【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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なんでお前が燈といるんだよ

「それでね結、最近バンドを組むようになったんだけど……。千早愛音ちゃんっていう子がいて……。その子がバンドに引き込んでくれて凄く感謝してるんだ」

 

「じゃあその子が燈を新しいバンドに誘ってくれたのか、良かったじゃないか」

 

 RINGでのステージ練習を終えた私は部屋で結人君と楽しそうに通話を繋いでいた。

 話の内容は新しいバンドのこと……。結人君は時々相槌を打って私の話を聞いてくれたり、色々言ってくれたりするから私も話していて楽しかった。本当は久々に通話が出来たから少し嬉しくなっていたのもある。

 

「うん、それでね……!もう一人凄い不思議な子がいてね。その子は要楽奈(かなめらーな)ちゃんって言うんだけど……。いきなり現れたと思ったらギターを弾き始めて……それが凄く上手くてビックリしたんだ」

 

「な、なんか凄い個性的な子だな……。その子もバンド仲間なんだよな?」

 

 楽奈ちゃんの話を聞いて少し状況が分からない様子でいる結人君。

 確かに楽奈ちゃんのことを人に話すとしたらこんなふうに困惑されるかもしれない、なんて思いながらも私は少し笑っていた。

 

「愛音ちゃんに楽奈ちゃん……。それにそよちゃんも立希(たき)ちゃんもいるんだ」

 

 楽奈ちゃんはまだよく分からない。

 でもきっとあのメンバーなら今度こそ上手く行く気がする。

 

「そっか、あの二人も新しいバンドに入ったんだな。本当に良かったな燈、新しいバンド組めて」

 

「うん、今ライブに向けて練習中なんだ……」

 

 結人君は立希ちゃんのことを知ってる。

 立希ちゃんとは割と話す機会もあったし、お互いに友達だと……思ってると思う。

 

「結人君、ライブ見に来てくれるよね……?」

 

「ん?ああ、その日予定なかったら見に行けると思うぞ?いつだ?」

 

「えっと……今度の日曜日」

 

「日曜か、見に行けるぞ」

 

 

「ほ、本当……!!?じゃあ……じゃあ……!!た、楽しみにしてるね……!!」

 

 ベッドから立ち上がって声を震わせてしまうほど喜んでしまっていた。

 音が響いてしまっていた為か、お父さんが心配して見に来てくれていたのを見て私は少し恥ずかしくなりながらも床の上に座り直していた。結人君がライブを見に来てくれるそれだけで本当に心が温かくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 最近、燈の様子がおかしい気がする。

 気のせいのような気もするけど……バンドの練習を終わった後少しの間は私と一緒に帰ってくれることはあったけど、最近は用事があるから急いで帰らなくちゃいけないと言われることが多い。用事があるならそれはまあ仕方ないけど……でも何処か普通の用事と違う気がする。それが何なのかは口では言語化できないけど……。

 

「燈……」

 

 私は洗い終えたコップを片付ける手を止めていると、手が滑ってしまいコップがするりと指先から落ちて行く。その瞬間、ガラスが床に当たって散る音が、静かなカフェの空間に響き渡った。思わず周りを見渡してから、凛々子さんに「すいません」と言いながらも割れたガラスの欠片に写し出されている自分の顔を少し見つめていた。

 

「もしかして燈ちゃんのこと考えてた?」

 

「あっ……いや、別にそういう訳じゃないんですけど……」

 

 凛々子さんが箒と塵取りを持って来てくれて私は箒を使って割れたコップを片付け始めていた。

 

「燈ちゃん、RINGから帰るとき最近元気そうだもんねぇ。あのぐらいの歳の子ならやっぱりそういうことなんじゃないかな」

 

「ど、どういう意味ですか!!」

 

 手に持っていた箒を少し揺らしながらも抗議の声を上げる。

 と、燈に限ってそういうことはないはず……!!い、いや……最近の燈を全く知らなかったからそういうことはないなんて言い切れる訳がない……けど。それに学校は羽丘だからそういう出会いとかもないだろうし……。でも燈は可愛いし、変な男に言い寄られたりしてなきゃいいけど……。ダメだ、考えるだけで苛々が止まらない……!!もし燈に変な虫がついていたりしていると想像するだけで虫唾が走る。

