【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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何年ぶりの普通のこと

 ボウリングのボールを握っていた手の感覚はもうない。

 感じているのは風そのもの。本来なら、冷たいはずの風は私にとって何処か生暖かいものだった。当然と言えば、当然。隣を歩いているのは結人だから。

 

「で?私に言うことあるよね?」

 

 片手を腰に当てつつも言う。

 お姉ちゃんとまなさんとのボウリングを終えた後、すぐ結人のところへとすっ飛んだ。勝利はお姉ちゃんに譲ってあげた。その後は、駅の改札をスマホを思いっきりかざすことで出入りを繰り返して、私はこの場にいる。いや、この言い方だとまるで私が結人と会うことが楽しみみたいだってことになる。

 

「どっちだ?」

 

「どっちってなに?私と会ってなかったこと以外に何か邪なことでしてたの?」

 

 目を細めてしまう。

 あの言い方だと絶対なにかしてる。

 

「いや……してなくはない。多分、してるが」

 

 どっちだよ……。

 隠したいのか、隠したくないのか。目の前の通常の結人に頭を抱えたくなる。こういうところがかなりあるのは事実。とはいえ、毎回これか馬鹿正直に答えて来るからなんかもうやり辛い。お姉ちゃんよりもやり辛い。

 

「はぁ……別にいいんだけどさ」

 

 腰に当てていた手を自然と膝の方に持っていく……。

 勿論、折れたわけじゃない。寧ろ、今日もこうやって会う約束を取り付けた。この時間を意地でも楽しいと私に言わせるものにしてもらうしかない。じゃないと、わざわざ連絡した意味がないから。

 

『遊びたいなら結人に連絡してあげなよ?折角東京来たんだし』

 

 お姉ちゃんの言葉が素通りして行く……。

 五月蠅い、別に結人に会いに来たわけじゃない。仕事でこっち来ただけに過ぎない。

 

「ほら、案内してよ」

 

 過ぎ去ったお姉ちゃんの言葉を通過させながらも、結人の隣を再び歩き始める。

 

 

 

 

 結人と共に電車に乗って、少し歩いてからある場所に辿り着いていた。

 さっきまでドブ色の海が広がっていて、東京の海って汚いなと思いながらも見ていた景色。その世界の先では夜の景色が広がっていて、橋が十二色を照らしている。これが夜の東京の景色か。何度も見て、大阪の喧騒と何も変わらないのにこうやって目を奪われるのは何故だろうか。

 

「お台場って……外れの方にあるわけじゃないんだね」

 

 ふとそんな声が出ていた。

 豊洲とかもそうだけど、なんか勝手に端にある印象があったから。

 

「まあそういう印象もあるかもしれねえが、別にそうでもねえよ」

 

 連れて来られたのはお台場……。

 複合施設みたいなのが乱立していて、何処になにがあるのかよく分からなくなりそう。大阪もこんな感じだから、すぐ慣れそうではあるけれど。にしても……。

 

「結構感じ変わったね、お台場って」

 

 背中を鉄格子に預けながらも、私は言う。

 人々が目に入る。行き交う人々のことじゃない、もっと中身的なことだ。

 

「来たことあるのか?」

 

「テレビでちょっと見たときと全然違うなって思っただけ、駅越えた先になんか体験型のとかなかった?もっと前だと観覧車とかあったでしょ?」

 

「ああ、あった。後この施設もそうだな。最近までレトロゲームとかの店もあったんだが、撤退したみたいだしな」

 

 結人が教えてくれる。

 今度は違う風を感じる。背中に伝わるその実感は温かいものではなく、何処か冷たさを感じさせてくれるもの。冬の実感そのもの。それは私の感情を表しているみたいだった。

 

「そういうのってなんか寂しいね、誰かに忘れられていくみたいで」

 

 風が何かを教えてくれたかのようだった。

 何度も手を握り締めたり、手を広げているのを繰り返している私に……。

 

 

「変化があるってのは当たり前かもしれない、誰かがその風景を忘れるってことじゃん?」

 

「自分と重ねてるのか?」

 

 結人の言葉が頭の中で反復する。

 あるとすれば……。人々が見ていた景色が知らない景色へと変貌していくことが引っ掛かっていた。時代の変質と共に変わるというのは人の心もそう。私の中でお姉ちゃんの感情が変わったように、復讐ではなく自分という道を生きていくことを決めた。

 

「引っ掛かってしょうがないのは……あの頃と違い過ぎるからだと思う」

 

「建物だってそうでしょ?リニューアルしたら、あれ?ってなるのと一緒でさ」

 

「そりゃあ、なんか違うな?とは感じるな」

 

「それと同じ」

 

 リニューアルすることで景観が変わることは少ない。

 だとしても、内部が変わっているなんてことは結構ある話。私の場合、感情というものが変わっている。

 

「後悔してるのか?初音のことを許したのを」

 

 結人が一瞬身構えているように見えて、私は笑みを浮かべてしまう。

 

