【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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次回で本編の最終回になります。
よろしくお願いします




この小説二年もやってたんだ、今気づいた


繋がりと言う名の結び目

 

 

 

 

 

 

 

 枕の弾力が頭で伝わっている……。

 こういうとき、どういう感情で何を表せばいいのかと願ってしまう。

 肌と肌が触れ合うこの空間の中で自分の存在を肯定してくれている。

 

『燈、見えるだろあれが秋の四角形だ』

 

『うん、ペガサス座……だよね?』

 

『プトレマイオス星座の一つ、アンドロメダ座のα星とひとまとめにされて秋の四角形なんて言われてるな』

 

 ベランダから夜の景色を眺め合う。

 自分達が住んでる場所からこうやって星を眺めるというのはちっぽけなことなのかもしれない……。

 

『ごめんな、燈。また約束守れなくて』

 

『ううん、ゆいくんは祝ってくれたよ』

 

『そっちもなんだが、二年前のキャンプで俺が来年の春か夏に、へび座をこの場所でまた観に行かないか?って話したのに、結局俺は行くことが出来なかった。忙しかったから、余裕がなかったからなんてのは言い訳にしかならないよな……』

 

 結人君はペンダントを見つめてくれている。

 へび座を描かれているペンダントを見つめつつも、ベランダの鉄格子を血管が浮き出てしまうほど握り締めている……。結人君は守ろうとしていてくれていた。図書館で本を借りた日も結人君は公園で一緒に天体観測をしに行っていた。観覧車のときも、物知りな結人君が教えてくれていた。

 

 図書館のとき、私は叫ぼうとしていた結人君の心を暖かくしてあげられた。

 今も……今もなにか出来ないだろうか。

 

 

 

『ゆいくんと星を見つめられる、それだけで……充分だよ?』

 

 変わらない。

 あの頃から変わらないけれど、これでよかった。

 

『じゃあ、もうちょっとだけ見て行くか』

 

 結人君はそれ以上聞こうとはしなかった。

 それがまるで私からすれば、無邪気な頃の私達を示してくれているような気がしてくれて嬉しくて堪らなかった……。

 

 

 

 

「結人君……」

 

 疑うことを知らない。

 ベッドの柔らかさが伝わって来る。心がこんなふうに弾めばいいけれど、上手くはいかないからこそ私はこの瞬間を大事にしたい。そう、この光景だけは……。

 

 

 

 結人君の横顔が目の前で見れるという光景だけは……。

 

 

 

 それだけを確かめたくて、強く結人君の手を握る。

 弱々しい手はもうない。私が渡したかったクジラのブレスレットを渡すことができた。作るのは……大変だった。図書室で本を借りて、本を買ったりして参考にしながらも不器用な手で世界に一つだけのものを作り上げた。

 

 集めた素材で何かを作ることは……楽しかった。

 何かを作ることは初めてじゃない。誰かの贈り物、形として残すということは初めてだったから、とても感慨深いものが実感として……込み上げる。あげられてよかった。

 

「おやすみ、結人君……」

 

 時計の針が1時ぐらいを指そうとしたとき、目を瞑っている彼に告げる。

 また目を瞑る。明日の朝が訪れれば、きっと結人君との一日が始まる。みんなとの一日が始まって、賑やかな一日が始まる。期待を胸に膨らませながらも、今度こそ私は……目を瞑る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 鳥の囀りが聞こえるなんてのはこの都会では起きないことだ。

 どちらかと言うと、聞こえて来るのは電車の音とかそういうもんだ。

 

「ぐっすり寝てんな燈……」

 

 目の前ですやすやと眠っている燈。

 燈と寝る行為自体は久々だ。最後、一緒に寝たのは数ヶ月前だしこうやって寝るのは俺達が再会してから二回目ってことになるな……。天体観測をしたのは、これで三度目。あいつと星を眺める度に俺は自分があの頃よりも進めてたと実感できる。

 

「出るか……」

 

 布団から脱出して、何か朝飯でも作ろうとしたときだった。

 

「お、起きてたのか?燈」

 

 ベッドからの脱出劇をしようとしたとき、燈が目を擦りながらも起きている。

 欠伸をすることなく、軽く瞼を開けたり閉じたりを繰り返している。言葉で言い表せないというよりも、燈に弱すぎて添い寝することを選んだということを思い出して、俺は出ようとしたときベッドから転落しそうだったとか言えるわけがない……。

 

「う、うん……おはようゆいくん」

 

「え?あ、ああ……おはよう燈」

 

 燈は動じることもなかった。

 まるでこれが当たり前の日常だったのかのような反応をしてくる。

 

「意識してるの……俺だけなのか?」

 

 昨日のことや温泉のこともあって、段階なんて駆け抜けたも同然だ……。

 

「結人君、大丈夫?」

 

「大丈夫だ、ちょっと考えてただけだ」

 

