【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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今まで通りなんて出来ない

 昨日、ああ言われたのにまさか愛音ちゃんが私の家に乗り込んでくるなんて想像もしていなかった。私に要らないって言われて今頃自分は要らないなんて、ウジウジしているころだろうと勝手に予想していたからだ。

 

 本当は家に入れるつもりなんてのはなかった。

 あまりにもしつこく追いかけて来るせいもあって私は結局家に上がらせてしまっていた。その後は人の家のことについて聞いて来るし、私は軽く受け流すようにして質問に答えていた。紅茶を入れて適当に話して帰らせるつもりだったけど顔を見たとき、簡単には帰ってくれなさそうなのはなんとなく察していた。

 

 愛音ちゃんはバンドに戻って来て欲しいと言っていた。

 私は楽奈ちゃんが春日影を弾いたことを許していないと伝えると、愛音ちゃんは春日影がとてもいい曲だったということを言われて私は少しばかりイラっとしていた。思わずこう言ってしまうほどだったから。

 

「本当に分かってんの?CRYCHICのこと何も知らないくせに」

 

 CRYCHICのことを何も知らない愛音ちゃんに私達の春日影を語られるのが嫌で仕方なかった。

 

 

 

 

『あなた、ご自分のことばかりですのね』

 

 祥ちゃんに冷たい視線を向けられたまま言われたあの言葉。

 あの言葉でCRYCHICはもう戻らないと言うことをはっきりと分かっていたけど、私はそれでも壊れたあの日々を治したくてしょうがなかった。もう、どうでもいいと言いと思っていたはずなのにあの日々のことを忘れられなかった。

 

 私の中でCRYCHICの日々を忘れることが出来ない。

 それは一生変わることはないのかもしれない……。

 

「今のバンド見栄で始めただけでしょ?小手先は器用なんだからバンドに拘る必要なんてないでしょ?」

 

「私は燈ちゃんと一緒に進むって決めた。あんたが私をいらないって言おうが、私はやるけど?それに……これは私たちが始めたバンドでしょ」

 

 小手先は器用だと言われたとき、彼女は「当然じゃん」と言いたそうに笑っているのが鼻についていたけど私は無視をしていた。そして、愛音ちゃんが燈ちゃんと一緒に進むと決めたのは確かなものだった。一生という言葉を使われたとき、「重い」と言っていた彼女が真剣な眼差しで言っているから。

 

「迷子でもいいだとか、一緒に進むとか本当に馬鹿みたい……。そんなに言うなら……」

 

 私はソファーから立ち上がって彼女へこう言う。

 この言葉は祥ちゃんへの意趣返しの為に言ったのか、それとも目の前にいる彼女の挑発に乗せられる形で私はこう言ったんだ。

 

 

 

 

「私が終わらせてあげる……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

「聞きたいことってなに?」

 

「CRYCHICのことで聞きたいことがある」

 

「嫌がらせのつもり?」

 

 愛音がそよをどうにか説得をしたことを知った俺はその日の夜彼女に電話をしていた。

 彼女の連絡先は知らなかったが、前に掛けて来た電話番号を覚えていた為、俺はその電話番号に掛けていた。本当はそよじゃなくて燈に聞こうとしていた。ただ燈に電話が繋がらなくて、俺はこうしてそよに電話を掛けていた。

 

「嫌そうな声出すなよ。少し気になることがあって聞きたい。練習風景とかライブとかの動画が残ってるならそれを送って欲しいってだけだ」

 

「……知ってどうするの?」

 

「立希のドラムの音を知りたいんだ。あいつのことをちゃんと知るためにはあいつのドラムの腕も知っておきたいからな。腹の内を明かす為にも……」

 

「……CRYCHIC用に使ってたSNSに練習風景の動画あるから、勝手にそれでも見れば」

 

「ああ……じゃあ勝手に見させてもらうよ」

 

 俺はそよとの電話を繋ぎながらもSNSでCRYCHICのアカウントを調べるとそよが言っていたようにCRYCHICと書かれているものを発見していると、そよが言葉を発する。

 

「結人君は立希ちゃんと今まで通りに仲良しこよしなんて本気で思ってるの?」

 

「今まで通りなんてのは無理だって言うのは分かってる。俺が燈に対して劣等感を抱えているって本人に言っちまったように俺は立希のことも傷つけた。これまで通りなんてのは絶対に無理だろうな。それでも俺は……立希と向き合いたいんだ」

 

 

 

 

「…………結人君って馬鹿だよね」

 

「はぁ……?俺は本気で言ってんだぞ」

 

 冷たい声で淡々と言われた俺は思わず反論する。

 

「おめでたいというか、拒まれたらどうするつもりなの?」

 

