【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
「楽奈、連れて来たぞ。って……そよだけか」
凛々子さんに言われたスタジオの中に入ると、そこにいたのはそよだけだった。
楽奈は持って来ていたギターの準備に取り掛かり始めているようだった。
「楽奈のこと追わなかったのか?」
「追ったけど、ライブって言ったらすぐに来るだろうからそこまで追わなかっただけ。足、疲れるから」
「あーなるほどな」
そよらしい発言だなとなっていたる自分がいた。
こういうところは中学の頃に少し話をしていたときに比べたかなり正直になったなという感覚になる。
「そよ、この前の羽沢珈琲店のことだけどありがとうな」
「あんまり上手く行かなかったんでしょ?」
なんて言うべきなのか少し思考が止まった後に、俺は首を縦に振っていた。
立希の件は実際上手く行かなかったのは本当のことだからな……俺が静かに立希のことを肯定していると、そよがこう言い始める。
「明日、羽沢珈琲店行く?」
「え?ああ、行ってもいいが……」
不意に投げられた言葉に一瞬だけまばたきをする。
いきなりそよから羽沢珈琲店に誘われた俺は戸惑いながらも俺は了承していた。
「多分立希ちゃん、明日いると思うからちゃんと話してみるっていうのも悪くないんじゃない?……って、なんでそんな意外そうな顔してるわけ?」
「いや……ありがとうなそよ」
「別に気にしなくていいから、それに前にも言ったでしょ?償いの為でもあるって」
「償いのため」と彼女は口にしていた。
そういうものの為にしているというのはちゃんと分かっているつもりだったが、誰かを想う気持ちで俺を後押ししてくれているような気がしていたけど、それはきっと間違っていないと俺は信じていた。そよは自分のことを冷たいだとか醜いだとか言い聞かせているんだろうが、そよの温もりというものがあったような気がしていた。
それから少し経った頃に燈達も揃ってバンドについて語り合っていた。決める内容としてはまず、二週間後に迫っているライブのことだった。二週間という猶予はあるものの、前回も似たようなことを言って時間がかなり掛かってしまったこともあって、立希は今回はちゃんとやりたいと言っているのが聞こえていた。
合わせの練習が始まったのを見届けると、俺は燈達がいるスタジオから出てRINGのバイトへと向かって行った。
次の日……俺とそよは羽沢珈琲店に来店していた。
来店と共に入店を知らせる為の音が鳴っていた。それと同時にモルフォニカのつくしさんに案内されながらも席に座ることにした。向こうはどうやら俺が来店したことに気づいていたようだった。
席に座りながらも先にそよにメニュー表を渡しながらも俺は窓の外の景色を眺めようとしていたそのときだった。明るい声が聞こえてくる。
「あっ……!!結人君今日も来てくれたんだ!!」
「どうもつぐみさん」
俺達がいるテーブルに話しかけて来ていたのはつぐみさんだった。
俺は軽く頭を下げた後に言葉を発していた。
「二回ぐらいお店に来てくれてたよね?そのときはごめんね、挨拶できなくて」
「あーいや、全然気にしないでください。お店、結構繁盛していますね」
「そうそう、そうなんだよね。おかげで凄く忙しいけど立希ちゃん達のおかげで切り盛り出来てるんだ……。あっ……お客さんに呼ばれたから行くね!」
つぐみさんはそう言いながらも他のお客さんの接客に向かって行った。
ああいう明るく振る舞えてお客さんと接することができるのは本当に凄いとしか言いようがなかった。話している最中も笑顔を絶やさずにいたし、いや接客業なんだから当たり前なのかもしれないが……。俺も偶に笑顔を忘れてしまうこともあるから見習わなくちゃいけないとなっていた。
「結人君、知り合いだったんだ?」
「知り合いって言うよりは、ライブの準備を裏方でしているときにAfterglowの人達に挨拶しに行ってそれで顔は知っているぐらいだったけどな」
「へぇ……そうだったんだ」
そよのメニュー表を軽く閉じる風を感じたのと同時に音が伝わる。
その音に意識を向けることもなかった俺は珈琲店の周りを少しばかり観察していた。楽しそうに雑談をしているお客さんや一人の時間を有意義に楽しんでいる人達……。そういう人の人の行動が目に入るなか、俺の視界に入っていたのはこのお店で働いているもう一人の人……確か二葉つくしさんだったか……。
