【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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今回の話は某ガールズバンドアニメの言葉が出てきます。


言葉と行動、記憶と記録

「三度目のライブを見たとき、俺は本当にそう思えた。最初に燈のことをまたバンドに誘ってくれたのがお前で本当に良かったって……」

 

 これは紛れもなく俺の本心だった、俺の言葉だった。

 

「前にも言ったじゃん?ともりんを誘ったのは「それでもお前は燈に手を差し伸べてくれた」」

 

 あいつが自分の自己顕示欲を満たすために燈をバンドに誘おうとしてくれていたのは前にも聞いていたし、俺は覚えていた。普段の俺なら燈を利用したことに関してブチギレていたかもしれないが、愛音がそれだけじゃない奴というのは知っていたから俺は何も言うことはしなかった。あいつの本当の優しさを知っていたから……。

 

「あいつがまたバンドをやろうとなれたのは間違いなくお前のおかげだし、俺があいつとまた繋ぎ止めることが出来たのはお前のおかげなんだ。これだけは言わせて欲しい……」

 

 

 

 

「本当にありがとう……」

 

 自分の心にあるものを喋るというのは少し恥ずかしいものなのかもしれないが、今の俺は清々しい気分だった。自分がどうしてそういう気分になっているのかはちゃんと口に出して言えるだろう。自分にとってそれが正しいことだと信じられるから、だ……。

 

「…………いいよ、全然気にしないで。……にしてもゆいくんがそうやってちゃんと口に出して来るのって珍しくない?」

 

「別に珍しくはないだろ」

 

「えー?珍しいじゃん、どういう心境の変化だったりするの?」

 

 いつも通りの愛音ではあったが、俺はそれを鬱々しいとなることはなかった。

 今はただその鬱々しさすらも悪くないとすら思えてしまうほどだった。

 

「……雑誌読んだんだよ」

 

「雑誌……?」

 

「ああ、ガールズバンド系の雑誌をちょっとな。偶々読んだんだけど、すげえ刺さることが書いてあったんだ」

 

「どんなこと?」

 

 俺が読んだ雑誌の内容が気になるのか愛音が食い気味で俺に質問をしていた。

 

「川崎を拠点としてるガールズバンドのインタビューでな。作詞をしているときどんなことに気を付けましたか?っていう質問にこう答えてたんだよ」

 

 

 

 

「言葉って言うのは外側にあるもんだって……。言葉にした瞬間、自分の中にあったものが外に出て形になっちまうって……」

 

「なんか深いね」

 

「ああ、俺もそう思うよ。言葉ってのは口にから出したものが一つの定義や枠に押し込められて、純粋だった思いや曖昧な感情が削ぎ落されることがある。深い愛情や強い怒りも、ただ好きだとか嫌いだとかも言葉にした途端に、その奥行きが削がれるような感覚があるのかもしれねえ。そして、言葉は時には呪いになることもある。でも、それだけじゃねえんだよ」

 

「言葉ってのはまじないとか意志だとかそういうものも込められてるって俺は思う。言葉にしなきゃ伝わらないことだって多いだろうし、共有することも出来ない。だってそうだろ?こういう高い塔から綺麗な景色を見てそれで『綺麗だね』と言うだけでもお互いに此処にいるということを分かち合うことが出来るだろ?」

 

「ゆいくんは好きなの?此処からの風景」

 

「ああ、俺は好きだよ。此処に来ると嫌なことをすっぽりと忘れることが出来る。こういう高い所から景色を眺めるところで自分が住んでる場所はあっちの方だなとか、あそこに何があるなとか今大体あそこでああいうことが起きているんだろうなって想像を膨らませることが出来るんだ。そういうことを考えているうちに自分が今まで溜め込んでいた邪なものとかそういう悪いものを吐き出すことが出来るんだよ」

 

 自分が此処からの風景が好きだと自覚できるようになったのはつい最近のことだった。

 燈のことを無視して帰っていたときから俺は此処に来る頻度が高くなっていたが、燈と和解してまた此処に来るようになったときに悟ったんだ。自分は此処からの景色が好きだと言うことを……。最も、此処に来すぎてて此処の店員とかにはまた来たよとか笑われているかもしれねえけど俺は特に気にしてねえ。

