【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
ノラ達と戯れる日々……。いつもと変わらない、そんな日常。
太陽の光が降り注いでいてお昼寝にはぴったりなこの場所でノラたちに囲まれている。とても幸せな時間。でも触れる度に思うことある。
それはゆいとのこと……。
ゆいと、気づいていないけど猫を撫でるときいつも何処か悲しそうな表情をしている。それはきっとあの日の悲しげの表情とつながりがあるのかは知らない。でも、あのとき私がゆいとに声を掛けたことについては言えることがある。
ノラ達が教えてくれた。
ゆいとは私と似てる……と。
あんなにも明るくていい奴なゆいとが居場所がないなんてことがあり得るのか、疑ったけどゆいとのあの日の顔を見て気づいたことがあった。それはゆいとは心の底では一人になるのが嫌だったこと。
私は自分の居場所を探してた。
SPACEが無くなって場所を探してた。RINGにいればいつかそのときが来るかもしれないと思っていたけど、それは当たっていた。ともりというおもしれー女の……子に出会えた。そして、ゆいとと言うおもしれー男の……子にも出会えた。
でもゆいとは隠れようとしようとしてた。
雲の中に一人隠れようとしていた。ノラ達はゆいとが来なくなって寂しそうにしていた。ゆいとが本質的に動物が好きだということを察知していたみたいだから……。
「楽奈……?」
「ゆいと……?」
ゆいとの話をしていたらゆいとがやって来た。
不思議なこと此処最近よく起きる。でも、おもしれーから嫌いじゃない。何匹かのノラ達がやって来ていたゆいとの方へと向かうとゆいとが手を差し出していた。そして、慣れた手つきでゆいとは撫でているけど、その手はやっぱり……。
寂しそうだった……。
今度はノラ達の言葉を聞かなくても判断できた。ゆいとは何かをまだ抱えている。
俺が此処を通ったのは偶々だった。
場所は俺と楽奈が初めて出会ったあの公園。此処は割と野良猫が多い場所としてそれなりに知られていた。そして、此処を通れば楽奈がいるかもしれないというのは頭の中にはあったものの今日はいないだろうと踏みながらもこの場所に入ると、楽奈は野良猫と一緒に戯れていた。
「……」
猫たちが俺に近づいて来る。
笑顔で接しながらも俺は手を差し伸べようとしたときだった。自分の手が震えていることを今知ったんだ。これは恐らく本能的なものだったんだろう。俺はそれを知らぬフリして慣れた手つきで猫を触ることは出来ていても猫たちは俺のことを慰めてくれるかのようにして俺の手を舐めてくれていた。猫という動物は気まぐれな性格ではあるが、感情やエネルギーを敏感に察知することができると言われている。人間の喜怒哀楽の表情を識別することができる。飼い主が笑顔のとき、猫はよりポジティブな行動になるように俺がこうして手を震わせていることで行動というもので識別してそれに対して慰めてくれるという状況になっている。
それ以上悟られないためにも俺は普通を装いながらも前から楽奈に気になっていたことを聞いてみた。
「楽奈……お前に一つだけ聞きたかったことがあるんだが、お前はあの日どうして俺にライブ楽しみにしててと言ってくれたんだ?」
「ゆいと、前に進むの怖がってた」
「…………!!!?」
思わず俺は後退りしてしまいそうになっていた。
本質的な部分を突かれるとまでは全く想像もしていなかったからだ。あるとすれば、いつもみたいに猫たちと仲良くしてくれるからとかそういう話をしてくると予想もしていたが実際に彼女が発した言葉は俺に重く伸し掛かっていた。
「迷ってた、迷子みたいに」
「…………楽奈」
不意に息を吐いてしまう。
それは呆れなどというものではなく、どうして楽奈が俺に対してあの日「つまんねー男」と一蹴したのか今この場ではっきりとしたことがあったからだ。楽奈は前に進めなくて怖がっている俺に対して楽奈なりに道を示してくれようとしていたが俺はあのときその手を振り払い、更に霧が濃い浅瀬に行こうとしていた。
──失望。
そんな簡単な言葉で言い表していいものなのかは分からないがそれでも楽奈はあのとき俺に対してはっきりと失望という目を向けていた。自分が手を伸ばしてその手を跳ねのけられた楽奈にとって俺の行動は少しばかりガッカリしたものだったんだ。いや、哀れみだったのかもしれない。
