【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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今回の立希編はイベントストーリー『ブレンドの香る窓辺で』の内容が含まれております。


最近立希の様子がおかしい

 最近俺は首を傾げていることがある。

 それは立希のことだ。あいつのことで怪しむことなんて正直そんなに無いかもしれないがそれでも最近気がかりなことが増えてきている。と言うのもRINGでのバイトが明らかに減っていると言うこと。別にそれ自体はバンドに集中するためだとかあいつらしい理由があるのかもしれないがそのバンドすらも最近集まれる機会が減ってきている。一昨日だって俺が楽奈の携帯を使って「練習したい」と送ったが立希からの連絡は無理という連絡だった。

 

 あいつはバンドのことに関して人一倍考えているやつだ。それなのに、バンド以外に何か集中するべきことが増えたのかもしれない。あいつは割と溜め込むタイプではあるから早めになんとかしなくちゃいけねえと思うが現状何も判明していない今どうすればいいのか皆目検討もつかない。

 

 こういうとき愛音だったら地雷を踏み抜いててでもあいつは突撃するんだろうが判断材料もない今何をどうすればいいのかも本当にわからん。皿を洗いながらも俺が唸っているとRINGの喫茶店内にお客さんがやってくる。

 

「いらっしゃいませ……ってそよか」

 

 カフェにやってきたのはそよだった。

 あいつ一人だけで此処に来るというのは本当に珍しいことだが何かあったのだろうか……。そもそもよくよく考えたら此処に直接乗り込んで来るのって楽奈か愛音ぐらいな気がする。燈は俺のこと邪魔しちゃ悪いと考えているだろうし、そよもそういうのは弁えている方だ。

 

「結人君、いつものね」

 

「……アールグレイな」

 

 楽奈ほどではないが、そよも割とこの店では割と好き勝手やってる。常連客だからかいつものと言ってくる確率がかなり高い。偶に違う紅茶を頼んでくるから「あれ?」となるときもあるがこいつがそうやって変えてくるときは大体気分だ。

 

「アールグレイお待たせしました」

 

 紅茶が入ったカップをそよに渡すと彼女は一口飲んでからこう言う。

 

「ねぇ、結人君……。少し面白い話があるんだけど聞いてくれる?」

 

「面白い話……?」

 

「そう、結人君が好きそうな気になりそうな話……。立希ちゃんのね」

 

「立希の……?」

 

 勿体ぶるそよに対して話を早く聞かせてほしいとはやる気持ちを抑えながらも俺はそよの言葉を待っていた。

 

「結人君、羽沢珈琲店って知ってる?」

 

「羽沢珈琲店……?」

 

 俺はその名前に聞き覚えがあった。

 男子の間でよく可愛い女子がいるという話を聞いたことがあったがそういう話ではなく、RINGでライブの裏方として仕事をしているとき俺が挨拶しに行ったとき「ぜひ来てね」と言われたのを今思い出していた。

 

 確かその人の名前は羽沢つぐみさんだったか……。

 立希が大ファンなバンドのAfterglow……。まさかこんな形でその名前を聞くことになるとは全く予想もしていなかった。

 

「で、その羽沢珈琲店がどうしたんだよ?」

 

「知ってるんだ?で、その羽沢珈琲店で立希ちゃんのこと見かけたの」

 

「立希が……?羽沢珈琲店で……?普通に珈琲飲んでたとかそんなじゃないのか?」

 

「そうじゃなくてそこでバイトをしてたの」

 

「バイト……」

 

 話が見えてきた。

 そよが俺に面白い話があると言ったのは俺に立希が羽沢珈琲店でバイトしていることを話す為……な気はしていたがそれだけじゃないはずだ。

 

「それでそのことを言うためだけに俺のところに来たのか?」

 

「流石結人君、話が早いね。そこで立希ちゃんの様子をちょっと観察してたんだけど少し様子がおかしかったの。私が言いたかったのはそういうこと」

 

 そよがもう一つ語ろうとしていたことは恐らく間違いなんかではない。立希が羽沢珈琲店でバイトをして何かを得たと言うことなのだろう。自分で解決させるのは簡単なことだが、今はバンドのこともある。となると……。

 

「羽沢珈琲店……か、分かったよ」

 

 それ以上そよが何か言うことはなかった。

 後は俺に任せるとでも言いたかったのかもしれない。次の日、俺は放課後羽沢珈琲店に行くことを決めていた。

 

 

 

 

 

 

「此処か、羽沢珈琲店……」

 

 放課後、俺は一度家に帰って私服に着替えて帽子を被って伊達眼鏡を掛けながらも羽沢珈琲店の前に立っていた。窓越しに自分の変装が映っているのが見えて愛音が俺に話しかけるために変装をしていたことを「そういえば、そんなこともあったな」と昔の記憶に触れるようにしながらも俺はお店の中のへと入って行った。

 

「いらっしゃいませ……!!」

 

 元気な声が聞こえたのと同時に俺がそっちの方向を向くと、そこにはエプロンを着た羽沢つぐみさんがいた。俺には気づく様子はなかったが、それもそのはずそもそも俺はAfterglowの人達とは一度挨拶したぐらいでちゃんと話したことはないのだから。

 

 案内された席に座りながらも俺は周りのお客さんを一瞬チラッと確認する。

 学校帰りと思われる学生たちや女性客がメイン層と言った感じの喫茶店というのはすぐに認識できていた。そして、接客をしているのはツインテールの黒髪の女性だった。この人、何かで見たことがあるような気がする。

