【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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勘違いは深まるばかり

 絶体絶命のピンチってのは案外こういうとき発生するもんだ。

 

「で?どういうこと?」

 

「あー……それはだな」

 

 起きて欲しくないときばかりにこういうことが起きるというのはあまりにも地獄。

 夢ならば覚めて欲しいが、迸るほどの熱と背中が壁に密着してる冷たさで此処は現実だと叩き潰されてしまう。嫌なほどまでに……。貰った時点で家に帰ればよかったとか、今更後悔するなんてことはできない。目の前の立希が完全に俺のことを軽蔑した目で……。

 

 

 

 

 見ているからだ。

 後悔という雨が物理的に降り注ぐなか俺は逃れることができなかった。

 

 

 

 

 

 

「これでいいはず……だな」

 

 睦との一日付き合いを終えて、俺は一旦RINGへと来ていた。

 喫茶店の方で頼まれていたことがあって、俺はそれを確認しに来ていて数十分で終わってようやく帰ろうとしていたところだった。

 

『モーティス……代わって』

 

『え!?ま、まだ一分も経ってないよ!?』

 

 今日起きたことをカウンター席のテーブルに触れることで、俺は自分の記憶を掘り起こす。

 黒歴史とも言えるものでしかない。一日の中であった睦の体力を付けようとするため、ジムの体験を付き添って欲しかったという内容。ああいう場所はむさ苦しいから、一人で行くのは行きにくいってのは割とそうではあるからな。

 

 写真集のことはもうジムの間では忘れようとはしていたが……。

 視界には、どうしてもあの写真集が入っているバッグが目に入ってしまう。椅子の上に置いてある状態のままであり、あの中に睦とモーティス、渾身のサイン入り写真集が入っている。

 

『後で感想聞かせてね!』

 

 なんて地獄まで言われてもう笑うしかできない。

 笑えない冗談でしかない。生き恥を晒した上、その感想すら本人にぶつけろなんて死ねと言われているようなもんだ。自分の感情が波のように揺れ動いていたのも言うまでもねえ。穴を掘り進めて、そのなかでずっと暮らしていたい。冬眠をしたい。

 

 一生分の餌を背負って眠りたい。

 

「はぁ……帰るか」

 

 自虐をするだけして自分が招いた種を回収はまだできてない。

 これからその種を自ら回収する。とりあえず、モーティスが誰かに密告することなく終わってくれたのはもう自分の健康的にもよかったとしか言うしかない。自問自答を繰り返しているうち、俺はどうでもよくなって今度こそ帰ろうとしたときだった。

 

 

 

 

 

「お前、まだいたの?」

「え?ああ、いやその……ちょっとな」

 

「……なんでそんな慌ててるの?」

「は!?慌ててねえし!?」

 

 事件を現場を去る犯人かのように逃げようとしたときだった。

 戻って来た立希を見て、俺は荷物を持って立ち去ろうとした瞬間椅子に足をぶつけてしまって大きな物音を立ててしまう。疑ってくださいと言わんばかりの行動の繰り返しを今日だけで何度してしまったんだろうか。

 

「山吹先輩に頼まれたこと終わったの?」

 

「ああ、終わったよ。先輩、大学忙しいらしいから俺がやっ……立希?」

 

 立希がカウンターの方へと行こうとしたときだった。

 足を止めて、視線の先が俺ではなく何か下の方だった気がして俺が声を掛けると、明らかに固まっているし何処か俺を軽蔑している。は?なんで今その目で見る必要があるんだ?と思って、俺は向けられている先を確認すると……。

 

 何も言えなくなってしまう。

 目を指で隠したくなってしまうほどで崩れ落ちたくなる。

 

「……」

 

 立希は喋ろうともしない。

 ただひたすら、眉間に皺をよせてゴミを見る目でしかない。なんでそんな顔をしているのか?というのはもう答え合わせをする必要すらいらない。何故なら、バッグのファスナーが開いてしまっていたからだ。

 

「お前、睦のことそういう目で見てるの?」

「見てるわけねえだろ!?」

 

「見てたら二度と近寄らないで」

「俺の話聞いてたか!?お前!!?」

 

 噛み合っていない会話が本日二回目の開幕。

 恥辱どころか、もうこの場で渦巻いてしまう。勿論、できればでしかないしそんなことをしてみたら立希の話を肯定するということになってしまう。それこそ、自殺行為でしかない。

