【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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結ばれた新たな絆

 カフェ併設のライブハウスのドアが開く音が聞こえる。場所の名前は『RING』。それと同時に俺が中に入ると、そこには噂で聞いた通り場所だった。入ってすぐのところにあるホワイトボードにはバンドの募集が掛けられている。主に募集されているのはドラマーやベーシストと言ったものだった。こういうのは最近ではネットやSNSでも募集が掛けられている印象だから張り紙でどの程度効果があるのか分からないが、今は大ガールズバンド時代。人もすぐ集まることだってあり得るんだろうなと興味を示しながらも俺は入口付近から歩き始めるとすぐに俺は場違いな気がしてくる。と言うのも今日は特にライブもある訳ではない為、中にいるのはガールズバンドを組んでいる女子ばかりだった。それもあってか、俺が此処にいるというのは少しばかりある意味で目立っているような気がしてならなかったがあまり気にしないようにしながらも俺は奥へと進んで行く……。

 

 

「あっ!!結人君こっちこっち……!!」

 

 奥へと進んで行くと、そこでは愛音が俺に手招きをした後に、手を振っていた。

 隣を見れば燈もどうやら既に来ているようで此処に来たのはどうやら俺が一番最後だったらしい。俺は少し歩く速度を速めながらも愛音たちの方へと行った。

 

「今日は急にごめんね結人君」

 

「別に俺は構わねえけど……」

 

 俺が『RING』に来たのは愛音に呼ばれたからだった。

 愛音はどうやら燈から俺と仲直りしたという情報を聞いて、こうして今日は俺のことをこのライブハウスではどうやらカフェもあるようでこうしてカフェスペースで俺は愛音にたった今手招きされていたという訳だ。

 

「結人君キョロキョロしてるけどRING来るの初めてじゃないよね?」

 

「ああ、まあ……そうなんだが……。どうにもこういう場所ってあんまり来たことがねえからな……」

 

 燈のライブを見に行くために一度このライブハウスに来たことはあったし、此処の噂は聞いたことは前から聞いたことはあったがそれでも俺は落ち着かなかったのはさっき自分が言っていた通りの理由だろう。

 

「此処の話は結構聞いていたんだが、それでもちゃんとこうして中へと入ると大きさに驚いたしな」

 

「あーそれ分かるかも、此処結構大きいもんね」

 

 とは言え、こういうカフェスペースはかなり落ち着くもんだ。

 内装も静かなカフェと言う感じな場所で木製のテーブルや木製の椅子。壁には額縁が置かれていたり、窓の外を見れば観葉植物などが置かれている。気持ちが落ち着くのはそういう植物などが置いてあるからなのかもしれない。

 

「結人君、なにか頼む?」

 

「ああ、俺はそうだな……」

 

「結人君、此処は紅茶がオススメらしいよ」

 

「そうなのか……じゃあ俺は……」

 

 燈が俺にメニューを渡して来て俺はそれをお礼を言いながらも受け取っていた。その後、愛音が俺に此処のオススメを自慢げに教えていたのには全く反応せず、彼女の助言を受け入れてメニューを軽く見た後に、茶髪でポニーテールの女性を呼び止めて俺はダージリンを注文することにしていた。注文を受け取っていた店員さん、なんというか輝きのようなものを放っているような気がしていた。

 

 それから少し経った後に俺が注文したダージリンが届いていた。

 俺のが届いたのと同時に愛音と燈が頼んでいたものを少し確認していた。愛音は紅茶を頼んでいたようでその横で燈はどうやらコーヒーを飲んでいるようだった。ただ、苦かったのか砂糖とガムシロップを入れているようだったが……。まあ、それはその隣にいる奴も同じか……。

 

「ーん?何か言いたそうじゃん」

 

「いや、そんなに無理して紅茶飲むなら飲まなくてもいいだろって思っただけだ」

 

「うっ……またそうやって結人君は痛い所突くんだからさ」

 

「別に事実を言っているだけだろ……」

 

