【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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見えない努力にあるもの

「この服とこの服どっちがいいと思う?」

 

「それなら、そっちの服の方がいいんじゃねえのか?」

 

 洋服店……。

 此処のお店は他よりも女性服の種類が豊富で私はよく買いに来ている。こういう洋服店でいつも感じるのは一人で買い物しているときは店員の人が話しかけて来たりするんだろうか……。私は洋服を一人で買いに行ったりなんてしたことがないから知らないけどそういうとき少し面倒なことになりそうだと頷いていた。

 

 店員ははっきりと物を言うことは出来ないからどっちも自分に合っている服じゃなかったらマシな方な服を選択するかもしれない。その点、今目の前にいる結人君はかなり優れている。曖昧な返事を一つもすることはせず、はっきりとした物言いでどの服が良いのか?と言ってくれる。一度だけ彼を試すために、白のワンピースを見せみたけど……。

 

「お前、そういう服似たようなの着てなかったか」

 

 と私の服のことまでちゃんと把握しているようだった。

 把握し過ぎててちょっと気持ち悪いけど、それだけ私のことを観察しているということなのかもしれない。…………自分で言っていて少し寒気がしたけど。

 

 

 

 

「結人君のも選んであげようか?」

 

 自分の分を買おうとしたとき結人君がお金を出してくれていた。私はそれを断ろうとしたけど、彼にそれを拒否された私はそのままそれを受け入れる形となっていた。私はそれを快く「ありがとう」と言った後に彼の服を選ぶことを決めていた。

 

「いいのか?」

 

「私ばっかりこれがいいとか買い物に付き合ったりして貰うのも悪いでしょ?後、お金も出して貰ったから。それに……これは償いの為もであるから」

 

「……償いか」

 

 私が償いという言葉を口にしたのは理由があった。

 CRYCHICを復活させるために私は彼のことを利用して燈ちゃんの心変わりを図ろうとしていた。結果的に結人君はそれを拒み、私の作戦は失敗に終わったが今にしてみれば本当に私という人間は祥ちゃんが言っていたように自分勝手な人間でしかなかった。

 

「そういうことならお言葉に甘えさせてもらうとするか」

 

 察してくれたのか償いという言葉を口にした後は何も言うことはしていなかった。

 了承の言葉を聞いて私は一旦彼の服装を確認する。彼の服を制服以外で見たことはなかったけど、はっきり言ってかなり整っている方だと私は認識していた。彼の服装は力を入れすぎることはなく、けれど確かにセンスはあった。上はシンプルな黒のオーバーサイズなTシャツ。ゆったりとしたシルエットが涼しげだった。袖は少し長めだが、腕を動かす度に自然と風が通り、快適さを感じさせている。

 

 ボトムズは細すぎず太すぎず、動きやすいシルエットのベージュのワイドパンツ。ラフになり過ぎないように、ベルトは細めのものを選んでいて全体のバランスを整えている。バッグの方を見ると、彼の趣味だろうか?星のアクセサリー以外にも動物のストラップを付けていた。あげたのは燈ちゃんだろうか。自分の趣味を入れて尚且つ彼のファッションは光るものがあった。無理に飾る訳でもなく、かといって無頓着なわけでもない。ただ彼の着る服は自然と彼の雰囲気に馴染み、気取らずとも目を引いていた。

 

「どうした?」

 

「別に…………。一つ聞いてもいい?」

 

 彼の服を流し見していたことを悟られないためにも私は何事もなかったかのようにしていた。

 

「その大量にある動物のストラップとかって結人君の趣味?」

 

「ん?ああ、まあ俺が買ったのもあるけど立希や燈がくれた奴もあるんだよ」

 

「…………立希ちゃんが?」

 

 燈ちゃんはまだ分かる。

 結人君の趣味も知っているだろうし、仲が良いだろうからお互いが好きなものを渡し合ったりするのはなんとなく想像できるけど立希ちゃんは全くそういうのを想像できない。燈ちゃん警備員である立希ちゃんがそんなことするだろうか……。

 

「あいつパンダ好……本当に稀になんだけどあいつ俺に動物のストラップくれたりしたんだ」

 

「ふーん?」

 

 なんとなくだけど結人君の話そうとしていたことは勘づいていた。

 恐らく立希ちゃんはパンダが好きで結人君がパンダのぬいぐるみとかそういうのを立希ちゃんによく渡していた。そのお返しに立希ちゃんは彼に動物のストラップを渡したりしていたんだと思う。立希ちゃんは背に腹は代えられない主義の人間だから。

 

 そして結人君が立希ちゃんがパンダ好きということを隠そうとしたのはきっと本人への配慮もあったんだろう。立希ちゃんって結構可愛いところもあるんだ。そんなふうに感じながらも結人君の服選びを続けながらも彼に聞いていた。

 

「動物どうして好きなの?可愛いからとか?」

 

「それもあるけど一番はやっぱりただ単純に好きだからだな。人間とは違う生態とかそういうのが凄い興味深くて動物一つ一つに色んな歴史があってそういうものを知るのが楽しかったりするんだよ」

 

「結人君は何か買ってるの?」

 

