【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
ショッピングモール……。
優しい照明が柔らかく広がっている。壁際には美しく陳列されたコスメがずらりと並んでいる。リップやアイシャドウのカラーバリエーションがまるで宝石のように輝いている。ガラスのディスプレイには最新のコレクションが飾られている。こういった場所に初めて友達と来た時は自分がまるで違う世界に来てるんじゃないかとか大袈裟に感じていた。
「本当に俺で良かったのか?こういうの詳しいの愛音だろ?」
「私が愛音ちゃんを誘えると思う?」
「……だな」
確かにこういうコスメとかに詳しいの愛音ちゃんだけど、どう考えても私のことを揶揄って来たりするのが目に見えているから私は誘うことはしなかった。それに確かにこういうのには詳しいだろうけど、すぐにゃむちの名前を出したり自分の使っているものを紹介してきたりするから鬱陶しいから誘わなかった。
他のMyGO!!!!!の皆はこういうことに詳しいとはとても想像できなかったからこうして結人君を誘って此処に来ていた。入る際は結人君はキョロキョロすることもなく、普通にして入っているところを見るに慣れているという訳じゃないけどそういうところはちゃんとしっかりしてるんだと少し関心している自分がいた。
勝手な印象だけど男の人ってこういう場所って場違いだから恥ずかしがって入りたがらないとイメージがあったから。
「結人君を誘ったのは男の子の意見って結構貴重だから聞いてみたかったんだ」
「ああ……まあそうだろうな」
月ノ森にいるということも察してなのか、結人君は頷いているようだった。
さっき此処に入るとき結人君は戸惑ったりとか困惑したりとかそういうことはしていなかったと言ったけど、私に買い物があるから付き合ってと言われて「コスメ」と言われたときはそのときも「俺でいいのか?」と言っていたのを覚えている。
偶々目についたお試し用のリップを手に取る。
落ち着いたローズ系の色味。普段なら選ばないような、大人びた雰囲気の一本だった。リップをそっと手に塗る。
「どう?」
自分の手の甲を見せながらもそれ以上何も言わず、ただ結人君の反応を待っていた。
反応を待っていると、顔を少し顰めて、私の顔をじっと見つめる。
「なんか落ち着き過ぎて、お前っぽくないな」
彼を見つめながらも、何処か満足げに小さく息を吐いた。
「ふーん?そうなんだ……。じゃあ、どれがお前っぽいわけ?」
「知らねぇよ、お前が普段つけそうなのを選べばいいだろ」
彼が後ろでそう言っているのが聞こえている。また別のリップを手に取るのを結人君はさりげなく視線を向けていた。今度はコーラルピンク。さっきよりも柔らかく、血色がよく見える色。手に塗って再び手の甲を結人君に見せる。
「こっちは?」
「そっちの方がいいな。お前の雰囲気に合ってるし、肌の色にも馴染んでいると思う」
彼は躊躇うこともなくはっきりとした口調で言っていた。
「やっぱり、連れて来て正解だったかも」
「……なんだそれ?」
「結人君って立希ちゃんと私には割とはっきりと物を言うタイプでしょ?」
「まあ……そうかもな。お前や立希は言いやすい方だからな」
多分愛音ちゃんとかもそうだろうけど結人君は愛音ちゃんと腹を割って話すとかそういうことは少し恥ずかしさが含んでいて中々出来ていなさそうな気が勝手にしていた。まあ、数日前のやり取りとか見てればそれはなんとなく気付けるものだけど。
「だからこういうものを選ぶときにはっきりとしたことを言ってくれる人の方がいいってこと。曖昧な回答をされて自分に似合ってなかったら嫌でしょ?」
「そりゃあそうだな……」
結人君は納得しているようだった。
彼は呼んだのはさっき以外の理由であるとしたら、この理由だった。例えば、洋服を買おうとしているときにもどっちも似合ってるなんて曖昧な回答をされたりしたらどっちも買うって言う選択肢もあるけれど、本当に自分にそれが似合ってるかも不明なのに買うなんて後で恥を掻くことにもなるのもいいところ。
「曖昧な回答ねぇ……。確かに自分が今欲しいものが今本当に重要なものなのかと見極めるのに大事なことかもな」
「結人君って今欲しいものとかあったりするの?」
そういえば私は結人君のことをあまり知らない。
少しばかり興味が湧いた私はテスター用のリップを戻していた。
「まあ今じゃなくてもいいのかもしれねえが、ちょっと気になってるものがあってな……」
「じゃあ見に行く?」
「今じゃなくてもいいって言ったろ?」
「いいんじゃない?偶にはこうやって誰かと何かを見に行くって言うのも……」
