【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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イメージチェンジは突然に

「ねえねえ、りっきーこういう服とかどう?」

 

「は?着る訳ないでしょ?」

 

「えー?りっきーに似合うと思うけどな―」

 

 鼻に入って来るは独特な匂い。

 所謂、柑橘類の匂いだろうか。そういうものがこの服屋からは漂う。こういうものを感じ取る度に思う。俺はこういうものが好きだ。こういうそれぞれの服屋から溢れ出て来る匂い。それぞれの店の良さを見せてくれることもある。内装とかも勿論、そうだが。

 

「お前のセンスなんか色々とおかしくない?」

「そうかなー?そよりんはどう思う?」

 

「そこは立希ちゃんに同意かな?」

「そよりん厳しくない?」

 

 普段通りの声がしてくる。

 俺の隣では眠そうにしている楽奈の姿がある。楽奈の奴は服とかには頓着がないタイプ。眠そうにするのも無理はない。というか……。

 

「ゆいと、お蕎麦まだ?」

 

「まだ時間掛かりそうだから待ってくれねえか?」

 

 不服なのか、一瞬だけ目を逸らす。

 にしても、よくこのメンツで単なる買い物出来たなとしか思えない。元々楽器屋の帰りに愛音が強制的に店の中に入っただけなんだが。立希もそよも嫌々そうだったし、すぐ終わると思っていたが全然終わってない。

 

「今はこれで我慢してくれ」

 

 抹茶味の飴を渡すと、満更でもなそうな顔をする楽奈。

 溶ければまた同じことを言い出すだろうが、かれこれもう数十分はこんな状況だから楽奈が飽きて来るのも無理はない。愛音の近くにいる燈もそわそわしているというより、立希を納得させるために置物と化している。

 

「ねえねえ、ともりん!りっきーこういうの似合うよね!」

 

「え?えっと……」

 

「燈、無理に言わなくていいから」

 

 もう聞き飽きたレベルの会話がまだ続いている。

 俺は時間を潰す為に楽奈の服を見ていたが、全部拒否されてる。

 

「お前どういうのなら着るんだ?」

 

「なんでもいい」

 

「いや、全部拒否してるよな……」

 

 自分の服のセンスがないのか、楽奈のこだわりが強いのか分からなくなってくる。

 なによりも、向こうの会話が気になってしょうがない。

 

「立希ちゃんが着てみたいなら着ても……いいと思うよ?」

「……燈がそういうなら」

 

「じゃあ、カゴ入れちゃうね!」

「せめて合うかどうか確認させて欲しいんだけど」

 

 愛音が自信げに息を吐き出しながらも、「大丈夫だって!」と言っている。

 立希にバレないように小さく、ガッツポーズしながらも……。燈の使い方はかなり立希から見たら後押しの一手に繋がる。なんともまあ、上手い手だなと俺は心の中で感心しながらも拍手を送る。

 

「愛音ちゃんって結構手馴れてるよね」

 

「え?なにが?」

 

 そよはその行動に気づいているようだ。

 愛音の方は自覚がないのか、それとも自覚があって隠している。多分、圧倒的後者だな。

 

「立希ちゃんも燈ちゃんの了承があればどんどんカゴに入ってるし」

 

「は?全然違うから、愛音の口車に乗せられてるわけじゃないから」

 

 愛音が「あはは」と渇いた笑みを浮かべる。

 この時点でもうあいつが打算でやっていたのがバレバレだ。こうなったら、もう次どうなるのかは目に見えている。

 

「もういいでしょ?自分のとか選んだら?」

 

 立希が目を細める。

 そう、こうなる。絶対こうなる。

 

 若干恥ずかしがることもなく、立希は腕を組んでいつもの態度になる。

 これ以上、この買い物も続くことはないだろうと確信をして俺がこの店を出ようとしたときだった……。

 

「ねえねえ、ゆいくん!」

 

「なんだよ?愛音」

 

 嫌な予感がしながらも、俺は愛音の言葉を待つ。

 俺は俺で自分の肩に手を置きながらも……。意識的に体を触ることで愛音の言葉から逃げようとする。

 

 

「りっきーの服とか選んであげないの?」

 

「「は!!?」」

 

 店内で響いたのは俺と立希の声。

 当てつけなのか、今度こそ偶然でしかない発言なのか全く分からない。当てつけならまだマシだが、突発的な発言の場合は問題しかない。あいつは何も気づかずにそういう発言をしたことになるから。

 

「ゆ、結人……こ、こいつの言うことなんか聞かなくていいから」

 

「え?あ、ああ……」

 

 立希が乗るなと言ってくれたのを俺が拾い上げる。

 とんでもない羞恥心を抱えるまえにそう言ってくれるのは助かったが、愛音が「え?選んであげないの?」みたいな目で見てくるせいで逃げられない。なんなら、そよも似たような顔をしてるからこそ俺はもう……。

 

 

「立希、その……どういうのが好きなん「はぁ!?」」

 

 逃げ場を勝手に無くされたと思い込んだ俺。

 それに覆い被さるようにして立希の言葉が返って来てしまう。

 

 

 とはいえ、思ったんだが……。

 

 

 

 

 

 立希の服なんてどう選んでも地獄じゃねえかこれ!!?

