【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
今回のライブは元々かなり突発的に俺と燈達が凛々子さんに頼み込んで急遽入れて貰ったライブだった。偶々、一組バンドが参加出来ないということになり燈達のバンドが参加することが出来るようになっていた。
「あっ、ゆいくん!!」
「愛音、お前俺が言ったこと忘れるんじゃねえぞ!!」
「分かってるって!!ゆいくんもちゃんと聞いててよねー!!」
燈達に一言を言ってから楽屋を出ると、愛音と遭遇する。
あいつは俺の言っていたことをちゃんと覚えていてくれていたようだった。愛音に言いたかったことを伝えた後、俺は戸山先輩や山吹先輩達の手伝いをしていたが少々事情があって俺は途中でRINGの前である人物を待つことにしていた。そのことを戸山先輩に伝えた際、了承してくれていた。
「結人君……」
「こうして会うのは割と久しぶりだなそよ」
RINGの前でそよが此処に来るのをずっと待ち続けていた。
あいつは必ず今日のライブに来る。そう確信できる自分がいたんだ。
「……なに?」
「……一つだけ聞いておきたいことがある」
俺と話すことをかなり嫌そうにしているそよ。
そよからして見てもまさか俺が此処でバイトをしているなんてのは想像できなかっただろうから当たり前か。
「聞いておきたいこと?」
「ああ、お前ただの観客として見に来ただけなのか?」
「何が言いたいわけ?」
「俺にはどうもお前がただ観客としてライブを見に来たなんて思えねえんだよ」
長崎そよの性格を完全に把握している訳じゃない。そよとは仲が良かった訳でもなく、悪かった訳でもないがこいつの本性は知っている。ただ、一つだけ言えることがあるすればそれはライブを見に来るためだけにライブハウスに来る訳がないとは確かに言えるはず……。
「……私は終わらせるために此処に来ただけ。もういい?時間ないでしょ」
「そよ……!!お前だって本当は気づいててんだろ、燈達からは逃れられないってこと……!!」
そよは反応することなく、ライブ会場の中へと入って行った。
俺の声が届いてたのかは背中から感じるものでは分かりかねていなかったがただそよもまた迷っているということは俺にも気づけていた気がしていた。
「燈達、後は頼むぞ……」
私は今のバンドを終わらせるために此処に来た。
ただ正直に言えば打算や計算があって此処に来た訳じゃなかった。自分の中で今のバンドに対する未練でも断ち切りたかったのかもしれない。四人だけのバンドなんて器を笑いに来たのかもしれない。自分の中で色んな感情が渦巻いているなか、私は観客席で四人の姿を見つめていた。
燈ちゃん達から遅れてステージの上に入って来たのは愛音ちゃん。
立希ちゃんに「お前練習はしてたの?」と言われている声が聞こえる。それに対して「してました、してましたよー」といつも通り少しウザい愛音ちゃんが言葉を返している。楽奈ちゃんは練習やライブのときみたいにライブをするということ自体を本気で楽しそうにしているのが伝わって来る。
そして、燈ちゃんは……。
「……!!?」
瞬間、私の腕が誰かに掴まれたような気がしていた。
そのまま私の体をステージの方へと引っ張り出されそうになる。私のことを引っ張りだそうとしているのは燈ちゃんだった。私の腕をしっかりと掴んでいる燈ちゃん。その手はまるでもう離さないと言わんばかりの様子。
結人君の言っていたことは本当だった。
いや、私は燈ちゃんがしつこいということは散々思い知らされていたはずだった。弱いくせしてこういう頑固なところがあるのも……。
「放して……!!私は……!!私は此処に……!!」
抵抗することも出来たはずだった。なのに私はしなかった。私は私の中で戸惑いと混乱という感情がありながらも、それでも愛音ちゃんに言われた言葉を思い出して仕方なかった。
『迷子なんだって?』
終わらせるために此処に来たはずだった。
なのに私は気づけば燈ちゃんに引っ張り出されていた愛音ちゃんにステージの上へと上げらせられていた。
『私が終わらせてあげる!!!』
愛音ちゃんに言ったあの言葉……。
私は本気で言っていたつもりだったのに、今となれば祥ちゃんへの意趣返し。もしくは八つ当たりだったのかもしれないんじゃないのかとすら錯覚し始めていた。
ステージに立った時点で私はこのバンドのライブを無理矢理終わらせることだって出来たはずだった。どんな方法でも無茶苦茶にしてやることだって出来ていたはずなのに私はそれをすることが出来なかった。
「楽奈ちゃん……」
楽奈ちゃんからベースギターを受け取ってしまっていた。
この場から逃げることだって可能なはずだった。私は逃げなかった。燈ちゃんに引っ張られたから……。違う。愛音ちゃんにステージへと引き上げられたから……?それも違う。楽奈ちゃんにギターを渡されたから……?これも違う。
私は……。
私は拒否した。ステージを上がることを拒んだし嫌がった。それでも私は引っ張られた。そして、その引っ張り上げて来た人間は、愛音ちゃんだった。私は愛音ちゃんと一緒にバンドを始めようとした。口約束だけで大した意味もない始まりだったのに手を握られてそのままステージへと上げられたことが今となっては自分という人間じゃなくてはダメだということを理解させられていた。
私は悪くない。悪いのは燈ちゃん、いや……みんなのせいだ。
でも今はこの居場所が居心地良くて悪くはない……。
私にとってこのバンドは……自分の
そう思えてしまっていた。
この涙がそれを証明してしまっていた……。
ちゃんとしたライブで燈の歌声を聞くのはこれで三回目……。
一回目はCRYCHICのとき……。二回目は到底バンドとは言えない形だけのバンド……。三回目の今、私達は今こうしてバンドという形を作り出すことが出来ていた気がしていた。なによりも私の耳には燈の歌が耳に聞こえている。
その歌声は……やっぱり私にとって自分のことを言われるようなことを言われているような気がしていてならなかったけど、これは紛れもなく
私は……本当に燈の歌が大好きだ。
これだけは確実に言える。そしてこういう歌が……燈だからこそ歌える曲なんだと……。普段は物静かで周りから見れば何を考えているのか分からないそんな燈が自分の気持ちのままに謡っている私はそんな燈の姿が本当に好きだった、と心の底から堂々と言える。
自分の瞼が滲んで来ているのを抑え切れず、私はドラムを叩き続けることに集中していた。
私は燈からずっと逃げ続けずにこうしてバンドをやれたことが嬉しくて仕方なかった。
なにより燈を避け続けていることが本当は自分の中で許せなかった。
私は本当に結人のことを悪く言えるような立場じゃなかった。路頭に迷い続けて、彷徨ってお姉ちゃんや祥子という影を追いかけるのに必死だった。そんな自分を許してくれたのが結人だった。あいつは私のことを認めてくれた、自分らしくていいと言ってくれた。それが本当に自分という人間が救われた。
一旦、周りを確認する。そこには愛音やそよ、燈の泣いている姿。楽奈の純粋な喜びに満ち溢れている顔。私はこのバンドと周囲のお客さんの様子を見て感じ取ったことがある。私はこのバンドなら自分という人間のままにいてもいいのかとすら錯覚し始めていた。そうさせてくれたのはこのバンドだし、なによりも……。
「ありがとう結人……」
演奏が終わり静寂に一瞬包まれたのと同時に、拍手が湧き上がる。
スタッフ用のTシャツを着ながらも後ろの方でライブを見ながらも観客席でボロボロで泣いてくれている結人の姿を見ながらも私はほんの少しだけあいつのことを許せたような気がしていた。