【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
「お願い!ゆいくん!金輪際一生のお願い……!」
「……いや、お前それ前もやったよな?」
目の前で愛音が手を合わせている。
目を瞑った状態でなんか前にも聞いたような言い方が出て来る。あれがいつだったのかは覚えてねえが、なんかこうスカイツリーのときも似たようなことを言っていたような気がしてならない。
「あーそれは……?よくない?」
「開き直んなよ」
「えー!?別にいいじゃん?女の子がこんなに頼み込んでるのにさー?」
「値引きして欲しいだけだろ……電気屋じゃねえんだよ此処は」
バツが悪そうにすることもなく愛音が頬を指先で掻いている。まさかの図星かよ。
「お前なぁ……」
真っ白な天井を見たくなる。
頭を天へと掲げて、頭の痛さを抑えたくなるほどだった。
こうなることを分かっていなかった訳じゃない。寧ろ、愛音がアウトドアショップに来店した時点でもう普通の用事じゃないとは警戒していた。俺との出会いもそうだったし、なにより周りからこのアホと付き合ってると勘違いされてるほど。
「そもそもお前、前キャンプ興味ないって言ってただろ?」
そう、こいつはアウトドアショップに来たとき。
真っ先に手を伸ばしたのがアロマ。なによりも、こいつ自身露骨にアウトドアは全く興味無さそうだったのを覚えている。口実がそもそも俺と燈の関係を保つためだから当たり前っちゃ当たり前なんだが。
「今女の子の間でキャンプが人気でさー」
「あーはいはい」
「ちょっとゆいくん、真面目に聞いてる?」
もうなんとなく読めたから。
これ以上聞く必要はなかった。要はこういうことだ、愛音がよく見ているインフルエンサーとかがキャンプにハマって触発された愛音がアウトドアを興味持ち始める。とはいえ、全く知識がないからじゃあ恥もプライドも捨てられる俺に聞けばいいと判断した。
「興味あるのはいいことだしな……」
理由はどうあれ、興味を持つことはいいことだ。
俺は首を頷かせながらも、愛音に軽く説明をし始める。目の前にある椅子については前話してやったし、もういいな……。
「ねえねえ、ゆいくん椅子のこと教えてよ!」
愛音が俺の服を掴んだかと思えば、全く恥じることもなく前聞いたことをもう一度聞こうとしてくる。俺は思わず、振り向いてしまって……。
「お前、俺が話したこと全然覚えてねえのかよ!?」
「え?あーちゃんと覚えてるよ?ほら、通気性がいいのとかがいいって言ってたじゃん?」
「言ってねえよ、作業着の話なんかしてなかっただろ俺」
自分の眉間を指先で摘まみたくなる。
どうせもう忘れてるだろうと思っていたら、案の定忘れていやがった……。
「で?俺の話はちゃんと聞いてたか?」
「なんか雑じゃない?」
「当たり前だろ、お前……」
腰の脇に右手を当てながらも俺は椅子のことを改めて説明し終える。
ほぼ前と同じことを喋っていたこともあって、俺はもうほとんど感情を乗せて喋ろうとはしなかった。
「なんかこうロボット声って言うか」
「感情ないって言いたいのか?」
「そこは割とそうかも……?」
思わず、「は?」と言いたくなってしまうのを堪える。
此処でツッコミを入れようものならば、それは愛音に喋らせるということに繋がる。なによりも、ニヤけ面で俺のことについて語ろうとしてくるだろうから面倒ったらあらしない。
「そんな落ち込まないでよゆいくん、ほら次の奴も教えてよ」
「誰のせいだと思って……いいんだが」
俺の服をまた掴んでくる。今度は若干強い……。
渋々俺は愛音と一緒に歩き出して彼女と共に次の奴の方に向かおうとする。椅子の次で何気にキャンプだけじゃなくて、アウトドア全般で使いこなせるものか。マルチツールは説明すると時間かかりそうだし、あんまこいつ興味示すことねえだろうし……。
「どうしたもんか……」
目と目を目移りさせながらも、俺は視界を次々と変えて行くうちに……。
「いらっしゃいませ」
ある薄めの紫の髪の人間が目に入る。
お客さんこの時間いたのか、なんか俺と愛音の声が聞こえてたら、普通に気まず──。
「……ん?」
「あれ?ゆいくん、どうしたの?」
俺はもう一度その売り場の方に戻る。
売り場は寝袋であったがそこはどうでもよくて、俺が気になって戻って来たのは薄めの紫髪の女性が何処か見覚えがあるような気がして戻って来て、俺は……。
「……」
固まってしまう。
全然知ってる奴だったからだ。いや、そういえばやったことあるとか言っていたのはそうなんだが……。
「「……」」
互いに無言の時間が流れる。
互いになんでこいつ此処いるんだ?という感情が渦巻いているように見えるなかで俺の後ろに立っている愛音が……。
「あーにゃむ──「ストップ!!」」
「最悪……」
「なんでいるわけ……?」
最悪な気分。
まさか、会うことはないと考えていた奴と此処で会うとか最悪そのものでしかない。愛音はよくはないけど、結人は本当に今すぐ帰りたくなるぐらいの勢いで足を反対向きにしたかった。なのに、それを完全に身バレすることをしようとした愛音のせいで戻ることができなかった。
