【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
「後は任せてもいいか燈」
「うん……」
「じゃあ頼んだ燈……」
椅子から立ち上がると、頭を裏を掻いている。
さっきまで私に対して怒っていたこともあって周りの視線が突き刺さっていて少し恥ずかしく感じていたけど、表情は何処かスッキリとした、そう言いたそうな表情をしているのを私は気づきながらも彼は後のことを燈ちゃんに任せていた。
「愛音ちゃん……」
名前を呼ばれたとき、咄嗟に椅子から立ち上がって私は上の階へと走ろうとする。
「待って、愛音ちゃん……!!」
これが逃げだというのは百も承知だった。
それでも私はもうバンドにはいることなんて出来るわけがない。
『自己顕示欲が強めで目立ちたがり屋のギターの音っていうのを……!!』
彼が言っていたことは全部が全部、そうじゃないけど過去の私がゆいくん……結人君に向けて言った言葉が多かった。彼に対して言った言葉のほとんどがまさか自分に返って来ることになるなんて全くの予想外だったけど、私はもうバンドにいることなんてできなかった。結人君があそこまで私のことを言ってくれることは本当に嬉しかったし、心がぽかぽかしていた。あそこまで本気でぶつかってくれたのは多分結人君が初めてだったからだ。
なによりも私が結人君に対して印象的に感じていたのは瞳だった。
彼の瞳は真っ直ぐで真剣そのものだったけど、私に対する失望と怒りを若干あったような気もしていた。きっとそれは間違いじゃない。彼は言っていた、自分と燈ちゃんのことを繋ぎ止めたのは私だって……。結人君が私のことを鬱々しいと感じていたのは本当のことだろうけど、自分と大切な人を関係を修復してくれた私が今更こんなことで悩んでいるのが許せなかったのかもしれない。
それでも……私はバンドに戻ることなんてできない。
あーあ、結局私はまた逃げてしまってる。留学のときだってそうだ。ちやほやされたくてイギリスに留学するなんて言い出した。直前まではなんとかなるなんて思ってたけど、実際は全然駄目だった。勉強が出来ても喋れないんじゃ意味がない。数ヶ月粘ってみたけど、心に穴が開いてしまうような気がして私はイギリスの留学をやめて転校してきて羽丘に来た。
此処でやり直す、そのつもりだった……。
中学時代のみんなは羽丘に行っている子は全くいなかったし、もし会いそうになっても何事もなかったように他人のフリをすればいいか逃げればなんとかなるなんて思ってた。上手くは行かなかった。
『千早?留学、したんだよね……?』
自分が今まで溜め込んでいた印象が一気に崩れた瞬間だった。
もう駄目だ、と自分の頭の中が真っ白になって逃げたいという気持ちもなくなり、私はその場で固まってしまっていた。そのときはもう取り繕うとかそういうのはどうでも良くなってしまっていた。
『私も……迷ってても、進みたい……』
それでも燈ちゃんは違った。
私のことを受け入れようとしてくれていた、受け止めてくれた上で私と一緒に進んで行こうと言ってくれていた。よく分からない子でクラスのマスコット的な存在という彼女の印象は私にとってその日一気に変わって行った。
「逃げてもいい……か」
留学に失敗して今度は燈ちゃんからも逃げている。
後ろから息を荒くしながらも一生懸命に追いかけようとしている燈ちゃんの姿は私の視界には全く入ってなかった。何処へ逃げたってきっと燈ちゃんは私のことを追いかけようとしてくるのは分かっていたけど、それでも私は逃げたかった。
『一回ダメになってもやり直せるって思わないと、人生長いんだしやってけないよー?』
今になってどうしてこの言葉を思い出したのか分からない。
きっとこのことからだって逃げてまた新しい自分でも見つけて逃げ遂せるなんて凄く甘い考えをしていたのかもしれない。そんなのは無理に決まっている。これまでの私の人生が証明している。小手先だけは器用だったからなんとかなることが圧倒的に多かったけど、逃げているだけじゃなんとかなるなんて甘いというのは本当は分かっていた。それでも私は逃げたかった。だって、あの
『愛音ちゃんも楽奈ちゃんも
あの言葉を言われたとき、瞬時にそよさんの今までの言動を振り返っていた。
思い返してみれば、そよさんは私をバンドという輪に入れて話をしていることはそんなになかった。最初に私がバンドやらない?と誘ったとき、サポートからと言われた。燈ちゃんが決心したときだって、そよさんは私のことを数に入れてなかった。妙に納得してしまっている自分を感じながらも、私は燈ちゃんの言葉を聞かずにその場を去ってしまった。もう、これでいい。バンドに私を満たしてくれるものなんてなかったから……。
