【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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本当に馬鹿みたい

「ほらほら座って、あっテレビとか見る?」

 

「なんでお前が家主ですみたいになってるわけ……?燈、そこのソファーに座って待ってて」

 

「うん……」

 

 不本意だったけど、本当に仕方なかった。

 うちに入れるのはこれっきりにするつもり。というか愛音ちゃんにしても立希ちゃんにしてももう自分の家に使ってるのと使わせようとしているの対極がいて本当に図々しいと思えてしまう。私は愛音ちゃんを咎めようとしたとき、テレビが目に入る。

 

 

 

 

「あっ、あれ芸人の若葉じゃない?」

 

 人の家に上がり込んできたのと同時に燈ちゃん達に我が家にようこそと言わんばかりの顔で愛音ちゃんはテレビの電源をつけていた。そして、あろうことかそのテレビの中では……睦ちゃんの父親がテレビに出ていた。

 

「芸人さんでもこういう海外ロケみたいなのやらされる人いるから大変だよねー」

 

 何も知らないのか、知っていてやっているのか愛音ちゃんはテレビを眺めながらも会話を続けようとしていた為私はテレビを切ろうとしたときだった。テレビの方で案内役だと思われる人が写し出されると燈ちゃんがこう言った。

 

「結人君のお父さん……」

 

 手に持っていた愛音ちゃんのどうでもいい話を遮らせようとしたときに聞こえて来た言葉だった為、私は一瞬リモコンを落としそうになり素早く手に掴んでいた。テレビの方を見ると案内役の人の話を少しばかりだけ聞いていた。

 

 その声だけで私はこういう人といたら疲れるという印象が強くなっていた。

 実際、聞いている感じの声とかが豪快で大胆な人だと……。

 

「あーまだ見てたのにー……!!」

 

「人の家に上がり込んで来てテレビ見に来ただけなら帰ってくれる?」

 

 事実を淡々と言っただけなのに不服そうにしている彼女を無視しながらも私はソファーの上に座る。

 

「そういえば結人君はいつ来るって?」

 

「結人ならもう少ししたら来る」

 

 少し彼と話をしたかったけど、遅れてるくるなら仕方ない。

 もう少しの間だけなら待っていよう……かな。

 

「ゆいくん、バイト掛け持ちしてるもんね。私掛け持ちとか絶対無理ー」

 

「……は?ゆいくん?」

 

 今度は立希ちゃんがどうでもいいところに噛みつき始める。

 眉間に皺を寄せながらも結人君のあだ名ということにすぐに気づいたみたいだった。

 

「え?結人君だからゆいくんなんだけど?」

 

「それは分かるけど。なんでお前、あいつのことあだ名で呼んでるの?」

 

「一々りっきーの許可取らないといけない訳?ともりんだってそう呼んでるもんね」

 

「は?ともりん……?」

 

 愛音ちゃんの横にいる燈ちゃんが頷いている。これ以上ないぐらい噛みつき始める立希ちゃん。

 一番この場でバンドバンド、ライブライブとか言っていたのに愛音ちゃんの言葉に全力で噛みついている。呆れながらもそれを眺めながらも私は面白そうだから立希ちゃんをこう揶揄う。

 

「案外、立希ちゃんって結人君のことあだ名で呼びたいんじゃないの?」

 

「は、はぁ!!?べ、別にあいつのこととかあだ名でなんか呼びたいとか思ってないし……」

 

「図星なんだ」

 

「違うから!!」

 

 少しばかり立希ちゃんのことを弄るのが楽しくなってしまい、私が更に追い込むと顔がリンゴのように赤くなっているのが顔を見ないでも手に取るように分かってしまっていた。立希ちゃんって本当に分かりやすいよね、燈ちゃんにしてもそうだけど、結人君のことに関しても……。

 

「りっきーってゆいくんのこと結構気に入ってそうだもんね」

 