 愛音の横には砂糖が入ったカップが置かれており、かなり使ったような感じがあった。

 無理して紅茶を飲んでいる。自分が大人だと言う証明でも表したいのかもしれないが、なんとなくだがそんな感じではないような気はしていた。何かを懐かしむ、そんな感じなようものを読み取れた俺はこう続ける。

 

「…………その、ありがとうな」

 

「え?なになに?急にお礼なんか言い出しちゃってどうしたの?」

 

 一瞬「うぜぇ」となりながらも俺はその気持ちを服についていた糸くずを払うようにして振り払う。

 

「いや、だから燈とこうしてまた繋がりが出来たのはお前のおかげ……。だからその、一応お礼を言っておこうと思っただけだ。さっきの反応で一気に言わなきゃよかったって冷めたけどな」

 

「えぇー?そんな言い方しなくても良くない?それじゃあ、ありがとうって言った意味ないじゃん」

 

 愛音は俺に対して自分が勝ったと言いたいのか、満足げに笑みを浮かべている。

 それが本当にムカつきそうになっていたが、こいつにムカつくだけ時間の無駄だし正直こいつにあんまり怒りたくないという気持ちがあった。それは言っても治らないという諦めとかじゃなくてもっと別の問題だ。

 

「うるせえな、元はと言えばお前が勝ち誇ったように笑いながらニヤニヤしてるのが悪いんだろうが……。本当にムカつく奴だな……でも」

 

 

 

 

 

 

「お前とも繋がりが出来たのは事実だからな……」

 

 そう、俺がこいつに対してそんなに怒らなかったのはこういう理由だ。

 結局のところ俺は別の新しい結び目が出来上がった。元々あった俺の結び目に対して新たな結び目が追加されてそれは所謂、友情と言う名の絆へと昇華されてしまった。

 

「ほぼお前からの一方的な繋がりだったけど、今だから言える。その繋がりはもう一方的なもんじゃなくなって来てるってのがな……。肩の荷を下ろして貰ったこともあるし、お前の言葉で救われたのもまた事実だし、燈とこうして仲直り出来たのもお前のおかげだしな……。だからその……」

 

「本当にありがとうな……」

 

 段々照れ臭くなっている自分と俺の言葉を聞いて更にニヤニヤを隠せないでいる愛音を見ているせいで俺は余計に恥ずかしくなって徐々に声が小さくなってきていた。きっとこの先、愛音に絶対弄られることになるだろうが、それでも俺はいいとすら思えてしまっていたとなっていたが実際なところはこの先ネタにされるのがかなり重い感じになりそうだと若干鬱々しくなっていた。というか、俺は愛音に対して幾ら何でも心を開き過ぎな気はする……。

 

「ってことは……私のこと改めて友人って思ってくれるってことだよね?」

 

「ああ……そうだな」

 

 愛音と紡ぐことが出来た新しい絆……。

 たった数日程度でまさか此処まで繋がりと言う靴紐が出来上がるなんて想像すらしていなかったけど、俺は悪い気はしていなかったが次の愛音の言葉で一気にそれがなくなっていた。それもそのはずだ。愛音が突拍子もないことを言い始めたからだ。

 

「じゃあ、二人のお祝いを兼ねて今日はパーティーしない?ほら、ゆいくんもそれでいいでしょ?」

 

「…………は?ゆいくん?」

 

 愛音に言われた言葉に俺は固まってしまう。

 いや、恐らくあだ名で呼んでいるというのは分かるんだが愛音ってやっぱりいい奴だなーってなっていたこのタイミングで一気に距離を詰められて「はい、決定!!」みたいなノリで言い始めた為、俺は困惑している。

 

「ゆいくん……」

 

「もしかして燈ちゃんもゆいくんって呼びたい?」

 

「うん……」

 

「え?そ、そうなのか燈……?」

 

 燈は割と即答で愛音の言葉に返事をしていた為、俺は余計困惑する。

 