「あそこにいるのは二葉つくし先輩、月ノ森でMorfonicaっていうバンドをやってる人なの。今はいないみたいだけど、若宮イブさんと言って
「そうなのか」
と軽く反応していたが、俺はその両方についてはもう知っていた。
流石にその若宮イヴと言う人が此処で働いているというのは知らなかったけど、そのバンドのことは多少は知っていた。芸能事務所に所属している五人の女優によって組まれたバンドということを……。
「あんまり驚かないんだね」
「まあ……多少は知ってたからなバンドのこと」
本当に雀の涙程度のことしか知らないから全部が全部知っているとも言えなかった為、俺は曖昧に濁すことにしていた。
「ふーん?調べたの?」
「雑誌読んだぐらいってだけだけどな」
「燈ちゃんの歌が好きなくせに他のバンドのこと調べたんだ?」
「……妙に引っ掛かる言い方は勘弁してくれ」
「別にそういうつもりで言ったんじゃないんだけどなー」
俺の反応を楽しみたいのか、そよは若干さらりとそんなことを言ってくる。
というか、意地悪そうに笑っているのが若干癪に障るが俺は何も言わなかった。それにしても……こいつ、割と俺の反応楽しんでる節があるよな。本当そういうところは良い性格していると思う。
「はぁ……」
自分の心を落ち着かせるために小さく溜め息をつきながらもメニューが決まった俺はメニュー表を軽く閉じたときに一瞬だけ、雑誌に載っていたあるバンドのことを思い出す。
それはAve Mujicaというバンドについて……。
此処最近かなり話題になっているバンド……。特徴としてはライブの前に劇のようなものがあるというところ……。他のバンドとは一風違うものが観客を惹きつけていると言う話が大きく雑誌に取り上げられていた気がする。
「そよ……Ave muji「また来てるし……」」
俺がバンドのことについてそよに話そうとしたとき、俺の声を遮るようにして注文を聞きに来ていたのは立希だった。呼んでいたのはそよで俺はあのバンドのことを知っているか聞こうとしていたが、今はいいかと引っ込むことにしていたが、何処か気になることがあったような気がしないでもなかったが徐々にそれは薄れつつあった。
「お客さんにその言い方はないんじゃない?」
「……で?注文は?」
そよの言葉を無視しながらも、そのまま注文を聞こうとしてくる立希。
俺とそよは注文を済ませると、立希は何も言わずに去ろうとしていたが俺達のテーブルの前で足を止める。
「結人、後で話があるから店の裏来て」
注文を聞きに来た立希はそれだけ言い残して、俺達のテーブルから離れて行った。
それから少し経った後に香りが良いコーヒーと少し苦めのチョコが使われていると思われるチョコケーキが届いて俺は早速食べることにしていた。
チョコケーキとコーヒーを頂いた後、俺は会計を済ませてそよと一旦分かれることにして立希に言われた通り、店の裏で待つことにしていた。店の裏に立希が来たときに何を言おうかと頭の中で纏めようとしていると、裏口の扉が開いてそこから立希が出て来ていたのを確認してから、俺は立希に頭を下げていた。
「立希、その……この前のことなんだが……「それはもういいから。私が悪かったのも事実だし、結人が気にすることでもないから……」」
言葉を止めるようにして立希は言葉を続けようとしていたが、なんて言おうとしているのか自分でも整理できていないようだったが言葉を続けていた。
「……甘いもの好きなの?」
「え?ああ、たい焼きとかはよく食べるが」
「そうなんだ……」
三度の来店中、二度ほど俺は甘いものを頼んでいたことを覚えていたのか立希が聞いて来ていた。再び言葉を詰まらせながらも自分の腕をもう片方の手で押さえるようにして少し困っている様子の立希。地面を軽く見た後に、目を瞑り少し息を吐いていた。
「……今度、甘いものとか食べに行ったりする?」
「俺は全然構わないけど……」
「……じゃあ燈も誘うから。ライブ終わった後、三人でまた……中学のときみたいに話したいから……」
「!!?ああ、分かったよ立希……。それじゃあな……!!」
何も言わず、そのまま立希は店の中へと戻って行ったが俺には立希が何を言いたかったのかちゃんと理解しているつもりだった。俺達はこうしてまた話すようになってからというものの、三人でちゃんと話をするという機会はあんまりなかった。だから、中学生時代のときのようなことをまたしたいと立希は言いたかったんだろう。
「楽しみにしてるからな、立希……」