【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
打ち上げを終えた後、私は燈ちゃんと一緒に帰って行った……。
途中まで立希ちゃんも一緒にいたけど、どうしても燈ちゃんと話がしたいことがあった私は燈ちゃんのことを送って行った。立希ちゃんは物凄く声を荒げていたけど、その反応は意外と面白かったけど私は反応することなく燈ちゃんと一緒に電車を降りて、今は燈ちゃんの家が見える位置までやって来ていたのと同時に、私は過去というものに触れることになる。
此処でいつも私は……
燈ちゃんの家は月ノ森の裏だったから、祥ちゃん達と一緒に此処で待っていた。いつも「ごめん」と言いながらもやって来る彼女に祥子ちゃんが「謝らなくていい」と言っていたのを今でも覚えている。最初のうちは遅れてやってくることに対して立希ちゃんは不服を示していたけど、その内立希ちゃんは燈ちゃんの肩を持つようになっていった。睦ちゃんは基本的に無口だから喋ることはほとんどなかったけど私達がいたことは楽しかったと思いたい。
『私はいらない』
結人君が持って来ていた差し入れの袋を見て誰が渡してきた差し入れなのか私は気づいていた。差し入れにきゅうりというのは置いておいて、私の話や言っていたことを無視していたくせに私たちのライブが「良かった」なんて他人事を言ってくる睦ちゃんを私は許すことが出来る訳がなかった。
きっとこれから先私はCRYCHICのことを忘れることは出来ない。
例え、祥ちゃんにどれだけ拒絶されようとも睦ちゃんがバンドを楽しくないと言っていたとしても私にとってのあの場所はかけがえないの場所だったということは何も変わらない。それは今燈ちゃんに言っている言葉がそれを証明していた。
祥ちゃんはよく燈ちゃんの歌詞の此処がいいとか、こういう解釈なんだとかよく言っていたけど私にはさっぱりだったいう話を彼女にしていた。なにより、私は燈ちゃんの心の叫びだという話をよく聞かされていたし、彼女の歌詞が苦手だったということも話をしたけど、一つだけ言えることがあった。
「私の叫びでもあったの」
歩道橋に寄りかかりながらも私は自分が気づけたことに関して話をしていた。
これに気づけたのはきっと結人君や燈ちゃん、愛音ちゃん達が私と向き合おうとしてくれていたから。特に愛音ちゃんと燈ちゃんは何度その手を払いのけようとしても手を取ろうとしてくれていた。そういうのもあって、私は燈ちゃんにこの話をしていたんだろう。そして、この話をしていたのは立希ちゃんが前に自分のことだと言っていたことを私は聞いていたのを今思い出して、私は口にしたいという意志があったから。昔の私だったらきっと考えられなかった。
「自分と向き合うってことになるから、結構やばいんだよ?」
自分が自分と向き合うというのはとても苦労すること。
今までもそういう向き合うという視線をやって来なかったからこそ、この先綱渡りすることが何度もあると思う。でも、その度にきっと彼が助けてくれるかもしれないなんて馬鹿な期待をしながらも私はこう言う。
「私、一生……CRYCHICのこと忘れられないよ」
頷いている彼女を見ながらも、私は歩道橋を反対方向へと歩き出していた。時が経とうとも私はこれから先ずっとCRYCHICという鎖に縛り付けられる。それでも私は前に進みたい。苦悩しながらも前に進んで行きたい……。
そよちゃん……。
私も一生、CRYCHICのことを忘れることは出来ないと思う。祥子ちゃんに言われた、私の歌詞は心の叫びだというあの言葉。祥子ちゃんがくれたもの、言葉を……。きっと忘れることは出来ないと思う。そよちゃんとは反対方向を歩き出しながらも私は家に帰ることはなくある場所へと向かおうとしていた。
「燈、来てくれたのか……」
「うん……」
結人君の言葉に私は頷きながらも私がやって来たのは彼と再会したあの路地裏だった。
夜空を部分的に眺めながらも、待ってくれていたのか結人君はポケットに手を入れていた。
「燈と再会したのは此処だったよな、少し前のことだって言うのにもう随分前のことのように感じるのは時間の流れが早いからなのか、それともそれだけ自分が成長出来た証なのかもしれないな……」
「成長……」
「ああ、俺は燈と再会するまでの間自分がずっと停滞している気がしてならなかったらあの日、CRYCHICのライブに来なかった自分を後悔したり燈や立希に謝らなかったことを俺は死ぬほど後悔していたのに、自分にこれで良かったと呑み込ませて何も考えようないにしていたけどやっぱりこれが正しかったなんて思い込ませるのには限界があった。そんなときに燈と再会出来たから本当は嬉しかった。自分が燈に対して劣等感を抱いていることを除けばな」
