【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
今回の話は一応原作の内容に触れていますが、此処からAve Mujica編をやるまでの間はオリジナル話が多く含まれております。主な要因としましては、Ave Mujicaの展開待ちと言った感じです。どう動くのか転ぶのか現状はっきりと分からないので……。
思いを伝えるのは難しい
俺は此処のアウトドアショップでバイトをしている。自慢するつもりじゃないが俺はこのアウトドアショップのバイトをしている人間の中では割と評価されている方だと自負している。
『そっか。じゃあ、その
俺はお客さんのことを手伝う度に愛音の言葉が脳内に響いている。
それはこのアウトドアショップでもそうだが、コーヒーショップの方でもそうだった。別に耳障りとか雑音とかそういうふうに感じている訳じゃない。あいつに言われたあの言葉は自然と心地良いものがあったし、俺の中で欲しがっていた答えだったのは間違いないのだから。
じゃあ、なんでこうしてこんなにも響いているのかと言われたらきっとそれは間違いなく千早愛音に言われたからだ。
「ありがとうございました……!!」
今日も今日とて俺はいつものように笑顔でお客様に接していた。
そこにはかつてのように張り詰めたような冷たい笑みは消え去っていたかもしれない。あの笑みは燈だけに見せていたつもりだったけど、きっと色んなところで俺はあの笑みを見せていたからかもしれない。今頃、このアウトドアショップの口コミはあの店員の冷たい笑みが気に喰わないとか言われたりしたかもしれないなんて想像を膨らませながらも俺は駐車場の方から店の方へ戻って来ていた。
「結人君、最近来てなかったいつものお客さん来てるよ」
「……いつもの?」
「ほら、前に来てた明るいピンク髪の……」
「……マジですか」
「露骨に嫌な顔しない、ほら行ってあげなよ」
この店で一つだけ俺は勘違いされていることがある。
それは……愛音と付き合っていると勝手に周りから言われていることだ。これについては最近になって知った。全く噂というものは本当にすぐ広まってしまう。頭の裏を掻きながらも俺が入口の方へ行った。
「いらっしゃいませ、客……。帰りなら目の前にあるぞ」
愛音に対してこれだが、ぶっちゃけ俺は立希の接客態度がアレだとか濁した言い方をよく本人にしているが正直人のことは言えないと俺は自分でも気づいているが愛音に対してはこれぐらいが適切だろう。あんまり丁寧にやるとこいつ調子乗るからな……。
「えー?今日はともりんと一緒に来たのにー」
「燈……?」
今日もてっきり愛音一人で此処に来たのかと思っていた俺は愛音の隣を見るとそこには燈の姿があった。
「まあ……ゆっくりして行けばいいんじゃねえのか?」
燈も今回はいるということもあって俺は強く言うことが出来なかった。
俺はその後すぐに仕事に戻っていた。キャンプのテントについて聞かれて俺は丁寧に答えを出していた。お客さん曰くどうやら五人以上のテントが欲しいということだったが、キャンプするのが女性だけということもあって設営が簡単なものはあるか?という内容だった。
「何処かで聞いたような内容だな……」
口には出さなかったがそんな風に頭の中では言っていた。
まさか似たような内容を割とすぐ聞かれることになるとは全く想像もしていなかったけど、こういう店で働いていればよくあることだ。女性の購入の意志を確認してから、俺は台車にテントを乗せる。それ以外に女性のお客さんに必要なものがあるということで色々買っていててそのままそれを俺は駐車場に停めている車のトランクに載せてそのお客さんとの接客は終えていた。
「んでなんで此処に来たんだよ?」
接客を終えた俺は当然の如く、休憩スペースで珈琲を飲んでいる愛音に話しかける。愛音の隣では燈がオレンジジュースを飲んでいるようだった。
「……燈、なんかあったか?」
「え……?」
「お前がオレンジジュースを頼むときは大体何かに悩んでいるときだって最近気づくようになったんだよ」
「そう……なの?」
「ああ……」
