【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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嫌いじゃないから……

 忘れられることができない出来事があるとしたらそれは燈と出会ったことと私は即答とする。燈の歌を聞いたとき、自分のことだと思えた。言葉に出来なかった気持ちも……。こんな私でも生きてていいんだってなれた。なによりも、私は真っ直ぐな行動を見て来たから燈の認識はすぐに改めることになった。最初こそは本当に臆病で弱い奴としか見てなかったけど、実際はかなり違った。燈は歌い出したら止まらなかったんだ。自分という形を彩っていた。私はそこから燈のことが惹かれるようになっていた……。

 

 そして、もう一人結人は……私の世界を変えてくれた人間の一人でもあった。

 あいつと燈が話しているところを最初目撃したときは壮大に勘違いしたけど、今にもしてみれば恥を掻いたもいいところだけど燈が男と話しているところなんて想像も全く出来なかったからそういう素振りを見せていた結人も悪いけどあいつが悪い奴じゃないというのはすぐに分かった……。

 

 なによりも私にとって重要な出来事は……パンダのストラップを譲り受けた次の日のことだった……。昨日の恩を返すべく、私は結人と一緒に買い物に出かけていた。こういうのを誰かと一緒にするというのは本当になかったし、一人の方が楽だとしか思っていなかったけど案外楽しいもんだった。

 

 服とかそういうのを眺めていた訳じゃなくて、燈が好きそうなものを一緒に二人で眺めていたりしていた。他の奴からしたら何が面白い?となるかもしれないけど、結人と一緒に燈のことを話していることが本当に楽しかった。そして、そのとき燈の話題を出していたのがアクセサリーショップでパワーストーンとかそういう類のものを一緒に結人と立ち止まりながらも眺めていた。

 

「そういや立希って誕生日いつなんだ?」

 

「8月9日」

 

 私は少し悩んでから結人に誕生日に教えていた。

 別に教えるの嫌だとかそういう訳じゃなくて突拍子もなく聞かれていた為、私は少し反応に困っていた。頷いている結人に私はこう言う。

 

「なんで私の誕生日なんて聞いたの?」

 

「ただ少し気になっただけだ、そう睨むなよ」

 

 そう言いながらも結人はある方向へと視線を向けていた。

 その視線を向けていた場所は8月の誕生石とかそんなのが置かれている場所だった。

 

「もしかしてこいつ……」

 

 誕生日を迎えたら私に渡そうとしている……?と勘繰ってしまうが、私はすぐにどうでも良くなっていたけど、よくよく考えてみれば親やお姉ちゃん以外に誕生日を祝ってもらったことなんてなかった私は結人が誕生日を祝ってくれるということに少し期待をしてしまっている自分がいた。燈に祝って貰えるのも悪くはないけど、こいつに祝ってもらうってのも……。

 

「どうした立希?」

 

「…………別になんでもない」

 

 僅かな期待感を払いながらも私は先にアクセサリーショップを出る。

 早歩きで休憩できる椅子に座ろうとしたときだった。壁面にあるオーケストラの開催を知らせるポスターが貼られていたのだ。私はそのポスターを見たとき、歩くのを止めて立ち止まって固まってしまっていた。自分の思考がそのポスターの方へと向いてしまっていたんだ。

 

 何故なら、このオーケストラにはお姉ちゃんが参加するから。

 私はこのときまだずっとお姉ちゃんに対する劣等感を一人で抱えていた。誰にも喋らず、言わずただ一人で扉の鍵を閉めた状態でいた。

 

「立希……?」

 

 私の名前を呼ぶ声が私には全く届いていない。

 目の前にあるただの紙切れに私は怯え切っていると、結人が私の手に触れたことによってようやく自分という人間を取り戻すことが出来ていた。

 

「な、なにしてんの……?」

 

「いや、立希が凄い不安そうにしてたからこうすれば落ち着くかと思ったんだ、嫌なら悪かった」

 

「…………余計なことしないでいいから」

 

