【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
「んで?お前いつになったら帰るの?」
話を終えても尚、結人は私の家にいる。
もう用件は済んだだろうし、両親やお姉ちゃんが帰って来る前に出来れば結人には帰って欲しい。変な勘違いをされそうだし……。
「あーまあ、用は済んだし帰ってもいいんだがな……。どうしてもお前に言っておきたい事があるんだ」
「私に……?」
グラスに入った水を結人が一気に飲み干しながらも姿勢を正して話を始める。
この時点で真面目な話だとすぐに分かった。
「前に立希は自分の姉に劣等感を抱えているって言ってたろ?それでどうしても言っておきたい事があったんだ」
無言のまま結人の話を待ち続ける。
了承と捉えたのか結人は話を続ける。
「俺は立希のことを本当に凄い奴だと思っているし、自分の腹の内を明かせる奴だと本気で思ってる。お前は物事を冷静に見れるし、客観視も出来るからな。動物好きというかパンダが好きなところも一緒だし、燈のことになるとちょっと暴走気味になるけど、あいつのことを今まで不器用なりに支えてくれたんだろうし、燈に対する思いとかは俺も全く同じだし分からない訳でもねえ……。RINGのバイトのときとかも接客は……まあアレだが仕事に関して手抜きとか全然してないから俺は本当にしっかりしているなと思う」
「所々褒めてないんだけど」
「悪い……。俺が言いたいのは……」
「俺にとって椎名立希は尊敬できる奴だし、すげえ仲間思いだっていうのも知ってるからな、だから俺も……」
「立希のこと嫌いじゃねえから」
「…………」
あのときと一緒だ。
私のことを励ましてくれる為に結人がそっと手を指し伸ばしてくれたあのときと……。心の内がじわじわと温かくなっていた。自分を否定されるのではなく、肯定されるというのがこんなにも自分という人間を照らし出してくれるというのは本当に変な気分だったけど、嫌じゃなかった。寧ろ、誰かに認めて貰えるというのは『良い』とすら感じている自分がいた。
「お前、自分がかなり変なこと言ってるって自覚ある?」
「事実を言ったまでだろ?ったく、人が折角褒めてやったのに」
「…………ありがとう」
小さく小声でお礼を言っていると、結人がにんまりとした笑顔で私に笑いかけて来る。
なんで笑ってるんだろこいつと思っていると、結人の口から思いがけない言葉が出て来ていた。
「ああ、どういたしまして」
「……は、はぁ!!?」
結人に普通に聞かれていた。
あいつには絶対聞こえないぐらいの声で小さく感謝の言葉を述べていたのが聞かれていたことに対して思わず私はソファーから立ち上がってしまうほどだった。
「落ち着けよ立希、お前の気持ちはちゃんと伝わったから」
「お、お前の……き、気持ちとか本当に変なこと言わないで……!!やっぱりお前に気を許すんじゃなかった!!!早く帰って!!!!」
「おい、落ち着けって立希。もう少ししたら俺も帰るからよ」
自分が冷静じゃなくなっていることに気づいた私はソファーに座り直した後に、自分を落ち着かせる為に深呼吸をする。私がお礼を言っているときに結人が笑っていたのが頭から離れないし、それに反応されたのも頭から離れない。というか、こいつに言われたこと全部頭から離れない状態になっている自分を無理矢理落ち着かせていた。
「……お前、次のライブもちゃんと来る?」
「ああ、行くよ。お前達のライブを体感したい」
落ち着きを取り戻すことに成功した私は頬杖をつきながらも結人に聞いた。
「……そっ。言っておくけど、楽しかったとか良かったとか凄かったとかそんな簡単な感想言ったら許さないから」
「手厳しいな」
「は?こんなの当たり前だから、私達のライブを体感したいとか言ってるくせにそんな幼稚な感想出したら本当に許さないから」
鼻で「ふっ」と笑う結人。
多分結人にああ言っていたのは結人の口からちゃんとした感想を聞きたかったから。あいつのことだからそんな単純な感想を言って来たりしないだろうけど、そういう言葉を使ったりしたら「は?」となるに違いない。
「分かってる、冗談に決まってるだろ。お前のドラムの何処が良かったとかちゃんと言うから」
