるのだろうか。くだらねえ、俺はスマホを手に取りつつも、部屋という呪縛から一旦出る。こうやって、部屋で安静しているよりも動いている方が余計なことを考えず済む。部屋全体が思考を呪わせる場所としか言いようがねえ。

 

『燈のこと……悲しませないで』

 

 立希からの連絡が脳裏を過る。

 行かなくてよかったのだろうか。俺が行っても、気を遣わせてしまうだけだ。だから、俺は燈に行けないと断言した。これが最善かと言われたら、多分違う。取れる選択肢は一つしかなかった、誠実でなんて今更言うつもりもないが、去年のことがあったからこそ俺は嘘をつくわけにはいかなかった。

 

 部屋を抜け出しても、出て来る感情は後悔ばかりの連続だった。

 星と星が繋ぎ合うみたいな感情に俺は自分の中でも苛立ちを覚えながらも、リビングの方までたどり着く……。

 

 身体が重い。

 咳も止まらねえ、思うように声が出ない状況の中で動くなんて自殺行為でしかねえ。思考を止めたくて仕方なかった。呼吸をして、冷静になろうとするが熱のせいか胸のざわめきが止まってくれない。森のざわめきは風情があっていい、気持ちいいとか考えられるのに自分のは雑音でしか聞こえなかった。

 

 うんざりするほどの思考の数々を止めるため、水を飲むという行動をする。

 力が上手く入らない、さっきまで寝ていたせいか視界がやけにぼやけて見えてしまう。そんななかでも、ほんのわずかの日常を体現しようとして、水を飲んでいると玄関の方へと目を向けてしまう。

 

 

『楽しみにしてるね』

 

 幻だ、都合がよすぎる。

 俺が来れなかったからってあいつの方から来てくれるなんてことを思いこんでしまうのは、あまりにも烏滸がましい。そんなことばかり考えているから、こうやって体調を崩すんだ。訳も分からない理論で風邪になった。くだらなくも、無意味な行動をしながらもやっぱり、俺には考え過ぎだということができなかった。

 

『一緒に前に進んで行こう?結人君?』

 

『結人君のことを人間にしたかったから』

 

 燈なら、燈ならこういうときどうだ。

 手を伸ばしてくれた、俺の不安をその手で払い除けてくれた。

 あいつは勇気も、決意もある。行動力だってある。そりゃあ、人から見たらあいつの行動なんてのは人の歩幅よりも小さいが、踏み歩いて行けば大きな一歩と繋がる。だからこそ、燈ならこういうとき絶対来ると分かってしまうんだ……。

 

 

 家の扉の鍵を開けていて、扉が開こうとしていた時点でもう気づいていた。

 来たんだ、どんな存在よりも誰かを灯すことができる存在が、大きな地点まで辿り着いてここまで来てくれたんだ。

 

 そうだよな、燈……。

 そういう奴だったもんな……。

 

 

 

 

「来てやれなくてごめん」

 

 

 

 

「……遅くなったな」

 

 冷たさはなかった。

 冷たさなんて存在しなかった。

 

「16歳の誕生日おめでとう」

 

 人の言葉ってのは触れることはできない代物だ。

 自分が発したとき、その意味をようやく分かることができる。自分で来るとかほざいてたものを来れないとか言い出した奴がこんなことを言い出すのはおかしい。

 

 だとしても……。

 

 

 

 

「ありがとう……」

 

 充分でしかなかった。

 俺がちゃんとあの頃から前を進めている。人の心を用いることができている。立ち尽くすことなんてもうしなくていいと納得できたんだ。

 

「ゆいくん、中入ってもいい?」

 

「ああ、大丈夫だぞ」

 

 来てくれた以上、移したら悪いなんて言える訳なかった。

 燈が靴を脱いでいる間、部屋に戻って俺はあるものを取りに戻る。本当だったら、燈の家で渡す予定だったものだ。俺は袋を握り締めて、そのまま俺はリビングで待っていた燈のところに戻る。

 

 リビングの方へと戻ると、燈がそわそわしている。

 その姿を見て、何故か俺は日和り始めてしまう。落ち着け、燈だって何かを渡そうとしてくれているだけだ。意識し過ぎると、返って何も渡せないで終わるとかいう大事故が起きる。ようやく、吸うことができた呼吸のなかで、静寂を突き破ったのは……。

 

 

「燈!」

「ゆいくん!」

 

「あーその燈からでいいぞ」

「え?え?ゆ、ゆいくんからでいいよ……?」

 

 本日の主役は燈だ。

 なのに、俺から先に渡そうとはせず燈のものから貰おうとする珍行動をしそうになったのは熱が熱で上乗せされてしまったことが大きい。熱がなかったら、もっと大変だったろうがな……。

 

「じゃあ、俺からでいいか……?」

 

