【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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思い込めた意志は紡がれて進んで行く

「……お前、この衣装マジで言ってんのか?」

 

「えー?やっぱり目立ちたいじゃん?」

 

「はぁ……まあお前のことだからバンドらしい衣装なんかにする訳がないとは踏んでいたが……」

 

 そよと話を終えた後、俺はリビングに戻り俺は愛音に渡されたタブレットで衣装の提案を確認していたが、俺はそれに対して「全部ダメだ」と跳ね除けていた。

 

「固定概念に囚われちゃいけないと思うんだけどなー」

 

「駄目なもんはダメだ。大体そんなの燈に着せられる訳ねえだろ」

 

「私は気にしないよ?」

 

「……ダメだ」

 

 自分で言っていておいてなんだが、割と燈に対しては過保護が入っているような気がしないでもなかった。これじゃあ俺も立希のこと言えたもんじゃねえな……。

 

「ちぇー。まあ、それっぽくて目立ちそうなの選び直そうっと……」

 

 どうにも反省してなさそうの愛音。

 とはいえ、これ以上言ってもどうせ直す訳もねえだろうしこういうのはこいつに任せるとするか……。というか……。

 

「衣装もまだ定まってないのに俺呼んだのかよ……」

 

 あの慌てようっぷりからして衣装がもう決まっていて出来上がっていないから手伝って欲しいとかそういう理由だと思って、急いで駆けつけてやって来たというのに想定していたことと違い過ぎて俺は「大丈夫かこのバンド」となっていた。

 

「というか俺は此処にいていいのか……?」

 

 一抹の不安というより、楽奈の言葉を借りるなら俺はこのバンドのライブを楽しみにしている側だった為、なんというか舞台裏まで楽しんでしまっていいのだろうかという気持ちになっている。

 

「ゆいくんは……此処にいて……」

 

「燈……」

 

 俺の手をそっと握ってきていたのは燈だった。

 

「安心しろよ、燈。俺はもう何処に行ったりもしねえから……。ただ思ってたんだ、俺はこういう舞台裏まで楽しんでしまっていいんだろうかってな……。すげえ面倒な感情だけどさ……」

 

 ぶっちゃけこれに関しては自分でも上手く言葉に出来ない。

 こういったものと言えることが出来れば本当はいいのかもしれないが、俺にはそれを言い表せるだけの言葉が見つからなかった。さっきそよに俺は俺も一緒に進んでやるからと言っていたけど、それもあって自分の中では曇り空が広がっていたんだろう。

 

「ゆいくんには此処にいて欲しい……それだけじゃダメ?」

 

 きっと俺がまた何処か遠くに行ってしまうと心配になってしまっていたんだろう。燈も俺の言葉に対してどう返せばいいのか言葉が見つからずに自分の傍にいてほしいと直球で言ったんだろう。燈がこうやって自分の意志でちゃんと自分を出せるようになったのはバンドや自分の成長と……そして俺と紡いできたもののおかげなのかもしれない。俺の手に触れているその純粋そうな手を実感しながらも俺は燈に笑顔でこう切り返す。

 

「そうだな、燈の言う通りだな。俺は……こうして燈と一緒にいられるだけでもすげえ嬉しい。でもやっぱりこういう舞台裏まで楽しんでいいのかなってちょっと悩んでいたのも事実なんだ。言葉が出なくて説明できなかったんだけど、やっぱり生のライブを体感したいって気持ちがあったから……。でも、今は少しだけ違うんだ燈」

 

 

 

 

「俺はやっぱり燈といたい」

 

 純然たる願いは此処にあった。

 俺の願望は燈との糸が再び結ばれたあの日から変わらない。俺はこの先も燈の傍で一緒に笑い合いたい、語り合いたいから。俺は燈の傍に一緒にいたいというのは俺も変わらないものだった。燈が花が咲いたようにして頷きながらも少し心が晴れやかな気分になっているようだった。

 

「ゆいと、やっぱりおもしれ―奴」

 

 その隣で俺と燈の話を聞いていたのか、楽奈が笑顔になりながらも俺が渡していた抹茶のお菓子を八割ぐらい食べ尽くしていた。あいつ、もう食べ尽くしていたのか。抹茶好きなのは知っていたけど、まさか此処までとはな……。

 

「ゆいと、次のライブも絶対楽しみにしてて」

 

「ああ、楽しみにしてるよ」

 

 自信満々な様子で楽奈は俺に対して満面の笑みを浮かべている。

 楽奈がどうして俺に対してこうも心を開いてくれているのかはあまり思い当たる節はないが、それでも俺と楽奈の間でも確かなものがあるのは事実だ。こいつの言葉通り、俺はあのライブで泣かされたし、楽奈はそれを知っているから聞こうともしないし、俺の表情の中で見たかったものを見れたから笑みをこぼしていたんだろうな……。

 

 

 

 

「でも……この状態で本当にライブなんてやれんのか……?」

 

 楽奈の自信満々な発言を聞いた後、俺はこのバンドの現状を憂いていた。

 

 

 

 

 今は学校……。あれから一日ほどが経っただろうか。

 昨日は燈達のバンドのことで憂いていたが、俺は現状どうにかなりそうな予感はしていた。なんだかんだあいつらは即興でライブを成功させたりして見せてくれた。それに今回は時間も期間もある。なら、余裕を持ってライブを成功させることが出来るはずだと……。

 

 

 

 

「ゆいくん、一生のお願い!!衣装手伝って!!!」

 

 

 

 

 

「…………ああ、もう分かったよ!!」

 