「う、うるさい……!!口動かしてる暇あったらちゃんと手動かして」

 

 どうしても結人君の話題を避けたくて仕方ない立希ちゃんのことを横目にしながらも私は愛音ちゃんからタブレットを渡され、衣装の提案を確認していたが眉を細めてしまう。

 

「こんなの何処で着る訳……?」

 

 到底バンドで着るような服とは思えない服装に私はその言葉を吐いた後、言葉を続けることはなかった。彼女のことだからどうせバンドらしさのある衣装にはならないとは踏んでいたけど、本当にいつまでもブレないなと思ってしまうほどだった。

 

「えぇ?そよりん、ちょっと辛辣過ぎじゃない?」

 

「その呼び方やめてって言ったでしょ」

 

 そよりんというあだ名……。

 認めた訳じゃないし、本当にセンスがない。

 

『そよりんもやめんなよー!!』

 

 あのとき駅前で言われたあの言葉……。

 私のことを無理矢理ステージに引っ張り上げてその上で家に踏み込んで来て私のことをなんとかしようとしていた彼女。結人君もそうだけど、愛音ちゃんも本当に馬鹿みたい……。でも、それでも私にとってこのバンドが自分だけの場所になれた……。

 

 その後、燈ちゃんが愛音ちゃんのことをあだ名で呼んでいることが判明して私は少しばかり驚愕していた。二人がまあ仲良いのは割と知っているつもりだったけど、あだ名で呼び合うほどの関係になっていることは全く知らなかったから……。

 

「夜景綺麗、写真撮ろうよ!!」

 

 愛音ちゃんの思い付きでまたしても私達は振り回されることになる。

 写真を撮る気なんてさらさらなかったから、適当に済ませればいい。そう思って私は愛音ちゃんに呼ばれて輪の中に入った。あのときのことを思い出しそうになりながらも、私は写真を撮り終わるのを待っていると、数秒の間に写真が撮り終わる。愛音ちゃんが「もう一枚!」と言っているけど、みんなが中に入って行った……。

 

 

 

 

「悪い、遅れた……!!」

 

 少し経った後、結人君が家の中に来ていた。

 それぞれが思い思いの反応を結人君に見せるなか、楽奈ちゃんが結人君に餌付けされている姿が目に入っていた。渡しているのはどうやら抹茶味のお菓子らしい。それから程無くして二人はこの前のライブの会話をしているようだった。あの二人もあんなに仲良かったんだ……。最近は本当に意外なことばかりで目が疲れる。

 

「結人君、少しいい?」

 

「ん?ああ……」

 

 中心の中にいる結人君を呼び止めて、出来れば会話を聞かれたくない私は先ほどのベランダへと行った。向かっている途中、愛音ちゃんにあれこれ言われたけど適当に結人君があしらってくれていた。

 

 

 

 

「それで話ってのはなんだ?」

 

「……少し前に結人君、似てるって自分で言ってたこと覚えてる?」

 

「ああ、覚えてるよ」

 

「私にはあの言葉があのとき、同情にしか聞こえなかった。そう言えば、自分のことを分かってくれたような気がするからとかで気持ちが和らがせるために適当なことを言っているんだとばかり思っていた」

 

「まあ、そう捉えられても仕方ねえだろうな……」

 

 彼は特に「違う」とかそういうことを言うことはしなかった。

 自分がその後に言っていた。『ちゃんと生きてる』と言った言葉も結局はそういうものを落ち着かせる為のものでしかなかったと自覚していたのかもしれないけど、私はあの言葉を忘れることが出来なかった。

 

「……結人君が言っていた。ちゃんと生きてるって感じがして良かったという言葉は私には少し響いていたから……でも、私はそれが出来なかった」

 

 それもそうだ、私は今まで自分という自我に封をしてきた人間。それを今更高校生にもなって開けようとするという行動は愚かしい行動だし、私にとってはそれがどれだけ恐怖という行動なのか怯えることしか出来なかった。