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「あー立希どういうのが好きなんだ」

 

 明らかに困ってる。

 目線が次々と服から服へと移ってる。

 

 最初から断ればよかっただけなのに、意地張った結果こうなってる。

 あいつは絶対今混乱してる。そんな状況で服を選んだら、絶対ロクなことにならない。

 

「ともりん、この服どう?」

「えっと……?鮮やか……?」

 

「歌舞伎町でも歩いてきたら?」

「そよりん扱い酷くない?」

 

 試着室の方から燈達の声が聞こえて来る。

 視界に入った愛音の服装は目が悪くなるピンク色の服。ああいうの最近割と見かけるけど、普通じゃない奴ばっかりの方が多い。

 

「個人の自由なんだが、地雷系って着る奴いるんだな」

 

 ふと結人の声が聞こえて来る。

 愛音の服装を見ている。それからして、私のことを見て来たから。

 

「着ないから」

「いや、着て欲しいとか言ってねえだろ」

 

「着て欲しそうな目してたでしょ」

「お前の結んでる姿とかなら見てみたいが?」

「は?それどういう意味……?」

 

 服を取ろうとする手が止まる。

 は?今なんて言ってた?いきなりすぎて全然頭に入らなかった。

 

 結んだ姿が見たい?

 服とかじゃなくて、髪を結んでいる姿が見たいとかそういうことってこと?それぐらいなら、まあ別に……。

 

「ふぁあ……」

 

 野良猫の欠伸が通過してるなかで、私は……。

 

「いや、結人のことを甘やかしたらダメに決まってる」

 

 独り言が空を舞う。

 結人を甘やかしたら、次から次に要求をされる。そうなったら、面倒なことが起きる。だから、此処は……。

 

「着ないから」

「さっき聞こえてたんだよ、それはもう。二回も言わなくていいんだよ」

 

「じゃあ、やって欲しかったってこと?」

「そうは言ってねえだろ」

 

 愛音達のはしゃいでいる声がしてる。

 はしゃいでいるのは愛音の声だけ。そして、今はこうして結人に服を選んで貰ってる。なによりも、髪を結んでいる姿を見たいと言われて自分の心のリズム感が明らかおかしくなってる。

 

「りっきー照れてる?」

 

「照れてない、照明のせいだから」

 

 野良猫の一言のせいで、一気に顔が赤くなってしまう。

 どいつもこいつも心を搔き乱して来るせいで自分が見失ってしまいそうになる。早くこんな場所から抜け出したいと思って考えてしまうのに、忘れられない。こういうときに限って、どうしても反復してしまう。

 

 

『今日の獅子座はいつもと違う自分になってみるといいかも!』

 

 朝、くだらない占いをチラ見してしまっていた。

 いや、してない。偶々タイムラインを眺めてたら、そんなのが流れて来ただけ。意識してない、自分を変えたいとか意識してない。

 

「そよりん、結構髪長いけど短くしてみたいとかないの?イメチェンとかさ!」

「あんまりないかな?短く切り過ぎても、おばさんっぽくなっちゃったりするから」

 

「それ分かるかも」

「あっ……」

 

「燈ちゃんは似合ってるからいいんじゃない?」

「あ、ありがとうそよちゃん」

 

 いつもならそよの言った発言をすぐ訂正させようとしてたのに全然動くことができなかった。

 燈のフォローを忘れていなかったし、肝心の燈も安心しきった顔をしてたから。

 

「落ち着かないと……」

 

 こういうとき必要なのは落ち着くことでしかない。

 心が穏やかじゃないからこういうことが起きてしまう。だったらと思って、私はもう一度服を掴んでこれでいいと思って、決断しようとしたが……。

 

「りっきー、イメチェンってなに?」

 

「え?髪型変えるとか?」

 

「ギター弾くときとかやってる」

 

 野良猫が自信満々に反応してくる。

 なのに、どうしても愛音達の会話に耳を傾けてしまう。なによりも、いつもなら全く信じていない占いのことが頭から離れなかった。

 

「野良猫、ヘアゴムとか持ってる?」

 

「持ってる」

 

 不思議そうにしながらも、野良猫が私にヘアゴムを手渡してくる。

 それを急いで掴んで私は鏡を見ながらも、髪を結んでみる。結人がどういう髪型が好きとか全然知らない。だけど、この胸のざわつきが減ってくれるなら、やるには充分でしかなかった。

 