 一旦、冷静さを取り戻す為部屋の中で置いてあった飲み物を飲んでから落ち着いていると、燈も起き始めてベッドから出て来る。

 

「祝ってくれてありがとう」

 

「あーいやいや、来れなかったからな……俺は」

 

 燈がくれたクジラのブレスレットを手で触れながらも、実感するのは……。

 燈の誕生日から次の日を迎えていたことだ。いつの間にか風邪がもう治っていた。燈がブレスレットをくれたおかげと、看病してくれたおかげだ。

 

『ゆ、ゆいくん……味大丈夫?か、硬くない?』

 

 俺のために、お粥を作ってくれていた。

 燈は不安そうで俺の方をずっと見つめていたのを覚えている。本人が言っていたが、料理をあんまりしたことなくて、味とか色々と不安なことが多かったんだろう……。

 

『美味しいよ』

 

 燈の表情が微笑んだのを覚えている。

 こうやって、笑顔でいてくれたり好きなものについて語ってくれる燈の姿が見るのが何よりも俺には代えがたいもの。

 

「燈、とりあえず朝飯作っておくが……燈も一緒に作るか?」

 

「いい……の?」

 

「ああ、寧ろ二人で作った方が楽しいだろ?」

 

 こうやって誰かとご飯を作るなんていつぶりだろうか?

 とりあえず、俺達は部屋を出ようと扉を開いて、出ようとしたが……。

 

 

 

「よう、結人。元気そ……」

 

「あっぶねえ!!」

 

 思わず閉めちまったが、親父が帰って来たとか聞いてないぞ。

 冒険家だから急に帰って来るとか余裕でありえるの。なら、せめて連絡ぐらい寄越せって毎回思っちまう。そのせいで、帰って来たら靴が複数個置いてあるとかザラなんだよ。

 

「ど、どうしたのゆいくん?」

 

「ちょっとな……」

 

 指の爪を齧りたくなる。

 対象法なんて最初から存在しないし、かと言ってこのまま敵中突破しても……。いや、それしか選択肢はないか。

 

「燈、そのちょっとだけ辛抱してくれ」

 

「え?う、うん……」

 

 降参して諦めて部屋の扉を開くという選択を選ぶ。

 この後、父さんから弄られるなんてのは想定の範囲内でしかないから、予測なんか不要だったんだ。

 

 

 

 

「いやあ!!まさか結人の奴が燈ちゃんを家に連れ込むとはな!」

 

「え?え!?」

 

 パンク寸前の燈が出来上がってしまう。

 こうなるのも無理はないというか、ならない方がおかしい。

 

「あのな、父さん違くてな」

 

 弁明しようにも父さんは全く信じちゃいない。

 燈の方は顔を真っ赤にさせながらも、ミモザのことを撫でている。ミモザは燈に懐いてて、偶に燈の手を舐めたり撫でられて満足そうな顔をしていやがる。仲がいいのはいいことだ。ミモザが俺のことをチラチラと見てこないこと以外は……。あいつ、絶対分かってんな……。

 

「燈ちゃん、どうだ?朝飯食べてくか?」

 

「え?えっと……」

 

 ダメだ、もう完全に思考が出来なくなってる燈の奴。

 こうなったら、一回家に帰してやった方がいい。

 

「燈、一回家帰った方がいい。親御さん、今日はいるんだろ?」

 

「い、いいの?」

 

 あくまでも家に帰ることなく、俺の家で泊まっていたからという体で話す。

 一応連絡は入れているみたいだから、泊まるということは知っているはず。向こうも俺のことは知ってるし……。

 

「放課後、RINGでな」

 

「う、うん……」

 

 燈が俺の家から出ようとしたのを見て、俺は追いかけるような形で家から出るまで見送ろうとする。

 

「じゃあまたな、燈」

 

「うん、またね……ゆいくん」

 

 こうして、俺と燈の誕生日は外部介入によって終わりを告げる。

 風邪も何処かへと消え失せて、残されたのは鮮やかな感情と広がる景色でしかなかった。

 

 

 

 

「追いかけてなくてよかったのか?燈ちゃん」

 

 家に戻ると、父さんの声がしている。

 普段なら、俺は此処で燈のことを追いかけているという手もあったはずだ。学校とはいえ、あいつの家で待って、それから燈と登校。なんてものを久々に体験してみるってのも悪くはなかった。

 

『結人君は最近親と上手くやれてる?』

 

 そよの一言を思い出して、留まることを選んだ。

 あいつは言っていた、今更変わることはない。そうだ、俺がしたことだって今更変わるわけがない。母さんが亡くなったとき、近くに居て欲しかった。父さんが近くで居てくれたら、俺はどれだけ心強かっただろうか。

 

 今となっては意味のない問答でしないが……。

 あの二人のライブを見せられて、可能性を感じられていたんだ。

 

 

『Jenseits』

 

 あのライブ、あの曲は……。

 あいつらの証を示すものだった。豊川家という強大な組織を前にして、あいつらは立ち向かうことを諦めなかった。あいつらは自分自身で綻びを作り上げて、自由を手に入れることができた。俺はもう既に自由を手に入れた存在ではあるが……。