「ほらー一番大事な燈ちゃんがゆいくんって呼びたいってさ?どうするゆいくん」

 

「……燈はいいぞ」

 

「私は?私は?」

 

「お前は駄……分かったよ、好きに呼べ」

 

 此処で愛音だけ駄目だというのはすげえ簡単なことだが、なんかこいつだけ雑に扱っている感が出すのは流石に可哀想だなと思って俺は了承したが、愛音はそれに気づいたのか「ゆいくん、優しいー!」と言われて俺は溜め息をつきそうになっていた。

 

「ゆいくん……愛音ちゃんとこんなに仲良くなってたんだね」

 

「まあ……こいつがすげえ絡んでくるから逃げ場ねえだけなんだがな……。それにこいつといること自体は退屈しないで済むし嫌いじゃねえからな……。面倒な奴だとは思うけど……」

 

 燈にあだ名で呼ばれるというのはなんというか新鮮な気がしていて結構良いもののように感じて取れている自分がいた。

 

「えー?今私のこと褒めてくれた?」

 

「マジで口にしなきゃ良かった……」

 

 俺は椅子に寄りかかりながらも愛音のウザさに頭を抱えていたが、嫌っている訳ではなかった。

 寧ろ、こいつのこういう愉快な部分は本当に退屈しないで済むし面白いから嫌いじゃない。燈から最初聞いていた愛音とは程遠いけど、こいつもこいつでしっかりしているところはかなりあるからな……。そういうところも知っているから、俺はこいつのことを友達だと認めた訳なんだが……。

 

 というかよく立希はこいつとバンドよくやれたな……。

 あいつの性格考えたら絶対愛音と合わないだろうに……。まあ、そよとかは表向きには上手くやれていそうだし、楽奈は……。

 

「…………楽奈?」

 

 俺が後ろを振り返ると、そこには一人席で美味しそうに抹茶パフェを口の中に頬張っている楽奈がいた。俺に気づいていたのか、特に驚く素振りもなかったが考えてみれば俺は愛音とさっきまで言い合いをしていたから、楽奈に聞こえていても不思議ではないだろう。

 

 愛音や燈が楽奈がいることに驚いている声を聞きながらも俺は立ち上がって楽奈の前に立つ。

 

「悪かった楽奈……俺はあのライブを本当に感動したし、凄いもんを見れたと感じていた。正直……燈の歌声ばっかに夢中になっていて楽奈がどうだったとか愛音がどうだったとかそういう事細かなことは言えねえけど、それでもあのライブは俺の中で肌を通して耳から入って来る音声に、目から感じる情報の中で本当に凄いものだったと思うし、熱狂的になれるものだった。ライブの一体感つーかそういうもんを感じ取れて本当にすげえと思ったんだ……。だから……「結人……」」

 

 

 

 

 

 

「おもしれー男になった」

 

「え……?」

 

 楽奈ははにかみながらも満足そうに笑みを浮かべている。

 俺にはその意味がちゃんと分からなかったが、それでもなんとなくだが分かったような気がしていた。

 

「次は私のギターの音も聞いて」

 

「ああ……!!」

 

 楽奈が言う「おもしれー男」というのは俺が今楽奈に言っていることを聞いて本人の中で頷けるものがあったのもそうだろうけど、あいつにとっても最も重要なのはきっと俺が愛音に言っていた言葉なのかもしれない。俺が愛音に対して何度も言っていた繋がりという言葉は楽奈の中で響いていたからこそ、次の瞬間楽奈はこう言って来たんだろう。

 

「私とも繋がり結ぶ?」

 

「楽奈が良ければな」

 

「うん、私は全然構わない。ゆいと、おもしれーから」

 

 最も楽奈の言う「おもしれー」は見ていて飽きないからと言うのもあるのかもしれないが、楽奈のことを完全に理解するまでには時間が掛かるのはそう遠くないのかもしれない。動物というより、猫が好きという共通点もあるから、な……。

 

 

 

 

 

 

 

