【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
俺はたった今RINGでバイトをしている。
俺は主にカフェの方とライブハウスの方を兼任している。と言っても主な仕事場としては併設されているカフェの方が多かったりする。そして、この場所は燈達の溜まり場になっている。それだけならまだ全然マシなのだが、立希は燈が来た瞬間そっちを優先する始末な為俺が他のお客さんの接客をしないといけなくなる。
注意しようにもあいつの方が先輩だし後輩の俺が注意するのも変な気分になるし、あいつのことだから「は?燈が最優先でしょ?」と言ってくるのが目に見えている。燈優先なのはもう流石としか本当に言いようがない。俺もぶっちゃけ燈のことは大切だけど此処まで来ると本当にブレない立希に関心してくる。
そして、今はと言うと……。
「ゆいと、抹茶……」
「抹茶パフェな、分かった」
こうして今此処に来てカウンターに座っているのは楽奈。
今日は集まりがあるという訳ではなく、ただギターを弾くためだけに来ているという訳だ。俺は楽奈はかなり好きな方だ。魂が籠っていてそれでいて本当に楽しそうにギターを弾く姿は見ているこっちまで楽しくなって来てバイトもやる気が出るというものだ。問題はあいつが満足するまでギターを弾き続けることになるから他のお客さんは迷惑かもしれんが、愛音みたいに騒いだりする訳じゃないから楽奈はまだ全然構わない。寧ろ、此処の常連客だしな。
「ほら楽奈、抹茶パフェ」
「ん、ありがとうゆいと」
楽奈がいるカウンターに抹茶パフェを置いた。
彼女はスプーンを持って抹茶パフェを食べている。美味しそうに食べている楽奈の姿を少しだけ見ていた。楽奈のことは正直よく分からないことだらけだが、それでも俺にはちゃんとはっきりと言えることがある。こいつは結構表情豊かだということだ。ギターを弾いているときは楽しそうだし、抹茶パフェを食べているときや猫を戯れているときなんかは幸せそうにしている。
二つの感情しか知らないという訳じゃない。俺は楽奈に一度だけ失望されているし、正直そのことを若干引き摺っているところもあるけど今でも俺はこうして楽奈と結びが出来たということは嬉しかったりもしている。楽奈のおかげで俺は燈のことをもっと知ることが出来たから。
「ん?どうしたのゆいと?」
「悪い、見られてたら食べ辛いよな……。あーそうだ、楽奈ってスマホの使い方分かるか?」
「抹茶食べてからでもいい?」
「ああ、構わないぞ」
楽奈の言葉を聞いてから俺はじっくりと抹茶パフェを食べている楽奈のことを待っていた。
そして、食べ終えた頃に俺にスマホを差し出して来ていた。
「楽奈ってスマホの使い方何処まで知ってるんだ?」
「……知らない」
「……どういうことだよ」
思わず俺はそう言ってしまっていた。
立希が楽奈から連絡が来ないとスマホと睨めっこしていた理由が分かった気がする。そして、その連絡が来ても煽りのような内容を送られてくるということを知っている。一例を出すと、立希が「ちゃんと連絡見てる?」と送ると、「見た」とだけ送って来て立希はイラっとしている現場を見たことがあった。
「それじゃあ簡単にだがスマホの使い方を紹介していくぞ」
何処からともなく出してきたホワイトボードで俺は楽奈にスマホの使い方を説明しようとしていた。おかしい、俺は今仕事中なのにどうして楽奈にスマホの使い方を教えているんだ……?裏で戸山先輩が作業をしているから俺一人ではないし、今お客さんが楽奈だけだから俺はこういうことをしているんだと自分に言い聞かせていた。
「じゃあまず電源の入れ方だが「ゆいと、そこまで馬鹿じゃない」」
「…………悪かった」
確かに言われてみれば、スマホを購入したのに電源の付け方が知らないというのは流石に無知にも程があるし何のためにスマホを買ったんだよとなる。今にして見れば絶対にいらない説明だった。
「ところで楽奈のスマホ見てもいいか?」
何も言わず楽奈は俺にスマホを借りてスマホのロックを解除すると、そこにはとんでもない通知欄が勢揃いしていた。まず、俺の目を疑ったのは連絡の嵐だったということ。そして、その次にメール欄だが脅威の『999』となっている。これに関しては迷惑メールだとかそういうのも含まれているだろうから、これについては本人が確認するのも面倒だから見ていないだろうと推測していたが……。
「因みに楽奈……お前連絡って見てるのか?」
「見てる。メールの方は知らない」
一瞬、自転車の空気が抜けるかのようにして頭がパンクしていた。
俺は自分が予想していたと違う内容過ぎて頭を抱えそうになっていた。つまり、楽奈が何を言いたいのかと言うとスマホの使い方を全く知らないし、内容は見ているけれど返事はしていないというところだろう。じゃあ立希に返信したのは何かと言うと、家の人に教えて貰ったのか凛々子さんに連絡の仕方だけそのとき教えて貰ったけどもう忘れてると言ったところだろう。
とは言え、こんな状態な楽奈にスマホの使い方を教えるというのは至難の業だ。まず楽奈を説き伏せなくてはいけないという地獄のような作業から始まる。楽奈を説得するなんていうのはかなり難しい。抹茶系で誘い出すことが出来れば一番楽でいいのだが、それで済むのかすら判断つかないこの状況。俺の忍耐力が試されるのは間違いなかった。
「あーえっとな、楽奈……。連絡が来ないと親御さんと「心配してない」」
「あーそうなのか……」
いや、それはそれでなんか良いんだろうかという雰囲気に呑まれそうになる。
楽奈の性格を知っているからこそあまり強く言わないというのもあるだろうしこいつは本当に自由奔放だからな。そういうところもちゃんと親は理解しているんだろう。
「なら言い方を変えるが、こいつは文明の機器だ。立希とかからバンドやるっていうときに連絡が出来なかったら来ないかもしれないと勘違いされるかもしれないだろ?というか多分そういうこともあったんだろうが……それだと色々と迷惑が掛かることも増えるだろ?だから……」
「ゆいと」
「なんだ楽奈……?」
「バンドやるって連絡して」
どうやらそのMyGO!!!!!と連絡係に俺は楽奈から直々に襲名されていると事態になっていることに気づいた俺は頭を悩ませていた。言いたかったことはそういうことじゃないんだが、もうそれでもいいのかもしれないと心が折れそうになっている自分がいる。
「バンド駄目だったな……」
折れてしまった俺はグループに「楽奈がバンドやりたいってよ」と送ったのだが、それに対して一番最初に反応をしたのは愛音だった。今日は予定があるということでバンドはやらない事態になったのだが、その次に反応したのだが立希だった。立希も用事があるということで今回バンドには参加できないということだった。いつもバンド、バンドな立希が練習出来ないというのは不思議になりながらも俺は楽奈の方を見ると……。
「って楽奈、此処で寝るな!!起きろ!!」
「ん……?ゆいと……?」
うとうととしている楽奈を起こそうとしている俺を横目に彼女は再び睡眠に入ろうとしている。俺はそんな彼女を無理矢理起こそうとしていると……。
「あれ?結人君、このホワイトボードどうしたの?」
「あーすいません戸山先輩!!!!今片付けますね!!!!」
戸山先輩が戻ってきてしまって用意していたホワイトボードを指摘されてしまい、俺は急いでホワイトボードを裏側へと戻しに行っていた。楽奈にスマホを教えるという旅路はまだまだ大変な道のりになりそうだった……。
「ゆいと、本当におもしれー男……」
楽奈の楽し気な声は俺に届いている訳がなかった。