【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
男として失ったもの
一日の終わりというものは案外早いもんだ。
朝起きて、学校に来て授業を受けて飯を食べてまた授業を受ける。事細くに言っちまえば、色々とあるが放課後が巡って来れば、人それぞれのやり方が出てくる。遊ぶ奴もいれば、勉強する奴、なんか学校で寝てる奴とかそういう色んな分類がいるが、俺の場合は……。
「やべえ……」
「暇だな……」
暇を持て余していた。
青空の下で指を擦ることで自分の暇を実感させる。
そんなことを呟き始めたのは放課後を迎えた今日になってからだった。友人がいない訳じゃない。どちらかと言うといる方だと自負している。こういうことを言うのは、愛音の専売特許ではあるが、学校でもそれなりには友人はいる。それなりには、な……。
だが、今日と言う日は一味違った。
何故なら、全員忙しそうだからだ。Mujica組はまず、全員仕事で無理。初華も無理。MyGO!!!!!組は楽奈は連絡つかない、そもそも既読がつかない。燈は愛音と何処か行ってる。そよは月ノ森と友人と出掛けてる、立希は忙しい。
「別に人肌恋しいわけじゃねえんだがな……」
構って欲しいわけじゃない。
人は一人でも生きているなんてのはよくある話だが、日常生活の分にはどうということはない。珍しく一人になって、こういうときどうすればいいのかわからなくなっている。まるではぐれた子供みたいな感覚になって、感傷に浸ってしまう。
とりあえず動いてから決めてみるか。
昔からこういうときは決まって、一人でいることが多かったんじゃない。街を見て決めてから何処かに入るという行為をし続けて来たんだ。今日だって、それぐらいのことはできるはずだ。意味の分からない論点を並べ始める。
「よしよしっ……」
やる気のない手で俺は猫を撫でる。
野良猫じゃない、猫カフェの猫をだ。目の前ではわんさか猫が集まって来て俺の膝の上で丸くなって眠っている猫。餌を寄越せと騒いでいる猫。両極端の猫が集うなかで、俺はさっきガシャポンの店にいたときのことを思い出す。
ぐっすりと眠っているアニマルシリーズ……。
俺のバッグの中に入れてあるガシャポンだ。さっきまでガシャポンが死ぬほどたくさんある店に来ていて、全種類集めるまでやっていた。ドブのように金だけが無くなり、財布の音が軽やかになっていくのを感じながらも無心で回し続けていた。
ああいう場面を人に見られたら、終わるかもしれねえ。
16歳の高校生がムキになってやっている姿なんてのは……まあ、誰になんと言われようがどうでもいいだが。動物は好きなだけだしな。問題は……今やっている行動もさっきまでやっている行動も全部自分の好きなものじゃなくて燈や楽奈の好きなものということだ。
「結局、人肌恋しいんだな俺……」
綺麗に整えられた毛並みを手で実感しながらも言う。
ガシャポンしているときだって、そうだ。爬虫類やら深海生物のガシャポンが目に入ったとき、俺はあいつらならどうするだろうかという考えてしまっていた。疲れた状態から部屋に戻って来たという前提条件の中で、電気を付けたら爬虫類が生きているとか勝手に勘違いするってのが普通にありそうで怖い。
燈はそういうのを動揺もしない。楽奈は興味を示さない。
愛音は変な声を出すだろうし、そよは嫌な顔をする。一番分からんのが立希。虫が嫌いとかではないだろうが、なんかこう場合によりそうな気がするからだ。あいつはそういうところが割とあるし、「紛らわしいことしないで」と言ってきそうだ。
「重症だな俺……」
最早、自虐すら出てしまう始末。
一人を満喫しに来たんじゃなくて、楽奈と似たような行動をしたかったからとすら思ってしまう。慰めてくれているのか、俺の手を猫が舐めてくれている。若干、生暖かくなってきていた俺の手と裏腹にしょうもないほど一抹の寂しさがある。
とりあえず、時間だし金払ってるしもう次の場所に行こう。
これ以上はMyGO!!!!!シックになりそうだ。
「とはいえなぁ……」
来る場所が本屋……。
集中する場所、何かを探すと言う意味ではもってこい場所だ。物語に浸ることもできるし、何かを作る為のムック本やら旅先に役立つ本、ガイドブックなど売っているかもしれない……。
しかし、俺は今すぐ自分の額に手を当てたかった。
なんで俺は初華と初音が揉めた場所の本屋に来ているんだろうか。引き寄せられたとかいう迷信はあんまり信じてないから、この場合自分から来たの方が正しい。これはこれでアホでしかねえ。だが、映画館に行けば嫌でも睦のことを思い出しそうだしそもそもの逃げ場がない。大人しくRINGで戸山先輩たちを手伝いにバイトでも出るか、家に帰ってしまえばよかったんだ、最初から……。
探求するため、本屋に来たはずが逆に事件の真相を語る真犯人みたいな心証。
こういうと決まってそれっぽい音楽が流れたりすることが多いが、俺の場合何も流れて来ない。恐らく、煩悩が多すぎて聴こえて来ないんだろう。くだらないことを考えながらも、自白する真犯人の気持ちになりきっていると、俺はある棚の前で止まる。
「Sumimiの写真集……?」
笑顔で映っている初音とまなさんの姿がある。
初音の方はクールな感じでピースしていて、まなさんの方はとびっきりの笑顔満点でピース。二人のらしさが出ている知り合いの写真集がちょうど視線の下にある。ページ数は、64ぐらいあるらしい。
こういうときどういう気持ちになればいのか、真面目に分からん。
話としてよくあるのは、こっそり買ってバレるとかそういうのが鉄板だが俺はそもそもどういう気持ちでこれを買ってページを捲ればいいのかマジで分からん。そもそも、知り合いの写真集って買うのは気が引けないか?買うまではいいが、買って全部開いた後とうの本人とばったり会ったりしたら次会うとき普通に気まずくねえか?いや、絶対気まずい。寧ろ、買うなんてありえない。とっとと、その場から離れようとしたとき後ろから足音が聞えてきていた。
「結人……」
声が耳を通過する。重苦しいものだ。
すごーく嫌な予感がして本屋から離れたくなってしまうが、立ち止まってしまう。何を考えて、立ち止まっていたのかは知らん。多分、此処で逃げたら余計変なことを考えていたとか懸念が生まれそうだから俺は逃げなかったのかもしれないが……。
「その……悪かった」
「睦、お前の親友の写真……ん?」
なんか違う、なんか違くないかこれ?
