【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
『結人、頼む!一生のお願いだ!!悪いが俺の仕事を手伝ってくれ!』
『仕事の手伝いって……別にいいが父さんはやれないのか?』
『いや、それが他の案件が入ってていてな……』
自分の仕事を息子に押し付けるまでは全然構わない。
「ったく……親父の奴」
今までだってこうして手伝うことは何度かあった。
但し、今回ばっかは俺に厄ネタを面倒だから押し付けたような感しかなかった。
「はぁ……本当にこんな場所にあるのかよ」
図書館という空間の中でかなり場違いのことをしている。
とりあえず、調べるために此処に来た。普通に考えたら、つまみ出されてもおかしくないことをしている。自分の中で自問自答を繰り返して、白い息すら出ない始末。若干、エアコンから出て来る風の温かさを感じつつも、本を棚の方へと戻す。
「そもそも都市伝説系の本なんて置いてあるのかよ……」
指先に残った埃を払う。
その昔人々を騒がせた新大陸「ムー」。後は、「ノストラダムスの大予言」とかそういうものなら確実にあるだろうが、大体そんな程度だ。親父が調べたいのはある民族の呪いの儀式とやららしいが、子供にそんなものを調べさせるな。
信じちゃいねえが、そんなものを触れたことでとんでもない呪いが当たる。
そうなったら、親父は自分の息子にどう責任を取るつもりなんだあの人は……。
「あーもうめんどくせえ……」
どうせないんだ、帰ろう。
もう帰ろう。適当にそれっぽいでっち上げして帰ろう。こういう都市伝説系なんて話としては好きだが、真剣に探すのはなんかこう絶対違う。阿保らしくなって別の本ですら俺は棚へと戻す。一旦この場所を出よう。
そう決めて歩き出そうとしたときだった。
「ゆいくん……?」
後ろから声を掛けられて振り向くとそこには燈がいる。
大事そうに本を抱えている燈の姿があった。
「本返しに来たのか?」
「うん、ゆいくんに作ってあげられたから……」
「ありがとうな」
燈が作ってくれたこのアクセサリー。
大事にしたいという気持ちは何ら変わりない。それどころか、しっかりと身に着けてしまっている自分がいるほど。
「ゆいくんは借りに来たの?」
「どっちかと言うと、調べものだな。都市伝説の」
「都市伝説……?」
燈は首を傾げている。
そういや、俺があんまり迷信を信じていないっていうのは燈は知っていたもんな。小学生のとき、お化けの特集とかで燈が目を瞑っていたから俺があんなものはいないと言ったら、「え?」と声に出していたのを覚えている。ある意味では夢を壊してるが……。
「燈はその……部族の呪いとか知ってるか?」
「えっと……エジプトとかの?」
「あーまあ似たようなもんではあるが……」
言いたいのはツタンカーメンのことだろう。
あれも正直分からないことの方が多いのは事実だが、現在では細菌感染だというのが主流らしい。こういう話が確定的となるってのはある意味謎が解き明かされることでもある。
「燈はどう思う?謎っての……例えば、絶対証明できないと言われていたようなものとか」
燈の中で沈黙が続いている。
昔の燈みたいに口篭ってしまう。流石にこれじゃあ、分かりづらいか。
「こういう都市伝説とかの謎ってのはどうしても解き明かされたときに白けることってあるだろ?実際伝承とかよりもしょうもない話だったり、案外科学的根拠とかで証明出来ちまうとか」
例えの仕方が呆然とし過ぎていたから俺はすぐ補足する。
実際、気になってあの謎ってなんだっけ?と調べてみたら意外と大した理由とかじゃなかったのは割とよくある話だ。ちょっとガッカリしちまうが世の中のことは大抵こんなもんだ。本当に怖いのは人の方だって言うしな。
「解き明かされた方がみんなも……幸せだと思う」
「それはなんでだ?」
迷子でもいい、迷子でも進めと言っていた燈とは思えない答え。
疑問を疑問で投げ返すと、燈は本を戻してから言う。
「解けない方がいい謎もあると……思う。どうしてだろう?とか考えて、探してみたいって気持ちになるから」
「でも、やっぱり答えは……必要。答えがあるから、安心も……できるから」
腑に落ちる答えだった。
自分が恥ずかしくなって手に取るつもりもなかった本を手に取りそうになる。しかも、偶々目に入った本が自己啓発本で笑ってしまいそうなぐらいだった。
「燈の方が大人だな」
自己啓発に流される様にして言ってしまう。
「え?」
「あんまり考えたことなかったんだよ、そういうの……謎は謎の方のままが面白い。確かにホラーとか怪談だと全部打ち明けられると返って白ける。こういうのは適切な立場があるってことだよな」
本気であんまり考えたこともなかった。
謎を解き明かすということは謎が謎のままで終わらないからという不安。白けるからというものばかり考えていた。やっぱ、こう見るとモーティスが言っていたように俺は案外迷信ってもんを信じているのかもしれねえな。
「結人君は怖いの好きだったよね?」
「物に寄るつーか、別に好きではないんだけどな……」
親父が好きだから周りからも好きだと思われることが多い。
俺はその度に訂正しているが、全然違う。寧ろ、マジでそういうものには関わりたくない。今回も仕事じゃなかったら、全然関わらないでいるつもりだった。ましてや、ああいうものはマジで触らぬ神に祟りなしという奴だ。
「とりあえず、帰ろうぜ。燈は借りたい本とかあるか?」
燈が首を横に振ったのを見てから、俺は燈と一緒に図書室を出ようとする。
やっぱりあの件についてはやりたくねえの一点張りで逃げよう。そう思って、燈の手を握って帰ろうとした矢先だった。
「停電……?」
視界が真っ暗になる、ほとんど見えない世界が続いている。
「と、燈大丈夫か?!落ち着け、こういうときはだ「だ、大丈夫だよ?」」
深呼吸を一旦入れる。
古い空気感が脳を循環するなかで自分が16歳であること、男子であるということを頭の中に再確認させて自分の感情をリセットさせる。
「ゆいくん、手繋いでもいい?」
「あ、ああ……」
俺なんかとは対照的に燈は落ち着いている。
さっきまでの自分が恥ずかしくなってしまう始末だ。冷静な燈を見つめつつも、俺達は手を握ろうとしたそのときだった……。
「……電気ついたな」
「そ、そうだね……」
電気がついた、一時的な停電だったんだろう。
静けさの中にあった世界が一瞬にして賑やかな本の世界へと変わり果てしまう。手に込められている、燈の温かみに触れてから俺も手を握り返す。
いきなり、電気が消えてパニックになっていたのは何も俺だけじゃなかった。
隣にいた燈ですら、起きた現象に戸惑って俺の手を強く握ってしまっていたんだろう。俺はその強い力をしっかりと感じながらも、二人で歩き出す。
「燈……」
名前を呼べば、燈が俺の方を振り向いている。
その視線は何処かまだ泳いでいるものだった。
「どうしたのゆいくん?」
「いや、なんでもねえ。それより、この後雑貨屋でも行かねえか?二人で付箋とかでも新しいのないか見に行こうぜ」
「!!う、うん……行こ!!」
あれはこういう意味でも使えることなのかもしれねえ。というより、俺はそれを知っている。
こういう大事な場面で手を強く握られていることを指摘する。一つの手としては、悪くはねえのかもしれねえが、俺はこうやって二人で繋いでいるこの瞬間の中で……。
言葉では言い表せないものを感じ取りたい。
それが多分……適切な場があるってことだと思う。
これもある意味では……。
迷信なのかもしれねえけどな……。