 

「父さん」

 

 ミモザの方を一旦視界に入れてしまう。

 尻尾を振りながらも、「行け」と言わんばかりには舌を出している。お前は割とそういうところあるよな……。

 

 一線……。

 一線を断ち切るというのは中々難しいもんだな。何度もやってきたことのはずで、いつまでも慣れることができない。相応の覚悟が必要なのもそうだが、家族だから語ることへの勇気が試される。いや、勇気ならある。これまで幾千もの一線を乗り越えて来たのだから。

 

 前へ一歩出る。

 合図には相応しいものだった。俺は口を開けば、もう後戻りすることなんてなかった。

 

 

 

 

「いつもありがとう」

 

 開放感だとか、気分がよくなったとかそういうもんは意外となかった。

 寧ろ、あるのは口を開けたというもんだけだった。当たり前のことを当たり前でやったからというのもあるのかもしれねえが、俺からすれば失われていた当たり前でしかなかった。

 

 俺の世界が浄化されたなんてことを言うつもりもない。

 濁っていた自分の世界の霧が一つ晴れたぐらいならあり得る。

 

「結人、お前……」

 

「なんだよ?俺が感謝を伝えるなんて珍しいかよ?」

 

 拗ねてしまう。

 珍しく拗ねてしまうなんてことをやっちまっている時点で俺はもう自分の気持ちに素直になれない証拠だ。どうにも体の内側から感じる熱を保ち続けることから、目を背けたくなってしまう。すると、ミモザの視線を感じて「逃げるな」と言われている気がして、俺は真っ直ぐ背筋を伸ばして立ち続けることを選ぶ。まだ熱さは残っていた。

 

「まあ、そうか「結人……強くなったな」」

 

「……え?」

 

 間抜けな声だけが残り続ける。

 出ていたものは久しぶりな親からの愛情のように感じることもできていた。何故なら、それは……。

 

「お前のそうやって大事なことを言おうとしたとき、はぐらかそうとするのは母さん譲りでな」

 

「あいつも大抵素直じゃなかったから」

 

 

 

 

「……お前も似たんだろうな」

 

 頭には手の感覚がある。さっきまで俺の髪をくしゃくしゃにしていた手だ。

 父さんの手が止まって、ようやく触れることができた。父さんはちゃんと母さんのことを愛していたんだ。でなきゃ、こうやって父さんが付き物が落ちたかのような顔をする。悪い夢から覚めたような顔で、安堵の色が広がっているんだ。

 

 なんだよ、なんだよ。

 母さんのこと話せるのかよ。そんな顔されたら、そんな話されたらアンタのことを本気で問い詰めるなんてことできるわけじゃねえか……。

 

『貴方のおかげで……前に進めたから……』

 

 違う、違うんだよ睦。

 あれはお前に堂々として欲しいものでもあったが、あれは自分への置き手紙でもあったんだ。燈や立希が許してくれたようなもんだった、言葉の力を信じてるってのはそうだが言い聞かせたかったんだ。信じていい、許す一歩を築き上げればいい。そういうもんだったんだよ。

 

 なによりも、お前達もまた俺のことを背中押してくれたんだよ。

 

「母さんのこと、行く前に教えてくれないか?」

 

「ん?ああ、まあいいぞ結人」

 

 母親の愛、父親の愛。

 存在していた二つの感情がここには存在している。母さんが見ていたら、どういう顔をしていてくれているだろうか?いつもみたいに優しく笑ってくれているといいんだがな……。

 

「そうだな、じゃあまず俺が高校生だったころ」

 

「おい、それいつ話終わるんだよ父さん?夜まではやめてくれよな?」

 

「いやいや、そりゃあこの話は長くなるからな……!さあさあ!座れ、結人……!!」

 

「お、おい……ちょっと待ってくれって。今連絡入れたい奴いるから……」

 

 息を吐きながらも、俺はスマホを使ってそよに連絡を入れる。

 

『助かった』

 

 と言うと……。

 

『どういたしまして』

 

 と返って来る。

 あいつのことだ、これが意味するのは燈じゃないというのは気づいているはずだ。だから、こうして連絡を返してくれているんだろう。スマホを閉じてから、俺がいよいよ動き出そうとしたときだった……。

 

「……まさか?」

 

 背中がふわりと誰かが押したような気がしていた。

 振り返っても、そこには誰もおらずミモザも俺のことを不思議そうに見つめているだけだった。もしかして、これって……。ああ、そういうことか。

 

「母さん……」

 

 そうだよな、アンタしかいないよな……。

 こういうとき、こうやって手を指し伸ばしてくれるのは……。なら、行く前に一言言わせて欲しいんだ。俺はちゃんと守ってるよ。

 

 

 

 

 

 

 結び目と言う名の人との繋がりを……。

 

 

 

 

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