 いつも通りの冷たい声で結人に威圧していたが嫌な気分はしなかった。

 結人もやましい気持ちがあって私の手を触れようとした訳じゃないのは分かっていた。ただ、発想が阿保過ぎて呆れはしたけど本当に悪い気分じゃなかったのは認めざるを得なかった。

 

 結人が「悪かったな」と気まずそうにしている。

 自分を取り繕うために軽く息をついて、視線をポスターから外す。

 

「別に気にしてないから……。お前は変に気を遣い過ぎ……でも……」

 

 

 

 

 

「ありがとう」

 

 表面上では結人のことを突き放していたけど、私は本当に嬉しかった。

 結人の行動に少しばかり自分という人間が救われたような気がしていたんだ。自分は一人じゃないと実感できた気がしていた。本当に僅かな間だけどお姉ちゃんに対する劣等感が消えかけていたのも事実だったし、結人の手の温かさが一瞬だけ心に触れて私の陰を照らし出してくれたような気がしていた。

 

 

 

 

 その日、結人は私のことを家まで送るとか言い出していたけど、私はそれを拒んだ。

 嫌だとかそういう訳じゃないけど、なんとなく一人になりたい気分だったから。それは悪い意味ではなく、いい意味で……。

 

「……本当に変な奴」

 

 帰り道に私はそう一人で呟いていた。

 

 あいつにとってあの日の出来事はただの一日に過ぎなかったかもしれない。

 私にとっては重要な一日だった。自分が自分のことを曝け出していいのかもしれないと思えたのは結人が初めてだったから。あいつはどうして私があのときポスターを凝視していたのかと、聞くことはなかった。

 

 多分話したくなさそうにしていたのを察してくれていた。

 それが私にとってどれだけ有難かったかのかは言うまでもなかった。夜の空気に溶け込みながらも私は自然と歩く速度が速くなっていた。

 

 

 

 

『それでもお姉ちゃんからすれば私は取るに足らない存在だったかもしれないけど』

 

 結果的に私はその一年後に劣等感があることを打ち明けていた。しんみりとした空気が流れていたけど、結人に吐き出したことによって気持ちが楽になれていた気がしていたんだ。今までのことがあったから、なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「私はお前のことを許せない。信頼を裏切って、その上で燈のことを傷つけた……」

 

 結人のことを家の中に入れた私は水だけ軽く出してそのままソファーに座らせていた。

 向き合うようにして座り、話なんて全くしていなかったけど私は結人のことを思い出しているうちに結人に本音をぶつけたくなっていた。動物園で私が結人に自分の本音をぶつけていたように……。

 

「お前がどれだけ燈と復縁しようがそれは変わらない」

 

 これはどんなに事実を曲げようがやったという事実は変わらない。

 燈のことを突き飛ばして傷つけてそれでも燈は結人に手を差し伸べようとも、結人がどれだけ這い上がって来ようともやったという事実は何も変わらない……。

 

 

 

 

 

 

 

 ただ……私は結人のいいところもちゃんと知っている。

 

 

 

 

「お前のすぐ受け入れて呑み込んでちゃんと謝れるところとか、いいところだと思うし底抜けなく馬鹿みたいに明るいところは……」

 

 

 

 

 

「嫌いじゃないから……」

 

 今度はちゃんと口に出せた、動物園のときは心の中でしまうことしか出来なかったけど言うことが出来た。恥ずかしいとか、そういう感情は別段ない。寧ろ、清々しいとすら思えている私がいた。

 

「一度しか言わないし、よく聞かなかったらもう知らないから……」

 

 

 

「ちゃんと向き合うって言うなら……また、前みたいに話せるようになってもいいかなって割と思ってないわけじゃない、お前がどうするか次第だけど………」

 

 

 

 

「その答えならもうとっくに決まってる立希……」

 

 

 

 

 

「こんな俺でよければまた仲良くしてくれ……」

 

 

 

 

 

 

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