【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
ネタバレは出来ませんので詳しくは言えませんが、いい意味で想像を遥かに越えて来たって感じはしましたね……。
『全部、お前の言う通りだよ。俺はお前にただ謝ってそれで許されて自己解決したいだけ。そう思われても仕方ねえよ……』
結人のあの言葉を聞いたとき、私の心にヒビのような物が出来ていたような気がしていた。
あいつの謝罪なんて今更聞くたくなかったし、受け入れるつもりもなかった。あいつと目を合わせたとき、なんとなくだけどあいつの中で芯があるものが芽生えたのは分かっているつもりだった。それでもあいつは燈のことを二度も裏切った。それを今でも許すことが出来ないからこそ、私はあいつの謝罪を受け入れるつもりはなかった。
それでもあいつが出て行った後私の体は震えていた。
「どうするか……」
RINGを立希から出禁になった今後、此処に来ることは最早不可能に近い。
あいつの言葉なんて無視して此処に来て全然構わないが、それだと立希は全然取り合わってはくれないはずだ。それに、あいつが言っていたことも間違ってはいないからな……。
「ゆいと、今日は諦めるの?」
「ああ、今日のところは撤収させてもらうよ」
楽奈の「諦めるの?」と言い方は恐らく俺のことを鼓舞させるための言葉でもあったんだろう。
自然と楽奈の表情がにやっとしているのを見て俺は気づいていた。
「なぁ、楽奈……。お前、どうしてRINGに連れて来てくれたんだ?立希が此処にいるって知ってたから連れて来てくれたのは分かるけど、それ以外のも理由がありそうな気が俺にはするんだよ」
「バンドまたやりたいから」
「どうしてそんな燈達のバンドに拘るんだ?」
「ともりがおもしれー女だから」
「おもしれー女か……。確かにあいつはおもしれー女だよ」
まさか楽奈の口から燈がおもしれー女という単語が出てくるとは考えてもいなかったけど、楽奈はそれだけ燈のことを気に入ってくれているっていうことなんだろうし、きっと楽奈が言う「おもしれー」って言う言い方は特別な意味合いも込められている。そんな気がしていた。
「バンドを再結成してまたライブをやるっていうことか?」
「うん、ライブやってゆいとを圧倒させて楽しませて泣かしてやりたいから」
「……ぷっ、はははっ、そうかよそうかよ」
「…………ありがとうな、楽奈」
まるでいつも手慣れているようかのような流れで俺は楽奈の頭の上に手を置いて楽奈の髪に触れながらもそっと撫でていた。楽奈は悪くない気分だったのか、気持ち良さそうにしていた。バンドをまたやりたいから、か……。楽奈にとって燈達といるあのバンドがどういうものなのかを俺はこのとき分かった。
きっと楽奈にとってはあのバンドにいるということ自体が自分が楽しめる場所なのかもしれない。だから、あんなにも自身満々で笑顔で俺のことを泣かせると言っていたんだ。俺は財布を取り出して楽奈にお金を渡すと、不思議そうにしている。それは多分抹茶パフェのお金より多いと言っているんだろう。
「それで好きなもん、RINGで食べて来い。無ければ無いで他のところで使ってもいいからな」
「ふふっ、ゆいと本当にいい奴」
楽奈が俺のことをまたお気に召したようだった。満足そうにしながらもRINGの中へと戻ろうとしたとき、中から先ほどの店員さんが出て来る。
「さっきはごめんね!立希ちゃんが変な態度取って」
ライブハウスの中から外へ出て来て女性は、膝に手をつけて息を少し荒くして呼吸を整えてから俺に言っていた。俺がカフェスペースを出るまでの間、立希が俺のことをずっと鋭い眼光で睨んでいたのを女性は知っていたのかもしれない。あれだけの威力の眼光で見せつけていたら嫌でも気づくこともあるか……。
「あっ、いや……。立希のことは俺が全面的に悪いんで気にしないでください。それと……この前の立希達のライブのことは本当にありがとうございました……!!おかげですげえいいもんが見れて本当に良かったです……!!」
隣で少し笑っている楽奈が視界に入る。
「いいのいいの、全然気にしないでね」
あのとき、俺があのライブを見に行くことが無ければ自分という人間と向き合おうとする気持ちすら湧くこともなかったはず。もう開演していてライブも始まっている最中というのに中へ入れてくれたことは本当に感謝しかない……。
「立希ちゃんとは喧嘩でもしたの?」
「まあ、そうですね…………あの……一つ聞いてもいいですか?」