「別に今更何もしないって……」

 

「ただ……あの頃の私が知ったら胸倉掴んで来そうでしょ?ふざけんなって!」

 

「どうだろうな?前にも言ったろ?お前は本能的に別の道を見つけたいと思っていたって話、だから俺の手を掴んだろ?」

 

 俯くことで髪が額と密着する。

 その瞬間、まるで私の記憶が呼び起こされそうだったのを拒絶する。もう知っていることでしかない。だから、私はすぐに……。

 

 

 

 

「……そうだね」

 

 景色を正面にすることで人々の視線は背中になる。

 

『ちゃんと考えてるんだね初華』

 

『当たり前でしょ』

 

 お姉ちゃんの写真集の話。ただの日常、ただの仕事の話。

 あの中で、私は素の自分のどうのとかいう話をしてた。多分、こうやって景色に集中して見ていたこともあって、何処か自分の素の自分を見るということをしていたのかもしれない。アイフラメとして見せるのは嫌でも、改めて『三角初華』として『三角華音』としても……。

 

「東京らしいものでも買って行こ?」

 

「お母さんとか、事務所の人にも買って行かなくちゃいけないから」

 

 結人よりも一歩先へと出る。

 

「あんまそういうの売ってないと思うぞ」

 

「じゃあ、適当に店見つけてそれでよくない?」

 

 こうやって過去の自分を振り返ることはこれからもきっとある。

 その度に過去の復讐を思い出すことになる、それでもいい。そして、いつ日かはそんなこともあったなんてなってしまう。

 

 だとしても……。

 記憶が薄れて、消えるわけじゃない。私とお姉ちゃんの繋がりも、結人との繋がりも……。私やみんなが覚えてくれる限りはちゃんと覚えてくれる。アイフラメのことも誰かがきっと……。

 

 

 

 

 

「結構、長い時間結人といたかな……」

 

 お台場での買い物を終えた私はお姉ちゃんの家に泊まることが決まっていた。

 本当はホテルで泊まるとかも考えていたけれど、お姉ちゃんがどうせなら泊まって行きなと言ったから。何度も拒否したのに、強引に私はお姉ちゃんの家に連れてかれることになった。

 

「こういうのって東京らしさあるのかな?」

 

 袋の中に入っている青だぬきじゃない、ネコ型ロボットのグッズが目に入る。

 そもそも、あれの舞台って東京だっけ?全然覚えてない。そもそも、もう見ていないし……。

 

 

 

 

「お帰り」

 

 お姉ちゃんの家。

 玄関を開けて入ると、玄関の前でお姉ちゃんが待っていた。手に袋を持った状態で入ると、お姉ちゃんがその袋を見て笑っていた。

 

「なに?お姉ちゃんそんなにおかしい?中学生がこういうの持ってちゃ」

 

「ううん、昔から好きだったもんね」

 

 首を横に振って「違う」と意志を示して来る。

 その顔は明らかに笑っている。結人は笑っていなかったけど、「意外」とか直球なことを言われていたのを覚えている。あいつはあいつでなんかこうアレ。

 

「そういう言い方が嫌なんだよな、お姉ちゃんの……」

 

 お姉ちゃんに袋を預けることはなく中へと入る。そう、本当は好き。

 子供の頃からこういうものが好きだった。子供っぽいと言われることなんて、幾らでもある。何なら、お姉ちゃんに「卒業しないの?」と直球で言われたことすらあった。今思うと、ストレート過ぎて顔をぶん殴っている可能性すらある。やらないけどさ。

 

「まなちゃんが新作のドーナツ見つけてくれたんだ、一緒に食べ「いただこうかな、ありがとうお姉ちゃん」

 

「相変わらずだね、そういうところも」

 

「はいはい、いつまでも子供っぽくて悪かったねお姉ちゃん様。卒業もそろそろ考えないとね」

 

 お姉ちゃんの部屋の中へと入って行く。

 なんか適当に言ってやろうと思ったのに普通にシンプル過ぎて何も言うことがない。シンプルは罵倒にもならないし……。

 

「初華は初華らしくしてていいんだよ」

 

「散々笑った後に言う?それ?」

 

 首を傾けながらも、お姉ちゃんの部屋の片隅に荷物を置く。

 テーブルの上に置かれてある皿の上にはドーナッツがある。確か、冬を彩る雪をイメージしたドーナッツとかだった気がする。砂糖がいっぱい振られている。これ絶対箱の中で砂糖が散乱していたと思う。

 

「それじゃあ、食べる?」

 

「その前にね?」

 

 お姉ちゃんが手を合わせている。

 お姉ちゃんはチラ見しながらも、私を待っている。たかがドーナツの為だけにそこまでするの?と思いながらも、私達は……。

 

 

 

 

 

「「いただきます……!」」

 

 

 と口にする。

 何年振りかな。

 

 

 

 

 

 

 こうやってお姉ちゃんと普通のことをするのは……。

 

 

 

 

 

 

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