「……まあ、じゃあ」
渋々と言うより、結人君も私の言葉に思うところがあったのか前を先導するようにして歩き出していた。私は彼が歩き出したのを認識してから多少手に塗っていたリップを軽く落として彼のことを追いかける。
結人君がやって来ていたのはたい焼きのお店だった。
「此処のたい焼き結構美味しいって有名だよね」
「ああ、外階段で星を眺めたいときにいつも此処でたい焼きを買っていたんだ」
「たい焼き好きなの?」
彼は頷いている。
知らなかった。彼がたい焼き好きなんていうことを……。いや、知らないのも無理はない。彼と話をするようになったのは最近なのだから。それまで私は彼のことを燈ちゃんと立希ちゃんの友人としか認識していなかったし、自分の為だけに彼のことを利用すらしようとしていた。
「そよも食べるか?」
「え……?」
「いらねえなら買わねえけど、俺だけたい焼き食べてるってのもなんか違うだろ」
彼にそう言われて私はたい焼き店のメニューを眺めているとかなりの種類があるようだった。
此処で食べたことは偶にあるぐらいでいつも周りに合わせてあんこだったりカスタードだった理を頼んだりすることがあった気がする。
「じゃあ、カロリー少ない奴ね」
「割と難しい言い方してきやがるな……。あーカロリー少ない奴だから脂肪分とか甘めの奴を控えればいいからあんこにすればいいんだよな……?」
困惑している結人君のことを少し面白くなって彼があたふたしているのを眺めていた。
因みに結人君が買おうとしているあんこは正解。比較的低カロリーだから。
「ほらよ」
椅子に座った私達。
袋に入ったたい焼きの中の一つ、あんこのたい焼きを彼は差し出してきていた。
「ありがとう」
差し出してきたあんこのたい焼きを彼から受け取る。
軽食とはいえ食事をしているということもあって、私はただ黙々とたい焼きを食べていた。話しながら喋るのは下品でしかないから、私はやろうとはしなかった。彼もそれを察知してなのか、特に話しかけることはなかったが、時々たい焼きを食べながらも至福の時間を感じているかのような表情をしていた。たい焼き一つで大袈裟と思いながらも、私はたい焼きを食べ終えていた。小さく千切って食べていたとはいえ、少し早いペースでたい焼きを食べていたようだった。
「そういえばだけど、あんこは低カロリーで正解だから」
「あっぶねえ……」
結人君も食べ終えたのを確認してから言うと、今にもガッツポーズを取りそうなぐらい喜んでいる彼の姿があった。
「結人君って意外と子供っぽいところもあるんだね。大人びた結人君しか知らなかったからなんか意外」
「悪かったな……」
彼が時々子供っぽくなることもあるというのはこのとき気づいていたけど、少し考えれば年相応という言葉が相応しいのかもしれない。彼の言動が何処か大人びているように見えていた自分がいたときもあったけど、彼も私と変わらない歳だからこれぐらいのことはするのかもしれない。私はこんなんふうにはしゃいだりはしないけど……。
「だから愛音ちゃんと一夜の間違いをしちゃった訳ね」
「おい……なんかすげえ語弊のある言い方してねえかお前。って……まさかお前愛音のスマホの壁紙見たのか?」
「見たけど?と言うより見えたが正しいかな。あんなに見て欲しそうにスマホの電源を付けたり消したりしていたら嫌でも目に入るでしょ」
なんとなく彼は納得しているようだった。
愛音ちゃんは誰かスマホの壁紙に触れてくれないかなーという凄いニヤニヤした表情でいたのを今でも忘れられないぐらい覚えていたし、彼女と彼が映っている壁紙も見えていた。
「結人君ってああいうのは映らない印象だったけど撮るんだね」
「……別にいいだろ」
「後、愛音ちゃんの壁紙も変えてないんでしょ?」
「あーもう……るっせえな……!!」
顔を真っ赤にさせながらも結人君は椅子から立ち上がる。
そのまま立ち上がった彼はゴミだけ自分のバッグに入れてそのまま頭の裏を掻きながらも自分は意識していないと言いたそうにしていたが彼はこう言っていた。
「思い出だから……変えなかっただけだ……」
それでも彼ははっきりとしたことを言ってくれる。
そういうところは本当にはっきりとしている。
『もしお前が進むのを怖がったり拒みそうになったら燈達じゃなくて……俺も一緒に進んでやるから』
だからこそ私は彼のことを信頼しているし、みんなとなら一緒に進めるかもしれないと信じることが出来ているのかもしれない。CRYCHICのことを忘れられなくても前へ踏み出す事は出来ると……。
「結人君、もう少し買い物付き合ってくれる?」
「……ああ、構わねえよ」