【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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限りある儚さだからこそ僕らは煌めいている

「ねぇねぇそよりん、聞いてよー。この前、森みなみがドラマに出てたんだけどね。凄い良かったんだよねー!!なんていうか流石、大女優様って感じの人だよね」

 

「その感想だと言いたいことよく分からないんだけど、後そよりんはやめて」

 

「えーいいじゃんそよりん、ともりんもそう思うよね?」

 

「嫌だって言ってるでしょ」

 

 RINGのカフェ……。

 此処にいるのは燈ちゃんと愛音ちゃんと私……。立希ちゃんは多分羽沢珈琲店でバイトしていていない。楽奈ちゃんはまた何処かで遊んでる。そして、今こうして三人でカフェに来ているけど相変わらずミーハーな愛音ちゃんの中身のない会話に疲れそうになりながらも、お店の方を見ると結人君の姿はない。今日はバイトの方は休みだったのかもしれない。ただ、一つだけ気がかりなことがあった。

 

 昨日、RINGに顔を出しに行ったとき、結人君が注文を取りに来てくれたとき、少しだけ浮かない顔をしていた。何かを考えていたって感じの顔をしていたけど、私は彼のことがまだよく知っている訳じゃなかったからそこまで踏み込めなかった。

 

「燈ちゃん、この後結人君のこと水族館に誘ってみたら?」

 

「えー?流石に今からっていきなり過ぎじゃない?」

 

「愛音ちゃんは黙ってて。二人共、お互いのことをちゃんと知ってからお出かけしたことってあった?」

 

「……ないかも」

 

 少し思考する時間が入った後に燈ちゃんがそう答える。

 

「じゃあ、やってみるのも案外悪くないんじゃない?結人君とそういう思い出とか作るのもきっと楽しいことだと思うよ」

 

「思い出、楽しい……。うん、分かった。ゆいくんにちょっと電話してくる」

 

「うん、頑張ってね」

 

 そう言って、燈ちゃんはスマホを持って席を外して結人君に電話を掛けている様子を確認していた。私が燈ちゃんにこの話を持ち掛けたのは結人君のことが少し気がかりだったから、結人君のことを長く一番知っているは燈ちゃんだから彼女に託すことにしていると、愛音ちゃんが私の隣で頬に手を当てながらも「思い出かぁ……」と言っているのが聞こえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「ゆいくん、ごめん……待った?」

 

 待ち合わせの駅に急いでやって来ていた……。そよちゃんにいきなり結人君と出掛けて来たらと言われたときは「え?」となっていたけど、「思い出」や「楽しい」という言葉を聞いて二人だけの記憶をもっと作りたいという私がいた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 足を速く走らせるという行為に慣れてないあまり、呼吸がかなり荒くなっていたけどそれでも結人君と出掛けるのに遅刻だけはしたくなかった。

 

「ゆいくん……?」

 

「え?ああ、燈来てたのか?悪い、俺はそんなに待ってないから大丈夫だぞ」 

 

「そうなんだ、良かった」

 

 一瞬、結人君が上の空だったような気がしたけど気のせい……だろうか。

 でも、前のように冷たさは感じなかったから悪いことではない……と思うけど。

 

「ちょっと休憩してから行くか?」

 

「だ、大丈夫……。行こうゆいくん」

 

 息を荒くしている私を見て心配してくれていた。結人君は私の「大丈夫」という言葉を聞くと何も言わず、ペットボトルに入った水を差し出してくれていた。それを私は「ありがとう」と言いながらも、飲んだ後に結人君に返した後に結人君と一緒に水族館へと向かい始めていたけど、やっぱり歩いている間も何処か上の空だったような気がする。気にはなっていたけど、どう切り出せばいいのか分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「一階からじっくり見て行こ?」

 

 水族館に着いた私と結人君……。

 此処に辿り着く間に結人君の調子はいつもと変わらない様子に戻っていたのはきっと私の前でそういうのを見せたくないと意志があったのかもしれない。

 

「いいのか?ペンギン先に見たいだろ?」

 

 私に合わせる為なのか、結人君は階段の方へ行こうとしているのを見て私は声を掛けていた。結人君の言葉に無言のまま頷くと、結人君が「分かった」と言ってくれていた。それからして、結人君と一緒にゆっくりと一階の水槽から眺めていた。

 

 

 

 

 一番最初に見えてきたのはサンゴ礁とそこに住む魚たちの群れ……。

 主にいるのはヒレナガハギやゴマハギと言った魚たち……。こういうサンゴ礁もそうだけど、此処をじっくりと観察するということは中々なかったから割と新鮮な体験だった。なによりも私は結人君の解説が好きだ。

 

「燈、サンゴ礁の役割って知ってるか?」

 

「うん、知ってるよ。海の生物に棲み場や食べものを提供しているんだよね」

 

「そうそう、サンゴ礁には九万種類ものの生き物が住んでいることもあるらしいから、凄いよな」

 

「魚たちの防波堤にもなってるんだよね」

 

 結人君は無言のまま、頷いている。

 サンゴ礁は観賞用のもののように言われることが偶にあるけど、実際は海に生きる生物たちに重要な役割を担っている凄い動物……。

 

 

 

 

 

 

「燈、クラゲの中でもベニクラゲってのは不老不死だって言うのは知ってるか?」

 