「繋がりか……」

 

 愛音と繋がりを結び、楽奈とも繋がりを結んだ。

 新しい結び目と言う名の靴紐……。この紐はきっと解けることなく強靭なものになっていくことには違いなかったけど、俺はある一つの繋がりのことをふと思い出していた。それはさっきも名前に出していた……立希のことだ。

 

「ゆいくん、もしかして立希ちゃんのこと考えてた……?」

 

「ああ、そうだな……」

 

 燈が恐る恐る立希の話題を切り出していた。

 俺は椅子に座り直していた。その横には楽奈が美味しそうに二個目の抹茶パフェを堪能している。頼んでいるときによく食べるなと思いながらも俺は楽奈のことを眺めていた。

 

「立希はバンドの練習とか今来てるのか?」

 

「ううん、今は全然来てない」

 

 俺の言葉に返してきたのは愛音だった。

 俺のせいで燈ともぎくしゃくしていたから練習に参加なんてことは出来る訳がないよな……。

 

「まあ、そうだよな……そよも練習には来てないんだろ?」

 

「うん……そうだね……」

 

「……立希のこと、俺に任せてくれないか?」

 

「え……?」

 

 俺は頭の中で考えるまでもなく出ていた言葉だった。

 燈は俺の言葉に疑問を感じているようだった。

 

「そよのことは前のバンドのこととかも含んでいるだろうし、燈達に任せたい。ただ、立希が練習に来なくなっちまったのは俺が全面的に悪いから……立希のことは俺に任せて欲しいんだ。あいつにちゃんと謝りたいし、それに立希は俺の友達でもあるから……」

 

「構わないけど……どうしてゆいくんはそこまでバンドのことに拘ってくれるの……?」

 

 燈が俺にどうしてと問いかけて来る。

 愛音や楽奈の方を一瞬見ると、二人はその答えを分かっているようだった。

 

「その答えなら簡単だろ燈……俺はお前らのバンドの演奏がまた聞いてみたいからだ。さっきも言ったけど、燈の歌声しかまともに聞いてねえからさ……。今度はみんなの演奏にも注目して聴いてみたいんだよ……」

 

 燈の歌声は素晴らしかった。

 今度は燈の歌以外にも他の皆が奏でる楽器の音にも注目してみたい。そよが奏でるベースの音、

愛音と楽奈が弾くギターの音。立希がドラムスティックで叩くドラムの音。そこに燈の歌声が合わさったときどんな音なのか俺はこの目でもう一度確かめてみたかった。俺のエゴでしかないのは勿論、分かっている。それでも俺はこのバンドの演奏をもう一度聴いて見たかったんだ。

 

 俺の言葉を聞いて満足そうにしている楽奈と愛音を見つつも俺は燈の方を見ると、立ち上がってこう言う。

 

「分かった、ゆいくん……。じゃあ、立希ちゃんのことお願い……。そよちゃんのことは任せて……」

 

 燈は俺が言葉を発している最中、凄く嬉しそうにしていた。またバンドの音を聴いてみたい、それが燈にとって凄く嬉しかったんだろう。

 

「…………ああ、任せてくれ燈」

 

 俺は俺の罪滅ぼしの為にも立希にちゃんと謝りたい。

 例え立希に殴られようがビンタされようが俺は全部受け入れるつもりだ。俺はそれだけのことを立希に対してしてしまったのだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、次の日……。

 俺は立希が花咲川女子学園の校門前で立希のことを待っていた。俺が男子生徒である為、目立っていることも百は承知の上でいたが、燈もこんな雑音の中で俺のことを待ち続けてくれていたのかと思うと、本当に申し訳ない気持ちになっていると、長い髪の女子生徒が通り過ぎようとしていた。顔を確認すると、左目の下に泣きぼくろがあることを確認して俺は立希だとすぐに気づいて俺は立希の腕を掴みながらもこう言った。

 

 

 

 

 

 

「立希……話があるんだ……」

 

 

 

 

 

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