 

「決めた……」

 

 この目で燈に悪い虫がついていないか、どうか確かめてやる。

 もしただの用事ならそれはそれで安心できるし……。

 

 

 

 

 

 

 

「燈、ごめん……」

 

 茂みに隠れながらも私は燈の後を追いかけていた。RINGを出る前、そよに白い目で見られたような気がしたけど今はそんなことどうでもいい。こんなことをするのはダメだと言うことは分かっているけど、燈の用事が気になって仕方なかった私はRINGでの練習を終えて私は燈の後をこっそりと追いかけてた。もしこれで本当の用事なら後でちゃんと謝ればいい。とりあえず今は燈の最近の様子がちょっとおかしい理由を確認すればいい。

 

 

 

 

 追いかけているうちに分かったことがある。

 それは真っ直ぐ家には帰らなかったこと……。燈が向かった先は公園であり、燈はベンチでただ一人座っている。燈、なんで公園に一人でベンチに座っているんだろう。歩き疲れたから座っているんだろうか?と不思議になっていると、公園の入り口の方から見覚えのある男が何処か喫茶店で買ってきた袋を持って入って来ていた。

 

「あいつは……」

 

 その男に見覚えがあった。

 私は燈の視界に入らないようにして隠れていたが、あいつを見ただけで今にも燈の前に立ちそうになっているのを抑えられなくなって、燈の前に立ってしまう。

 

 

「お前、なんで燈と一緒にいるんだよ!?」

 

 飛び出した足を止めることは出来なかった。

 私が叫んだ先にいた男は悪い虫そのものだったからだ。

 

「立希ちゃん……!?」

 

 最近、燈がRINGでの練習を終えた後も楽しそうに帰って行く理由……。

 それは間違いなく目の前にいる結人……。あいつがまさか燈と再会していたなんて知らなったけど……。

 

「お前、CRYCHICのときライブに来なかっただろ……。燈はお前が来るのを楽しみにしてたんだよ!?」

 

「ま、待って立希ちゃん……!結人君はその日急用が出来てライブに来れなかったの……。だから仕方ないの……!」

 

 私の話を遮るようにして燈が結人のことを庇っている。

 私は知っている。燈がライブをするってなったとき、目の前にいる結人がライブに来てくれることを凄く楽しみにしていたことが……。だからライブを終えた燈が少し寂しそうにしていたのも知っている。だからこいつが今、燈と一緒にいることが本当に許せなかった。あの様子だと最近まで燈はあいつがライブに来ていなかったことを忘れていたみたいだけど……。

 

「立希、お前の言う通りだよ。燈は俺がライブに来るのを楽しみにしてくれていたのを知っていたのに俺はライブを見に来ることが出来なかった。急用が出来たとはいえ……行けなかったのは事実だし、燈をガッカリさせたのも事実だ、だから悪かった立希」

 

「結人……お前……」

 

 意外にも素直に結人からの謝罪を聞いて私は少し困惑しつつも自分の中で罪悪感を覚えていた。

 

「っ……!」

 

「立希ちゃん……!!」

 

 私は二人の傍から逃げるようにして離れて行く……。

 

 私は最低なんだ……。

 自分が結人に対して今畳み掛けるようにして言い出しそうになった言葉を唇を噛み締めながらも必死に堪えている。それは私がとても言えるような立場じゃない言葉。

 

 

 

 

 

 

 

「燈が一番辛かったとき、なんで一番の友人のお前が燈の傍にいてやらなかったんだよ!!」

 

 勢い任せに言ってしまいそうになっていたのと同時にそれを言い出しそうになった私もまた、燈がCRYCHICのバンドの練習に来なくなったとき私はただ見守るという選択肢しか取ることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 だから私は最低なんだ。

 結人のことを責められるはずもない。

 

 

 

 

 

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