 リビングのテーブルの上で袋を開け始める……。

 一つ一つ取り出して行くと、燈は目を瞑っているようで楽しみにしてくれていることが俺にも届いていて、笑みを浮かべながらも俺は……。

 

「目、開いていいぞ」

 

 俺が燈に目を開けていいと言うと、燈は徐々に目を開け始めて行く……。

 一つ一つを噛み締めるようなそれらは、俺の中の心臓の動きが早くなるばかりだった。

 

「インクとペン……?」

 

 そう、そこにあったのは……。

 燈が話していたようにインクとペン。但し、意味が込められているもの。俺はテーブルの上をそっと指で擦ってから、自分の身体が動いているという実感を沸かせながらも言う。

 

「11月22日の星言葉はへび座ρ星『果敢にチャレンジする意欲』。そして、燈の星座であるさそり座の一等星である『アンタレス』にはこういう星言葉がある」

 

 

 

 

「内面を見つめる瞳ってのがな……。この二つの星言葉は燈を表してくれてるって思うんだ。ひたむきながらも、熱を持って前を見る。まあ、内向って奴なのかもしれねえが、燈には自分の道を探そうと頑張った、その結果は俺達がよく知ってる」

 

 燈は小さく頷いている……。

 燈と俺が出した答え。いつか人の死は訪れる。目を閉じても、その真実は変わることはない。俺達ができるのは死ぬと知っていても、永遠が続いて欲しい。隣に立ち続けるというのが答えだ。だからこそ、贈り物はこれでいいと決めていた。

 

「燈は書くことで自分を表現する。何かを表現するってのは言語化が難しいし、時には自分の首を絞めることも多い。考えなくてもいいもの、到達しなくてよかったものまで踏み込んで深海の底へと沈んじまう。そうなったら、人は戻るのが難しくなっちまう」

 

「答えが出なくても迷子でもいい迷子でも進めと言える、燈にエールを送りたい」

 

()()()()、ちゃんと俺もついているから。このインクとペンはお前のその綴って行く物語を描くものとして使って「ゆいくん!!」」

 

 俺の瞳が天井の方に動いて行く……。

 ほんの数秒程度でしかないこの行動の後で背中には激しい痛みが伴っていたが、何も言うことはなく燈は俺のことをまた抱きしめてくれていた。ちゃんと、ちゃんと伝わっていたんだな。あのインクとペンが意味することは……。

 

 なら、俺はそれだけで充分だった。

 これからも俺は……。

 

 

 

 

 燈と共に…‥星々を綴りたいから……。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 嬉しさを覚えつつも、結人君の話していることは何もかも伝わっていた……。

 何かを描くということは結人君から見たら、意志だと思う。何かを書き記す度に、自分の感情を知って行く。自分の中で雷鳴が降り注いだり、向き合おうとして悲しくなってしまうことはよくある。

 

 結人君の温もりを感じつつも、結人君がくれた贈り物について深く考える……。

 黒を含んだ深みのある赤のインク(アンタレス)、青くも白くもある青白色のインク(へび座ρ星)。インクが入った瓶には、それぞれの星座の名前が書かれていて、ペンの方にはカシオペア座の星座が彫られている。これは結人君が全部作ってくれたんだ。

 

 自分の心が満たされてしまう。

 心の器が大きな泉になっている……。なによりも、この心が清らかな流れにしてくれていたのは……。

 

 

 

 

『そうか……頑張れよ』

 

 過去の儚さは一つの言霊となって消えて行った。

 私達の道を完全に分断してしまった。何も見えなくなって、俯くことしか出来なくなったあの日から、私はどれだけ進むことが出来ただろうか……。自信はない、傷ついてしまうから。飛び立とうとして飛び立てなかった人生はもう存在しない。

 

『頑張れよ、ちゃんと俺もついているから』

 

 隣で……。

 隣で変わらないままでいてくれている。証をつけるには充分な理由だった、彼の腕に……。

 

「クジラ座の星言葉、覚えて……る?」

 

「覚えてる、人の痛みを感じられる心だろ?」

 

 覚えててくれていた。

 結人君の手に付けたのは……くじらの尻尾を模したブレスレット。くじら座のブレスレットは難しかったから、結人君にはこういう形になってしまった。作ろうにも作れなかったから、不安だったけど……。

 

 結人君は抱きしめてくれる力が強くなってる。

 呼吸と呼吸同士が近くて、目を合わせることができない……。

 

「ありがとうな、燈」

 

「ううん、ゆいくんこそありがとう」

 

 お互いたどたどしい言葉ばかりが続いて行く中で……ようやく目を合わせた私は結人君が付けてるマスクを引っ張ってそのまま……。

 

 

 

 

「好きだよ……結人君」

 

「移るぞ……風邪」

 

 唇には残っていたのは感触だけだった。

 結人君は顔を真っ赤にしてくれている。二人だけの味は本当に久々だった。RINGのとき以来だった……。

 

「いい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「結人君の痛みを知りたかったから……」

 

 

 

 

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