彼の話を何も言わずに聞いていた。
私と結人君が会わなかったのは大体一年ぐらい。私も結人君とは会いたかったけど、会わなかった。連絡をしたかったけど連絡をしなかった。それがなんなのかはやっぱりあの出来事があったのを勿論だけど、記憶の中に封印されていた『冷たい笑み』を本能的に何処かでこびれついていたからだと思う……。
「だからどうしても言わせて欲しいことがあるんだ燈……」
静寂に包まれる夜の路地。
後ろはきっと街の明るい街灯が照らされていたり、この時間に帰る人や何処かへと行こうとしている人たちがいたかもしれないけどこの路地は違った。私達以外に人は一人もおらずただ静まり返っていたけど、その場所のなかで結人君が息を吸う音だけが綺麗に聞こえていた。
「本当にごめん燈……!!」
頭を下げて結人君は血管が見えるほど拳が強く握り締めていた。
「ずっと謝りたかった、お前を突き放したこと。お前を突き飛ばしたこと。お前に劣等感を抱えていた……。連絡をしなかったこと、俺から連絡しなかったこと……。なによりあのとき、俺が冷たく笑うだけでライブを行こうともしなかったこと……。全部が全部俺のせいだ」
自分がしてしまったことの後悔と懺悔を言う結人君。
やっぱり……結人君から連絡がなかったのって気のせいじゃなかったんだ……。もしかしたら、と思っていたけど最近は結人君から連絡をくれることもあったから気のせいだったのかな?なんて思っていたけど、やっぱりそうだったんだ……と自分の中で少しばかり保健室でのことを消化できていた。少し寂しかったけど、私は今結人君がちゃんとこうして謝ってくれるのが嬉しかった。だからこそ、私は結人君にこう返した。
「顔上げて?」
言葉を聞いて結人君は顔を上げる。
その表情には複雑なものが混じり合っているのは私には読み取れていた。彼の友人だからこそというのもあるけど、きっと今まで一緒に触れて来て、話をしてきたからこそ結人君の表情が色んなものがあると、見破れていた。後悔とか懺悔とかそういうのもあるけど……もっと一番にあるのは強い覚悟のようなものだった。彼は自分と言う人間に正直生きたいと決めていたんだ。本当に凄い結人君は……。
「前にも言った事覚えてる?私は寂しかったし、辛かったって言葉……。それは今でも変わらないと思う。でも、こうして結人君が傍にいてくれるということが私にとって本当に一番今大事なこだから……一緒に進もうと言ったとき頷いてくれたのが本当に心からホッと出来たよ。私はこれから先も結人君と繋がりを確かめていきたい、紡いでいきたい。私が言いたいのは……それだけだよゆいくん」
「ありがとうな燈……」
顔を斜めに構えながらも結人君の顔色には何もかも悪いものが消えていったようにも見えていた。きっと今まであった罪悪感とかそういうものが消えて今度は未来を歩み出そうとしている彼の姿があった。
「それともう一つだけ言いたいことがあったんだ」
「もう一つだけ?」
「ああ、前に燈のノートを読んだとき、こう書いてあっただろ?人間になりたいって……。俺はあれを読んだとき、燈がどれほどのものを抱え込んでいるのかは気づけなかったし、多分今でもきっとちゃんとそれを解釈できているのかは分からねえ。でもこれだけははっきりと言えることがあるんだ」
「誰が何と言おうと……燈は人間だ。俺にとって人間って定義は燈と違うかも知れねえけど俺が思う人間の定義っていうのは泣いたり、喜んだり、一緒に笑い合ったり、楽しいことを一緒に共有出来たりするのが人間ってもんだ。少なくとも、燈は俺の前ではそういうことが出来ていたはずだ。そして、そういう喜びだとかっていう感情は自分にとってのそういうものを分かち合える存在ってことになれる。だからこそ、燈は人間だ……!!人と違う趣味を持っていたとしても、それを誇っていい!!そして、それを笑う奴がいるならそんときは俺がぶん殴ってやる!!」
あの頃から何も変わらない。
私にとって結人君がどういう存在かなんてことは今でも昔でも変わらない。あのとき私に「気にしなくていい」と言ってくれた頃からの結人君と何ら変わりない。結人君は私の中で今でも…‥‥。
「結人君はやっぱり……私のヒーローだよ」
永遠なんてなかった。
過去の私はそう言っていた。確かに今の私と今の結人君はあの頃のような関係じゃないかもしれない。それでも私にとって結人君がどんな存在なのかは変わることはなかったんだ……。
再会出来て本当に良かった……。