「それでも俺はあいつと向き合うだけだ」

 

「……本当に馬鹿だね結人君は」

 

 そよは俺のことを罵倒するだけ罵倒して呆れていた。俺はその後、そよから立希が住んでいる家の住所を教えて貰った後にそよさんに電話を切られた。誰に何と言われようとも俺は自分を曲げるつもりはない。そよは悪趣味だと言いたそうにしていたが、俺には立希のことを知る権利がある。スマホでCRYCHICのSNSのアカウントを調べながらもCRYCHICの練習風景の動画を確認していると、俺は少しばかり新しい発見があった。

 

 そこには如何にもお嬢様風の銀色の髪をした女性ともう一人、緑髪の長い髪の女性が俺の瞳には映っていた。もしかして、この二人が燈がよく言っていた二人なのか?緑髪の方はなんかテレビで見たことがあるような気はするけど、もう一人の方の話は燈の口からよく聞いたことがあった気がする。

 

 

 

 

 確か、名前は豊川祥子(とがわさきこ)だったよな……。

 キーボード担当であの春日影を作ったのも確かこの人だったよな……。映像だけ見れば、こんなにも楽しそうに音色を弾いているというのに何があっ……。いや、今はそんなことより……。

 

 

 

 

「すげぇな立希は……」

 

 練習風景の動画を耳で聞いて目で見て分かったことがあった。

 立希はやっぱり凄いと……。スマホを真っ暗な画面にしながらも確証を得た俺は都会の夜の街というものを歩き始めているときだった。少しばかり気になる人物が目の前を通り過ぎて行ったと言うより、俺にぶつかってきていたんだ。

 

「お、おい……ちゃんと前向いて歩けよ」

 

「……」

 

 見た目の風貌は中年ぐらいだと思われる男性が俺にぶつかってきていた。

 その男性からは強烈な酒の匂いを帯びた出しており、俺は自分の鼻をつまみそうになっていたが我慢していた。男性は特に何も言うことはなく、俺の目の前を通り過ぎて行った。よくいる酔っ払いのおっさんかと思って俺は特に気にすることはなく俺はある場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前……」

 

 俺が立希の家のインターホンを押すと、立希は家の扉を開けて中から出てくると扉を閉めようとしていた為、俺は無理矢理こじ開けようとしていた。

 

「お前なんで此処にいる訳?というか、家に入って来ないで欲しいんだけど警察呼ぶけど?大体、なんでお前が私の家知ってる訳?」

 

「警察呼ぼうとするんじゃねえよ……。そよに立希の家の住所を教えて貰ったんだよ」

 

「あいつ……それでなに?私に謝りに来たの?前に言ったでしょ、お前の謝罪なんか受け付けるつもりはないって……」

 

「ああ、それなら散々お前の口から聞いたよ。ただ俺はどうしてもお前に言いたかったことがあるんだ」

 

 立希は俺のことを家に上がらせるつもりはないらしいのか、ずっと睨んでいた。

 

「CRYCHICの練習風景の動画を見たとき思った。お前はやっぱりすげぇ立派だって……。動画越しから伝わって来ていたんだ、お前の真剣な真っ直ぐなドラムの叩き方がすげえ良かったんだ。俺はドラムのこと正直よく分からねえけど、ドラムがバンドで目立つ位置じゃないっていうのはなんとなく分かる。それでも、俺には聞こえて来たんだ。立希の音っていうのが……真剣で芯があって熱さに満ち溢れている音を……だから俺は立希のことを凄「帰って……」」

 

 

 

 

 

「帰って……」

 

「立希、俺はお前に本当に言いたいことがある……。CRYCHICのライブに来れなかったときも、俺が燈を突き飛ばしたときもお前は傷ついていたんだろ、信頼していた俺に裏切られて辛かったんだろ。だから今度こそ言わせて欲しい……俺が本当に悪かった……」

 

 俺の言葉を聞いているうちに立希の言葉は徐々に弱々しくなっていた。

 いつものあいつを考えればそれは普通あり得ない光景でしかなかったが、俺に言われた言葉が全部図星だったんだろう。

 

「私は……今まで通りお前のことを信頼なんて出来ない……燈のことを裏切ったお前を……私のことを裏切ったお前を……」

 

「…………だろうな、それでも構わねえよ。今まで通りなんて甘え考えはするつもりは俺にはない。俺はお前にも俺の醜い部分を見せちまったからな……。それでも、俺は謝りたいんだ。俺にとってお前は……」

 

 

 

 

 

 

「ちゃんと自分を曝け出せる奴だからな……」

 

 

 

 

 

 

「そこで突っ立ってられるのも嫌だから中に入って。それと…………」

 

 

 

 

 

 

 

「私もそうだから…………」

 

 

 

 

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