 

 そうか、俺が読んだガールズバンド系の特集が組まれていた雑誌の中に確かMorfonica(モルフォニカ)というバンドがあったはず。特徴的なところは月ノ森の学生のみで結成されたバンドグループというところ。

 

 あそこにいる二葉つくしさんはドラムをやっていてそこに趣味だとか好きなものとか書かれていた気がする。俺はそんな彼女をチラッと見ていた。忙しそうに接客をこなしているようだったが、なんとかこなしているようだった。ただどう考えてもお客さんが多いようで少々マズいときに来てしまったかもしれないとなっていたが俺はあまり気にしないようにして注文が決まった俺は「すいません」と言いながらも先ほどのツインテールの女性を呼び止める。

 

「あっ、すいません!!少々お待ちくださいね!!」

 

 と彼女はそう言っていていた。

 暫く待とうとしていたときだった。長い黒髪の女性が注文を聞くための用紙を持って俺の方へとやって来てしまっていった。それは別に構わない、ただその相手というのが……。

 

 

 

 

「なんで、此処にいるわけ?」

 

「悪い、そよから聞いた」

 

「…………あいつ」

 

 速攻、俺の変装を見破ってくれたのは驚きというものはなかった。

 どちらかと言うと感情としてあるのは喜ばしい気持ちがあったと言ったところだった。自分という人間にすぐに気づいて変装を見破ってくれたというのは何処か自分の中で自分のことをちゃんと分かってくれているという気がしていたからなのかもしれない。

 

 俺の注文を頼んだ後、立希はそのままキッチンの方へ戻って行った。

 俺は特にそよが言っていたことに対して違和感というものを感じることはなかった。注文ちゃんと取れていたし、悪い点は何一つ無かったような気がしてあいつが言っていたことがあまり理解できないでいると立希がキッチンから出て来てお客さんが注文していたものを持ってきていたが、そこでようやくその違和感というものに気づいた。

 

「あっこれ此処のオススメなんだよねー!いつも此処で同じものを私頼んでいるの!!」

 

「あっ……えっと……その……ありがとうございます」

 

 その違和感というものは俺も知っているものだった。

 あいつは確かにキッチンは熟すことができるが接客はかなり厳しいということを俺は知っていた。凛々子さんが「接客お願いね」と言っているときもあいつは渋々やっていた。それを知っていたはずだったがそれを頭から離れていたというよりは出来ている立希を今この場で見ていたし、なにより俺には普通に接していたからちゃんとやれているとしか見えていなかった。どうする?どうするんだ?立希と俺は横目で見ながらも立希の様子を見ていると……。

 

「此処の季節限定のケーキをいつも食べにいらっしゃっているお客様ですよね?いつもご来店ありがとうございます!!」

 

 つぐみさんが立希に助け舟を出しながらも接客を手伝うことでそのお客さんの気分を害することなく終わることを迎えられていたが、何事もない訳ではなかった隣でその様子を聞いていた立希には何処か自分が弱いと実感させられているようなものがあったと読み取れていたのと同時に俺は富山先輩が言っていたことを思い出していた。

 

『自分だけのキラキラドキドキじゃなくて……立希ちゃん達のキラキラドキドキも大事にしてあげてね』

 

 あの日、俺が戸山先輩に言われた言葉……。

 先輩はあのとき深く言及はしていなかったけど、今立希が困っているなら俺はあいつを助けてあげたい。それが余計なお節介だったとしても戸山先輩や山吹先輩ならそうしていたはずだ。

 

『結人君、困ったら頼ってくれていいからね?』

 

 あるバイトの日、俺が一人なんでもやろうとしたとき山吹先輩は俺のそんな性格を見破ったのかそう告げていた。俺はその言葉を聞いたとき、自分だけでやれないということに対して何か曇るものもあったが山吹先輩の言っている言葉を今此処で借りるなら自分が今やれることは立希を手助けすることだ。とはいえ、俺は今この場に客として来ている。いきなり此処で働かせてくださいと言うのも違うだろうし此処で働くということは立希が強くなれるという今を潰してしまう可能性すらなにかいい方法は……。

 

 

 

 

「いや、あるな……」

 

 思いついた手が一つだけあった。

 

「お待たせしまし「立希……明日朝俺が働いているアウトドアショップ来れるか?」

 

「…………は?」

 

「そんなとって喰うような顔するなよ、少しだけでいいから」

 

 と言うと立希は何か考えているようだったが、すぐに答えを出していた。

 

「…………ほんとに少しだけだから」

 

「ああ……」

 

 どうやら俺の話を聞いてくれるらしい。

 最初俺に言われたときは「なにいきなり言い出してんだこいつ?」と言いたそうな表情をしていたが、そうなるのも無理はない。そして、この手はかなり無茶苦茶な手法だが立希の為にもやってみせるしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで来たけど、なんで此処に呼んだわけ?」

 

 次の日……約束通り立希は俺がバイトをしているアウトドアショップに来てくれた。

 因みに立希はこの場所を知らなかったので俺と一緒に此処まで来ることになった。その間、立希は何処か思いつめたようだったが、俺は特に話しかけることはなくただこの場所を目指していた。

 

 

 

 

「4時間だけでいい。此処でバイトしてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

「…………はぁ!!!?」

 

 

 

 

 

 

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