「ミモザっていうゴールデンレトリバーの犬を飼ってるよ。すげえ人懐っこくて俺が学校行く前は絶対顔舐めて来るんだよ」

 

「へぇ……そうなんだ。懐かれてるんだね」

 

 動物一つ一つ歴史がある……。

 そんなふうに考えたことは全くなかった。動物って買うのが凄く大変だししつけをするのとか本当に大変そうという印象だけど結人君は凄く犬のことを楽しそうに話していた。また一つ彼のことを知れたような気がして楽しくなっていた自分はこの後も結人君と会話を続けながらも服を選んでいた。

 

 

 

 

 

「ありがとうな、服選んでくれて」

 

「別に気にしなくていいから」

 

 結人君が自分でまたお金を出そうとしているのを見て私は有無を言わさず自分で出すと彼はそのまま財布をバッグに戻していた。リップにたい焼きに洋服まで買ってもらったのに自分で選んであげた服を自分のお金で買わせるのは流石にと感じて私はお金を出していた。それからして結人君は私と自分の分の服の袋を持って歩き出していた。

 

 

 

 

「結人君を連れて来てやっぱり正解だったわ」

 

「……それはどうも」

 

「愛音ちゃんと此処に来てたらにゃむちがどうのとか学校でどうのとかそういう話ばっかり聞かされていただろうから」

 

「にゃむち……?」

 

 にゃむちを知らないようなのか結人君は首を傾げいている。

 

「あーにゃむちっていうのはメイクとかコスメとか美容系中心の動画投稿者なの。まあ男の結人君には縁のない話かもしれないけど、最近の男でも化粧をしたりするらしいから案外参考になるんじゃない?」

 

 紹介しているのは女性コスメが中心だから参考になるのかは知らないけど。

 それでも結人君がお化粧したりしたら今よりもっと輝いてるように見えるかもしれないけど。

 

「美容系ねぇ……」

 

「何か言いたそうだね」

 

「いや別にそういうのじゃねえんだけどよ、ただその……そういう美容系とか動画投稿者の人達って裏ですげえ見えない努力とかしてるんじゃないかって勝手に思っただけだ」

 

「それはどうして?」

 

 少しばかり気になった私はそのまま結人君の話を聞き出そうとしていた。

 

「いや、まあ動画投稿者ってことは要は色々と動画の企画とかネタを取るために色々と準備をしてるんだろ?後はまあ美容系だからさ、綺麗に見せる為の努力とかそういうのは絶対してるなじゃないのかってことだよ」

 

 彼がそういう言葉が出るのは意外だったけど、彼の話に頷いていた。

 と言うのもにゃむちは最近美容系以外にもドラムを始めたという動画を出していた。どういうきっかけで始めたのかと言えば、大ガールズバンド時代ということもあって彼女もまたその波に乗ろうとしたいという話をしていたのをなんとなく覚えている。私はにゃむちの動画を隅々まで見ている訳じゃないから全部を知っている訳じゃないけど彼女が努力をしているというのは知らない訳でもなかった。

 

「結人君って自分が全く知らない人でもそうやって褒めるんだね」

 

「悪いか?」

 

「別に悪くないんじゃない?そういうところ結人君のいいところだと思うし」

 

「ありがとうで……いいのか?」

 

 結人君が困惑しているのを見ながらも私は小さく首を縦に振る。

 彼が優しいのは知っているし、こうやって全く知らない人でも冷静に分析できるのは本当にいいところだと思う。なにより凄く気が利いて自分のことをお人好しだと認識してはいないみたいだけど、彼は本当に人が良いと思う。

 

 

 

 

 

 だから私は彼との帰り際、こう言ったのだ。

 

「結人君……」

 

「どうしたそよ?」

 

 

 

 

「こんな私だけどこれからもよろしく」

 

 心の底からそう思えている自分がいたのは間違いなかった。

 彼にあのとき一緒に進んでやると言われたとき本当に嬉しかったし、馬鹿みたいだと笑っている自分がいた。それでも救われたのは間違いなんかじゃなかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 ただもう一つだけ気になっていることが私にはあった。

 

 

 

 

 

「さっきのにゃむち……な訳ないわよね……」

 

 結人君が努力がという話をしていたとき、紫髪の人が結人君の前を通ったような気がしていた。それならまあこの辺でならいてもおかしくはない髪色だけど私は髪型を見たとき、何処か見覚えがあったけど……。

 

 

 

 

「流石に違うわよね……」

 

 本人な訳がないとその思い込みを振り切って私は結人君の後を追いかけて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「あっ!すいません!!店員さんちょっとこのショーケース開けて貰ってもいいですか!!」

 

「はい、ただいま……!!」

 

 手を挙げて店員のことを呼び止めた彼女は香水が陳列されているショーケースを開けて欲しいと頼んでいた。店員が鍵を開けたのを見て彼女は「これが欲しいんですけどいいですか?」と頼んでいると店員はその商品を取って彼女の方へと渡していた。

 

「ありがとうねー!!」

 

 と彼女は明るくお礼を言った後、店員が去って行ったのを確認してから一息つくようにして溜め息を吐いていた。

 

「後でちょっと楽器屋の方にも行かないとなぁ……。それにしても……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「見えない努力か……」

 

 

 

 

 

 

 

 

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