 今日はかなり嫌な予感がしていた。

 別に電柱の下を歩いていてカラスの糞が落ちて来てそれが見事命中したり、満員電車の中で朝から揉め事の現場に居合わせた訳でもない。なんとなく今日という日が悪いことが起きるんじゃないのかという予感がしていたんだ。それは見事に的中したし、なによりも二日連続その相手が千早愛音だということに俺は頭を悩ませていたが……二日連続俺は了承してしまった。

 

 俺は愛音に「優しい」という言葉を言われる前に電話を切った。

 予感をしていて本当に正解だった。我ながら愛音に対して甘い気がするけど本当にあいつのおかげで燈とのまたこうしていられるようになったから断りづらいというのもあるし、俺は別に愛音のことは嫌いじゃないから更に断りづらいと言うのもある。自意識過剰で本当に苛々するけど底抜けなく明るさの中には暗がりがあるということも俺はちゃんと知っている。そういうところもあるのを知っているから、俺はあいつのことを嫌いじゃないと心から言える。好きかと言われたら…………言葉に詰まるが。それでもあいつが本当に悪い奴じゃないというのは知っている。

 

「あっ、ゆいくん来てくれてありがとう!!」

 

「……お前なぁ、自分達でなんとかしようってのはないのか」

 

「とかなんとか言いながらゆいくんって頼んだら結構来てくれるじゃん」

 

 実際、俺は言われてすぐ家から飛び出して駆けつけている辺り本当に愛音に対して甘いのは否定できなかったから俺は何も言わずに荷物を置いた。

 

「はぁ……もういい。そんで衣装って何処まで出来てんだよ?……おい、聞く前に渡すな。てか誰のだよ、これ……」

 

「ともりん」

 

「……は!?なんで俺に渡すんだよ、そんなの燈に渡せよ!!?」

 

 どうせ自分のを渡して「やっておいてよー」とか言うのを頭の中で想像していた俺はとんでもない名前が出て来て思わず俺は動揺してしまう。急いで燈が俺の反応に何か示していないか確認していたが、机に顔を伏せて眠っていた。恐らく作詞による疲れからだろう。良かった、聞かれてなくて……。

 

「燈ちゃん見ての通り、疲れているんだしゆいくんが代わりにやっておいてよ」

 

「そよは?」

 

 愛音の家には燈以外にも既にそよも来ていた。

 

「私は愛音ちゃんに自分の分頼まれてるから無理。結人君が一番、燈ちゃんのことを理解してるから丁度いいんじゃない?」

 

「その含みのある言い方すげえ気になるからやめてくれ」

 

「私はそんなつもりで言ったんじゃないんだけど……結人君って意識したりするんだ」

 

「うるせえな……」

 

 反論できる訳もなく、俺はそう返してしまう。

 これじゃあ「はい、そうです」と言っているのと何ら変わりない。燈を起こすのも流石に悪いだろうし、俺がやるしかないかと覚悟を決めようとしているときだった……。

 

「ゆいくん……やるから大丈夫……だよ」

 

 丁度よく燈が起きて俺が受け取ろうとしていた燈の衣装を愛音から受け取っていた。そよと愛音が何か言いたそうにしていたが、俺は黙り込んでそのままスマホを弄り始めていた。

 

 

 

 

 それから暫く時間が進んだだろうか、俺は燈に衣装のことについて色々と相談に乗っていた。本人はまあ割と器用な方だったから俺が教えることなんてほとんどなかったけど、それでも俺は燈と楽しく話せていることが本当に楽しくてしょうがなかった。その後、立希も愛音の家にやって来て曲のことについて話をしているところを俺は眺めながらも今度は楽奈と話をしていた。

 

 

 

 

 

 

「ゆいくん……眠れないの……?」

 

 燈達はそれぞれが特色が出ていそうな場所で眠っているのを俺は眺めながらも窓を開けて夜風に当たっていると燈が目を擦りながら俺に声を掛けて来る。

 

「もう少ししたら寝ようとしてた」

 

「そう……なんだ……」

 

 俺の方へとやって来て隣に座り込む燈。

 俺はそんな燈に寄り添いながら少しでも寒くないようにしてあげていた。冬のように寒い訳じゃないが、それでも夜というのは一気に気温が冷え込むから俺は燈を温かくしてあげたかった。

 

「燈……さっき立希達に話していたこと……俺にもすげえ響いてた。俺はお前と一緒に歩んでいくと決めた。その為にはきっと……楽しいことばかりじゃない。辛いこととか悲しいとか色々あると思う。でも……前に俺が言ったことあったよな。成功したこととか楽しかったとかもそうだけど、失敗しても美味しかったり楽しかったねって言えることってかけがえのないものだって……。ああ言っていたこともあったから、俺は燈が言ってた……」

 

 

 

 

「傷つかずに一生は無理。傷だらけで泥だらけになってもいっぱい藻掻いて行く……。何回転んでも、迷っても……って言葉が本当に俺の心の中で響いてたんだ。多分、きっと俺は燈や立希やみんな共もそうやって一緒に一歩一歩を踏みしめて行きたいと思ってるからだと思う」

 

 燈がこの発言をしていたのは楽奈の言葉があったからだ。

 楽奈が言っていた、『居場所って、また誰かが作るんだって』という言葉。俺には楽奈が言っていた居場所という言葉の意味に触れることが出来た気がしていたし、なによりも愛音が言い出していたバンド名『迷子のバンド』というのも悪くないと思っていた。

 

「迷子のバンド……俺はこのバンドがこれからどんなふうに進んで行くのか気になってしょうがない。そして燈がどんな歌を……いやどんな思いを込めた意志を謡ってくれるのかを……楽しみで仕方ないしすげえ期待してるし、なによりも……俺は……」

 

 

 

 

 

 

 

「燈の歌が好きだ……!!」

 

 

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