これに関しては燈の動揺を誘う為の誘導でしかなかった。
こういうことはあんまりしたくなかったが、愛音も燈も俺に何かを伝えようとはしているがどう伝えようとしているのかは整理が出来ていないという状態なのには間違いなかった。それでも愛音が此処に連れて来たということは俺に何かを言ってくれるのを期待してくれていたからだろう。
全く自分で此処に連れて来ておいて自分はダンマリ決め込むとか何考えてんだ……。でも、ちゃんと一人で悩まさせないようにしたのはありがとうな愛音。心の中で愛音に感謝しながらも俺はこう言う。
「その……ゆいくんは祥ちゃんのこと知ってるよね?」
「知ってるって言っても……お前の口から名前とか話とか聞いたぐらいだけどな。後は立希とかだが……」
俺は豊川祥子について何も知らない。
いや、知らない訳じゃない。燈にとってとても大切な存在だったというのは知っているし、CRYCHICにとっても居なくてはならない人間だったということも知っているが知っているのは本当にそれぐらいだ。
「昨日、祥ちゃんとちゃんと話をしようと思ったんだ……。それで……」
「駄目だったのか?」
言葉を呑み込んで吐き出そうとしている燈のことを待とうとはせず俺は燈から次の言葉を出るのを待っていた。燈の口から言葉は出ることはなかったが、頷いていた為意思表示は伝わっていた。
「駄目でもちゃんとお前はやれることをやってみせた。一歩前進だろ?」
「ほら、ゆいくんならこう言ってくれたじゃん」
「う、うん……」
どうやら自分の気持ちというもの整理整頓が出来なかった燈はぐしゃぐしゃになっていた自分の本棚を綺麗にするために俺のところに来たようだった。そしてそれを後押ししたのが愛音だったんだろうな。バイトの時間に来たということには目を瞑ってやるべきか……。
そして、俺はこのとき仄かに苦い珈琲を飲みながらも確かに言えることがあった。
それは高松燈という俺にとって大切な人間は本当に成長していると……。自分の中でこうまで意志という行動を持てるようになった彼女が誇らしくなっている自分がいた。かつての俺ならきっと彼女のことを妬ましく思っていたかもしれない、でも今はこうして素直に喜べることが本当に嬉しかった。
「どうしたのゆいくん……?」
「あーいや、なんでもねえ……。燈の方は上手く纏まったか?」
微かに笑っている俺に気づいたのか燈はきょとんとしながらも俺に疑問を投げ返してくる。
「うん、ありがとうゆいくん……」
「俺は何もしてねえけど、燈の役に立てたなら良かったよ」
他人の成長を……強さを間近で感じ取れてそれに劣等感を感じなくなったのは本当に良かった、心からそう思えていたんだ……。
「愛音」
二人がそれぞれ飲み物を飲み終えて俺との話も終えたのもあって、二人は店の外へと向かおうとしていたときだった。俺は愛音のことを呼び止めていた。
「バイト終わったらちょっと寄りたいところがあるんだが構わねえか?」
「え?まあ、私はいいけど……?ともりんは?」
「愛音にしか言えないことだから、悪い燈」
「え?う、うん……」
少し残念そうにしている燈だったが、俺はその燈に「悪い」ともう一度言うと燈は納得してくれていたようだった。それに安心しながらも俺は愛音の方を確認しながらこう言う。
「じゃあ愛音、後でな」
「う、うん……」
その後、二人は一旦店を出て行った。
俺は少し時間を見計らって愛音にある場所に行くことを伝えていた。
「へぇ……ゆいくんがこんな場所に連れて行ってくれるなんてちょっと意外だなー」
「……まあ、あんまり人に聞かれたくない話だったからな」
バイトを終えた後、俺は愛音と一緒にある場所へと来ていた。
そこは高さ634mの大きな塔……。そして、俺達が今立っている場所は展望回廊、450mとなっている。高所恐怖症の奴が立ったら顔真っ青になるだろうな……。
「人に聞かれたくない話……?」
「ああ……その……なんて言えばいいのか迷ってんだがこういうのってやっぱり言った方がいいんだろうなって思ってよ……だから言わせてくれ」
「燈をまたバンドに誘ってくれたのがお前で良かった愛音……」