 

「話が反れたが、さっき俺が言っていたようにこうして今だって俺はお前に自分が今此処で立って何を認識出来て感じ取ることが出来るのかそれを言うことが出来ていただろ?」

 

 愛音は無言のまま頷いている。

 

「だから、俺は言葉の持つ強さっていうものを信じている」

 

 これは前に俺が初華に言っていたことも関係している。

 初華が前に「ありがとう」だとか「嬉しい」だとか言う言葉も身近に感じるものだよね?と質問をしてきたことがあったが今愛音に話している内容と初華が言っていた内容は関係深いものだ。例え、どれだけ簡単な言葉であってもそれは何らかの形で変化を遂げることになるのだから……。

 

「……って言い終わったのはいいがやっぱ此処で話すようなことじゃなかったかもな。要はお前に感謝してるって言いたかったんだよ。そういう言葉の持つ意味を知れたのはお前のおかげでもあったから……。だから本当にありがとうな」

 

 あまり人が少ない時間帯を狙って愛音に対して言いたかったことを言ったつもりだったが、こういう夜景には相応しくない内容を話していたかもしれなかったという事実に頭を悩ませていると、愛音は俺に突拍子もないことを言って来ていた。

 

「ねぇねぇ、ゆいくん折角こういう場所来たんだし一緒に写真撮らない?」

 

「は……?まあ、一枚だけだからな……」

 

 あまりにもいきなり言われたもので俺は立希のようなこと言葉が出てしまうが、一枚ぐらいならいいかと俺は愛音と一緒に写真を撮ることになった。誰かとこうして写真を撮るってのも実はあんまり無かったような気がしながらも俺は愛音が撮り終わるまで待っていた。

 

「もういいか?」

 

「えー?もう一枚撮ろうよ?」

 

「おい、俺さっき一枚だけならいいって言ったろ……」

 

「いいじゃん、こういうのっていっぱい撮った方が記録に残るんだからさ」

 

 俺の横で愛音は綺麗なピースをしている。

 こういうのって俺もポーズ取った方がいいのか?よく分からねえんだよな……。と判断に困っていると……。

 

「ゆいくんもポーズ取りなよ」

 

「あ、ああ……分かったよ」

 

 案の定、愛音にポーズを取れと言われてしまい俺は愛音の大胆なピースを見習うことなくさりげなくピースをしていると写真撮影は終えたようで愛音は満足げに自分のスマホを手に持っているようだった。そういえば、俺はこうやって誰かと一緒に写真を撮るっていうのはあんまり無かったということに気づいていた。立希はあんまり写真っていうのは嫌がるし、燈もそういうのはちょっとって言う感じだったからな……。

 

「それで何で急に写真撮りたいなんて言い出したんだよ?」

 

「あーえっとさ、さっきゆいくんが言葉の意志とか言ってたじゃん?それってさ、行動でも出来るんじゃないかなってちょっと気づいたの。ほら、実際に「助けたい」と思っている人に、ただ「助けたい」とか口にするんじゃなくて行動で示すことが出来れば、人はより人のことを信じられる的なみたいにさ」

 

 愛音が言っていることは正しかった。

 言葉というものは意志を「伝える」ための手段だが、行動は意志を「示す」手段でもある。行動にはより純粋な意志が滲み出ることが多かったりする。俺が燈のことを拒絶して突き放したように俺がこれから立希に誠意を見せて行こうと思ったように……。そういう行動もまた人との意志が出るもの。

 

「んで、それでしたのが俺と一緒に写真を撮るってわけか?」

 

「こういうのって記憶に焼き付けるよりちゃんと記録に残した方が印象的になるじゃん?」

 

「…………だな」

 

 記憶に焼き付けるより記録に残すか……。

 これもまた一つの手段なのかもしれねえな……。

 

「というわけでこの写真……!!壁紙にしておくね!!」

 