もういいと思っていたはずなのに、私は……。
「…………」
気づけば燈ちゃんに背中からがっしりと掴まれて私は地面に体がぶつかっていた。
痛いという言葉を発することも出来ずに燈ちゃんが私の上へと乗っかって行って、動くこともままならなかった。
「愛音ちゃんは……愛音ちゃんは……!!私と結人君を繋ぎ止めてくれた……!!永遠なんてないと思っていた私にもう一度結人君と繋ぎ止めてくれた……!!だから今度は私が愛音ちゃんと繋ぎ止めたい……!!私と一緒に……!!」
「バンドやって……!!」
紛れもなくそれは燈ちゃんの言葉だった。
結人君が言っていた通りだった、燈ちゃんはあの件があったから私に凄く感謝している。逃げ続けていた私のことを追いかけようとしていたのだって、きっとそのお礼に過ぎないと自分に言い聞かせていた。
「いらない、でしょ……私……」
「いる……!!愛音ちゃんいるよ!!」
芯が通ったその言葉はただ私への感謝やお礼だけじゃないという言葉じゃないというのは分かって来た気がしていたけど、私はそれでも自分を曲げることを今更出来ずに私は彼女を突き放す為にこう言い返そうとするが、言うことが出来ないでいた。
それは結人君に対してだけ言ったあの言葉。
『燈ちゃんのことをバンドに誘ったのだってクラスのマスコットを誘えば注目されるかも!?って思ってたからさ……』
バンドを見栄で始めたと言えば、燈ちゃんを突き放すことを出来るかもしれないと思っていたのに私はそれを言えるだけの言葉が残っていなかった。力が残っていなかった。寧ろ、今出そうになっているのは燈ちゃんとこれから先も迷子でも進み続けたいという意志しかなかった。
『思ってることあるならちゃんと言った方がいいよ』
そっか、燈ちゃんに私が言ったように私はあのときちゃんと自分がどうして燈ちゃんのことをバンドに誘ったのか彼に言えたからもうそういう蟠りとかが無くなっているんだ。じゃあ、もう本当に逃げ損だったんだ。私は分かっていたはずなんだ、燈ちゃん達と一緒に進みたいって……。だったら、私の答えはもう決まってる……。
「自分の言葉が全部返って来るなんて思わなかったなぁ……燈ちゃん」
「一緒に進んでくれる?」
◆
「ゆいくん……」
あだ名で愛音が俺のことを呼ぶ声が聞こえて俺が振り返るとそこには愛音と燈が立っているのを確認しながらも俺はこう言う。
「自分がどうしてお前に此処まで信頼なんてものを感じていたのかは分からない。たった数日程度だったのにそれで信頼なんて言えるのはおめでたいことなのかもしれないが、それでもお前嫉妬心や劣等感なんてものは誰でも抱えてるって言ってくれた。前にも言ったよな、俺はお前の言葉に救われたって……。燈との関係も修復してくれた。そういうのもあって、お前が逃げようとしているのを見て俺は……許せなかったんだと思う」
「そういう怒りとか失望みたいな感情を向けてて分かったんだよ……」
「多分立希も同じだったんだって、燈を裏切ったことを許せなかったのも強いとは思う。ただ、それ以上に……」
「信頼できると思っていた奴に裏切られたっていう気持ちがより強かったんだ……」
立希は俺に燈のことを完全に任せられるという言い切るぐらい俺に信頼を置いてくれていた。
それに俺は……正直立希になら自分を曝け出してもいいと自分の本性を隠している頃からも思い続けていた。どうしてあのとき、俺は……劣等感を抱えているなんてあいつに溢してしまったのかが分からなかったが、あいつの辛辣だけどちゃんと物事を客観視してくれるところは本当にいいと思うし、自分が冷静になれる気がしていたからこそ俺はあのとき立希に対して自分が今まで隠して来ていた本性が漏れ出していたんだ。
今度こそ、俺は……。ようやく答えを導き出せた……。
ずっとただ誠意を見せればいいとだけ考えていたけど、それは全然違った。立希の中に眠る、裏切られたという腹の内を引きずり出してでも俺は……あいつとちゃんと話がしたい……!!
◆
彼からは情熱に近いものを感じた。
今度こそりっきーとちゃんと話をしたいという強い意志が結人君を強くさせていた。燈ちゃんとゆいくんの強い意志みたいなのが私にあるのかなんて言われたら絶対にないけど……私もやれるだけのことをやってみたい。こうしてそよさんの前に立ってるのもその為……。
「昨日の今日でよく来れたね、自分がなんて言われたのかもう忘れたの?」
「忘れてない、忘れてないからこそそよさんの所に来た」