 じっくりと水槽を眺めた後にやって来ていたのは一階にあるクラゲのトンネル。

 左右上を見れば広がっているのはクラゲの存在感だった……。初めてクラゲを見たとき、私は凄い不思議な生き物だと興味が湧いていた。

 

「うん……。一般的なクラゲの寿命は一年程度だけど、ベニクラゲは若返りを繰り返すことができるんだよね」

 

 ベニクラゲは成熟した個体がポリプ期へと逆戻りし、再び成長するという独特の生活環を持つ個体。そういうこともあって不老不死と呼ばれることもあったりするとても珍しい生物。他にこういう不老不死みたいな生態を持っているのがいるとしたら、それはプラナリアと呼ばれている扁形動物かもしれない。ベニクラゲとはかなり違う……生態を持つ動物だけど。

 

「本当に面白いよな、不老不死の生態を持つ生物がいるなんて」

 

「そうだね、その……ゆいくんは自分が不死になりたいって思う?」

 

 結人君からベニクラゲの豆知識を聞いていて偶々そんなことを聞きたくなっている自分がいた。

 彼は少し「うーん」と言った後に語り始める。

 

「俺は嫌だな……。不死になったことで自分という人間の自己同一性が失われる気がするんだ。不死だからって先送りし始めたりしたりするんじゃないかって……。不死になったりしたら、きっと()()()という概念が限りなく引き伸ばされて、結果として強い目的意識みたいなものが消えちまう気がするんだ。そうすることで無気力になったり、倦怠感に苛まれる」

 

 

「そもそも長い時間を生きるってことが自分自身の存在証明の消失や記憶の崩壊が引き起こされるかもしれない。脳が有限の記憶や記録しか保持できなかったりしたら、過去の記憶は徐々に消失して、気づけば……」

 

 

「自分が何者だったのかすらも分からなくなっちまう気がするんだ」

 

 不死というものについて結人君は真剣に語ってくれていた。

 私が思う不死の嫌なところと少し違うけれど、結人君の言っていることも正しい。きっと不死になったら、今が希薄になって、過去と未来の境界線が曖昧になってしまう。自分が生きていた百年前のことや昨日のことでも同じように遠く感じてしまう。そういうことが積み木のように積み重なることで自分が「今日をどう過ごす」とかそういうものに対して億劫になってしまう。

 

 未来があるからこの先があるから、「今日をどう生きる」のかすらどうでもよくなってしまって、「自分が何のために生きているのか」という実感を完全に失ってしまうかも……しれない。私もゆいくんやあのちゃん達の記憶が泡のように薄れていくのは嫌……だから。

 

「燈はどうなんだ?自分が不死になりたいか?」

 

「なりたくない……かも。でも、それがどうしてかは説明できないけど、その……命の輝きとか尊さとかそういうものが失われるような気がする……から」

 

 それを説明して欲しいと言われたらどう説明すればいいのかは分からない。

 はっきりと言えることがあるとしたら、それは私も不死についてはなりたくないということだった。

 

「それって……命が有限だからこそ美しいんじゃないのか?多分、燈が言いたいのって……生きる意味とかそういうものが喪失しちまうからとかそういうことだろ?燈も自分で言っていたけど、死があるからこそ命は煌めいて輝いているように見える。いつか自分の命が終わると知っているからこそ、()()()()が貴重であって、そこに価値が生まれ始める」

 

「燈も前に言ってたろ?一瞬一瞬をたくさん重ねたら一生になるって……。それに命の儚さを知っているからこそ人は感動したり、喜んだりすることができるんじゃないのかって言いたかったんだろ?」

 

「……そうだと思う」

 

 上手く言葉に出来なかったことを結人君が言語化してくれていた。

 今こうして結人君と一緒に水族館に来てクラゲを眺めているというこの記憶すらもこの瞬間にしか得られない美しさとかそういうものが薄れてしまうような気がしていた……。でも、結人君が分かりやすく噛み砕いてくれたおかげで自分で気づいたこともあった。

 

 それは結人君と私の命の定義というものはほとんど同じということ。

 結人君が言っていた有限と私が言いたかった有限はどちらも今を生きているからこその美しさがあった……から。

 

「その……ゆいくん……」

 

「どうした燈?」

 

 クラゲの水槽から目を逸らして私は結人君の目をしっかりと見て話をしようとする。

 

「私は……この瞬間を大切にしたい。ゆいくんと過ごした時間を、ずっと心に刻んでいたい。貰ったもの、受け取ったもの、そういうものを……。例え、それが限られた時間の中で生み出されたものだったとしても私は……この瞬間にしか受け取ることが出来ないものをこの手で確かめて行きたい……から」

 

 例え、それが残り数分しか見られない夕焼けや朝焼けだったとしても私はそれを結人君と一緒に眺めていたい。一本の桜の木から落ちて来た最後の桜の花だったとしてもそれを一緒に結人君と一緒に眺めていたい。私にとっての限られた時間、有限はそういうものだと思うから。だから、今と言う時間を刻んでいきたいし……なにより結人君が何かに悩んでいるなら私は聞いてみたい。結人君の悩みを……。

 

 

 

 

 

 

 

「結人君……何か悩んでる?」

 

 

 

 

 

 

「燈には……やっぱり誤魔化せねえか……。一つ聞いて貰ってもいいか?」

 

 

 

 

 

 

「うん……」

 

 

 

 

 

 

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