 

「で?どういうこと?」

 

 此処に戻る。

 立希は腕を組み始めて、カウンターに背中を寄りかかせながらも話を続けようとしている。正直に話したいという気持ちと、正直に話したら余計話が拗れそうな予感しかしていなかった。初音の写真集を見ていたのに、睦に勘違いされたとか話までしていたらマジで「軽蔑」を越えてキモイと顔に出される。それだけで済むならまだいいがな。勿論、それだけで済むわけがない。

 

「その……だな」

 

 立希から話をされたら完全に終わらなくなる。

 俺からの弁解を用意しようとしたがその時点で詰まる。

 

「まず、これは俺が買ったものではあるんだよ」

「やっぱり睦のこと」

 

「話最後まで聞いてくれねえか!?それで悪ふざけでモーティスと睦がサイン入れて来て、今日は一日あいつらに付き合って来た後だったんだよ」

 

 睦がレジに持っていったとか言い出したら、そんなことしないと言い出すから。

 自分から泥を被る。こうでもしないと、話が進まないからだ。

 

「汗臭いのはそういうこと?」

 

「そんなとこだ、ジムの体験付き添ってたからな」

 

 ようやくまともな会話が始まる。

 自尊心を破壊されて辿り着いてとか泣けてくるがもう泣いている暇すらない。そもそも、開けっ放しで放置していた俺が悪いからな。

 

「はぁ……もうどうでもいいけど開けっ放し放置とかやめて」

 

「悪かったよ」

 

 ファスナーを閉め切っている状態のバッグ。

 開ければ即、睦の写真集だったため俺は一番下にして誤魔化せるようにした。立希の目の前でこれをするということ自体が恥そのものでしかねえが。

 

「一つ聞いてもいい?」

 

「なんだよ?」

 

 立希がカウンター席の方から離れて、カウンター席の内側に入って距離を取り始める。

 おぼつかないのか何処か口篭らせている。

 

「お前って…その……」

「その……いや……やっぱなんでもない」

 

「言いたいことがあるなら言っておいた方が楽だぞ」

「じゃあその……」

 

 だが、立希はまた口を閉じてしまう。

 何かを言おうとしているが、どうにもいうことができない状況が続いてしまっている。なんだ?なにか微妙な空気感が立ち込める。今までの経験からして、立希はこういうとき勇気を振り絞って言うことなんてのはよくあったことだが、今回は違う気がする。どちらかと言ったら、なんか聞きづらいことを聞こうとしているが聞いて大丈夫か躊躇っているようなそんな感覚が……。

 

「お前、睦のこと変な目で見てないよね?」

「見てないってさっき言ったよな!?言っただろ、俺」

 

「いや、そうだけど……。結人って、すぐ手出して来るからその……だか「見てねえよ!?」」

 

 なんかこうとんでもない勘違いをされた。

 すぐ修正させないとまずいと感じて、言葉を遮ったはいいが俺はそもそも立希に関しては前科が多すぎて立希視点から見たら全く信用できないのは当たり前でしかねえ。これそもそも答えが存在しねえ。

 

「な、ならいいけどその……場所はちゃんと考え「すみませんー、一人なんですけど……あの……」

 

 

 

 

 

「お店変えた方がいい……ですかね?」

 

 たった一人のお客さんの発言で俺達の空気感は完全に凍り付く。

 カフェだ。客が来るなんて当たり前でしかねえが、油断しきっていた俺達は自分達の話を熱中し過ぎてお客さんの存在に気づくことができなかった。そのせいもあってか、お客さんは気まずそうにしていて……。

 

「「い、いらっしゃいませ!」」

 

 バイト中とバイト休みのやつが二人揃って言ってしまう。

 

「すみません、一名様ですよね?ちょ、ちょっと……待ってください」

 

 立希が俺のことを睨みながらも、去って行く……。

 若干温かいエアコンの風の音と音楽が流れているなかで、ある意味では……。

 

 

 

 

 

 地獄のような空気感は続こうとしていた……。

 それを癒してくれるものなんて存在すらせず、今回ばっかは……。

 

 

 

 

 

「お祓い行くか……」

 

 

 

 

 

 ちゃんと神様頼ろう……。

 

 

 

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