「迷子みたいに、か……」
本当にその通りとしか言いようがない。
俺は燈の手に根負けしたあの日まで俺という人間を許すことが出来ないでいた。自分がしてきた過去という鎖は消失することなどありえない。だが、俺は燈の手を掴んでドブのような闇から自分を救うことが出来た。
「聞きたかったこと満足?」
「ああ……満足だよ楽奈……。ただもう一つだけ聞いていいか楽奈?どうしてお前は俺が本心を隠してるって気づいたんだ?」
「ノラ……猫たち触ろうとしたときゆいとが戸惑ってた」
「…………そうか」
どうやらそんなことまでもバレていたらしい。
自分の中に未だに縛り付けられていた記憶の本が一冊捲られようとしていた。その本は俺の中で燈や立希達との出来事以外で最も自分という人間を臆病にさせてしまう出来事だった。それと言うのは、俺はミモザ……。今飼っている犬のことだ。
ミモザは元々捨て犬だった。
何処で拾われたのかと言うと、雪山の中だった。ミモザは誰もいないような雪山の中に身勝手な飼い主によって捨てられてしまっていた。それだけならそのまま拾って犬を飼うようになった話なのかもしれないと心温まるような話に聞こえるかもしれないが、実際は違う。
雪崩が起きそうなことを察知した俺の父さんはミモザを救出するために体が勝手に動き出していたのだ。助けたいという意志が父さんを突き動かすなか、俺は何をしていたのかと言われれば……。
恐怖していた。
助けようとすることで帰って最悪な状況になってしまうかもしれないという想像もしていたが、自分が臆病のあまり動くことが出来なかった。膝は立たせるのがやっとという状況の中、俺はただ父さんがミモザを救出するのを何もせずにただ木偶の坊のように見つめていることしか出来なかった。
あの出来事は俺にとって忘れたい記憶の一つでしかなかった。
なによりもきっと動物が好きということをより鮮明に言えるようになったのはこのときからなのは間違いなかった。俺は自分の心を慰めたかったに過ぎなかったのかも知れない。あの日自分から行動をしてミモザを救えなかった自分の弱さを埋め合わせる為。痛みと向き合いながらも、それを癒そうとしていたんだろう。本当に情けない話だ。
「楽奈」
「……ん?」
「俺はお前に聞いて起きたことがある。もし、此処にいる猫たちが危機的状況に陥ったとき楽奈はどうする?」
俺はこの質問を今まですることを拒んでいた。
この質問をする意味がないと悟っていたからとかそういう理由ではない。聞く必要がないと自分で判断していたからだ。でも、今は違うとはっきりと言うことができる。そして確かめたい、楽奈という人間を……。
「助ける」
楽奈の回答なんてものは答えが分かり切っている問題よりも簡単なものでしかなかった。
楽奈はそういう奴だということを紡いできた記憶の中が教えてくれていたのだから。
そして、確実に言えることがあった。
あの日、俺は楽奈に聞くことで試そうとしていたことは無駄な行為だと認識していた。その答えは今日この目で耳で情報で得ることができた。
「すげえな楽奈は……」
本能から出た言葉でしかなかった。ただ自由奔放な奴じゃない。
勇気も覚悟も持っている。自分が前に進むことに躊躇いはない。進むと決めた道をただひたすらに突っ走っているだけなんだ。こいつがギターを弾くことが本能のように楽しんでいるのがなによりの証拠だ。
要楽奈は……いつだって前に進むきっかけをくれていた。
前に進むことが重要だと教えてくれていた。楽奈もまた俺と似ていたんだ。居場所という意味では……。霧が掛かっていたものが霧払いされたかのようにして晴れてくると俺の心は次第に明るいものになっていた。自分のバッグから財布を取り出した後、俺は今手元にある金を確認してから俺はこう言う。
「楽奈、蕎麦好きだったよな?奢ってやるよ」
「……!!じゃあ行こうゆいと」
「ああ、だな……!!」
楽奈が俺の表情を確認した後になにを考えていたのかは楽奈を見れば分かることだった。
俺が元気になったということを気づいていたんだろう。だからあんなにも満足げな表情で俺のことを見つめながらも蕎麦屋に行くと返事をしてくれていたんだろう。
本当に意外なもんだな、繋がりって……。
似た人物を引き合わせるんだからよ……。