「あー全然構わね…………は!!?おい、馬鹿!!それだけはやめろ!!!」

 

「えー?いいじゃん」

 

「いい訳ねえだろ馬鹿が……!!お前承認欲求強いんだから男と一緒に撮った写真なんて誰かに見せない訳ねえだろ!!?」

 

「見せないってば」

 

「いいや、信じられねえ!!写真削除しろと言わねえから壁紙にするのはやめろ!!」

 

 この後、俺はなんとか愛音のスマホを何度か奪い取ろうとしていた。最終的には愛音は自分のスマホを奪われないようにカバンの中へと忍ばせてしまった為、俺は流石に手をつけることが出来なかった。そして、その日俺は知らなかった。他にいたお客さんに男女のカップルが痴話喧嘩してると噂されていたのはまた後の話になるのだったが俺は愛音と居る時間は本当に嫌いじゃなかったし、愛音の言っていた通りこういう行動もまた記憶に残るんだろうなと思うと悪いものではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

『だから、俺は言葉の持つ強さっていうものを信じている』

 

 ゆいくんが言っていたあの言葉は私の胸に刺さっていたし、共感していた。

 私はともりんに心に絆創膏を貼ってもらったし、ゆいくんには背中を押して貰えた。あの二人に言っていた言葉が結局自分に返って来たことは本当に笑えないことだけど、今となっては私が一歩ずつ確かめて踏み出して行くことが出来るいい機会になることが出来た。

 

『こういうのって記憶に焼き付けるよりちゃんと記録に残した方が印象的になるじゃん?』

 

 ゆいくんが言っている言葉の大切さは確かに大事だけど、言葉は時として空気に溶けて消えてしまうこともあるけど、行動は違う。行動は目に見える形として残ることが出来る。誰かを助けたこと、何かを作り上げたこと。…………逃げたことや諦めたことや、全部が行動として刻まれる。ゆいくんが言おうような言葉で言うなら、それは「過去の自分の意志の証明」となるんじゃないかって……。

 

「おい、なに笑ってんだよ」

 

「笑ってないよ、ただ……」

 

 

 

 

「ゆいくんといるこの時間も悪くないって思えたんだ……」

 

 スマホを奪い取ろうとしなくなっていたゆいくん。

 そんなゆいくんをチラ見しながらも私はこの高い塔から見えている景色をゆいくんと一緒に眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「愛音、なにニヤニヤしてんの?キモいんだけど」

 

「そんな直球で言わなくても良くないー?」

 

 次の日……私はいつも通りライブハウス『RING』にやって来ていた。

 これからのバンドの方針に向けて話を進めていくことになっていたけど、私は今スマホを眺めるのに夢中になっていた。

 

「愛音ちゃんって偶に凄く不気味にニヤニヤしてるときあるよね」

 

 紅茶を飲みながらも辛辣な言葉を投げてきたのはそよりん。

 それにりっきーも「そこは同意」と言っていた。

 

「別にそんなつもりじゃないんだけどなー。いやー、昨日ちょっとねぇ…「ってゆいくん!!?」」

 

 私のスマホを華麗に取り上げてそのまま私のスマホの壁紙を確認してからと言うものの、ゆいくんは暫く黙り込んでいる。アハハと渇いた笑みを浮かべながらもやり過ごすことが出来なかった私に対してゆいくんはこう言う。

 

「お前昨日俺言ったよな!!?」

 

「あーえっと……その……ごめん……!!」

 

「画像は消さないでおいてやるから、壁紙変えておくからな」

 

「ちぇー」

 

「ちぇーじぇねえよ!!」

 

 有無を言わさずな状態のまま、私は壁紙を変えられて少しばかりがっくしとなっていた。

 

「……??」

 

「こいつら何騒いでんの?」

 

 状況がよく分からなそうにしているともりんとりっきー。

 そして、その私とゆいくんの会話を少しばかり楽しんでそうにしながらもそよりんがこう言っていたのは私には聞こえていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「結人君って女たらしだよね」

 

 溜め息を吐きながらもそう言っていた。

 

 

 

 

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