「此処ってバイト募集してます?」
「……えっ?」
幾ら何でも突拍子過ぎる発言だったが、俺には考えがあった。
「俺はつい最近までずっと自分が抱えているもののことで悩んでいました。そんなときに助けてくれたのが俺の大切な友人でした。その友人は俺にこう言ってくれました、一緒に進んで行こうって……。俺は彼女にそう言われてあんまり自信はないですけど、彼女と一緒なら進んで行きたいと思えたんです。そして……進むなら……」
「立希も一緒だと嬉しいんです。立希は俺にとって本音を少しでも話せる数少ない友人の一人です。だから、今度はちゃんとお互いの腹の内を明かして話し合いたいんです。その為には、まずあいつのことをちゃんと理解しなくちゃダメだって俺は分かったんです……。それを分からせてくれたのが俺の友人でしたから……!!だからお願いします……!!」
「俺を此処で働かせてください……!!!」
深々と頭を下げながらも俺は女性に懇願する。
すると、女性は「頭を上げて」と言ってくれる。
「もうー、そんなに頼み込まなくても全然大丈夫だよ。丁度今人手が足りなくて増やしたいと思ってたところなんだ」
「じゃあ……!!」
「うん、お願いできるかな……?」
「は、はい……!!宜しくお願いします!!」
前振りもなく本当に突拍子に言った言葉が上手く作用することになるなんて思ってもいなかった。ただ、俺が燈に助けられたや立希と一緒に歩きたいというのは本音でしかなかった。
「ゆいと、やっぱりおもしれー男」
「楽奈ちゃん、男じゃなくて男の子でしょ?」
そんな二人の会話が聞こえながらも、俺は女性の名前が凛々子さんという名前を知る。
凛々子さんから明日改めてバイトの面接をさせて欲しいと頼まれた俺は返事をすると、「良い返事だねー」と言われていた。俺はその後、楽奈に手を振りながらも今日のところはRINGから離れるという選択を選ぶことにしていた。
「……なんでお前が此処にいるわけ?」
次の日、私は凛々子さんから新人の教育を頼むと言われた。
「なんで私が……」と思っていながらも結人を睨んでいた。
「バイトなら余所でもしてるんでしょ?凛々子さんから聞いたけど」
「別に理由ならなんでもいいだろ、この店他にも店員居たろ?その人は?」
「山吹先輩や戸山先輩ならまだ来ない」
本当だったら、こいつの指導役なんて山吹先輩に頼みたいところだけどまだ店には来てないから私が教えなくちゃいけない。戸山先輩は大雑把過ぎて教えるのには向いてるとは思えないし……。
「んで?何を教えてくれるんだよ、立希」
「…………はぁ、ついて来て」
こいつが新人だということに不服を感じながらも私は諦めて結人にこのカフェでの流れを事細かく説明した。分からないことがあれば、あいつが私にいつも通りの口調で……いや、あのとき会ったよりは口調は鋭くなっていたけど聞いてるのを見て私は結人という人間の温かさを再確認しようとしてしまっていた。
「流れはこんな感じ、質問はないでしょ?」
「ああ、別にねえよ……」
「じゃあ、まず掃除からやってて。ちゃんと綺麗にして」
私の言葉に返事をしていた結人。
壁に寄りかかりながらも、結人の様子を見ていると私の顔を見ながらも掃除をしているのがどうにも視界に入って言葉を発する。
「なにその顔?文句でもあるの?」
「別にねえよ立希、ただ俺は……諦めが悪いからな……」
「勝手に言ってれば?諦めが悪いとか言っても私は許すつもりはないから」
「ああ、勝手に言ってやるよ」
床をモップがけをしていた結人が手を止めながらも、私に言う。
「あーそうだ、接客俺が変わるか?」
「は?なんで?」
「愛音から聞いたけど、お前接客態度悪いんだろ?だったら、俺が変わった方が幾らかマシなんじゃねえかって思ってさ……。多分、お前よりは完璧に接客できると思うぜ」
「へぇ?言うじゃん、そんなに言うならやって見せてくれない?ダメだったら……」
やっぱりだ、私はやっぱり結人とこうして話せていることを安心している自分がいる。
あのとき、体が震えていたのは間違いなく私は結人を傷つけてしまったという罪の意識があったから、私の体が震えていたんだ。だけど、私はそれを認めたくないからこそこうして今も結人に対して自分の怒りを抑えることが出来ない。燈の為とか言っているけど、それ以上に私は……私自身が……。
「難癖付けるから」
また結人に裏切られたという気持ちの方が圧倒的に強かったんだ……。
結人のことを信頼していたから……。
あのパンダのストラップを外したのだって……そうなんだから……。