俺はSumimiの写真集のことを言いかけたとき、なんか微妙な空気感が続いてることに肌を通して触れていた。空気が張りつめていて、此処だけ異様な空間となっているみてえだった。なんかこれ、俺の方が勘違いしてるような……。確認のため、自殺覚悟で俺はもう一度写真集の方に目を向けると、違和感の正体を掴めてしまう。
「……」
頭を抱えたくなった。
Sumimiの写真集ばかりに目を向けていたが、隣に置かれてあったのは普段来ているワンピース姿で慎ましく映っている睦の姿。つまり、これはこういうことだ。俺が初音の写真集をガン見していて、その隣には睦の写真集。
そこに睦が現れてしまった。
地獄でしかねえし、睦が何も言えなくなるのも当たり前だった。
「あの……だな睦」
「結人君!睦ちゃんのことそういう目で見てたの!?変態!!」
俺が弁明しようとした瞬間、睦からモーティスへと切り替わっちまう。
「いや、ちがっ!ちげえよ!」
「違うってなに!?発情してたじゃん!?」
「は!?してねえよ!?」
モーティスが靴で音を立てながらも、抗議してくる。
発情なんかそもそもしてねえよ!?だが、言えるわけがねえ……!実はSumimiの写真集の方をーとか口が裂けても言える状況じゃねえし、言ったら言ったで絶対面倒なことに繋がる。そもそも、睦もこれ勘違いしてるよな!?多分!?
「ゆ、結人君も隅に置けないなぁ……!」
「なにがだよ?」
「どうしてって頼んでくれたら特別なの見せてあげるのに」
「違うって言ってるだろ、語弊のある言い方やめろ」
そういうポーズのつもりなのか本の前に手を置いて、それっぽいポーズを取って来る。
全然様になってねえ、こいつだからなのか?
「えー?まあ結人も年頃だし彼女の写真集ぐらい欲しいよね」
「おい、だからちげえって」
「隠さなくてもいいのに。ねっ、睦ちゃん!」
「おい!!」
全然変わらない俺の反応。
顔を背けながらも、反対側にある車の写真集を眺めているモーティス。こいつが言い出した意味ありげな発言のせいもあるが、俺は恥ずかしくてこの場で座り込みたかった。
「一応聞いてもいいか?」
心の中では立ち上がった俺が一つのことを聞こうとする。
「なに?結人君?」
「睦、なんて言ってるんだ?」
一番不安なところだ。
俺が謝ってすぐ、モーティスに人格交代したから睦がどう思っていたのかを聞いていない。恐らく、睦からすれば俺が睦自身の写真集が目に入って、そこで立ち止まっている構図しか出来上がってないからだ。
「あーえっと?変わる?」
「……頼む」
絶妙な空気感が続くなかで目を瞑って、睦に交代しようとするモーティスを待つこと数秒。
目を開けた睦の姿を見てから、俺は本当のところを言うしかなかった。
「その……Sumimiの写真集が……視界に入ってたんだ」
気まず過ぎる。
誤魔化したところでどうにもならんし、此処で隠しても拗れるぐらいならもう打ち明けるしかなかった、最悪だが……。
「結人」
「な、なんだ?」
「一日付き合って」
脅しじゃない、圧でもない。
ただの約束でしかねえが、俺にとってそれは黙っててあげるから一日付き合って欲しいという意味でしか聞こえなくて俺は……。
「ああ……」
としか答えることができなかった。
「結人、一冊いる?」
「あーそれはそのどういう意味だ?」
「写真集」
「……そ、そうだな」
愛想笑いすら出来ないこの状況下で俺は黙って睦に従うしか出来なかった。
償いや罪じゃない。寧ろ、男として何か大切なものを失った予感がしながらも……。
睦の背中を追うことしかできなかった。
小さく笑みを浮かべて、写真集を涼し気にレジへと持って行こうとしている睦の姿……。その姿は堂々としていた。胃が痛い……。
「結人君、サインいる!?Mujicaの私と女優、睦ちゃんのサイン入りの写真集!!」
「いらねえ!そんな気分じゃねえよ!!」
もう一人の馬鹿にはデカい声で尊厳を破壊された上で……。