「なんで結人が此処にいるわけ?」
「服装で分かるだろ」
余計なことをしようとした愛音の口から手を離しつつも、私は結人のことを目だけで見る。
服装から、まあその灰色のダッサいエプロンを見ればどういうことなのかは確信は持てる。次からこの店行くのはやめ。こいつとは絶対会いたくないし。
「ねえねえ、にゃむ「やめてって言ってるでしょ」」
「えー?じゃあ、なんて呼べばいいの?」
「好きにすればいいんじゃない?」
いざそう言われると困りはする。
祐天寺でもにゃむでも、にゃむちでもどの道身バレはする。で、そこから先起きる展開も大体想像はつく。ファンサするのは嫌いじゃないけど、今日は完全オフの気分で来ていたはずだった。そう、愛音達に出会うまでは……。
「じゃあ、にゃーちゃんとかは?」
「ねえ、結人このパワハラ客つまみ出してくれない?」
「悪いな、こっちは色々と握られてるから無理だ」
「要は尻に敷かれてるだけでしょ、それ」
尻に敷かれているなんてことを言うと、愛音の奴が目を細めてニヤついている。
愛音が肘で結人の服を突いているのを見て、早くこいつから逃げたいという気持ちになってしょうがない。行くときはウミコに追いかけられて、付けられそうになってこっち来たら今度はこいつら。なんなの今日は本当に……。
「で、お前もキャンプやりに来たのか?」
「このクソ寒い時期にキャンプとか正気で言ってる?やるわけないでしょ?」
「冬のキャンプも悪くないんだぞ」
「パス、わざわざ行っても寒いだけでしょ」
冬のキャンプで一枚の写真。
これも映えそうではあるけど、わざわざオフの日に一日中寒い思いして帰って来ることになる。そんなことになれば、次の日最悪風邪すら引く可能性もあり得る。なら、行く価値はないというか行くのが面倒。
「じゃあ、にゃむちはなんで此処来たの?」
「別に来たくて来たわけじゃない、偶々そういう気分だったってだけ」
「なんだ、じゃあ私と同じじゃん!」
「お前さっきキャンプ興味あるって言ってたよな……?」
「言ってなかったような?言ってたような?」
「おい、お前な……」
愛音の切り替えの早さに普通に困惑している結人。
私をそれにちょっとだけ口元を緩めつつも、すぐ元に戻す。それからして、愛音が誤魔化すようにして先に違う棚を見始めている。
「やっぱ仲いいじゃん?好きなんだ愛音のこと?」
「茶化すのやめろ……。嫌いじゃないのは事実だが」
「めんどくさ……」
倒置法みたいな使い方で好きを表して来てうっすら寒さすら感じる。
こいつのこういうところは本当に生理的に無理でしょうがない。隠そうとすらしない、直球で何かを言ってくる。自分と似ているようで結人は私とは違う。
「最近結構頑張ってるみたいだな、にゃむ」
「なにそれ?喋ることが分からないお父さんみたいのやめてくれる?」
「微妙に言い得て妙なのやめねえか?」
日本酒で飲みながらも娘の近況を聞こうとしてくる父親面してくる。
そういう姿を想像なんかしてないが、結人の言動はそれそのものだった。
「実際、腐すことなく活動できてるだろ?にゃむちとしても、アモーリスとしても」
「まだまだ全然だけどね、
手を広げながらも、自分で言う。
ドラマや映画、動画だって頑張ってる。
『祐天寺さんでしたっけ?最近、何かと話題よね』
『ありがとうございます、今日はよろしくお願いします』
『期待しているわよ』
大物女優とだって会話をした。本当はやる気もなかったバラエティーにすら出てる。
自分の居場所を掴もうとしている。最近だって、ムーコのおこぼれではあるけど有名な俳優も出て来るドラマの出演が決まった。
「私は自分自身の愛を知るためじゃない」
「自分の力を証明するために祐天寺にゃむとして、にゃむちとして、アモーリスとしてもやれるだけのことをやろうとしてる。少なくとも、アンタに運ばれて点滴に打たれるようなヤワな身体じゃなくなったってこと」
もう同じ過ちは繰り返さない。
自分の体調管理もロクに出来なかった頃の私とは全然違う。結果が多少でも、そこは絶対に今までとは違う。自分の手を握り直していると、結人は少し笑みを浮かべている。
「なに笑ってんの?」
「いや……あんま変わらねえなって思っただけだ」
目元が笑っている。
それを意味することが自分の神経を逆撫でされているような気分で鬱陶しい。それでも、今回だけはいいとなれたのは自分の強さの証明をできたから。なんだかんだ、こいつはそういうところがあるから。
「はいはい、いつものってわけ?」
「おい、お前もなんだよその言い方?」
「結人がいつもやってることでしょ?ほら、早く追いかけないとあの子不貞腐れるじゃないの?」
首を傾けながらも言うと、また結人は笑みを浮かべる。
今度は心の底から。横首を掻きながらも、結人は……足を動かし始める。
「ゆいくん、私もYouTuberデビューしたら人気出るよねー?」
「……一週間で飽きてるか軽い気持ちで言ったことで炎上してそうだけどな」
「酷くない?」
「大体こんな感じだろ、お前」
くだらない会話を聞きつつも、あの二人の背中を見る。
何処かモーティスとムーコの姿を見えてしまっていたのは……。
多分ウザさがあの二人と一緒だから。