 

 他人に合わせて生きていくことしか出来なかった自分。

 他人を利用することは出来ても、自分が進んで動くことは出来なかった自分。創造することは出来ないで完全に破壊することも出来ない。それが私だった。CRYCHIC解散となったとき、私は時が流れれば解決されると思っていた。睦ちゃんの力があれば祥ちゃんもまた一緒にCRYCHICに戻れると思った。愛音ちゃんの馬鹿みたいな行動力があれば、またCRYCHICを取り戻せると思った。私は……私は本当に……。

 

 

 自らの足で動き出すという行動が怖くて仕方なかった。

 他人の顔色で判断してどうするべきなのかと考えて来た私には無理な今更自分の気持ちのままに生きるなんて出来る事じゃなかったけど、私はその封を開けることになってしまう。自らの手で……。あの春日影で……。

 

 あの言葉こそが私の人間性というものの全てを表している。

 嫌なら演奏を抜け出す事も出来た。演奏を抜け出して祥ちゃんにすぐ謝りに行くことも出来たはずなのに私にはそれが出来なかった。それどころかみんなにキレてしまうという手段に出てしまっていた。八つ当たりなんてことは分かっていた。今まで私が隠し通して来ていた歪な人間性はあの場で露見してしまったんだ。

 

 

『此処には……終わらせに来たの……!!』

 

 そしてあの日、私は自分という人間を拒絶できなくなってしまっていた。

 封が貼られていたシールは完全に何処かへと飛ばされてしまっていた。ステージに上げられた時点でこのバンドからはもう逃げられないということ。そして、私はもう気づいてしまっていたんだ。このバンドは私にとってかけがえないの場所だということだということを……。もう無理に合わせなくてもいいということに……。

 

 

 それに気づいてくれていたのかもしれない、いや気づいていなかったのかもしれない結人君は私の横顔を見ながらもこう言う。

 

「そよ……楽奈がこの前ライブあるから来いって言ってたときこう言ってた。春日影は自分のお婆ちゃんが凄く褒めてくれた楽曲だって……。なにより楽奈自身も凄いい曲だと思ってみたいだし、やっと見つけた居場所の曲だとも言ってた」

 

「居場所?」

 

「俺もそれに関してはあいつから詳しく聞いてはいないから何とも言えないけど、俺の為に先陣切って弾いてくれた訳じゃないってことは分かってくれないか?」

 

「春日影はいい曲なのは当たり前だから……」

 

「だな……」

 

 楽奈ちゃんが春日影を弾いた理由にそんな理由があったなんて知らなかったけど、心の中ではやっぱり楽奈ちゃんが春日影を弾いたことに関しては許せない自分がいてしょうがなかった。

 

「そよ、その……なんて言ったら分からねえんだけどさ……もしお前が進むのを怖がったり拒みそうになったら燈達だけじゃなくて……俺も一緒に進んでやるから」

 

「私のことなんてほとんど知らないくせに」

 

「ああ、知らねえよ。だからこれからちゃんと知っていきたい。駄目か?」

 

 やっぱりだ、やっぱりこう思う。

 結人君は私のことを自分そっくりだと言っていたけど……。結人君は本当に明かりを灯すような存在だ。その眩しい火できっと燈ちゃん達ともこうして進みだそうと決めたんだろう。そして、私もまた彼や彼女達となら進んでもいいかもしれないと思ってしまっている。

 

「そよや立希みたいに物をはっきり言ってくれるようなタイプ俺は嫌いじゃないからさ、だからもっとちゃんと知っていきたいんだ」

 

「本当に……」

 

 こういうところなんだろうな。

 

 

 

 

 

 

「馬鹿みたい……」

 

 結人君が眩しい存在に見えてしょうがないのは……。

 自分の頬に流れているものを確かめながらも私は彼の言葉に頷きながらも了承していた。

 

 

 

 

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