 こういうのをこんな場所でやるとか、馬鹿みたいだし。

 心機一転とかそういう気分とかも全くなかった。どちらかと言うと、これは調子に乗ってるとかしか言いようがないから。それを自分でも見据えないようにしたくてしょうがなかった。

 

「ともりん、こういう服とかどう?」

「えっと……寒そう?」

「確かにそうかも!」

 

 会話が聞こえてきているはずなのに、途切れ途切れで聞こえてしまっている。

 横髪を掴んで、輪の中に入れていく度にあるのは……。

 

 

 

 

 

「どう?」

 

 高揚感しかなかった。

 自分の心臓の音がアップテンポ過ぎてまともに数えることすらできない。あまりにも散らかっている。

 

 ただ一つ言えるのは……。

 あいつはこういうとき逃げたりしない。

 

 

 

「似合ってる」

 

 待ち望んでた答えだった。

 心から欲しくて堪らなかった。

 

 心機一転がない、それは嘘でしかなかった。

 何故なら、結び終えて役割を終えた手が私の身体の方へと下がっていたから。

 

 あいつはちゃんと向き合って似合ってると言ってくれた。

 髪を結んで、ツインテールになった私のことを。自分の感情がおかしくなりそうでこの感情に名前を付けたりしたら、きっとまた私が変なことを言い出しそうで怖い。

 

 だとしても、私からも一つだけ返したい。

 

「ありがと「りっきーなんで髪結んだの?」」

 

 

 

 

「返す!!」

 

 曲全体が終わって、余韻をぶち壊された感覚。野良猫に現実を直視させられる。

 恥ずかしくなった私は野良猫の手にヘアゴムを二つ返して、一足先に一人で歩き出してしまう。

 

「あれりっきー何処行くの!?」

 

 愛音の言葉を無視して私は店を出る。

 髪はもう元戻りだったのに、どうにも抜けない気持ちの昂りを誤魔化すことができなかったのは……。

 

 

 

『似合ってたぞ』

 

 と送って来る馬鹿な奴のせいだった。

 スマホの明るさが今の私を表しているみたいで私は……。

 

 

『馬鹿』

 

 

 

 

 と返すことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 去って行く立希の姿を見て、俺は何も言うことはしなかった。

 一つの連絡を送って、それだけで終わらせた。

 

「あいつもそういうところがあるんだな」

 

 当たり前だと言われたら、当たり前でしかないが。

 誰にとっても、違う自分を見て欲しいという気持ちなんてもんは存在する。あいつがああやって、自分を出してきたのは珍しいことかもしれないが……。

 

「りっきーなんで帰ったの?」

 

 楽奈が俺の服を掴みながら聞いてくる。

 

「あー色々あるんだよ、それは……」

 

「色々?」

 

 ポケットに手を突っ込んでしまう。

 去って行った立希が見ていた鏡を見つめることで俺はさっきまで在り続けた立希を思い出す。

 

「ああ、あいつもそういうところあるってことだよ」

 

 あいつがどういう気持ちで見つめていたのかを考える度だ。

 自分の心の平穏の波が崩れそうになってしまうが、逃げるつもりはなかった。

 

 

 

 

「色々とな」

 

 自分の頬が緩んでいる。

 

 

 

 

 俺は自分自身でそれを笑っちまいそうだった……。

 

 

 

 

 







【こぼれ話】






「よしっ……」

 こういうことをするのはアホだと思う。
 それでも、気分転換でやってみるのは案外悪い気がしなくて、自分の心がリズム感を出しつつも、波が出来ている。一つに結んだ髪で私は「RING」のカフェから出ると……。

「あれ!?立希ちゃん、ポニーテールにしたの!?」

 関係者の扉から速攻出てくれば、聞こえて来るのは明るい声。

「あーダメだよ、香澄そういうときは……」

「え?あっ、ご、ごめんね立希ちゃん!」

 山吹先輩が何かに気づいたのか戸山先輩に気を遣わせようとしてしまっている。
 多分、私が微妙な顔をしてしまったから。一番真っ先に褒めて欲しい奴がいたから。そいつは今日シフトが入ってる。だから、あいつに見せたかったのに何処か腑に落ちない結果が出てしまって、落胆してしまう。

 でも、あいつは……。


「似合って「いい、そういうのいいから!!」

「は?おい、待てよ立希!」

 自分の視界が次の瞬間、また関係者側の方へと戻ってしまう。
 誰もいない場所で私は背中を密着させながらも私は座り込んでしまう。


 肌の熱さを感じながらも……。
 いざ、あいつの声を聞いて思ってしまったのは……。





 やっぱり恥ずかしいでしかなかったということ……だった。
 というか、もしかして……。




「あいつのこと好きなの先輩たちに気づかれてる……?」

 いや、いやそんなわけがないと……。




 思いたい……。
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