「…………それなら、いいけど」
冗談と言う単語を使われたときは内心、ムッとなりそうだった。
ただ、ちゃんと結人が私に感想を言ってくれると言うのは本当だという気はしていた。結人の瞳にはそれを信じられるほどのものがあったから。
「じゃあ、俺は帰るからな……。ちゃんと俺はお前に誠意を見せて行くから」
「そういうのは口に出さないもんじゃないの?」
「だな……。じゃあ、俺は行くわ」
「…………また」
「ああ、またな」
……またあいつに普通に聞かれてた。
小さい声で言っていたつもりだったのに自分の声があいつにちゃんと聞こえているなんて想定もしていなかった。少しばかり恥ずかしいという感情が湧きながらも私はソファーに置いてあったクッションに顔を埋めながらも私はこう言った。
────本当に変な奴。
「彼とは復縁したんですか?」
「学校来て早々に言うことがそれ?」
海鈴が学校に登校してきて私に言って来たのはその一言だった。
「良かったじゃないですか、これはお祝いです」
海鈴が私の机の下にミルクゼリーだけを置いて、自分の席へと戻って行く……。
多分、あいつが私と結人が復縁したということを知っているのは……カバンにつけているあのストラップを付け直していることに気づいたから。ストラップの方を自分でも眺めながらも、私は時が流れるを待っていた。
学校が終わり、どう燈にバンドのことを切り出そうか迷っていた。
多分、愛音とかとは二人っきりで練習っていうのは流石に厳しいだろうから本格的なのはやってないとは思う。これからどうするべきなのか、そう迷いながらも校門を出ようとしたときだった。何故かギターを持っている楽奈が目に入る。
「……りっきー、今日はバンドやるの?」
「その制服……。お前花咲川だったの?」
「その台詞前にも聞いた」
「私は一度目なんだけど」
こいつも花咲川だったなんて全く知らなかった。
そもそもこいつが学校にちゃんと通っているのかすら怪しいとすら思っていた。私服姿しか全く見た事無かったし、学校の話をしているところなんて聞いたこともなかったから。そもそも、私はこいつとまともな会話したことないけど。
「バンドやるの?やらないの?」
「……やるに決まってるでしょ」
楽奈は満足そうに笑っている。答えなんて最初から決まっていた。
あいつの口からちゃんとした感想を聞くためにも、燈から目を背けて逃げていた自分を償うためにも私には悩んで彷徨っている時間なんてものはあまりにも惜しかった。燈に合わせる顔がないとかそんなのはもう死ぬほどどうでもよくなっていた。
「ゆいくん、立希ちゃん本当に来るかな?」
「大丈夫だ、立希を信じろ」
「うん……」
RINGの楽屋内。私とゆいくんが二人っきりでその場にいる。愛音ちゃんは今お手洗いに行っている。昨日の夜、結人君から立希ちゃんと和解したという話を電話で聞いた。その話を聞いたとき、心の底から嬉しかった。また私達との輪が一つになろうとしているんだって……。
そして、そよちゃんもまた愛音ちゃんの話を聞いてくれたと……。
この場には居ないけどきっとそよちゃんならライブに来てくれる……。
「結人君~!!お待ちかねの人が来たよ~!!」
「楽奈ちゃんと一緒にね」
「……!!?ありがとうございます、戸山先輩……!!山吹先輩……!!」
楽屋の扉を開けて二人の声が聞こえて来ていた。
あの人達は確か……Poppin'Partyの人達で此処のスタッフさん達とそっか、ゆいくんと同じバイト先の人だから知っていてもおかしくはないんだ。二人が過ぎ去って行くのと同時に誰かが息を切らしながらも扉に触れつつ楽屋の扉を開けていた。
「燈……!!本当にごめん……!!!」
楽屋の扉を開けて中へと入って深々と頭を下げていたのは立希ちゃんだった。
「立希ちゃん……」
「私は燈に声を掛けられないとか自分は今話す立場じゃないとか散々言い聞かせて、燈からも自分からも逃げようとしていた!!CRYCHICが解散して、燈が練習来なくなったときと何も変わらなかった!!だから本当にごめん!!!」
「大丈夫だよ、立希ちゃん……。私はこうして立希ちゃんが戻ってくれてきたことが……なによりも嬉しいから……」
「………ありがとう、燈」